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その一家、最強につき――  作者: 塩野さち


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第3話 いきなり一家で異世界実戦!? 父さんがリアル刀匠で助かった!

【カイト視点】


 朝食後。焼き鮭とご飯の感動も冷めやらぬ中、セリアがふと表情を曇らせた。


「……美味い飯を食ったら、里のみんなのことを思い出してしまった。あやつら、無事に逃げ果せただろうか」


 彼女の言葉に、父さん――タツオが新聞を畳んで立ち上がった。


「よし、行ってみるか」


「は? 父さん、どこに?」


「決まってるだろ。セリアちゃんの里だよ。トイレの向こうだ」


 父さんはまるで「ちょっとコンビニに行ってくる」みたいなノリで言い放ち、奥の部屋へ消えた。数分後、戻ってきた父さんの手には――二振りの日本刀が握られていた。


「えっ……何それ!?」


「何って、父さんが打った刀だよ。お前忘れてたのか? 父さんの本職は『刀匠(とうしょう)』だって」


「いや聞いてないよ! ただの時代劇好きのサラリーマンじゃなかったの!?」


 驚く僕をよそに、母さん――マサミも台所から大きなリュックを背負って出てきた。


「カイト、ぼさっとしてないで! 向こうはお腹を空かせた人がいっぱいいるんでしょ? カップ麺と缶詰、ありったけ持っていくわよ!」


「この家族、順応性が高すぎる……!」


 こうして、僕たちは異世界への扉、男子トイレのドアを開いた。



 トイレのドアを抜けた先は、やはり深い森だった。

 だが、昨夜とは空気が違う。焦げ臭い匂いと、金属がぶつかり合う音が響いている。


「そこまでだ、エルフども!!」


 開けた場所に出ると、そこでは十人ほどの鎧姿の兵士たちが、数人のエルフを追い詰めていた。帝国兵だ。


「しまっ……見つかったか!」


 セリアが悲鳴のような声を上げる。

 兵士たちがこちらに気づき、下卑た笑いを浮かべて近づいてきた。


「なんだぁ? 珍妙な服を着た連中が出てきやがったぞ」


「おい、あの女は逃げた(おさ)の娘だ! 捕まえろ!」


 十人の兵士が一斉に剣を抜き、殺気を放つ。

 僕は足がすくんだ。ゲームや漫画とは違う、本物の暴力の気配。


「カイト、下がってなさい」


 その時、父さんが静かに前に出た。

 普段の眠たげな目つきは消え、研ぎ澄まされた刃のような鋭い眼光がそこにあった。


「一般市民に剣を向けるとは、感心しないな」


「あぁ? 寝ぼけたこと言ってんじゃねぇぞ、オッサン!」


 先頭の兵士が、大剣を振りかぶり父さんに襲いかかる。

 あぶない、と叫ぼうとした瞬間――。


 キィンッ!


 澄んだ音が響き、兵士の大剣が真っ二つに折れて宙を舞った。


「な……っ!?」


「鉄の質が悪いな。鍛え方が足りん」


 父さんはすでに刀を抜いていた。

 目にも止まらぬ速さ。(さや)から放たれた白銀の刃が、美しい弧を描いている。


「や、野郎! 囲め! 一斉にやっちまえ!」


 残りの九人が雄叫びを上げて飛びかかってくる。

 だが、父さんは一歩も動かない。


 ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!


 風を切る音が連続して響く。

 父さんがすれ違いざまに刀を振るうたび、兵士たちの鎧が紙のように切り裂かれ、武器が弾き飛ばされていく。

 まさに、無双。


「う、うわぁぁぁ! 化け物だぁぁ!」


 ものの数十秒で、十人の兵士たちは全員地面に転がり、あるいは武器を捨てて逃げ去っていった。

 峰打ちで済ませたのか、死人はいないようだが、全員戦闘不能だ。


「父さん……すごすぎる……」


「まあ、昔とった杵柄(きねづか)ってやつだ」


 父さんは刀についた脂を懐紙(かいし)で拭き取りながら、もう一振りの刀を僕に放り投げた。


「わっと!」


「カイト、お前もそれを持っておけ。業物(わざもの)だぞ」


「え、僕に!? 使えるわけないじゃん!」


「お前の部屋から竹刀の音が聞こえてたのは知ってるぞ。剣道の授業、真面目にやってただろ? 護身用だ」


 渡された刀はずしりと重い。けれど、不思議と手に馴染んだ。


 その間に、母さんが呆然としているエルフたちに駆け寄り、リュックからカップ麺やお菓子を配り始めている。


「はいはい、怖かったわねぇ。これ、お湯入れたらすぐ食べられるから! あ、お箸使える?」


「か、母さんも強心臓すぎる……」


 里のエルフたちは救われた。

 だが、セリアの表情は晴れない。


「カイト、お父上、お母上。感謝してもしきれぬ。……だが、帝国の追っ手はこれだけではないはずじゃ」


 セリアは森の向こう、黒い煙が上がる方角を見つめた。


「ここはもう安全ではない。里のみんなを連れて、帝国の支配が及ばない場所へ逃げなくては」


「逃げるって、どこへ?」


 僕が尋ねると、セリアは力強く答えた。


「『自由都市』じゃ。そこなら、あらゆる種族が共存し、帝国の干渉も受けぬと聞く」


 自由都市。

 その響きに、僕の胸が少しだけ高鳴った。


「よし、行こう。乗りかかった船だ」


 父さんがニヤリと笑う。

 こうして、僕たち一家とエルフの姫様による、奇妙な逃避行が始まろうとしていた。


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