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その一家、最強につき――  作者: 塩野さち


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第4話 百人のエルフと砂金と業務スーパー

【カイト視点】


 父さんの無双によって、帝国兵は撃退された。

 森の奥に隠れていたエルフたちが、わらわらと姿を現す。その数、およそ百人。なんと、全員が女子だった。


「……あの、セリアさん。男のエルフはいないの?」


「うむ。エルフの男は皆、前線で戦っておる。ここにいるのは、逃がされた女子供ばかりじゃ」


 セリアが悲しげに眉を寄せる。

 百人の美少女エルフ集団。本来ならハーレム展開と喜ぶところだが、現実はそう甘くない。


「お腹すいた……」

「ひもじい……」


 彼女たちは着の身着のままで逃げてきた難民だ。全員が極限まで腹を空かせている。

 母さんが持ってきたカップ麺や缶詰は、あっという間に底をついてしまった。


「これから『自由都市』まで逃げるとなると、食料が圧倒的に足りないわね」


 母さんが腕組みをして唸る。

 百人分の食料を確保して、旅をする。並大抵のことではない。


「金はどうする? こっちの世界の通貨じゃ、日本の店では買い物できないぞ」


 父さんのもっともな指摘に、セリアが「あ」と声を上げた。


(カネ)……キラキラした金属のことか? それなら、この近くの川にいくらでも沈んでおるぞ」


「「「はい?」」」


 僕たち家族の声がハモった。


 案内されたのは、「男子トイレのドア」から徒歩五分の場所にある清流だった。

 川底を覗き込むと――あるわあるわ。太陽の光を反射して、砂粒のような黄金がきらめいている。


「これ、全部……砂金か!?」


 父さんが震える手で川砂をすくい上げる。

 どうやらこの異世界、資源の埋蔵量がバグっているらしい。



 一時間後。

 僕たちは大量の砂金をリュックに詰め込み、一旦日本へ戻った。

 父さんが知り合いの貴金属店へ走り(父さんは刀匠なので、そういうルートがあるらしい)、換金して戻ってきた時には、財布がパンパンに膨れ上がっていた。


「よーし! 軍資金は確保したわ! 行くわよ、みんな!」


 母さんが号令をかける。

 目指すは、主婦の味方にして最強の兵站(へいたん)基地――『業務スーパー』だ。


 さすがに百人のエルフ全員を連れて行くわけにはいかないので、セリアと、力持ちのエルフ数名だけを選抜し、僕のジャージや母さんの服を着せて変装させた。


「ここが……ニホンの市場か……!」


 自動ドアを抜けた先で、セリアたちが驚愕(きょうがく)の声を上げる。

 そこには、天井高く積み上げられた段ボールと、原色のごときパッケージの山があった。


「すさまじい量じゃ……! これなら一国を養えるのではないか!?」


「大げさだなぁ。ほら、カート押して」


 ここからは母さんの独壇場だった。


「パスタ! 五キロ袋を十個! 乾麺だから保存がきくわ!」

「お米! 十キロ袋をあるだけカートに載せて!」

「冷凍うどん! これは保冷剤代わりにもなるから優秀よ!」

「カレールー! 業務用のデカいやつ、全部買い占めるわよ!」


 母さんの指示に従い、セリアたちが次々と商品をカートに放り込んでいく。

 一キロ入りのマヨネーズ。一斗缶に入ったサラダ油。枕のようなサイズの徳用ウインナー。

 カゴがいくつあっても足りない。


「カイトよ、この『もやし』という野菜、一袋二十九円とはどういうことじゃ? 魔法で増やしたのか?」


「ある意味、魔法みたいな企業努力の結晶だよ」


 セリアは目を丸くしながら、もやしを大事そうに抱えている。


 レジのおばちゃんが、見たこともない長さのレシートを打ち出しながら、引きつった笑みを浮かべた。


「あ、あの……今日は何かのお祭りですか?」


「ええ、まあ。親戚が百人ほど急に来まして」


 母さんは涼しい顔で答えると、札束で支払いを済ませた。



 帰り道。

 パンパンに詰まったレジ袋を両手に下げて、僕たちは「男子トイレ」を通って森へ戻った。


「おおおお……!」


 待ち構えていたエルフたちから、歓声が上がる。

 父さんが大鍋を取り出し、母さんが手際よく調理を始める。

 メニューは、業務用カレーと、大量の茹でパスタ、そして野菜炒めだ。


「美味い! なんという味じゃ!」

「この麺、つるつるして最高!」


 エルフの少女たちが、涙を流しながら日本の味を頬張っている。

 その光景を見ながら、セリアが僕の隣で焼き鳥・冷凍の五十本入りを(かじ)った。


「カイト。そなたらの世界は、本当に豊かじゃな」


「まあね。でも、ここにあるのは全部、みんなが採った砂金のおかげだよ」


 お腹いっぱいになったエルフたちの顔に、ようやく生気が戻った。

 これで、自由都市への旅ができる。


「よし! 腹ごしらえも済んだし、出発だ!」


 父さんが立ち上がり、僕たちはまだ見ぬ自由都市を目指して歩き出そうとした。


 その時だった。


 バキッッ。


 家のトイレのドアから、不気味な亀裂音が響いた。


「……これ、ずっと繋がったままじゃないのか?」


 僕の呟きが、森の静寂に吸い込まれていった。


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