常勝無敗3
普通なら一人で大軍と戦う場合は各個撃破が鉄則。だが俺はやっちゃうね。
「アホ盗賊団!俺が相手だ!かかってこい!
」
俺は今、魔導錬金の粋である『強襲用量産型魔導鎧マストゥリルアクストゥ改トライリーゼ』を身にまとい盗賊団のアジトの前で仁王立ちをしている。
こいつはリヒトリーゼ程じゃないが、十分に大軍相手でも戦える。いい戦闘データにもなりそうだ。今回の任務は一石三鳥で、ある本の奪取と盗賊団の壊滅、次世代超量産型魔導鎧の近接武器のトライアルも兼ねている。
自由貿易都市『フリージア』から南に二日ほど行った荒野にアジトを構える三百人規模のゴリゴリの武闘派盗賊団。以前から問題視されており、何度も討伐隊が出ているが今までのさばり続けた迷惑な奴ら。
さぁ~て遊ぶか。斧槍を右手に持ち左手に短杖を持って眼前に溢れる個性豊かな盗賊たちに目をやる。
怒号を上げて襲いかかってくる盗賊たち。
俺は魔導鎧を着込み三mを超える巨体で、五mを超える斧槍を構え三百人を超える盗賊たちに立ち向かう。
腰にあるブースターを点火。やや前傾姿勢で斧槍を構えて突進する。前方の数十人を蹴散らしながら中央突破。途中左手の短杖に雷を宿しすれ違う盗賊に雷撃を食らわせ行動不能にしていく。
敵陣のほぼ中央に到達。周りは敵、敵、敵。
短杖を背部キャリアに差し込み、
斧槍を両手で持ち、無造作に横薙ぎする。
ノコノコ近付いてきた盗賊の下半身と上半身がお別れをする。俺が君のお腹を引き裂いてしまった。罪な男よのう、俺様。
斧槍が振るわれる度に数十人が薙ぎ払われる。途中、なんちゃら八部衆だの四天王最強のとかいうやつがいたが構わず斬り捨てた。
相手方の魔術部隊がようやく詠唱が終わり、火炎弾が数十発飛んでくる。軌道を読んで、どうしても避けられない三発は拳に魔力を込めて撃ち落とす。ほかは華麗にスルー。
背後でバゴーンだかドゴーンだが炸裂音。いや~だからさ、乱戦でなぜ爆発するの撃つかね?仲間巻き込むでしょ、君たち。
火炎弾を撃った魔術師達が一塊でいるところに向けて斧槍の大きな刃の部分を取り外して投擲する。
風切り音とブースターの爆音を上げ、魔術師たちを次々と切り裂く鋼鉄の刃。ブースターで進行方向を変えて、逃げ惑う魔術師達を引き裂いていく。
ほぼ勝敗が決まり、逃げ出すものが大半の戦場。少し離れたアジトの入り口に部下2人を連れたスキンヘッド。ここのボス『アンドルス』
だ。
「脱着」
装着していた魔導鎧が弾けて最後まで粘っていた3身1体のなんちゃらとか言う奴らをまとめて吹き飛ばす。これで俺を拒む敵は無し。
魔導鎧を脱いで身軽になった俺は魔力回路を展開し、大きく踏み込んで百メートル程先のアンドルスめがけて跳躍。
取り巻きの手下の後頭部を蹴り飛ばし、太ももに巻いていた投げナイフをもう一人に投げる。
相手の太ももに突き刺さり即効性の麻痺毒が効果をすぐに出て倒れ込む手下。
アンドルスはこちらを向き、後退りしながら懐をまさぐり小さな袋を取り出して、にやりと笑う。
「お前はつえー、だがそれより強い奴を前にしたらはどうだか?」
袋から一冊の大きめの本を取り出す。明らかに袋に入り切る大きさではないが恐らく収納の魔術が付与されているのだろう。
問題は、本だ。不味い。今回の目的のものだが、こいつ封印を不完全だが解いてやがる。
「やめろ!そいつはヤバい」
本能が警鐘を鳴らしている。必死の制止。
だが、それは届かなかった。
「魔神よアイツを喰らいつくせ」
本は開かれ空中でペラペラとめくられ、辺りに魔力の奔流が渦巻く。俺の予想通り、アンドルスは声を出す暇もなくカラカラに干からびる。
俺は必死の魔力防御を行う。何が起こるかわからない。太古の封印された魔人。どんな攻撃が…………。
俺の足元にツインテールで妖艶な笑みを浮かべた少女が現れる。俺の腰元を嗅ぎ、蕩けたようなな顔で囁く。
「良き薫りじゃ、おぬし蜘蛛に関わりがあるのか?」
一歩も動けない。動いたらやばいやつだ。
蜘蛛? 姐さんか、ヴァルグランを護りし蜘蛛神の姐さんの関係ならこの圧倒的な力も納得出来る、だけど何故そこを嗅ぐ?
俺は全ての気力を動員し首を縦に振る。
「恐らく手違いで、寝ている我を起こしたのであろう。良し、蜘蛛が来るまでおぬし、我をもてなせ」
そう言うと立ち上がりマントを翻しバックステップで距離を取り、腰辺りの高さで手を左右に伸ばし掌を上に向け薄い胸を張り独特なファイティングポーズをとる。
「我が名は貪欲なる魔神フォーア。目覚めの運動に付き合ってもらおう」
威圧感が半端ない。正直逃げないと死ぬ。だが、逃げ切れないのも事実。奮い立て俺!
こんな可愛い姉ちゃんだが世の理外にいる規格外相手なんだ、勝てなくても凄いご褒美がもらえるはず。
持ち前の楽観論を展開して精神を立て直す。同時に魔力回路を二つ同時展開。本業術師ではない俺だが限界を超えた修行の末辿り着いた常人の限界と言われる魔術回路の同時展開。
ダブルキャストとも言われる技術。単純に一工程で二つの術を組み立てる。魔術はよほど相反しないものであれば重ねてかけることが可能で重ねるほど二乗関数的に威力が上がる。
補助魔術であれば、回数を重ねて徐々に威力を上げられる。だが攻撃魔術は一瞬で構築され射出されるものがほとんどな為、重ねがけによる恩恵は一般的には望めない。
だがダブルキャストならありえない攻撃魔術の重ねがけができる。相手は魔神。躊躇したら一瞬で消される。
最大最強、俺の全力!
「ツインライトニングブレード!!」
俺の両の手からからドラゴンの拳を思わせる魔力塊が生み出され俺の目の前でガシリと手を組み回転を伴い、猛烈な勢いでフォーアに向かっていく。
俺は右に素早くステップし、クラウチングスタートの構えを取りながら再びダブルキャスト。身体強化を2つ。これでさっきの身体強化と合わせ3つ。およそ人間が操れる限界の強化。
ライトニングブレードがフォーアを直撃。防御を打ち破れなくとも、目眩ましにはなるはず。
腰から右手で短杖を抜き、強い踏み込みで自らを槍のように一直線でフォーアの喉めがけ短杖で突き刺す…………はずだった。
傷どころか目眩ましにもならなかった俺の全力。
渾身の突きも二本の指で防がれる始末。
さて、常勝無敗返上の時ですかね? 等と考えながらも俺はまだ諦めてはいない。




