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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第三章 悪夢の娘

第三章 悪夢の娘


 わたしとガンジイは川沿いを歩き、かつてロイさんとアリーンさんが暮らしていた村を目指した。今でも二つの村は、争いを続けているのだろうか。ガンジイは、争いを止めるのは無理だと予想していたけど……。そういえば、ガンジイは二つの条件が揃えば、争いを止められるかもしれないと言っていた。

「一つ目の条件は、世代の交代だ。当時実権を握り、争いを主導していた人間が死に、停戦を望む人間が増えていることだ」

「ロイさん達が村を出た後、残ったのは争いを望む人達だけだったんだから、それは望みが薄くない?」

「しかし物質的、精神的な疲弊は当然、心理状態に影響を及ぼす。長く続く争いの末に、戦う意欲を失っている可能性はある。だがその反面、さらに憎しみを加速させている場合もある。都合のよい期待はせぬことだ」

 もし争いを止められそうになかったら、ガンジイはどうするつもりなのかな?わたしがそれを聞いてみると、ガンジイは「情報を集め、去るだけだ」と答えた。なんとかして争いを止めようという考え方はないみたいだ。少々意地悪な質問になってしまうが、もしも少数の和平を望む人間がいて、その人達が助けを求めてきたなら、それでも去るだけなのかと聞いてみた。

「去るだけだ。そのような者達は、私が手を貸さずとも、自身の意思で行動を起こす。アリーン夫人が行動を起こし、村を出たのと同じことがまた起きるだけだ。しかし、多少の手助けをする場合も多々ある。我らの物資を分け与え、村を出た後にすぐ行き倒れることがないようにする場合や、ある程度は旅に同行させることもあった」

「でも、自分ではなにも出来ない、本当に弱い人達もいるかもしれない。そんな人達はどうするの?」

「そもそも、それほどの弱き者は、助けを求めてこないものだ。そしてそのような者達は、そのままにしておくのが最もよい。これは突き放しているのではなく、その者達にとってそれが最善なのだ。強き者の集団の中にいれば、生命が保証される。意思の弱き者は、自身の決定権を他者にゆだねてしまう。村の外に出したところで、生きていくことが出来なくなってしまうだけなのだ。思考を停止し、強き者の命令を実行し続けること、集団の中に身を置くことが、弱き者が生きていく上での最適解だ。我らのような、少数の旅に同行するよりも、生存率が格段に跳ね上がる。いざという時に、己の意思で生き抜く覚悟を持ち、実行に移せぬ者に、この旅は厳しすぎる。それを弱き者自身も理解している故、わざわざ助けを求めてくることはない」

 ……難しい話だ。ガンジイの中では、手を貸すべき人、そうではない人の区別が、しっかりとしているみたい。自分の意思で、生き抜く力を持っているのか、いないのか。後者の場合は、環境の変化を起こさないことが、一番いいという考え方。

「その弱い人達が、強い人達に酷いことをされていても、なにもしないの?」

「弱き者達を救いたいのなら、変えるべきは、その集団を率いている強き者だ。もしもロイ殿やアリーン夫人のような者達が、それぞれの村を統括するようになっていたら、弱き者を虐げることを許すと思うか?」

 あぁ、なるほど。それが一つ目の条件の肝なのか。世代の交代。たった一人の善人がトップに立っても、その周りがみんな悪人なら、その村は悪の側に寄るだろう。多数の善人と、少数の悪人という状況をつくりださないといけない。全員が善人の集団なんてありえないし、その逆もまた然りだ。大事なのはその比率。権力を握った上層部が腐っているのなら、根本的な改革が必要になる。そのためには健全な新しい土壌、新世代の誕生が必須条件になるのか。


「二つ目の条件は、新たな脅威の発生だ」

「脅威?」

「両者が協力関係を結ばざるを得ぬ、強大な敵の出現。人間と獣人とが手を取り合わねば、対処が不可能な何かが発生していることだ」

「……新しい侵略者とか?」

「いや、侵略者であるならば、被害を受けておらぬ側は傍観しているだけだ。侵略者が二つの村を同時に襲うことはまずありえん。戦力を分散させる理由がないからだ」

「なにか、具体例はある?」

「私が今まで見てきた事例を上げると、自然災害だけだ。一つ例を上げると、山のふもとに対立する二つの村があったが、噴火によって大量の死者が出た。対立を先導していた者達が死んだ結果、若い者達が手を取り合い、共に生きていくことを決めたことがある」

 一つ目の条件と繋がる話だ。集団内の腐敗を払う、なにかが発生しなくてはならないということか。

「じゃあ、革命はどうかな?」

「和平を望む少数が、争いを望む大多数に、武力を持って勝利出来ると思うか?仮に勝てたとして、それを二つの村で同時に起こさねばならぬのだ。どちらか一方で革命が起きただけでは、戦力低下の隙を突かれ、もう一方の村に攻め込まれて終わってしまう」

「……無理っぽいねぇ」

「この二つの条件が揃うことは、ほぼ無い。私が生きてきた中で、ほんの二つの事例を見たことがあるだけだ」

「……例えば、なんだけどね」

「子よ、それはならぬ。出過ぎた真似だ」

 思考を読まれた。例えばガンジイが本気を出したなら、争いを望む人達を一掃……。はっきり言ってしまえば、皆殺しに出来てしまうのではないか。それを聞こうとしたわけだが……。たとえ可能だったとしても、ガンジイにそんなことをお願いするつもりは、もちろんない。興味本位で聞いてみただけだ。暴力による解決を前提にした和平なんて、わたしだって望みたくない。その劇薬を使用しなければならないほどの、わたしの村のような末期の状態にでもなっていない限りは。

「……しかし、もしも、それを実行する者が現れたならば……」

「え?」

「私と同等の武力を持つ、何者かが現れ、二つの村を同時に滅ぼそうとしたならば……」

「……どうするの?」

「遭遇したことのない状況になるが、まずはその人物と対話するべきであろう。なぜ滅ぼそうとするのか、その理由を知らねばならぬ」

「問答無用で襲い掛かってくるかもしれないよ?」

「ならば討つまで。その者の目的が、理由なき虐殺なのか。理由のある攻撃なのか。それにより、状況は大いに変化するであろう」

 まず接触するのは、人間が暮らしている村の方が絶対にいい。獣人の村に行っても、突然攻撃される可能性が高い。わたし達は人間だから。もしも村が見えても、それがどちらの村なのか、まずはちゃんと確認しないと。


 足を進めるその最中、休憩を取り、食事をしているときのことだった。突然、わたしに乙女のピンチがやってきてしまった。

「体が汚れてきている。沐浴をした方がよいな」

「……そういえば、村を出て六日になるね」

「不清潔は皮膚病の原因になる。注意せねばならぬ。それに村に接触する前に、体を清めねば。見た目が汚れている者は、病気を村に持ち込むのではと、警戒されて然りだ。先に浴びてくるとよい」

「……み、見ないでよね」

「無論。私は背を向けておく。衣服を脱いだ際は、突然敵に襲われたときの対処が難しくなる。本来なら安全の確保のために監視が必要になるが、私の聴力とお前の闇視を併用するなら、心配はいらぬだろう」

 闇視が使えてよかった。闇視ばんざい。……いや、ここにきて、わたしはとんでもないことに気が付いてしまった。生きていれば当然、生理現象でトイレにも行くわけだが……。ここまでは地面に穴を掘って、ガンジイに離れてもらって用を足していたわけだが……。ガンジイの聴力なら、その、音とか、聞こえていたかもしれない……?

 考えないでおこう。なんだかそわそわしてしまい、川で水を浴びながら、なんとなくガンジイに話しかけてみた。

「ガンジイが上半身裸なのって、自分はきれいですよって、相手に見せるためだったの?」

「それと、危険な武器を持っていないことを示すためだ。私の武器はこの手斧一つのみ。身を守るための最小限だが、これでも警戒される。事前に教えておくが、弓を持つ者に会ったら、即座に警戒するのだ。弓は闇人でも動物でもなく、人間を攻撃するための武器だ」

 そうか、この闇に覆われた世界の中で、弓という武器はほとんど役に立たない。遠くが見えないのに、遠距離の闇人や動物を狙えるわけがない。唯一狙える生き物が人間だ。人はたいまつを掲げている。遠方に火が見えれば、そこには誰かがいるということだ。

 つまり人がいるなら、そこには火があるはずなのだが、稀にわたしのような、火がなくても行動出来る存在もいる。そしてその数少ない例外が、突然やって来た。

「……川の向こう岸に、なにかが近づいて来る。服を着る時間はない。水の中に身を潜めるのだ」

「闇人?火は見えないよ」

「分からぬ。足音だけなら人のようではあるが」

 ガンジイの聴覚が、なにかの接近を感知したようだ。わたしは川の中にかかがんで、身を隠してから闇視でそれを確認してみた。

 ……女の子だ。見たところ、わたしより、少し年上。だが、普通の人間ではないようだ。

「人間なのか、獣人なのか、分からないのが来てるよ。両方の特徴があるの」

「武器は持っているか?」

「持ってない。なにも持ってないの。たいまつすら持ってない」

 真っ暗闇の中、その女の子は火を掲げずに、真っすぐこちらへ歩いて来る。たまたまそのルート上に闇人がいないからいいけど、もしいたらどうするつもりなのだろう。それともわたしみたいに、なにか特殊な力を持っていて、闇人がいないことが分かっているのかな。そもそもなぜこちらに向かってくるのだろうか。わたしたちに接触することが目的?こちらはたいまつを掲げているわけだから、位置が完全にばれてる。

 女の子は、がっちりとした肉付きの良い体をしていて、簡単な布の服の上に、毛皮のマントを羽織っている。なんの毛皮だろう、分からない。腰に袋をいくつかぶら下げているだけで、やっぱり武器は持っていない。髪はボリュームのある、ブラウンのくせ毛。そのくせ毛の中から、動物の耳が生えていた。クマの耳に見える。だけど顔は人間で、太くまっすぐな眉に、大きな目。どこか大胆不敵な印象を与える目つきをしていた。獣人と人間、両方の見た目を備えているということは……。

「そのまま隠れているのだ。私が相手をする」

 ガンジイはそう言うと、川を横断して向こう岸に歩いて行く。たいまつの火が、わたしの姿を照らさない位置まで行くと、ガンジイの方から声を発した。今のうちに服を着てしまおうかとも考えたが、ガンジイの指示した通り、身動きを取らずにいた方が安全か。このまま闇視で観察を続けよう。

「そこに、誰かおるのか?」

「こんばんは!うわ、じいちゃんすっごい体してんな、獣人みたいな筋肉じゃん!」

「何か用か?」

「あんたら、あっちにある村の人じゃないよね?」

「向こうに村があるのか?私は一人で旅をしている者だ」

「は、なんで嘘つくの?そっちに一人いるじゃん。村のやつではないみたいだけど」

 わたしの存在がばれてる。たいまつの明かりはわたしの所までは届いていないのに。ましてやこうして川に身を浸しているのに、どうして分かったのだろう?

「お前が危険な者かもしれなかったのでな。私が身を隠すよう指示を出した。それで、お前は何が目的で接触してきたのだ?」

「あんたらが村の人じゃないなら、どうでもいいよ。ちがうのは見ればわかったし。じゃあな~」

「待て、お前はもしや、人間と獣人のハーフか?」

 ガンジイにそう質問されると、女の子の顔が、一瞬で歪んだ。獲物を威嚇する獣のような顔つきに変貌し、明確な敵意を向けてくる。

「だったらなに?バカにするなら許さないけど」

「いいや、素晴らしいことだ。二つの種族が手を取り合い、お前が生まれたのだろう。お前のことと、両親の話を聞かせてもらいたい」

 女の子の顔が、ぱあっと明るくなった。表情豊かな人だ。喜怒哀楽が分かりやす過ぎる。……とにかく、悪い人ではなさそう。

「じいちゃんは話が分かるやつだな!そっちのやつも出てきな、襲ったりしないって!」

 

 そんなこんなで、謎の女の子とたき火を囲んでの談笑会が始まった。わたしは服を着て、たき火で体を温めながら、ガンジイと女の子の話を聞いていた。女の子は大きく身振り手振りを交えながら、楽しそうに話している。なんだかずいぶん年下の子供のように見えてきた。年はいくつなのかな。

「あたしの母ちゃんと父ちゃんはな、向こうにある村の出身なんだって!」

「ふむ」

「なんだけど村から追い出されたんだって!ひどいよな、人間と獣人が仲良くしてただけで、いじめられたんだって!」

「ふむ」

「そんで二人で村を出たんだけど、その後あたしが生まれたってわけ!」

「お前の両親が村を出たのは、いつのことだ?」

「あーっとね、あたしが生まれる一年前だから……」

 女の子の言葉が詰まった。簡単な足し算だと思うのだけれど。女の子がまぬけな顔で固まっていると、ガンジイが助け舟を出した。

「お前はいくつなのだ?」

「八才!じゃあ五年前だな!」

「違う、九年前だ。なぜ減るのだ」

「まって、八才って言った?」

「うん、八才!」

 そんなばかな。八才にしては体の発育がよすぎる。身長はわたしより上で、一メートルと、六十五センチくらいか。中身はともかく、見た目だけなら十代半ばから後半くらいだ。獣人の血の影響だろうけど、筋肉もがっちりついていて、プロレスラーのような体をしている。

「獣人は心身の成長が、人間より早いのだ。おおよそ人間の三倍から四倍の速さで、精神も肉体も成長していく」

「あたしはハーフだからな、たぶん六倍くらいだぞ」

「違う、おそらく二倍前後だ。なぜ増えるのだ」

「そもそも、本当に八才なの?」

「たぶんな!ちゃんと数えてないけど!」

「……それは数えておこうよ」

「父ちゃんには寝た数を数えろって、毎日言われてたけどな。いっつも忘れちゃうからさ!あははは」

 この世界には日の出とか、日没というものが無い。では一日の基準とはなにか。答えは睡眠だ。人間の体内時計だけが、時間の基準となっている。一回寝て起きれば、それが一日。とんでもない話に思えるが、これが驚くほど正確なのだ。長い年月を闇の中で過ごしてきた、この世界の人間たちの適応の結果だ。そしてこの世界では三五○回寝ると、一年が過ぎるとされている。自分の年齢がいくつか、今年は何回寝たか数えることは、個人の義務になっていると言ってもいい。

「それで、お前の目的はなんなのだ?向こうにある村と、どういう関係がある?」

「まずはな、母ちゃんの妹を探してたんだ。あ、母ちゃんも父ちゃんも死んだんだけど、妹のとこに行ってみなって、言われてたから」

「……ねぇ、その人の名前は?」

「妹の名前か?アリーンだよ。でもいなかったんだよな。なんかその人も村から出て行ったみたいでさ」

「わたし、アリーンさんのこと知ってる」

 わたしは写真を女の子に見せてみた。女の子は大げさに驚いて「母ちゃんそっくりだ!」と写真に見入っていた。わたしはロイさんとアリーンさんのことを話し、その間女の子は、人が変わったように静かにその話に聞き入っていた。

「そっか、妹も死んじゃったか」

「……この写真、あげようか?」

「いや、いいよ。母ちゃんそっくりだけど、母ちゃんではないから。じゃあ、あたしにはもう家族がいないってことだな」

「これからどうするつもりなのだ?」

「まだやることがあるからな。村をぶっ潰してやるんだ。ていうか、さっきも軽くぶっ壊してきてやったんだけどさ」

 ……聞き間違いだろうか。さらっと物騒極まりない言葉が聞こえた。

「そうだ、じいちゃんも一緒にやろう!じいちゃんすっごく強いだろ、見れば分かるよ!あたしとあの村をぶっ潰そう!」

「お前が私に勝てたら、そうしてやろう」

「……あたし、本気でやるけど、いいの?加減とか出来ないからさ」

「構わぬ、来い」


 ガンジイと女の子が立ち上がり、突然の腕試しが始まった。ガンジイの意図はなんだろう。この子の実力を図って、その先はどうするつもりなのだろう。

「ふんーっ!」

 女の子は、なにやら特徴的な唸り声を上げながら、ガンジイに殴りかかった。ガンジイはそれを両手で受け止める。ドスンという鈍く大きな音がしたが、大丈夫かな。……ガンジイだし、大丈夫に決まってるか。

「……じいちゃん、平気なのか?」

「問題ない。もっと来い」

 女の子は笑いながら、次々と殴打を繰り出していく。おかしな感想になるが、その動きはとても綺麗だった。やっていることはただの暴力なのだが、まるで踊りのように、動きに切れ目がなく、全ての動作がスムーズに繋がっていく。腕から腰へ、腰から脚へ。それをさばいていくガンジイの動きも綺麗だ。女の子の動きが全身を使ったブレイクダンスだとしたら、ガンジイは控えめな動作の日本舞踏のよう。

「すげえな!じいちゃんすげえ!こんなに殴って倒れなかった奴、今までいなかった!」

「最後に思い切り来い。全力の一撃を見せてみよ」

「ふんーっ!!」

 女の子は唸りながら、軽く助走をつけて前のめりに殴り込んだ。全体重を乗せた、大ぶりのパンチだ。ガンジイはそれを……。だめだ、早すぎて見えなかった。腕を軽く回すような動きをしたと思う。すると女の子の体が、回転しながら宙を舞った。女の子はそのままガンジイの頭上を飛び越え、地面に落ちた。女の子は信じられないという顔で、しばらく大の字になって倒れていたが、いきなり元気な笑い声を上げた。

「今のなに?すげえな、どうやったの?」

「手を貸すわけにはいかぬな」

「あたしの負けだからな。村はあたし一人でぶっ潰すから大丈夫!」

 なにがどう大丈夫なのか。わたしたちは今から、場合によってはその村の争いを止めようとしていたのだが。……村がもはや滅びてしまった方がいいような、悪人の巣窟になっていたのなら、この人に協力してもいいかもしれないが。

「ねぇ、わたしたち、今からその村に行くんだけど」

「そうなの?」

「ほら、旅人だからね。情報を集めたりしたいから、何日か滞在するかも」

「ふーん、そっか。じゃあ、何日かは手を出さないようにするよ!」

「それと、あなたの名前は?」

「ムク!じゃあな!あたしが村ぶっ潰すのに巻き込まれるなよ!」

 ムクはそう言うと、手を振りながら、闇の中へ走り去っていった。……そしてすぐ戻って来た。

「そういや、あんたの名前は?」

「レイレイ。そっちはガンジイ」

「そっか!じゃあなレイレイ、じいちゃんもまたな!」

 ムクはそう言うと、再び手を振りながら闇の中へ走り去った。……そしてまた、すぐに戻って来た。

「それとさ、あんたの髪、すっげぇきれいだな!つやっつやのサラッサラだな!」

「あぁ、うん。ありがとう」

「あたしもさ、あんたみたいに腰まで伸ばそうと思ったんだけど、ほら、あたしくせ毛じゃん?長くしたらうっとおしくてさ!」

「まて、今なんと言った?」

「へ、なに?あたしがくせ毛って言ったけど」

 ガンジイが変なところで口を挟んできた。今の会話の中に、気になる部分なんてあったかな。

「それより前だ。麗冷の髪をなんと言った?」

「つやっつやのサラッサラで、腰まで伸びててきれいだなって!」

「私には、そうは見えておらぬ」

「……ガンジイ、変な主張してくるね」

「人それぞれってやつだな!あたしも父ちゃんからよく言われたぞ!人それぞれだから、お前はお前の望むように生きろって!じゃ、またな!」

 ムクは次こそ本当に走り去った。引き止めようかとも思ったが、そのままにしておいた。ムクとは絶対にまた会うことになるだろう。他にも聞きたい話は色々とあったが、次の機会に聞けばいいだろう。そんなことより、ガンジイに言っておかないといけないことがある。

「ガンジイ、ショート派なの?」

「なんの話だ?」

「わたしの髪、ガンジイにはきれいに見えてないんだね。けっこう自慢だったんだけどなぁ、このロングヘア」

「話が食い違っておるようだ。私の目には、お前の髪は長く見えておらぬ。耳にかかる程度に見えている」

「……ん?」


 ……おかしな話になった。その後ガンジイは地面に指で、わたしの顔の絵を描いて説明した。ガンジイに見えているわたしの顔を、そのまま描いたというが……。その顔は、わたしの知る、わたしの顔ではなかった。わたし自身が認識しているわたしの顔は、髪が長くて、前髪は額を隠すくらい、額の目を隠すことが出来るくらいだ。そして顔のパーツは、少し切れ長の目に、東洋人的な小ぶりな鼻と口。割と整った綺麗な顔だと自負している。

 しかしガンジイが描いたわたしの顔は、ショートヘアの男の子のような顔だった。髪全体が短くて、額がはっきり出ている。目は三つとも大きく、わんぱくな少年のような印象。鼻筋は少し高めで、全体的に欧米の少年を思わせる顔だった。

 だが共通して認識している部分も三つあった。まず額にある目だ。ムクはこれに言及してこなかったけど、彼女からはわたしがロングヘアに見えていたのだとしたら、前髪に隠れて見えていなかったのかもしれない。次に着ている服は同じに見えている。黒いワンピースだ。そして体型も共通している。ガンジイからは身長が小さく見えているとか、そういうことはないみたい。

「奇妙な話だ。今まで自分の見た目について、他人が話しているのを聞いたことはないのか?」

「全くなかったよ。わたしの村は、わたしと話すの禁止だったし。村人同士でわたしに関する話をするのすら禁止されてたから」

「この先の村に着いたら、村人に聞いてみるのがよかろう。もしかすると、全員が違う容姿を答えるやもしれぬ」

「……原因はなんだろう。人によって違う見た目になってるとか、意味不明だよね」 

「全く見当がつかぬ。闇視の力と関係しているのやもしれぬが、深く考えたところで、今はどうにもならぬだろう」

 その通りだ。分からない問題はいつものように先送り。そのうち分かるときがくるだろう。

 そういえば、ガンジイはムクの腕試しをして、どうするつもりだったのだろう。その意図を聞いてみた。

「あの子に悪意があるかを確かめていた。拳を交えればそれが伝わるものだ。暴力を生業とする者は、三つに分けられる。傷つける者。守る者。強くありたい者」

「ムクはどれだったの?」

「その全てだ。あの子は、悲しき子だ」

「……どういうこと?」

「生きる為に、幼き頃より暴力に傾倒する他なかったのだろう。あの子には、自分を守ってくれる存在がいなかったようだ。お前と根本がよく似ている」

「……村を潰すって言ってたけど、止めないとだめだよね」

「いや、その結論を出すには早い。滅びるべき悪しき村も、世には存在している。今日は休み、明日に接触することとしよう」

 明日は村に行って、情報を集めることから始めよう。まずは太陽の伝承が残っていないか。旅の本分を忘れてはいけない。次に村の現状、争いを続けているのか。それからわたしの見た目のこと。そんなところかな。出来ればアリーンさんの知り合いがいるかも探っておきたい。

 わたしはたき火を見つめながら、ぼんやりとムクのことを考えていた。天真爛漫で、明るい性格の人に見えていたけど、その裏には悲劇が隠されているのだろうか。両親は亡くなっていると言っていたし。ここまでたった独りで生き抜いてきたのかな。

「……あ、ムク、火を持たないで行っちゃったけど、大丈夫かな」

「あの子は強い。闇人などでは相手にならぬ」

「そんなにだったの?軽くあしらってたように見えたよ」

「私の両腕はまだ痺れておる。単純な腕力だけでいえば、私よりはるかに上だ。あの子の最後の一撃を、直前まで受け止めるつもりだった。だがあれを正面から受けていれば、私は死んでいたであろう」

 ……そんなに、か。ガンジイがそう評するなら、本当にそうなのだろう。

「あの子の力は野放しにするには危険だ。導く者が必要だ」

「……仲間にしていいか、見定めてたってことね」

「まだ決めてはおらぬ。本人の意思も確かめておらぬ。それに、村を襲う真意も分からぬ。それによっては、道を違えることになるであろう」

「わたしは一緒にいたいと思える人だったけどね」

「その点は同意する。子よ、もう寝るのだ。明日に備えてな」

 わたしは目を閉じ、意識をゆっくりと手放していった。園子とはあれ以来会えていないけど、今どうしているのだろう。妹は元気にしているかな。分からないことばかりだが、嫌な気分ではなかった。明日になれば、その先の未来に向かえば、その全部が分かるときがきっと来る。だから今日は、さっさと寝てしまおう。


次回へ続く……

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