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「カイン!それだけはダメ!」
サラの叫びを無視して、俺はドルベの命を吸い尽くした「魔剣」を掴む。
無駄死にするつもりはない。
ドルベの一撃が確かに通ったのなら、可能性はある。
三つの首。
右の首が魔法障壁を張っている。
あれさえ落とせば―
再生するまでの一瞬でいい。
「サラ、転移スクロール準備」
これは勝つための剣じゃない。
生き残るための、最後の賭けだ。
俺は魔剣に魔力を流した。
瞬間、魔剣が起動。
魔力をごっそりと吸われる。
血を抜かれる感覚に近い。
しかし、
暫くすると違和感に変わる。
魔力は間違いなく魔剣に吸い尽くされたはずだ。これまで俺が「自分の魔力」と認識していた魔力は…
耳鳴り。
視界が白く焼ける。
頭の中に、知らないはずの光景が流れ込む。
ーーーー
『本当に良いのか?アベル。この魔力を封印し切るには…』
『分かってる。だが、息子を異端狩りから隠すにはこれしかない…』
父さんと、エルフが話してるが…これは、一体…
ーーーー
景色が遠のく。
身体に刻まれていた何かがパリンと音を立てて砕け散った。
《機能回復ヲ確認。規定値ヲ超エル魔力ヲ検知。魔力徴収開始》
頭の中で無機質な声が響いたその瞬間、ケルベロスから膨大な魔力が流れ込んできた。
――理解してしまった。
理由も、根拠もない。
ただ、できると分かった。
俺は魔剣を振り下ろした。
ケルベロスの左首の前に、透明な壁が立ち上がる。
物理障壁。
だが、止まらない。
魔剣が、壁ごと引き裂いた。
肉と骨が、派手な音を立てて千切れる。
咆哮
即座に中央の首が光る。
「させるか」
回復が発動する前に、刃を返す。
今度は、障壁がない。
バターを切るよりも容易く、首が落ちた。
――だが。
手の中で、異変が起きた。
魔剣が、悲鳴を上げる。
刃に無数の亀裂が走り、魔力が溢れ出す。
供給が、多すぎる。
ケルベロスから流れ込む魔力に、剣が耐えきれない。
手負のケルベロスが猛スピードで突進してくる。
俺は咄嗟に、魔剣で受け止め――
砕けた。
刃は粉々に散り、光の粒となって消える。
二つの首が、歪んだ笑みを浮かべた。
「これで勝ったとでも思ったのか?」
魔剣は単なる魔力を乗せる触媒に過ぎない。
膨大な魔力さえあれば、魔力伝達効率の悪い生身の拳ですら、魔物の防御を貫ける。
俺はそれを『知っている』。
勝ち誇ったケルベロスの左首を魔力を乗せた素手で引き千切る。
叫び狂うケルベロス。
ようやく自身が格下だと気付いたのか、逃げようとするケルベロス。しかし、それを許すほど甘くない。
脚に魔力を集中し、一瞬でケルベロスと距離を詰める。その勢いのまま、胴体を蹴り飛ばし、馬乗りになる。
「これで終わりだ」
右首を強引に引き千切ると、ケルベロスは完全に沈黙した。




