常勝無敗1
ヴァルグラン王国の西南に位置する内陸部の要所『サウスヴァルグラン』ここが俺の仕事場。いつもの訓練場に朝から入り訓練兵の面倒を見てる。
今日は四対一の模擬戦からだ。戦士二人が両脇に散開してオレを挟み込み前方には盾持ちがドッシリと構え、背後の魔術師をオレの視線から隠している。恐らく魔術師の魔術回路を探られない対策。俺の事をよくわかっているから、こんな事をする。
『敵を知り戦略を練ろ』
常日頃、俺が言っている事を実践している。この俺、常勝無敗の野獣ガインは魔術回路を読み解く目と、あらゆる状態異常を無効化するという生まれついての力がある。この事まで、視野に入れないと俺には敵わない。
左右から斬り掛かってくる二人を目の両端に止めつつ前方の魔術師と盾持ちに向かって行く。
普通なら、バックステップで下がり二人と剣を交えて体勢を整えたくなる。後ろに回れ込まれるのが危険だからだ、ただそれだと二対一の上に魔術の支援付きで詰む。
正解は。
盾持ちに近づき左手で腰に着けた投網を盾持ちの頭上を越えるよう、山なりに投げる。
盾持ちが、投網に気を取られた一瞬の隙に身を屈めて足払いをかける。と同時に右手の木剣を左後ろの戦士に投げつける。
盾持ちは、足を払われてスパーンと転ぶ。左後ろの戦士は木剣を躱したが、もう一人とタイミングがズレる。
盾持ちが転んだ事で魔術師と目が合う。魔術回路を解析すると盾持ちに堅牢、戦士に身体強化を与えようとしているが、頭上から降ってきた投網を被って混乱し回路が霧散する。
混乱している魔術師の後ろに回り背骨にミドルキック。先行していた戦士にぶち当たり二人ともバランスを崩す。
右手を腰に回し短杖を抜いて足元の盾持ちの首に寸止め。一気に走り木剣を投げられタイミングを崩された戦士に肉薄し、横薙ぎの木剣を身を屈めて避けて逆袈裟に短杖を振り上げて寸止め。
「後、二人。まだやるかい?」
隙を見せずにもつれた二人を見る。二人は顔を見合わせて頷き両手をあげる。ハイッ降参だね。
臨戦態勢を解く。と同時に戦士が低い姿勢で俺に向かって駆け出す。
「やるじゃねーか、だが甘い」
右手の短杖を手放し、落ちる短杖を右足で蹴る。短杖は駆け出した戦士のおでこにヒットし戦士はそのまま沈黙。蹴った足を地面に設置した瞬間、魔力回路を構築して身体を強化して魔術師に肉薄して組み付いてニヤリと笑う。
「今のは良かった。次の火炎嵐の回路も死なない程度の自爆としては魔力操作が完璧だ」
俺が教えた通り、最後まで諦めない戦略も素晴らしい。手放しで褒められるぜ、こいつらは成長した。
魔術師は武装解除と自決の構えをとる。それを止めながら立たせて医療班を呼ぶ。医療院に運ばれる部下たちを見送る。
周りで見ていた者たちに宣言する。
「あれがお前たちの指揮官だ。二百人を相手取る俺に四人で挑んだ。お前達は俺を相手にあそこまで出来るか? 分かったら努力しろ。以上」
周りにいる千人ほどの駐屯兵全員に告げる。ここ、サウスヴァルグランは南の軍事国家『スルトタガン』にも近く激戦がいつ起きてもおかしくない要所。
さらに、ここには落とされてはならない理由がある。その為、普通の都市では考えられないほど戦力がある。
まず、俺か『笑う岩ベルク』が必ずここにいる。俺たちはヴァルグラン王国の国興しから存在する五大魔導鎧を賜っている。五大魔導鎧は普通の兵であれば二千人を相手取れるほどの大戦力。
それを持つものが都市に二人もいる。王都以外ではあり得ない、がそれだけここは重要で国興しにも関係している秘密がある都市なのだ。
まっ、俺には関係ないが仕事をこなしてく。その後は座学が多かったがやることは同じだ。朝の手合わせを見ての反省を返していく。
俺は、野獣なんて呼ばれているが意外と理知的なんだ。実戦も得意だが座学も好きだぜ。教えるのもフィードバックになっていい糧だ。
あらかたの質問に答えている内に午前の講義時間の終わりを告げる鐘が鳴る。皆に声をかけて講義堂を出て兵舎内の食堂に向かう。
サウスヴァルグランには北、中央、南と兵舎が三つあり、週ごとに俺とベルクが回り兵士に訓練をつけて回っている。今日俺は中央兵舎に来ている。
中央兵舎は戦時下は司令部の役割を持つ関係上、文武官が多く常駐している。文武官とは文官と武官を併せ持つスーパーエリートだ。因みに俺も文武官カウントらしい。
食堂の道すがら独特のローブを身にまとった美人とすれ違う。体のラインが一切でない肩と襟が強烈に厳つい伝統衣装『ガルタ』を着て優雅に歩く彼女は、『法術国家リツァーバ』の筆頭法術士『ミヒャエラ・エデン』。何人かの護衛とともに司令部の方に向かって行った。
何で知っているかというと、先日首都の『リヒトヴァルグラン』でリツァーバと合同の国家記念行事がありその時、いつもの調子で「姉ちゃん今晩どう?」と声を掛けたら両国の文官に引きずられ別室でリツァーバのしきたりで公の場でガルタを着た法術士には話しかけてはいけないというものがあると、こっぴどく叱られた。
幸い、その場の文官たちは理解ある奴ばかりで国際問題にならなかった。下手すればなってたらしいが、ヴァルグランはリツァーバにとって大事な隣国な為、大目に見てくれたらしい。
なので、今日は泣く泣く見てるだけ。ただ気になるのが、ミヒャエラが俺の方をずっと気にしていた事。目線は合わせていないが、こちらを観察していた。こういうのは、感覚で分かる。戦闘力を測られていた感じだ。まぁ、敵対してないのでスルーだ。
さぁ、めしめし。
今日は、おばちゃん特製の味噌握りと赤魚の酒粕漬け焼き。国興しの神がサウスヴァルグランの名産として残した味噌と酒粕を使った旨い飯。これを食って午後もバリバリ働くぜ。
午後は基本実技訓練と魔導鎧の装着及びメンテナンスの実地演習。基本実技訓練は二人一組でヴァルグラン式格闘法と各種武器の基本訓練。
ヴァルグランでは、様々な武器を選択できて専攻の武器が支給される。ただ、基本武器についてはある程度全て使い方を叩き込まれる。いつも得意武器が使えるとは限らない。ヴァルグランの実戦的な教えだ。
量産型魔導鎧はまだヴァルグラン全体でも五百体配備されているかどうかで、都市に十体前後配置されている程度の限られた人間しか扱えない装備だ。
だがいついかなる状況でも戦えるようにが モットーのヴァルグランだ。基本的な扱い方は全兵士が把握するように常に訓練されており、大量量産された暁にはすべてのヴァルグラン兵が、全長三メートルを超える巨人として戦場を駆け抜けることとなる。
まぁ、こんな国に喧嘩売る奴はまずいないな。戦力により戦争を起こさない。あまり褒められたものではないが、平和を目指す一つの方法ではある。
質問を受け付けて講義を終了する。最後にいつもの唱和で締める。
「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、あだは敵なり」
この言葉は、国興しの神が一番最初の王国民に伝えたとされている。今では、言葉を覚えた王国民ははじめにこの言葉を覚える。
この国を表す始まりにして全て。この言葉があるからこの国は、悪人が住みにくく人を思いやれる人間が多い笑いがある国になっているんだ。




