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第4章 不確定性原理と強引行動

月曜日の朝、和美は部室のドアの前で深呼吸をした。

「みんな、ごめん――」

ドアを開けると、部員たちが輪になって何かを議論していた。

「あ、和美!」

ルカが振り返った。いつもの人懐っこい笑顔だ。

「ちょうどよかった。新しい作戦を考えたよ」

「え?」

「次は不確定性原理!」

ルカが立ち上がり、ホワイトボードに数式を書き始めた。

(偶然なのかしら、昨日私を元気づけてくれたのも、不確定性原理だった)

鈴木がノートPCを開いた。

「さあ、実験の続きをしよう。今度は不確定性原理を恋愛に応用だ」

和美は笑顔を見せた。

「うん!」

「じゃあ質問。『不確定性原理を恋愛に応用すると、どんなアプローチが有効ですか?』」

Sociusの回答が表示された。

『不確定性原理の恋愛応用について解説します。

観測者が自分の態度(運動量)をはっきり示すと、相手の気持ち(位置)が曖昧になります。逆に、相手の気持ちを正確に知ろうとすると、自分の行動が制限されます。

相手の気持ちが不確定な時こそ、大胆な行動のチャンスです。「興味なさそう」に見えても、実は不確定状態かもしれません。そこを強引にアプローチすることで、相手の気持ちに「観測効果」を与えられます。曖昧な状況であれば、強引に押しまくることで状況を打開できる可能性があります。』

「恋愛の物理法則じゃなくて、ただのゴリ押し理論じゃねーか!」

山田のツッコミに、部室が爆笑に包まれた。

「でも、行動しないよりはマシかも」

和美が顔を上げた。目に決意が宿っている。

「今度の週末、みんなでテーマパーク行かない?」

「え?」

「もちろん、吾郎くんも誘うつもり」

部員たちが驚いた表情を見せる。

「本気?」

「本気。もう観測を恐れない。不確定性を受け入れて、強引に行く!」


土曜日、快晴。

テーマパークの入り口に集合した一行は、総勢6名。和美の誘いを快く受けてくれた吾郎も一緒だった。

「わー、久しぶりのテーマパーク!」

ルカがはしゃいでいる。

「絶叫マシン乗ろうぜ!」

山田が地図を広げた。

和美は緊張しながらも、吾郎の隣を歩いた。不確定性原理――強引に行動する。

「石川くん、ジェットコースター好き?」

「まあまあかな。佐伯さんは?」

「だ、大好き!」

嘘だった。実は高所恐怖症気味。でも今日は違う。勇気を出すんだ。

ジェットコースターの列に並ぶ。偶然を装って、和美と吾郎が隣同士の席になるよう、部員たちが気を利かせてくれた。

「大丈夫? 顔色悪いよ」

吾郎が心配そうに覗き込んでくる。

「へ、平気! 楽しみ!」

安全バーが下りる。ガタン、ガタンと音を立てて、コースターがゆっくりと上昇し始めた。

高い。怖い。でも――

頂上に達した瞬間、和美は目をつぶった。

「きゃあああああああ!」

絶叫しながら、和美は無意識に隣の腕をつかんでいた。温かい感触。優しい声。

「大丈夫だよ、佐伯さん」

目を開けると、吾郎が和美の手を握ってくれていた。

「ごめん! 痛かった?」

慌てて手を離そうとすると、吾郎が優しく微笑んだ。

「大丈夫。怖かったら、つかまってて」

和美の心臓が、ジェットコースターよりも激しく高鳴った。

その次に観覧車に乗った。吾郎の提案だったのだ。和美が断れるはずがない。

「景色、綺麗だね」

「うん……」

二人きりのゴンドラ。部員たちは気を利かせて別のゴンドラに乗ってくれた。

「佐伯さんってさ」

吾郎が口を開いた。

「最近、積極的だよね。前はもっと大人しいイメージだったけど」

「え、そうかな」

「うん。でも、今の方が好きかも」

和美の顔が、恐怖と緊張の複合効果で真っ赤になった。

「あ、ありがとう……」


お昼は、パーク内のレストランで食事をした。

「楽しい!」

ルカがハンバーガーを頬張りながら言う。本来の目的を忘れて純粋に楽しんでいる。

「次は何乗る?」

「お化け屋敷!」

山田の提案に、和美が青ざめた。

(暗いところも苦手なのに・・・。

でも、石川くんが隣を歩いてくれるなら――)

お化け屋敷の中、和美は何度も吾郎の袖をつかんだ。

「怖いの?」

「ち、ちょっとだけ……」

「可愛いね」

吾郎がぽつりと言った。

「え?」

「あ、いや、なんでもない」

薄暗い中でも、吾郎の耳が赤くなっているのが分かった。

夕方、お土産ショップに立ち寄った。

和美は小さなストラップを見つけた。流れ星のデザインで色違いの二種類が並べられていた。片方は青い星、もう片方は赤い星。

「これ、可愛い」

「あ、本当だ」

吾郎も興味深そうに見ている。

「私、これ買おうっと」


帰り道、電車の中で和美は思った。

行動すれば、心も少し揺れるんだ。

量子力学も恋愛も、観測しなければ何も始まらない。

不確定性を恐れず、前に進むことが大切なんだ。

次の日、和美は吾郎と廊下ですれ違った。

「あ、石川くん、昨日はどうも」

「なんか楽しかったね」

「あの、これ。いくつも買っちゃったから、一つ記念にどうぞ」

和美は昨日買っておいた青い星のストラップを差し出した。

「えっ、いいの! いいなと思ったけど、買うのが恥ずかしかったから諦めていたんだ」

和美は青い星のストラップと赤い星のストラップ二つを買ったのだ。吾郎用と自分用と、もう一つは永久保存用に。

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