表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その一家、最強につき――  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/7

第7話 城主の正体は末裔!? 強すぎて平和な自由都市

【カイト視点】


 案内された城は、どう見ても日本の城だった。

 黒塗りの板壁に、反り返った石垣。まるで熊本城をファンタジー世界に移植したような威容だ。

 僕たちは、緊張しながら大広間の畳(い草ではなく、似たような香りの植物で編まれているらしい)に正座していた。


「面を上げよ」


 上座から、よく通る低い声が響いた。

 顔を上げると、そこには立派な(かみしも)を身にまとい、鋭い眼光を放つ三十代くらいの男が座っていた。

 彫りの深い顔立ちだが、黒髪に黒目。明らかにこちらの世界の住人とは違う、日本人の血を感じさせる風貌だ。


「お初にお目にかかる。余がこの自由都市の領主、加藤清定(きよさだ)である」


「きよ、さだ……?」


 僕がポカンとしていると、彼はニヤリと笑い、少しだけ砕けた口調になった。


「なんだ、拍子抜けした顔をしておるな。まさか、初代様――加藤清正公ご本人だと思ったか?」


「あ、はい。正直、そう思ってました」


「はっはっは! さすがにそれは無理というもの。初代様がこの地に流れ着いたのは、もう四百年も昔の話だ」


 清定さんが語った「真実」は、僕の知る歴史とは少し違っていた。


「我が家の記録によれば……初代様は、二条城での会見の後、毒を盛られたそうだ」


「えっ、毒殺……?」


「うむ。高熱にうなされ、意識が遠のき、死を覚悟したその瞬間――体が光に包まれ、気づけばこの異世界の森に倒れておったという」


「なるほど……毒が回る寸前に、こっちの世界に転移して助かったのか」


 歴史のミステリーの真相が、まさか異世界にあったとは。

 その後、初代・清正公は持ち前の土木技術と武力でこの都市を築き上げたそうだ。


「して、本題に入ろう。タツオ殿、マサミ殿、カイト殿」


 清定さんの表情が少し真面目になる。

 僕は身構えた。セリアたちを追ってきた帝国軍の話だろうか。また戦いに巻き込まれるのだろうか。


「実は、セリア殿たちエルフの件だが……」


「は、はい! 帝国軍が攻めてくるんですよね? 僕たちも戦います!」


 僕が前のめりに言うと、清定さんはキョトンとした顔をし、次の瞬間、盛大に吹き出した。


「ぶっ、ははははは!! 攻めてくる? 帝国がか? ないない、ありえん!」


「……へ?」


「安心せよ。この『加藤の自由都市』には、絶対に手出しをしてはならぬという、世界的な協定があるのだ」


「協定……ですか?」


「うむ。なにせ、初代様があまりにも強すぎたのでな」


 清定さんは遠い目をした。

 なんでも、初代・清正公はこの世界に来てからも暴れ回ったらしい。

 攻めてきた大国の軍勢をたった一人で壊滅させたり、伝説級のドラゴンを「虎退治の要領で」槍一本で仕留めたり。

 その結果、周辺諸国は「加藤には関わるな」「あそこは聖域だ」と震え上がり、四百年経った今でも、誰もこの都市に攻め込んで来ないのだという。


「というわけで、帝国軍もこの都市の旗を見た時点で回れ右して帰っていったよ」


「つ、強すぎる……」


 僕たちは呆気にとられた。

 セリアも口をあんぐりと開けている。


「そうじゃったのか……。森に引きこもっていたから知らなかったが、加藤の名はそれほどまでに……」


「そういうことだ。だから、そなたらは何も心配せず、好きなだけこの都市で暮らすが良い」


 清定さんは優しく微笑むと、父さんと母さんに向き直った。


「タツオ殿の刀、マサミ殿の焼き鳥。どちらもこの街の宝となる。ぜひ、続けてくれ」


「ありがとうございます、領主様」


「へへっ、よかったわねぇカイト。平和が一番よ」


 母さんが僕の背中をバシバシと叩く。


 結局、僕たちは「公式に滞在許可」をもらっただけで、お土産のまんじゅうまで貰って城を後にした。


「なんか、拍子抜けしちゃったな」


 城からの帰り道、夕日に染まる城下町を歩きながら僕は呟いた。


「でも、これで一か月後のドア復活まで、安心して勉強も仕事もできるじゃないか」


 父さんがのんきに笑う。

 伝説の武将の威光に守られ、僕たちの異世界生活は、まさかの「超・安全モード」で続くことになったのだった。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ