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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第七章 死神の使命 二

第七章 死神の使命 二


 闇の核との戦いはすぐに始まる。ボスいわく、エネルギーの密集具合から考えると、だいたい一時間後に闇の核は出現するらしい。ボスやオレ達が悩んでいたのは、ホープビレッジの村人達にそれを知らせるかどうかだ。万が一に備え、情報を伝えておくべきか、それとも余計な混乱を生まない為に、あえて伝えないべきか。

「オクゼツくんはどう思う?」

「オレは伝えるべきだと思うっす。もしオレらが全滅しても、もしかするといくらかの人間は、逃げて生き延びてくれるかもしれないっすから」

 オレはそう言ったが、ネイケロがそれに反論してきた。

「自分は反対です。全員で生き延びることが出来ないのなら、全員で死ぬべきだと考えます」

「なんでだよ。ほんの少しでも生き延びてくれた方がいいだろうが」

「生き延びた先に希望があると思うか?そこにあるのは飢えと恐怖だけだ。それであれば、死して安らぎを得るべきだ」

 そう言われると、意見のぶつけ合いにしかならねぇな。オレはどんな形であれ、命を繋ぐことを重要視してる。ネイケロは生きることよりも、苦しませないことを優先してる。

 今回の戦いは、普通の生き死にの話にならねぇ。闇の核に殺された人間、闇の扉に呑まれた人間は、魂を分解されちまう。それ自体は大した問題じゃねぇ。闇側は身内に死者が出たら、その魂を分解してるからだ。通常であれば魂は輪廻転生をするが、それをさせない。この世界を宇宙の崩壊から守る、その一端を担うことになる。そもそも闇側は転生という仕組み自体に否定的だからな。今ここにいる人間、その人格だとか人間性、より幸せだと思える人生を歩むことを大事にしている。

 だからオレ達は光側とは根本の考えかた、価値観が違うんだ。光側の連中は、死を大したものだと思ってねぇ。転生して別人になり、また別の人生を歩むことになるだけだと考えてやがる。オレ達はそうは思わねぇ。今ここで生きている人間が全てだ。その人生をより良い方向で全うさせることが全てなんだ。死んだらそれで終わり。そいつは世界から消えちまうんだ。

「オレやお前は苦しみに耐えてきて、結果ここにいるんだぞ。あの頃は未来に希望があるなんて考えてなかったがよ。目先の苦しみにだけ目を向けるのはどうかと思うぜ」

「……その言葉に、覚悟はあるのだな?」

「は?なんだよそれ」

「ケンカは駄目だよ。ここはおれの判断で、村人達には全てを伝えることにするよ。無責任なことだけど、この緊急事態下なら仕方がない。この状況でおれ達や村人全員の意見を会わせることは不可能だ。本来ならおれ達が負うべき責任を、村人達に押し付けないといけない。心苦しいね……」

 ボスがそう言い、選択を村人達に任せることになった。危険な指令だ。本来足並み揃えさせるべき部分を、それぞれに任せるわけだからな。一つの村という集団の中で、意見の相違が出ていい部分と、出しちゃならねぇ部分がある。その出しちゃならねぇ部分を、オレ達が責任持って取りまとめてきたわけだが、あのときはそれが出来る状況じゃなかった。

 間違いなく村人同士でも意見の対立が起きる。逃げるか、留まるか。最悪のケースは、闇の核との戦いに勝ったとしても、その対立が原因で不和が生じることだ。「お前はあのとき逃げることを選んだだろう。村を捨てることを選んだだろう」とか、そういう煽りをほざき始める奴が絶対出てくるはずだ。千人の村人がいて、全員がお互いを尊重して争いが起きないなんてありえねぇ。光側が制御装置をぶっ壊しやがったせいで、本来は起きるはずのねぇいさかいが起きる可能性がかなり高くなっちまっていた。

 状況はかなり不安定だった。時間がねぇ。時間さえあれば、村人全員を安全に避難させることも出来たのによ。例えば数か月の時間があるなら、村人の二割程度を事前にホープビレッジから離れさせ、新しい村の設立にあたらせる。頃合いを見てそれを、三割、四割と増やしていく。一気に全員を移動させるわけじゃなく、小分けにしていくのであれば、それが可能だった。村人と物資の移動、確保、輸送、それを分割出来れば被害はほぼ出さずに安全を確保出来たってのによ。

「せめて三時間あれば、いくらか有用な罠の設置も出来たのに」

「仕方ねぇっす。作戦はもうあるんすか?」

「核の出現地点を中心に、オクゼツくん本体とヤヨイちゃんを除いた十八人で、包囲陣形を取る」

「十八人の配置はどうしますか?均等に間隔を取っての包囲ですか?」

「いや、前と後ろに分けるよ。オクゼツくんの分身を前面に配置して、その後ろにみんなを置く」


 ボスが提案した作戦は、オレの分身を前衛に、闇の勢力を後衛に置いての、火力の集中砲火だった。オレの分身は、数を増やすほど弱くなっていく。とはいえ最大数の八○人まで増やしても、普通の闇人の攻撃なら受け止められるくらいには強度を維持できた。もちろん闇の核の攻撃を防ぐのが無理なのは分かってる。だが分身を減らして一体当たりの強さを増すよりも、数で隙間を埋めて時間を稼ぐこと。それがオレに任せられた任務だった。

「オクゼツくんは闇の核を包み込むようにして、分身をドーム状に、立体的に配置。核の出現と同時に、分身を一斉にまとわりつかせて、なんとか閉じ込めてほしい。〇,三秒でいい。おれ達が全力の火力を叩き込むには、それだけあれば十分だよ。核の力が絶大であることは理論的にもう分かってるからね。個々が連続で力を叩きつけるのでは、跳ね返されるだけだ。全員の力を、同時に叩きつける必要がある。その為には核が位置を変えないよう、拘束することが必須になる」

「……ボス、その作戦は駄目っす。オレの戦い方は、陰に潜んで敵を罠にかけることですよ。正面から敵を抑えるなんてやったことが……」

「でも、闇の核には言葉が通じないからね。オクゼツくんの力の使い方の、最大活用法がこれだと思うんだ。今回の戦いは正面からの力のぶつけ合いになる。奇襲が通用する相手じゃない。その最初の一手を、オクゼツくんに任せる」

 実感がわいていなかった。オレが先頭に立つなんて、今まで一回もやったことがねぇ。この緊急時になぜボスが突然それをやらせようとしたのか、まるで意味が分からなかった。

「自分も賛成だ」

 ネイケロもそう言ってきた。なんでみんなこぞってオレを前に立たせたがるのか、まるで理解出来なかった。

「お前は自分の実力を過小評価しすぎている。お前以外には任せられん」

「そんなわけねぇだろ」

「いや、実際そうだよ。最初の拘束で大事になるのは、完璧な連携なんだ。隙間を開けずに、核の逃げ道を塞ぐこと。包囲網に穴があればそこから逃げられる。もちろん分身で核を抑え込めるわけがないことは分かってるよ。おれにだって核を抑え込むなんて出来ない。ただ核の特性として、付近にあるエネルギーを感知して無差別に攻撃することは理論的に実証されているからね。分身による包囲はおとりなんだ。分身をドーム状に配置し、どこかの分身がやられてもすぐにその穴を塞ぐ。ドームの外側にいる仲間に被害が及ばないように、核の攻撃を分身おとりに引き受けさせつつ、その中に閉じ込める。分身を多数かつ完璧に操るオクゼツくんにしか任せられない」

「……分かりました。ボスがそう言ってくれるなら、絶対に止めてみせます」

 ネイケロが嬉しそうにしていた。おそらくこの戦いを機に、それからもオレに先頭に立って旗を振る役目をさせようとしてたんだろうな。時間さえあれば……。オレが行き当たりばったりで前衛につくより、ボスが核の動きを封じる罠をつくって、仕掛けておいた方が確実だったんだ。ボスなら数か月の時間さえかければそれが可能なはずだ。大量のエネルギーを消費しちまうから、普通はその規模の罠を仕込むなんてやらねぇが……。とにかく、あらゆる面で時間が足りなかった。

「じゃあ、この作戦をあらためてみんなに伝えよう。……なんとして、闇の核に勝たないとね」

 戦いの時刻は、そう話している間にも迫っていた。前に控えた脅威と、後ろから迫る焦燥の板挟みだ。闇の核の出現地点は、ホープビレッジの中心地点。そこから半径三〇光ほどが戦場になる。オレ達はその範囲に絶対に入らないようにと、村人達にしっかりと伝達し、戦いのときを待った。


「なぁオクゼツ。人生、なにがあるか分からんな」

 村人達の避難誘導の最中、しわがれた爺さんの声が、オレを呼び止めた。

「悪いな。最近はずっと寝たきりだってのによ。突然避難してくれなんてしんどいよな」

「構わんさ。おれは大丈夫って言ってるのになぁ、みんなに寝てろって言われて仕方なく寝てるだけだ」

 この爺さんは、村の最古参だ。名前はゴードン。この村を平野から一つずつ開拓していった仲間だった。同期の連中はゴードン以外、もうみんな死んじまった。オレ達闇側は老いも病もねぇが、普通の人間は当然弱っていく。ゴードンは口では平気と言ってるが、体を見れば立ってるだけでも辛いのが分かる。オレは肩を貸して、ゴードンを安全な場所まで連れて行った。

「おれも老いたもんだ。村の若い連中を見てると、昔のことをよく思い出すよ」

「あの頃は大変だったよな。食うのもぎりぎりだったよな」

「だが、充実していた」

「だな」

「なぁオクゼツ。おれはどうせもうじき死ぬからな、願いを聞いてくれんか」

「なんだよ、湿っぽいこと言うなよ」

「お前はな……」

「やめろ。それは闇の核との戦いが終わってから聞く。お前が老衰でくたばるときまでとっとけ」

「そうか。じゃあ、それまで胸の中にしまっとくよ」

 ゴードンは歯がほとんどねぇ空洞を見せながら、にかっと笑った。どんだけ爺さんになっても、人の笑顔ってのは大して変わらねぇもんだなと思った。……死なせねぇ。オレ達で築いた村を、その仲間を、こんな所で死なせてたまるかよ。

 村人達をホープビレッジの中心部から遠ざけ、後は戦いの始まりを待つばかりだった。元々光側の連中との戦いに備え、訓練はずっとしていたんだ。戦うことを怖がっていた奴はいねぇ。かといって、楽観している奴もいなかった。オレ以外の奴は戦士として生きてきたわけじゃねぇが、心意気としては全員が申し分ない状態だった。適度な興奮と恐怖。過度な感情は視野を狭くするが、適量であれば戦いへの誘発剤として機能するからな。

 意外だったのは、誰もボスが出した作戦に異を唱えなかったことだ。全員が納得するとは考えてなかった。具体的にはオレを信用出来ない奴が出ると思ってた。ネイケロはなぜか我が物顔で、まるで自分の手柄を自慢するようにこう言ってきた。

「だから言っただろう。お前は自分を過小評価しすぎだ。全員お前の実力を認めている」

「……お前らが、甘すぎるだけだ」

「嬉しいだろう」

「うるせぇ」

「生き延びないとな」

「あぁ」

「だが……」

「なんだよ」

 ネイケロが、顔をオレに向けて、静かにこう言った。

「その言葉に、覚悟はあるのだな?」

 今思うと、ネイケロはそのときすでに、これから起きる惨劇を予感していたんだろうな。ネイケロの顔は、ただ穏やかだった。年中眉間にしわを寄せた強面が、このときはあらゆる苦しみから解放されたように。死に顔のように、穏やかだった。

「この先なにが起きても、お前は、生き延びろ」

「ふざけるな。てめぇもだ。オレ達全員でだろうが。腑抜けたことぬかすならぶっ殺すぞ」

「あぁ、そうだな」

 ボスの指示の下、全員の配置が完了した。だがオレとヤヨイは戦いの中心地点から離れる。オレ本体は貧弱だ。戦地にいたって邪魔になるだけだからな。離れた地点から分身を操作し、任務を全うする。その補助をしてくれるのがヤヨイだった。

「オクゼツ、怖くて震えてないか」

「お前の方こそ、ビビってんじゃねぇぞ」

 闇の核との戦いの数分前、オレとヤヨイは村の外、本部のホールにいた。もっと核の出現地点に近い位置でもよかったが、万が一に備えてそうした方がいいと、ボスから命令を受けた。要はもしも闇の扉が出現しても、本部はその範囲外にある。……オレとヤヨイは生き残ることが出来るってわけだ。村人達も本部に入れておけるならよかったが、残念なことに本部に入ることが出来るのは、オレ達闇側の勢力だけだった。ここには高密度のエネルギーが渦巻いてる。普通の人間が本部に入ろうとしたら、魂が消滅しちまうからな。

 ホールはいつも通りの光景だった。人がいなくてがらんとしているホール。いつもとなにも変わらねぇ。なのになぜかあの日だけは、底の無ぇ冷たさを感じた。

「じゃあ、感覚を繋ぐ。手ぇ出せ」

「おう」

 ヤヨイの手を握り目をつむった。ヤヨイの力は偵察と監視、補助特化だ。こいつは半径百光内にいる人間と、五感を共有する力を持っていた。視界や感覚、その全てを共有出来る。共有とはいっても、そいつの動きを操作したりは出来ねぇ。あくまでそいつと同じ光景を見て、同じ感覚を体感出来るだけの力だ。共有対象に制限はなく、仲間だろうが他人だろうが、範囲内なら誰でもいける。そしてヤヨイに触れているオレにも、同じように五感の共有が出来た。闇の核の周りに配置している仲間全員と五感を共有し、周辺の状況をより細かく把握して、場合によっては分身の運用方法を変える。

「ヤヨイがもっと早く、気付けてたらさ……」

「お前は悪くねぇ。魂の偽装なんて誰も気付けねぇよ。あえてそれをしてねぇ人形も、一緒に送り込んできたところが性格悪ぃよな」

 本部に光側の人形が侵入してきたとき、それに最初に気付いたのはヤヨイだった。奴らはランパに魂の偽装をした人形を送り込んできたが、制御装置に侵入する手前でヤヨイが違和感に気付いてボスに連絡を入れたらしい。

「始まるぞ、集中しろ」

「ん。全員視えてる。このまま繋がりを保持する」

 ついに、闇の核との戦いのときが来た。


 ボスが戦いを前に、全員へと言葉を向けた。長ったらしい演説はなく、ただ一言、こう言っただけだった。

「みんな、生き延びるんだ」

 核の周辺にいる仲間が十八人。オレの分身が八〇人。合計で九八人。その全ての視界が頭の中にある。

「五……」

 ボスが残り時間を告げる。

「四……」

 それぞれが武器や、自分の力でつくったエネルギー体を掲げていた。

「三……」

 ネイケロが盾を構える。あいつはエネルギーを高密度に固めた盾を武器にしていた。

「二……」

 その盾を両手に構え、突進の準備を完了する。

「一……」

 始まる。


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 ……は?

「ヤヨイ……?」

 感覚の共有が、全て切れた。九八人、全ての視界が頭の中から消えた。

「おい、ヤヨイ!」

 ヤヨイは意識は失い、ぐったりと倒れていた。なんだ、なにが起きた?一瞬だ。感覚の共有が切れる一瞬前、全員の視界に同じものが映った。あれは……。

「目……?」

(●)

 そうだ、あれは目だ。闇の核の目だ。闇の核が迫ってくるのを、ほんの一瞬だけ捉えたんだ。全員が同じ瞬間に、同じものを見て、そして感覚が切れた。つまり、それは……。

「一瞬で、全員殺された……」

 オレの分身どころの話じゃねぇ。その周りにいた仲間全員も、ボスですらなんの抵抗も出来ずに殺された……?

 オレはヤヨイを放置して、本部から出て村へ走った。村の中心部まで、全力で走ればすぐに着く。

「逃げろ!!」

 とにかく大声を出して、避難を指示した。村人達は戸惑い、恐怖し、走り去るオレを呆然と見つめていた。

「闇の扉が出る!!とにかく遠くへ逃げろ!!」

 余計なことを言ってる時間はねぇ。最小限の言葉で危機を伝えながら、とにかく中心部へと走った。誰でもいい、とにかく助ける。仲間を一人でも、たった一人でも、なんとしてでも……!

 そして闇の核との戦場に着いたとき、そこには崩れ落ちた肉片だけがあった。辺り一面に散らばる、うごめく肉の塊。闇側の人間は、周囲のエネルギーを吸収して肉体を再生できる。だがそれを、闇の核は許さなかった。まるでイモムシみてぇに、地面を這いずる無数の肉片を、目に見えないなにかが、高速で潰し続けていた。

 この世にこれ以上の、残酷な光景があるのか?必死に人間の形に戻ろうとする、大地を覆い尽くす肉片。それをさらに細かく切り、すり潰し、液体にすらなるほどに壊していく化物。仲間を助ける?どれをだ?どの肉を拾えば助けられるんだ?誰がどの肉なんだ?

 どれでもいい、とにかく片っ端から全部だ……!闇の核の行動範囲は分かりやすい、円状に広がった肉片が目印になる。その範囲外には、核は攻撃してこねぇ。冷静になれ、無暗やたらに救助しようとしても無理だ。分身を再構成する。最大数の八〇体。まずは分身を、核の行動範囲を取り囲むように均等に配置、そして一気に突入させる。ボスが言っていたじゃねぇか、闇の核は周囲にあるエネルギーを感知して、無差別に攻撃すると。分身八〇体のうち、どれか一体だけでもほんの数秒生き残れば、少しくらいは肉片を外に放り出せる。

「行け!!」

 分身を一斉突撃。……したが、消えた。駄目だ、目で捉えることすら出来ねぇ。八〇体の分身が、核の攻撃範囲内に入った瞬間、消滅しちまう。核の攻撃があまりに早すぎる。諦めるな、分身を一か所にまとめて突撃させる。球状に分身を配置し、中心地点の分身が攻撃されないように……。

 突撃。消滅。

 突撃。消滅。

 突撃。消滅。


 突撃。消滅。突撃。消滅。突撃。消滅。突撃。消滅。突撃。消滅。突撃。消滅。突撃。消滅。

 突撃。消滅。突撃。消滅。突撃。消滅。突撃。消滅。突撃。消滅。突撃。消滅。突撃。消滅。

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 気が付いたときには、オレは力を使い果たしてぶっ倒れていた。もうまともに歩くことも出来ねぇ。ふざけるな。ふざけてんじゃねぇぞ……!!なんなんだこの化物は!?なにをどうしろっていうんだ!?

 どうすればいい?どうすれば仲間を助けられる!?オレはなにをすればいい!?

「焦るなオクゼツ、お前は独りじゃない。おれ達にも仕事させてもらわんとな」

「あ……?」

 気付くとオレの後ろに、ゴードンが立っていた。なにしてんだ、逃げろって言ったじゃねぇか。このままここにいたら、闇の扉に呑まれちまうぞ。

「まぁ、多少の言い争いは起きたな。でもまぁ、周りを見てみろ」

 ゴードンだけじゃねぇ、たくさんの村人達が集まって来ていた。まさか、全員か?千人いる村人全員が、逃げずにここに集まって来てんのか……?

「逃げようと言った奴もいたさ。逃げようとしない奴もいた。でもなぁ、結局みんな、考えることは同じだったな」

「馬鹿野郎!無駄口叩いてる暇があったら逃げろ!!」

「お前さん達を、見殺しになんて出来ないさ」

「……やめろ」

 こいつらがなにをしようとしているのか、分かっちまった。駄目だ、それは駄目だ。それは……。

「おれ達が囮になるよ。千人もいるんだ。全員でひたすら突っ込めば、少しくらいは役に立てるだろうさ」

「やめろ!そんなことするな!!」

 村人達は続々と集まってくる。なんでだよ……?お前ら死ぬのが怖くねぇのかよ……?なんで誰も逃げてくれねぇんだよ……!?

「なぁ、オクゼツよ。心を失うことは、命を失うことより、ずっと辛いよ」

「頼む、やめてくれ!逃げて、逃げてくれよ!お願いだから、逃げて生き延びてくれ!!」

 オレはゴードンの腕にすがりついて、懇願していた。そんなこと誰も望んでねぇ。誰がそんなこと頼んだんだよ。勝手なことしないでくれ、頼むよ、お願いだから……。

「おれ達はその選択をしたことを後悔しながら、生きていくなんて無理だ。たとえそれで村人達の大多数が逃げ延びたとしてもだ。その選択をした自分を、死んでも絶対に許せない。今まで散々世話になってきたお前さん達を、見捨てることなんて出来ないよ」

「だからって!死んじまったら終わりだろうが!!」

 ゴードンは笑っていた。やめてくれ、なんでこんなときに笑ってんだ。

「オクゼツ、おれの願いなんだがな」

「いい、そんなこといい……。頼むから逃げてくれって……」

「お前はもっと、胸張って生きてくれ」

「どうでもいい!!逃げてくれよ!!」

「お前は本当に優しい奴だ。だが生まれ育った場所が悪かったなぁ。その優しさを否定され続けてきたんだろう。でもなぁ、おれ達はみんな、お前が大好きだよ。だからお前にはもっと、胸張って幸せに生きてもらいたくてなぁ」

「その隣に!てめぇらもいねぇと意味ねぇだろうが!!」

「じゃあな、オクゼツ。今までありがとうな」


 覚えていない。それから何があったかなんて、なにも分からねぇ。オレが何を見て、何を聞いて、どうしたかなんて、覚えていても、思い出したくもねぇはずだ。

 目が覚めたとき、オレは本部のホールに寝ていた。全てが悪い夢だったと思いたかった。おれの隣には、ボスの胸に顔を埋めて泣いているヤヨイがいた。

「生き残りは、三人だよ」

 ボスは顔を伏せていて、どんな顔をしていたのかは分からなかった。ただ、その声はかすかに震えていた。

「オクゼツくんが、おれを助けてくれたんだよ。おれを、というか、たまたまオクゼツくんが抱えて逃げた肉片が、おれだった」

「あれから、どれくらい経ったんすか……?」

「分からない。おれ達三人共、ずっと意識を失っていたからね」

「……オレが、弱かったから」

「違うよ。闇の核は、人間が相手にしていい存在ではなかったんだ」

「オレがもっと強かったら、誰も死なせずに済んだ……!」

 最初の一手、オレの分身が囮になって、闇の核の攻撃からみんなを守る。そのはずだったじゃねぇか。オレがその役目を果たせなかったから、仲間だけじゃねぇ、村人達ですらが、犠牲になったんだ。

「オレは卑怯者だ……!自分だけ安全なところにいて、のうのうと生き延びた……!!」

「違うよ。オクゼツくんがいたから、おれは生き残ったんだ」

「オレは、オレは……!」

「オクゼツくんが生き延びてくれて、おれは嬉しいよ。オクゼツくんは、なにも間違ってなんていない」

 ボスがそう言ってくれたが、オレは納得出来なかった。オレが、弱かったからだ。オレが弱かったから、誰も守れなかった。オレが弱かったから、みんな死んだんだ。

 強くならないと。もっと、力がないと。もっとだ、もっと力が欲しい。どうすればいい?どうすればオレはもっと強くなれる?

 闇だ。もっと、魂を闇に偏らせる。魂が闇に寄るほど、より闇のエネルギーを引き出せる。もっと心を邪悪に染めろ。闇になるんだ。もっと残酷に、もっと残虐に、悪になるんだ。もっとだ、もっと、もっと……!!


「おい、オクゼツ。ぼーっとすんな」

 ヤヨイに呼びかけられて、オレの意識は現代に戻ってきた。オレはあれ以来、ずっと暗闇の中をさまよっていた。ひたすらに自分の無力が許せなくて、弱い自分を変えたくて、進んじゃいけねぇ所へ落っこちていた。

「大丈夫かお前。少し前までのお前みたいな目になってたぞ」

「……大丈夫だ。悪夢がオレの目を覚ましてくれたからな」

「は?意味分かんないけど」

 あいつが、オレの全てを破壊した。圧倒的な力で、強さで、オレが歩んできた道を、人生を、全部笑いながらぶっ壊しやがった。とんでもねぇ、悪夢そのものだ。オレという人間のなにもかもを、あいつは否定して叩きのめしやがった。

 そうだ。どうすれば強くなれるのか。あいつがオレに教えてくれた。自分を偽るような奴が、本当に強くなるなんて無理だったんだ。どれだけ人格を否定されようが、自分が信じた道を真っすぐ歩める奴が強いんだ。かつてのオレのような、卑屈になって他人をあざ笑うような奴が、本当の強さを得るなんて、土台無理な話だったんだ。

「……おい、オクゼツ」

「大丈夫だって。もうぼーっとなんてしてねぇだろ」

「違う」

「あ?」

「一瞬、侵入者の視界が入った。死神が来たぞ」

 来やがったか。上等だ。みんなが繋いでくれた、オレ達の命だ。もう絶対に、誰も死なせねぇ。


次回へ続く……

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