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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第七章 死神の使命

第七章 死神の使命


 オレとヤヨイは、本部の廊下を歩きながら、今後のことについて話した。ボスいわく、光側とは別の世界から、新たな敵が来ちまうらしいが……。その敵は光側と手を結ばないと、勝てないぐらいやべぇらしい。

「で、その『死神』ってのはどんな奴らなんだ?」

「宇宙に見放された世界を、さっさと消滅させるためのお手伝い」

 ヤヨイはボスに指令を出されて、ずっと死神のことを探っていたらしい。こいつの能力は偵察特化だからな。ボスはどうやら、魔女から死神の存在をずいぶん昔に聞かされていたみてぇだ。

「で、その『死神』ってのはどんな奴らなんだ?」

「さっき言ったろばか」

「うるせぇばか。役割じゃなく戦力のこと聞いてんだ」

「分かんない。うちらを監視してたのは一人だけ。その個体は手練れ。ヤヨイのことがばれてるわけないけど、それでも手の内を見せなかった。全体の戦力は不明だし」

 オレもボスから聞いて、宇宙の仕組みについては知っていた。宇宙には、害になる世界を排除しようとする仕組みがある。だがこの世界がその対象になるなんて考えてなかったな。そうなっちまうなら、ボスがなにかしらの対処をしているはずだからな。ボスは魂を分解して闇のエネルギーに変えちまっているが、それが問題になることはないと思ってたがなぁ。

 ……いや、まさか分かってそれをやり続けたわけじゃねぇよな。魂の分解を続ければ、宇宙の意思に目をつけられることが、分かっていた。それでいて、あえてそれをやり続けた可能性か。

『おれはさ、ドラマが見たいんだよ』

 ありえるな。ボスならありえる。ボスにとっては一石二鳥じゃねぇか。ボスが理想世界をつくり上げようとしてることは確かだ。ボスが認めた人間だけでつくられた理想郷。そいつらだけで生きて、宇宙の崩壊を乗り越える。それがオレたち闇側の目的だ。だからって魂が闇に傾いている人間だけで生きていくつもりもねぇがな。オレ達が管理してる村の中には、明らかに光側に魂が寄ってる奴もいる。大事なのはその人格だ。光に寄っていようが、一緒に生きていくにふさわしい人間なら救うのがオレ達だ。

 その道中で、死神との戦いなんていう危険地点があるなら、ボスは絶対にあえてそこを通過する。普通は避けるがな。目的達成上の困難なんて、予測が出来ているなら事前対処して当り前だ。だがその地雷を喜んで踏みに行くのがボスだ。ま、オレはそれについて行くだけだ。

「ボスが死神と戦うことを決めたってことは、絶対勝てる戦いだってことだろ。ボスは身内に危険が及ぶようなことは死んでもやらねぇ」

「……闇の核と戦ったときとは、状況が違うしな」

「やめろ。それには触れるな」

 三年前。オレたちは闇の核と戦い、惨敗して仲間のほとんどを失った。二〇人いた仲間のうち、生き残りはたった三人。ボス、ヤヨイ、そしてオレだけだ。ボスはあの戦いには乗り気じゃなかった。というか、本気で嫌がってた。光側の連中が馬鹿やらかしたせいで、闇の扉の制御装置が壊れちまったことが、あの悲劇の原因だった。


 あの悲劇の日、オレはこれから起こることに一切の予感も無く、いつも通り畑仕事をしていた。普通の人間と違って、オレ達は闇人なんて脅威でもなんでもねぇ。生産した食料は、そのほとんどを世界中の村への援助に使っていた。

 その日の分の仕事を終えて本部に戻ってくると、ボスとネイケロが工具室で話をしていた。二人は机の上に置かれた、見たことのねぇ機械の人形を前に、神妙な面持ちで話をしていた。

「カンスケさん、これが侵入してきた兵です」

「なんすかボス、その機械の人形?」

「まだみんなには知らせてないけど、光側の連中の兵隊だよ。この機械の人形の中に魂を入れて、この本部を襲わせてきたんだ」

「……あいつら、ついにそんなことし始めてるんすか」

「中身の魂は逃げちゃった?」

「はい、出来れば捕えたかったです」

「まぁ仕方ないよ。おれ達は魂に触れるってことが出来ないし」

 ついに手段を選ばなくなったか。オレはそう思った。光側の連中は、オレ達を潰したがっているが、それを達成する方法がなかった。奴らはこことは別世界の住人だからな。高濃度の闇のエネルギーに覆われたこの世界の中では、自由に活動することが出来ねぇ。

「まぁ予想はついてたよ。光側がこっちを攻撃する方法って、武器をつくって物理的に干渉してくるしかないからさ」

「お互い手が出せない状態っすからね」

 闇と光の間には、お互いに干渉出来ない事情があった。オレ達闇側は、物体には触れられるが魂には触れられねぇ。光側の連中は魂だけの状態だからな。奴らを攻撃しようと思っても出来ねぇわけだ。

 光側の連中はオレ達の反対だ。魂には触れられるが物に触れられねぇ。オレ達は肉体という鎧の中に魂を入れてるわけだからな。仮に光側の連中がここまで辿り着けたところで、肉体を破壊出来ねぇから、本体の魂を攻撃出来なかった。だがこれで状況が変わった。光側の奴ら、オレ達を攻撃出来る道具をついに発明したわけだ。

 余談になるが、もしも肉体をすり抜けて魂だけを直接攻撃出来る、なんて化物が現れたらまじでやべぇ。その可能性に気付いてボスに相談したら、ボスは笑いながら「そんな奴が存在するわけないから、無用の心配だよ」と答えてくれた。でもそう言ったとき、ボスの目は笑ってなかった。ボスが心配するなって言ったなら、それでいいはずなんだがよ。

「ネイケロくんは、このロボットのこと調べてみて。なにか分かったらおれに教えてね」

「承知しました」

「オクゼツくんは、今日はもう仕事終わり?」

「そうっす」

「じゃあネイケロくんの手伝いしてあげてよ。オクゼツくんもある程度は科学技術の知識あるし。よろしくね」

 ボスはそう言って、工具室を出ていった。他に被害が出ていないか、確認しに行ったんだろうな。当時は本部に隣接する形で、闇の扉の制御装置があった。本部よりもでっけぇ機械の塊で、オレでは仕組みも構造もまるで分からねぇ。ボスに救ってもらって初めて本部に来たときに、制御装置の見学と説明もしてもらったが、オレが理解出来るもんではないな、あれは。

「とりあえずこの人形を分解してみよう」

「オレが手伝えることってなんかあるか?」

「石板を持ってきてくれるか。中の構造を記録しておきたい」

「あと飯も持ってくるか?」

「そうだな、頼む」

 ネイケロはオレとほぼ同時期に、闇の勢力に加わった友人だ。ボスを除けば、闇の勢力内で一番科学に精通しているのがネイケロだった。顔も体もでかくてごつい大男だが、力仕事よりも技術系の仕事が得意な奴だった。ただでさえ濃くていかつい顔つきなのに、常に眉間にしわを寄せる癖があって、オレと同い年なのにやたら老けて見えるやつだったな。

 お互いここに来た当初は口数が少なくて、会話がほぼなかったが、不思議といつの間にか友人になってた。オレにとっては初めてできた友達だった。お互い過去のことは話してねぇから、ネイケロがどうやって生きてきたのかは最後まで知らなかった。ネイケロも聞いてこなかったし、そういうところで気が合ったんだな。オレが飯と石板を持って工具室に戻ると、ネイケロは人形をほぼ分解し終えていた。

「どうだ?なんか分かったか?」

「ついに戦争が始まるかもな」

 ネイケロはあごに手を当て、神妙な顔でそう言った。普段から眉間にしわを寄せてるってのに、それがさらに険しい顔になっていた。

「光側の連中、ついに魂でも触れられる物体の開発に成功したわけだ」

「上等じゃねぇか。奴らが攻撃してくるなら受けてたつぜ」

「いや、攻撃ではないぞ。特攻をしかけてくるかもしれん」

 ネイケロは人形の胸部を開き、そこに不自然な空洞があることをオレに見せてきた。ここに魂が入ってたのか?

「ここに逃走用の小型装置が入っていた。魂はそれに乗って逃げていったんだ。だが、本来は別のものがこの空洞に入るのだろう」

「なんだよそれ?」

「白光石だ。本来はここに白光石を仕込み、武器として使うのだろうな」

「最低だな、あいつら」

「いいや、理にかなった戦法だ。白光石を意図的に破裂させ、粉塵を空気中にばらまけば、こちらにとっては手痛い状況になる。しかし光側の奴らには無害だ。こちらにだけ効く毒のようなものだからな、あの石は」

 それをしてこなかったってことは、今回の襲撃の目的は直接的な攻撃じゃねぇってことだ。偵察か、もしくは潜入か。まだ表立ってやり合うつもりはなく、水面下での作戦だったってことだな。

「そうじゃねぇ、やり方が汚ねぇ」

「はっはっは、お前がそれを言うなよ」

「うるせぇ、てめぇじゃなかったら殴ってるぞ」

「戦い方を変える気はないのか。自分が思うに、お前にはもっとふさわしい戦い方があるはずだがな」

「あるかよ、そんなもん」

 オレの戦い方は汚ねぇと、生まれ育った村で散々言われてきた。自分は安全圏にいて、敵を罠にかけて始末していく。それがオレの戦い方だ。オレにとって戦士の誇りってのは安全に勝つことだ。口でえらそうな大義を掲げてる奴らほどただの馬鹿だ。効率の悪い方法、危険なやり方で敵を正面から撃破する?それが戦士の戦い方?それで得た勝利にこそ価値がある?頭悪いにもほどがあるぜ。

 てめぇがそれで死んじまったとき、残された家族や友人が悲しむって分からねぇのかよ。勝ってなおかつ、生き延びないと意味ねぇだろうが、馬鹿どもがよ。


「ネイケロ、オクゼツ、おっす」

「ヤヨイじゃねぇか。お前が工具に用あるわけねぇよな。どうした?」

「カンスケが呼んでる。二人ともさっさと行け」

 ヤヨイが工具室に来てそう言った。ボスは闇の扉の制御装置のところにいるらしい。なにかまずいことが起きたことを察し、オレとネイケロはボスの元へ向かった。オレ達闇側が本部にしている場所は、元々演芸ホールと呼ばれている場所だったらしい。ボスが闇の勢力を立ち上げるときに、ここを選んで本部にした。ここを選んだ理由は、十分な数の部屋があり寝泊りに困らねぇこと、あとは仲間達が集まれる広いホールがあるから。その二つの条件さえ備わっていればどこでもよかったそうだ。

 制御装置はホールから出た外にある。ボスのところへ向かうその道中、ネイケロは走りながらオレに面倒なことを言ってきた。

「さっきの話の続きだがな」

「人形の話か?」

「ちがう、お前の戦い方の話だ」

「なんだよ……」

 あのときはネイケロにそう言われてうんざりしてた。闇側の仲間連中も、けっこうな頻度でオレに同じことを言ってきてたしな。あいつらなりに、オレのことを考えて言ってくれてるわけだから、うざいと言うわけにもいかねぇし。当時のオレは、自分のやり方を変えるつもりなんて一切なかったしな。

「自分はお前の戦い方を評価している。だがお前には、もっとふさわしい戦い方があるだろう」

「じゃあ具体例をあげてみろって」

「お前は先頭に立って、仲間を守る為に戦うべきだ」

「はぁ?本気で言ってんのかてめぇ?」

「自分は本気だ」

 ネイケロはいつだって真面目な奴だ。仲良くなってからは冗談をいくらか飛ばすようにはなったが、根は堅物だった。そんな堅物が眉間に深い溝を刻みながら、真っすぐな目でこっちを見つめてきたら威圧感がはんぱねぇ。オレは逃げるように目線をそらして、適当な反論をしておくしかなかった。

「そういうのはお前にこそ向いてるだろ。オレは真っすぐ攻めてくる光側の馬鹿どもを罠にかけてやる。奴らが特攻しかけてくるならなおさらだ。正面からやり合うばかりじゃ勝てねぇだろ」

「頑固だな」

 その一言で会話は打ち切りになった。これ以上話してもオレが聞く耳もたねぇことがネイケロには分かってただろうし、ボスの姿がもう見えていたからだ。

 闇の制御装置は、巨大な球体だった。高さ二○こうくらいだったか。真っ黒で闇に同化した、見た目で分かる重量感の塊。だがその図体の中には、砂粒よりも小さい、繊細な機械が無数に絡み合ってる。その内部に入るための扉の前にボスは立っていた。

「最悪だよ、二人とも。事態はかなり深刻」

「どうしたんすか?」

「制御装置を破壊された」

「これをっすか……?見た感じどこも壊れてないっすけど」

「外側は無事。でも内部に侵入されたんだ」

 そんな馬鹿なと思った。制御装置の入口には、センサーが取り付けられていて、ボスが登録した奴しか通さないようになっていたはずだ。無理矢理通ろうとしたり、外部を破壊しようとすれば、すぐさま警報が作動する。警報を一切作動させず、センサーをかいくぐり、制御装置の内部に侵入し破壊しただと?まさか……。

「大丈夫、スパイなんていないよ。侵入者はもう止めたからね。とにかく中に入ってよ」

 ボスがそう言って、ほっと胸をなで下ろした。闇側の中に裏切り者がいるのかと疑っちまった。裏切られること自体は大した問題じゃねぇ。仲間だと思ってた奴と戦わないといけなくなるのが嫌だった。

 オレにはずっと、仲間と呼べる奴がいなかった。ボスに助けられて、ここに来て、心を許せる奴らと出会えた。どいつもこいつも「闇側」だからな。人間としての根の部分が同じだ。オレが村にいたとき忌避されていた部分を受け入れてくれる。オレだけじゃねぇ、全員が同じことを感じていたはずだ。

 制御装置には螺旋状に階段が取り付けられていて、最上部に内部へ入るための扉があった。普段は許可された人間が近づくと、自動で開くようになっている。だがこのときにはもう、ボスが手動でパスワードを入れないと開かないように設定が変えられていた。ボスが扉を開け装置の中に入ると、そこはもう迷宮だ。縦横無尽に敷かれた通路だのパイプだの歯車だの、案内されないとどこを歩けばいいのか分からねぇ。

「ほら、あの人形だよ。あれが侵入者」

 ボスが指差した先に、人型の物体が仰向けに倒れていた。……だが、その形に見覚えがある。オレ達の仲間のランパだ。裏切り者はいないとボスから聞いたばかりなのに、なにが起きているのかオレは一瞬分からなくなった。

「ランパの姿を完全にコピーされたようですね」

「そう、やられたよ。見た目だけじゃない、魂の波動まで完全に一致させてあった。こんな技術まで開発されるなんて予想外だよ。全く嬉しくないけどね」

 ネイケロはすぐに偽ランパの正体に気付いた。さすが技術者だな。簡単に言えば、完璧な変装ってことだ。本人に似せるなんてもんじゃねぇ。本人そのものに変装した兵を送り込んで来やがった。

「本物のランパは無事なんすか?」

「さっき確認したよ。彼は無事。今日もいつも通りの仕事をこなしてたみたいだね」

「ランパは物資の収集で遠出することが多かったですからね。本人も気付かない間に生体情報を転写されていたのでしょう」

「彼はなにも悪くないよ。本人が気にしたらまずいから、あの人形はすぐに分解しておこう」

「中にいた魂は?」

「逃がしてあげたよ。子供だったし、悪い子じゃなかったからね。今頃光側の連中に、装置を破壊したことを伝えてるんじゃないかな」

「意地の悪いことをしますね」

「相手にも責任があるから、これくらいはやり返さないとね」

 オレにはネイケロが言った「意地の悪い」という言葉の意味がこのときには分かっていなかった。後になってそれが「お前らは選択を間違えた」というメッセージだったことに気が付いた。

「光側の連中は、これを壊せばもう闇の扉が発生しないと勘違いしていたみたいだよ。もしくは決めつけ。あるいはそう思い込もうとしてたのかな」

「最悪手ですな」

「そうだね。これはただの『制御装置』だ。事態はおれ達にとっても、光側にとっても、悪い方向に動いてしまったね」

「……闇の扉が、無差別に発生することになっちまうんですか?」

「その通りだよ。今までは消滅させるべき村を選んで、そこに闇の扉を発生させてた。都合の悪い場所には発生させないようにも出来てた。完全に制御出来ていたのに。闇のエネルギーに覆われた世界の中で、闇の扉の発生はただの自然現象だよ。雨が降ったり地震が起きるのと同じ。放っておいてもエネルギーの密集地帯、魂の集まっている集落や村に闇の扉は現れる。本来生かしておくべき善良な人達が、これからは闇に呑まれて闇人になってしまう可能性がある」

 最悪の人災を、光側の連中は起こしたわけだ。だがボスは、その責任の半分以上が自分にあると考えていた。

「おれの失敗が大きい。この装置は最高機密だったから、一切の情報が流出しないようにしてた。それが失敗だった。これはただの制御装置に過ぎないことを、光側の連中に教えておくべきだった」

「カンスケさん、あなたのせいじゃない。仮に情報を流したところで、奴らがそれを信じた保証はない」

「それでも手を止める可能性はあったよ。うかつに破壊工作なんて選択を出来ないよう、釘を刺しておくことが出来ていたのに」

 光側の連中が焦っていることは知っていた。奴らのリーダーの、魂の寿命が近いらしいことは周知の事実になっていた。だからこそ積極的に攻撃を仕掛けないとならなかったんだろうな。奴らだって制御装置を壊していいもんなのか、葛藤があったはずだ。考えなしに動き回るような馬鹿じゃねぇ。あれこれ色々な要因が絡み合って、それが悪い方向で芽吹いちまったってことだ。唯一そこから得られる優良な分析結果は、今の光側のリーダーが消えた後、奴らにはそれを引き継げるだけの人材がいねぇってことか。有能な後継者がいるなら、こうも攻撃を焦る必要はなかったはずだからな。

「それでネイケロくんに相談なんだけど、修理できそう?」

「破壊箇所は?」

「もう設計図に全部記入してある。構造上の脆弱点を狙われたよ」

 ボスが懐から制御装置の設計図を取り出して、ネイケロとあれこれ話し始めた。ここから先の会話は、オレにはついていけなかった。多少技術的な知識はあったが、二人の話は異次元の領域だった。

「空間上の座標軸の固定はまだ可能ですね」

「エントロピーの制御は無理だね」

「いえ、変化は可能です。ただその固定が出来ない」

「別要因で代替出来ないかな。例えば増大させたものを止めるではなく別エネルギーへの置換とか」

 そして数分後、二人の口から同時に結論が出た。

「不可能です」

「不可能だね」

 制御装置の修理は、不可能。オレたち闇側も、闇の扉の制御が出来なくなっちまった。

「オクゼツくん、全員に召集をかけてくれる?」

「了解っす」

 ボスは最初から、修理が無理なことを分かっていたんだと思う。だからオレを呼んだんだ。闇の勢力内で、一番魂の分裂、分身の作成と操作が得意なのはオレだった。オレなら広範囲へ情報を早く届けることが出来る。それでも一縷いちるの望みをかけて、ネイケロと相談した。だが結局結論は変わらなかったんだ。

 オレは分身を複数作って、仲間全員に召集命令を届けた。本部からかなり離れた場所で仕事にあたっている仲間もいたが、オレ達が本部のホールへ行ったときには全員がすでに集まっていた。ここに闇の全勢力が集まることなんて、まずありえねぇ。それぞれにやるべき仕事があるからな。相当な緊急事態が起きたことは、全員がすでに分かっていたはずだ。


 ボスが全員の前に立ち、なにが起きたのかを説明し、ホール内に動揺と怒りの声が広がった。だがそれは自然とおさまり、感情は心配へと変化した。

「みんなの考えはもう分かってるよ。おれもまずそこを考えた。最優先で対処しないといけない問題があるね。そう、ホープビレッジを救わないといけない」

 ボスがそう言い、全員がその通りだと首を縦に振った。ホープビレッジってのは、闇の本部のすぐ横にある、大きな村の名称だ。オレ達闇の勢力は、世界各地にある、特定の村に物資を提供したりもしている。ボスが選んだ善良な人達が暮らす村が滅びないよう、オレ達で面倒見てるわけだ。

「ホープビレッジは、数か月前に闇の扉に呑まれるところだった。だけどそのときは制御装置でそれを止めた。でもその装置が壊れてしまった今、また闇の扉はホープビレッジに現れてしまう。……おれ達には今、二つの選択肢がある」

 ボスがその選択肢を提示する前に、全員の心の中で答えは決まってたはずだ。だがまずは、ボスの口からはっきりそれを明言されることを全員が待った。

「一、村民の避難を今すぐ開始する。だけどこの方法だと、間違いなく大量の死人が出る。村にいるのは体の強い人間ばかりじゃない。いくらおれ達がサポートするとはいえ、地理的に優れた新天地への移動、新たな村の設立は困難を極めるはず。その間の食料、物資、村を立て直す資材、あらゆるものを調達する過程で、その間の過酷な暮らしに耐えられず、命を落とす人が相当数出てしまうはずだよ」

 ホープビレッジには子供も老人も、生まれつき体の弱い人間もかなりいた。千人近い村民を一斉に非難させて、死人が出ないわけがねぇ。闇人のうろつく、真っ暗闇の世界の中を、普通の人間が歩き回れるわけねぇんだ。

「二、闇の核を破壊し、闇の扉の出現を防ぐ。でもこの方法は……」

「カンスケさん、それしかないでしょう」

 ネイケロが、ホール全体に聞こえるはっきりとした太い声でそう言った。全員の心は決まってる。だけどボスの葛藤も理解出来る。闇の核と実際に戦ったことのある奴は、ボス含めてオレ達の中にいなかった。理論だけで、絶対に相手にしちゃあならねぇ化物であることが分かっていたからだ。

「……ネイケロくんだけじゃない。みんなも同じ考えなのは分かってるよ。でもね、おれは必要な犠牲というものは存在すると考えてる。おれがやっていることはまさにそれだからね。不要だと判断した人間の魂を分解し、エネルギーに変えてるわけだから。だから……」

「避難の過程で死人が出るのは仕方ないと、そうお考えですか」

「そうだね。闇の核との戦いは、おれ達全員が死ぬ可能性がある。そうなれば必然的に、ホープビレッジも滅びる。だけど避難を選択すれば、一定数の生存者は確実に保証されるんだよ」

「では、カンスケさんの権限を持って、自分達にそう命令を出してください。自分達はカンスケさんがそう決めたなら従います」

「……意地悪な言い方するなぁ」

「カンスケさんも分かっているでしょう。自分はその選択をしたことを後悔しながら、生きていくなんて無理です。たとえそれで闇側に犠牲者を出さず、村人達の大多数を救えたとしてもです。その選択をした自分を、死んでも絶対に許せない」

 そうだ、その通りだ。ホープビレッジはただの村じゃねぇ。あの村はオレ達と、世界各地から集めた村人達で作った、最初の村なんだ。ゼロの地点から、力を合わせてここまで発展させた場所なんだ。今あの村で余生を送ってる老人達は、一緒に汗水流して働いて、村をでかくしてきた仲間なんだ。そこで生まれた子供達はその仲間の子孫なんだ。誰一人、犠牲になんてしたくなかったんだ。

 だが、あのとき……。その選択をした結果、全員が死ぬことになっちまったんだ……。

「……分かった。闇の核と戦おう」

 ボスは乗り気じゃなかった。理屈上は組織のトップとして、ボスが取るべき選択肢は逆だからな。だけど感情がそれをさせなかった。ホールで解散した後、工具室でネイケロと戦いの準備をしていたとき、ボスが来てオレ達二人にこう言ってきた。

「おれはさ、村の避難を進めるべきだって、みんなに言ってもらいたかったよ」

「ボスだって本当は、全員を助けたいでしょ」

「みんながそれを止めてくれることを期待したのにさ」

「無理っすよ。それを選ぶような奴らなら、そもそもここにいないっす」

 オレ達は闇だ。全員が心に闇を抱えてる。この世界へ、社会へ、人間へ。消えることのねぇ、漠然とした憎しみや恨みを持ってる。だからこそ、自分達が認めた人間、一緒にいたいと願う仲間は絶対に見捨てねぇ。気に入らねぇ奴は容赦なく殺して分解する残酷さと、その反対の絆を両立させているのがオレ達だ。

「おれはさ、ドラマが見たいんだよ」

 そう言ったボスの顔は、暗く沈んでいた。ボスがこのセリフを言うときは、いつも無邪気で歪んだ笑みを浮かべるってのに、このときは今にも消えちまいそうな、悲しい顔をしていた。ネイケロがフォローに入ったが、ボスの表情はずっと重いままだった。

「では、これから最高のものが見れますな」

「こんなのはドラマじゃない。ただの放送事故だよ。こんな展開があってはいけないんだ」

「それを乗り越えりゃあ、ボスが見たいもんが見れますって」

「だと、いいんだけどね……」

 そのとき、ボスが呟いた言葉は、今でもオレの頭のずっと奥に残り続けてる。おそらく、一生消えることのねぇ傷になって……。

「おれはさ、バッドエンドで終わる悲劇なんて、見たくないんだよ……」


次回へ続く……

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