第7話 城主の正体は末裔!? 強すぎて平和な自由都市
【カイト視点】
案内された城は、どう見ても日本の城だった。
黒塗りの板壁に、反り返った石垣。まるで熊本城をファンタジー世界に移植したような威容だ。
僕たちは、緊張しながら大広間の畳(い草ではなく、似たような香りの植物で編まれているらしい)に正座していた。
「面を上げよ」
上座から、よく通る低い声が響いた。
顔を上げると、そこには立派な裃を身にまとい、鋭い眼光を放つ三十代くらいの男が座っていた。
彫りの深い顔立ちだが、黒髪に黒目。明らかにこちらの世界の住人とは違う、日本人の血を感じさせる風貌だ。
「お初にお目にかかる。余がこの自由都市の領主、加藤清定である」
「きよ、さだ……?」
僕がポカンとしていると、彼はニヤリと笑い、少しだけ砕けた口調になった。
「なんだ、拍子抜けした顔をしておるな。まさか、初代様――加藤清正公ご本人だと思ったか?」
「あ、はい。正直、そう思ってました」
「はっはっは! さすがにそれは無理というもの。初代様がこの地に流れ着いたのは、もう四百年も昔の話だ」
清定さんが語った「真実」は、僕の知る歴史とは少し違っていた。
「我が家の記録によれば……初代様は、二条城での会見の後、毒を盛られたそうだ」
「えっ、毒殺……?」
「うむ。高熱にうなされ、意識が遠のき、死を覚悟したその瞬間――体が光に包まれ、気づけばこの異世界の森に倒れておったという」
「なるほど……毒が回る寸前に、こっちの世界に転移して助かったのか」
歴史のミステリーの真相が、まさか異世界にあったとは。
その後、初代・清正公は持ち前の土木技術と武力でこの都市を築き上げたそうだ。
「して、本題に入ろう。タツオ殿、マサミ殿、カイト殿」
清定さんの表情が少し真面目になる。
僕は身構えた。セリアたちを追ってきた帝国軍の話だろうか。また戦いに巻き込まれるのだろうか。
「実は、セリア殿たちエルフの件だが……」
「は、はい! 帝国軍が攻めてくるんですよね? 僕たちも戦います!」
僕が前のめりに言うと、清定さんはキョトンとした顔をし、次の瞬間、盛大に吹き出した。
「ぶっ、ははははは!! 攻めてくる? 帝国がか? ないない、ありえん!」
「……へ?」
「安心せよ。この『加藤の自由都市』には、絶対に手出しをしてはならぬという、世界的な協定があるのだ」
「協定……ですか?」
「うむ。なにせ、初代様があまりにも強すぎたのでな」
清定さんは遠い目をした。
なんでも、初代・清正公はこの世界に来てからも暴れ回ったらしい。
攻めてきた大国の軍勢をたった一人で壊滅させたり、伝説級のドラゴンを「虎退治の要領で」槍一本で仕留めたり。
その結果、周辺諸国は「加藤には関わるな」「あそこは聖域だ」と震え上がり、四百年経った今でも、誰もこの都市に攻め込んで来ないのだという。
「というわけで、帝国軍もこの都市の旗を見た時点で回れ右して帰っていったよ」
「つ、強すぎる……」
僕たちは呆気にとられた。
セリアも口をあんぐりと開けている。
「そうじゃったのか……。森に引きこもっていたから知らなかったが、加藤の名はそれほどまでに……」
「そういうことだ。だから、そなたらは何も心配せず、好きなだけこの都市で暮らすが良い」
清定さんは優しく微笑むと、父さんと母さんに向き直った。
「タツオ殿の刀、マサミ殿の焼き鳥。どちらもこの街の宝となる。ぜひ、続けてくれ」
「ありがとうございます、領主様」
「へへっ、よかったわねぇカイト。平和が一番よ」
母さんが僕の背中をバシバシと叩く。
結局、僕たちは「公式に滞在許可」をもらっただけで、お土産のまんじゅうまで貰って城を後にした。
「なんか、拍子抜けしちゃったな」
城からの帰り道、夕日に染まる城下町を歩きながら僕は呟いた。
「でも、これで一か月後のドア復活まで、安心して勉強も仕事もできるじゃないか」
父さんがのんきに笑う。
伝説の武将の威光に守られ、僕たちの異世界生活は、まさかの「超・安全モード」で続くことになったのだった。
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