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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第六章 宇宙の意思 二

宇宙の意思 二


 わたしから見たメイへの第一印象は、ボーイッシュな美形、という感じだった。ガンジイは黒人だが、この人は黄色人種、アジア人だ。見た目の年齢は十代半ば。わたしやムクと変わらないくらい。最初に顔が見えた瞬間は、綺麗な顔の少年に見えた。髪を自然と伸ばしたままショートカットにしていて、ほどよくはっきりとした目鼻立ち。中性的な顔つきで、遠くから見ると、男性か女性か見分けがつかないけれど、近くで見ると整った美人だとすぐに分かる。背は百七〇センチくらい、ゆったりとした布の服を着ているが、手足が細くすらっとした細身の体型。なんというか「女性が演じる美少年、もしくは王子様」という雰囲気の人だ。もしもこの人が女子高にいたのなら、学校中の女生徒をとりこにしてしまうのではないだろうか。

「我らの会話は、お前達以外の光の勢力に聞かれているのではないか?」

「聞かせたんだよ。今頃驚いてるだろうね。ナナゴウもびっくりしてるし」

 ナナゴウが、ぽかんと口を開けて固まっている。反逆を企んでいたのは、メイと園子の二人だけなのかな。だとしたら機械の兵隊たちは、この二人の独断に巻き込まれていることになってしまうけれど。

「とりあえず、頑爺と二人だけで話したいんだ。詳細は園子に説明してもらってよ」

「あなたがガンジイを殺すかもしれないので、嫌です」

「大丈夫だよ。頑爺は明より強いから。だから彼のこと愛してるんだよ」

 さらっと現在進行形で愛を告白しやがった。「してた」ではなく「してる」か。しかもこの人、一人称が名前かよ。自分のこと自分の名前で呼ぶタイプの女か。大丈夫か、なんか本当にやばい女なんじゃないのか。

「行くよアイ。ムクちゃんもついてきてね」

「なー、お腹減ったんだけど、ご飯あるかー?」

「食堂があるよ。ナナゴウも一緒に来て」

「……了解」

 ナナゴウは心ここにあらずだ。ガンジイに目配せしてみたら、小さくうなづいた。心配するなということか。仕方がない、一旦別行動することにしよう。園子から情報を集めておかないと。光側の勢力の詳細を聞くなら、この機会を逃すわけにはいかない。


 麗冷達は食堂へと向かい、私と明は司令室へと入り、向かい合わせに座った。この施設は金属製の道具が多い。机、椅子、棚、それら全てが金属で出来ておる。これらは過去の遺物であろうか。それとも明達、光側の勢力が新たに鋳造したのであろうか。さきほど見た兵達の体も、金属製であった。闇側の勢力と戦う為に、道具の作成に積極的になっているのやもしれぬ。

「明のこと、全然考えてないでしょ」

「お前達は魂のみなのであろう。その状態で闇と戦うことは可能なのか?」

「本当に変わらないね、あなた。でも雰囲気は優しくなったかな。ま、先に質問に答えておくよ。そうしないと明のこと見てくれなさそうだし」

 明はそう言いながら、短刀を私の首めがけて投げつけてきた。生前の明よりも敏捷性が増しておる。短刀を左手で掴み受け止めると同時、司令室に仕掛けられていた罠が起動し、左右から追加の短刀が飛んできた。これは受け止めなくともよい。私が回避することを前提に、わずかに前後に狙いをずらしておる。それに紛れさせ、天井から落下してきた短刀を右手で受け止め、明の前に並べた。

「戦況は膠着こうちゃく状態だよ。こっちが攻撃できないのを闇側は分かってるし、向こうはこっちを放置してる」

「闇側は、物体には触れられるが、魂には触れられないのであったな」

「そうだよ。つまりあなた達、生きてる人間と同じ。ただ闇のエネルギーを扱うことが出来るだけでね」

「光の勢力はその逆で、物体には触れられぬが、魂には触れられるのであったか」

「そうだね」

「ならば何故、お前達は闇側を攻撃出来ないのだ?」

 麗冷が闇の核を攻撃し、破壊したのと同じではないのか。肉体をすり抜け、闇の勢力の魂を直接攻撃する。それが出来ない理由はなんなのか。

「そもそもの勘違いだよ。明達は、魂を直接攻撃出来ない。魂は肉体という鎧に守られてるんだ。その中にある魂だけを攻撃するなんて、普通は出来ないんだよ。あなたが連れていた、あの女の子とは違ってね」

「麗冷のことをすでに知っておるのか」

「魔女に教えてもらったからね。それに明達は外に出られない。自由にこの世界の中で動き回るなんて出来ないんだ。闇のエネルギーに魂を晒したら、あっという間に消滅してしまう。でも近くに高エネルギーのかたまりがあれば、数分くらいは耐えられる。例えばあなた達が、闇の扉と呼んでいるものとかね」

「それ故に、お前達は道具をつくったというわけか」

「そうだよ。明達、光側の勢力でも触れることの出来る物体をね」

 あの金属の兵達は、この闇に覆われた世界の中で、自由に動く為のものか。金属の体の中に魂を入れれば、外でも活動が可能というわけであろう。それに肉体に攻撃することも出来る。闇との戦いには必須の武器だ。

「ねぇ、もういいでしょ。光と闇とかじゃなくて、明と話をしてよ」

「先に言っておくが……」

 私が言い終える前に、明は三本の短刀を投げると、机を蹴り上げ私の視界を塞いだ。机の裏側が私の視界に映り込む。……なるほど、そのような意図があったか。短刀の処理は手斧で全て弾いて済ませる。右方向から床を蹴る音が聞こえたが、これは陽動であろう。手斧を正面で構えておくと、宙を舞う机の向こう側から、槍が私の胸めがけて突き抜けてきた。手斧でそれを防ぎ、身をかがめ背後の罠から射出された短刀を避ける。頭部を下げた直後、床から槍が飛び出てきたが、左手で柄を握り、力づくで止めた。

「明は、今でもあなたを愛してるよ」

「私の中で、お前はすでに過去の人物だ。今さらお前が現れたところで、私の感情は大して動かぬ」

 明は槍を振り回しながら、楽し気に笑みを浮かべておる。変わっておらぬな。六〇年前と、何もかもが同じままだ。

「明の時間は、ずっと止まったままだよ。光側の勢力に入っても、明はなにも変わらなかった。変えられなかった」

「私では、お前の時を進めることは叶わぬ」

「そんなことないよ。だって、やっとあなたにまた会えた」

「私が生きていると、いつから知っておった?」

「ずうっと昔から。明が死んですぐ後から知ってたよ。光側の指導者に、一緒に闇と戦わないかって誘われたときから」

「交換条件でも提示されたのか?」

「光側に協力するなら、あなたの死後に魂を見つけ次第引き合わせてくれるって言うからね。ずうっと、ずーっと待ってたんだよ。早くどこかで死んでくれないかなって。まさか生きてるあなたに再会するなんて、考えてもなかったよ」

「お前は、私と共にいられればそれでよいのか?」

「闇側との戦いがどうでもいいわけではないけど、結局はあなたと一緒にいることが目的」

「私は旅を続けねばならぬ。お前と共にはいられぬ」

 槍を振り回す速度が増していく。今にも斬りかかってきそうだが、それは突然静止した。……嵐が始まるな。さて、どう切り抜けたものか。


 わたしたちは廊下を進み、食堂とやらに向かった。そんな場所があるということは、機械の兵隊たちは食事をする必要があるのだろう。電気や燃料で動いているわけではないみたいだ。ガンジイとメイはどうなっているだろう。和やかに会話に花を咲かせているわけがない。ガンジイのことだから、心配する必要はないだろうけれど。

「園子もご飯食べるの?」

「あたしは食べないよ。魂だけだもの」

「前会ったとき、長くこの世界には留まれない、みたいなこと言ってなかった?大丈夫なの?」

「この施設内ならね。エネルギーフィールドで包まれてるんだよここ」

「……ソノコさん、さきほどの話は……」

「全部本当だよ。今まで黙っててごめんね、ちゃんと説明するから」

 その後数分歩いて食堂に着いたけれど……。ほんとにただの食堂だ。ホールに整列した机と椅子。学生食堂そのまんまだ。一つ違いがあるのは、壁に横一直線になって、いくつもいている丸い穴と、その横にそれぞれ設置されているボタン。園子がボタンを押すと、穴から手の平サイズの、長方形のブロックが飛び出てきた。……茶色の粘土みたい。これが食事か。ディストピアだな。

「これ、食えるのかー?」

「ブロック食だよ。色んな味があるし、完全栄養食。食べ過ぎたらだめだよ。栄養のとりすぎになっちゃう」

「ナナゴウのおすすめは何味なの?」

「……個人的には、チョコレート味だ」

 この世界でチョコレートを味わえるのか。なんだ、贅沢な食事ではないか。他にはフルーツ味とか、バニラ味とか、なんて懐かしい品揃えだ。まさか文明的な味をこんなところで楽しめるとは。……だけどぱさぱさで口が渇く。飲み物はどこだろう。

「こっちにスープ類があるから。コップは壁の中に収納されてるよ」

「ナナゴウのおすすめは?」

「なぜいちいち僕に聞くのだ。貴様の食べたいものを選べ」

「園子は親切な人が好きだと思うけどな~」

「……コーンスープがおすすめだ」

 ここにいる子たちは、案外ちゃんとした暮らしをしているようだ。兵隊たちの訓練を見たときは、人間らしい生活なんて送っていないと思ったが。だけどこれがここの限界値。疑似的に作った学校生活があるとしても、子供が好む食事を提供しようと努力していても、その中に戦闘訓練があるだけで全部台無し。

 間違いなくそこに、園子が反逆を企てた理由がある。十中八九、この子たちのためだ。


 そのまま追加の食事を取って、わたしたちは席に着いた。さて、なにから聞くか。まずは反逆のことをちゃんと聞いておこう。どういった計画で、なにを目標としているのか、それを話してもらおう。

「あたしは、子供を戦いに使うなんて、絶対駄目だと断言するよ。だからここはもう解放する」

「わたしが花畑で発破かけたのが効いた?」

「実際そう。前々から駄目だとは思ってた。でも踏ん切りがつかなくて……。ここで子供たちが訓練したり、戦ったりすることも、魂の経験のうちになるし」

 お姉ちゃんから聞いた、宇宙のエネルギーの話か。魂から出ているエネルギーによって、この宇宙は支えられていると。魂は輪廻転生し様々な経験を積むことで、よりたくさんのエネルギーを出すようになるらしい。

「僕はソノコさんの為なら、いくらでも戦います」

「駄目。絶対に」

「しかし、みんなここで闇の勢力と戦う為に訓練してきたのです。今さらそれを……」

「なんで駄目かって、相手がカンスケだからだよ。あいつら闇は、魂を分解してただのエネルギーに変えちゃう。そうしたらもう、輪廻もなにもなくなってしまう。普通に死ぬのとは全く別の話なの。永遠にこの世界から消えちゃうんだよ」

「実際問題さ、普通に輪廻転生を繰り返していれば、宇宙って存続出来るものなの?結局は全部崩壊するんじゃないの?」

「……今のところは、そう結論が出てる。全ての魂が通常通りの輪廻を繰り返しても、膨張し続ける宇宙を支えるにはエネルギーが足りなくなる」

「じゃあもう、それぞれ好きにしたらいいってことじゃない?どうせ全部消えるならさ」

「今のところはって言ったでしょ!もしかしたら、宇宙を永遠に継続できる方法が、この先見つかるかもしれないでしょ!ううん、ちがう。絶対にあたしたちがそれを見つけるから!」

 あぁ、光側ってそういう基準で動いてたんだ。その未来でこの子たちの魂は生きていてほしいってことね。

「……でも、闇側の勢力と戦うには、あたしとかだけじゃあ、全然力が足りなくて……」

「その為に僕達がいます。僕はソノコさんの為に、戦いたいです」

 やけに強い忠誠心だなあ。なんでこんなに園子に懐いているのだろう。ちょっと聞いてみようか、と口を開こうとしたとき、ムクが先に発言した。

「よく分かんないけど、あたしたちにも闇のやつらと戦ってくれってことかー?」

「そう、ムクちゃんにも一緒に闇と戦ってもらいたいの」

「ごめんなー。無理だー」

「え、なんで……?」

「向こうにはオクゼツってやつがいるからなー。あいつ、弱っちいけどいいやつだから、戦えないなー」

 ムクって、そんなにオクゼツのこと気に入ってたのか。ガンジイといい、あいつ意外と人から好かれるなにかを持っているのかな。カンスケも友達だって言ってたし。わたしは嫌いじゃないし好きでもないけれど。

「一旦整理させてもらいたいけど、光側の勢力の目的は、闇側を打倒して魂の在り方を正常に戻すことでいいよね?」

「そう、魂が正しく輪廻転生出来るように。このままずっと、魂をエネルギーに分解させるわけにはいかないの」

「それで闇側と戦う為に、ナナゴウみたいな機械の兵隊をつくって、訓練してましたと」

「うん。でもそれはもうやめる。子供を戦わせるなんて、どんな理由でもやるべきじゃない」

「でもナナゴウたちがいないなら、闇と戦う力が足りないんでしょ?まさかわたしたちには戦わせるのに、自分たちは戦いませんなんて言わないよね」

「ナナゴウ達の魂は、機械の体から出してすぐに全員転生させる。その後残った機械の体を、あたし達が武器にして、アイ達と一緒に戦う」

「ソノコさん!」

 ナナゴウが勢いよく立ち上がって、机を叩いた。抗議する理由は分かる。ナナゴウだって、園子を危険な目には遭わせたくないはずだ。

「僕達の気持ちも考えてください!ソノコさんや司令が傷つくのは、僕達だって嫌です!」

「先に聞いておくけど、残った機械の体を武器にするってどういうこと?園子がその中に入るつもり?」

「ううん。巨大ロボットを作るの」

「……うん?園子?」

「みんなの体を一旦全部、分解してパーツに戻す。それを組み直して、巨大ロボットを作って、明さんとあたしで乗って戦う」

「あのー?園子ー?」

「メインの操縦は明さんがやる。あたしは計器の操作なんかでサポートに回るの。設計図はもう完成させてあるし」

「ナナゴウ、ちょっと作戦会議」

「……はい……」

 わたしのせいだな、これは。真面目な人ほど、追い込まれると突拍子もない行動に出るというやつだ。園子は懐から紙を取り出して、ムクとミニちゃんに見せ始めている。あれが設計図とやらか。本当にもう作ってあるのか。わたしの追い込み方が悪かったなぁ……。花畑であんなに突き放すべきじゃなかった……。

「どうしよう、どうやってバカなことしないでって止めよう?」

「しかし、ソノコさんは本気のようです……」

「本気になったバカって、どうやって止めればいいかな。もっと良い代替案を提供するとか?」

「……司令はこの作戦を了承したようですので、なぜそうしたか、聞きに行きたいです」

 それがいい。ガンジイがどうなっているかも気になるし、一度司令室へ戻ろう。園子はここに置いていこうかな。同席させると話がややこしくなりそうだ。

「それで、この回路と動力を直結させるの。そうすれば十分な稼働時間も確保出来るはず」

「おー、よく分かんないけどすごいんだなー」

「ぜんぜん分からないけど、すごいのよ~」

「園子、わたしとナナゴウはメイと話してくるから」

「じゃあ、あたしも行く」

「だめだよ。ムクとミニちゃんがもっと聞きたがってるから」

「えー?そんなことな……」

「もっと聞きたいよね、ムク?」

「お、おー。聞きたいぞー」

 今のうちだ。ムクとミニちゃんは人柱になってもらう。わたしとナナゴウは素早く食堂から出て、足早に司令室へと向かった。


「司令室ってどっちだっけ?」

「こちらです。ついて来てください」

「園子って、ここしばらく元気なかった?」

「はい。理由は話してくれませんでしたが、誰かがソノコさんを傷つけたのだと予想しています」

「そっかぁー」

「そいつを見つけたら、首を刈り取ってやります」

「はやくみつかるといいネェー」

 余計な質問はしない方がよさそうだ。いつボロが出てもおかしくない。司令室へ近づくにつれ、なにやらわめき声が聞こえてきた。おそらくメイの声だ。やはり言い争いに発展していたか。仲介に入って場を落ち着かせよう。まさか本気の殺し合いになんて発展してはいないと思うけれど……。

 司令室の前まで来ると、激しく刃がぶつかる金属音と、メイの叫ぶ声が重なって、滝のように響いてくる。扉を開けるのは危険かもしれない。どうしようかと考えていると、ナナゴウが後ろにいてくださいと言って、慎重に扉を開けてくれた。かっこいいところあるじゃないか。

「いやぁああだあああ!!」

「仕方のないことだ」

「頑爺は!明とずっと一緒にいるのお!!」

「それは無理だ」

「やだああああ!!」

 ……なんだこれ。……なんだこれは。リズムよく刃物がぶつかり合う音が伴奏になり、メイが癇癪かんしゃくをおこす声がメロディーラインとなって、謎の協和音を生んでいる。ガンジイは落ち着き払って、メイが振り回す槍を、手斧で弾いて処理している。……メイの槍を振り回す動きは、ムクが戦う姿に似ていた。動きが途切れることなく、一つの攻撃が次の動作への繋ぎも兼ねている。武芸の達人は、動きから無駄がそぎ落とされていった結果、踊っているように見えるものなのかもしれない。

「我らの村では、演武という儀式があったのだ。刃を合わせる音で拍を取り、戦士の戦いを歌で表現する」

 ガンジイが手斧を回しながら説明してくれた。演武、ですか、これは?確かにリズミカルではあるが、メイは本気でガンジイを殺そうとしているようにしか見えないのだが。

「死んでよお!死んで明と一緒になってよおぉ!!」

 やっぱり殺そうとしてる。やべぇ女で確定だ。わたしでは止めようがないなこれは。メイが落ち着くまでガンジイに任せるしかないか。ナナゴウは頭を抱えていた。かわいそうに。上司がやれ巨大ロボットだの、ヒステリックに槍を振り回す姿なんて、まともに見られたものではない。……この施設で一番頼りになる人材は、おそらくナナゴウだな。今後相談ごとができたときは、まずこの子に聞いてみよう。

「あまり、失望しないであげてくださいね……」

 やはり素晴らしい人材だ。情けない上司のフォローまで出来るのか。この子、実年齢はいくつなのだろう。わたしと同じで、転生してからそれなりの年月を生きていたりするのかな。後で聞いてみよう。

「光側に属する人は、みんなどこか子供っぽいところがあるのです。良くも悪くも真っすぐでひたむきだったり、天真爛漫でわがままだったり、そんな人だからこそ、魂が光側に傾くようになっているんです」

「あぁ、なるほど。……すごく納得したよ」

 ガンジイ、ムク、園子、メイ、そういえばサイモンさんも、どこか少年のような眼差しをしていた。ガンジイは小さな動作で、メイの猛攻撃を防ぎきりながら、ナナゴウへと質問を投げた。

「明の一連の動きを、全て捉えることは出来ておるか?」

「はい、見えます」

「お前は明の攻撃を、防ぎきることが出来るか?」

「……見えてはいますが、防ぎきる自信はありません」

「他の兵達は、どうであろうか?」

「不可能です」

「明、槍を納めよ。ナナゴウへの鍛錬を始めたい」

「そんなこと後でいいでしょ!?闇側の連中が攻めてくることなんてないよ!!」

「闇ではない。光側の奴らがここに来る」

 メイの動きがぴたっと急停止した。……光側同士で、戦いになってしまうのだろうか。園子とメイは、独立して別勢力を興すと宣誓した。他のメンバーは当然それを止めようとしてくるはず。せっかく訓練して育ててきた機械の兵隊たちだ。はいどうぞと手放すわけにはいかないだろう。

「暴力で止めようとしてくる人はいないよ。そんな人格の人間は、光側にはいられない」

「あなた、ガンジイのこと殺そうとしてたよね?」

「明のは暴力じゃなくて愛だから」

「ひでぇ女だなぁ」

「しかし、力を試されるはずだ。闇と戦うに足る力を示さねば、独り立ちを許しはせぬだろう」

 ガンジイはナナゴウを手招きして呼ぶが、その前に話をまとめておきたい。さきほどの園子の件だ。本気で巨大ロボットなんてものを作って、闇側と戦うつもりなのか。

「ガンジイ待って、先にメイと話をさせてもらいたいんだけど」

「あぁ、園子のロボットの話でしょ?明が許可したんだよ。とりあえず司令室に入ってよ。ぐっちゃぐちゃになってるけど」

「それ、本気で……」

 メイはなにを聞かれるか、すでに分かっていたようだ。意味ありげに、にっと笑うと散乱した司令室の中から、ボロボロになった机の残骸を持ち上げて、わたしに見せてきた。……机の裏側に、こう文字が彫られている。

『会話は聞かれてるけど、司令室の中にカメラはないよ。ここの外にはあるから気を付けて』

 刃で机に傷をつけて、あらかじめ書かれていた文字だ。わたしがここに来る前から、すでにこの状況を予想していたわけか。さすが司令を務めているだけのことはある。ただのやべぇ女ではなかったみたいだ。

『園子も明も、子供達を戦わせたくない。この子達の力は、闇と光の戦いが終わった後、各地の復興をする為に使おうと考えてる。子供達にとっても、その方がいいはず』

「技術的には巨大ロボットの建造は可能なんだよ。光側って、色々と道具を作るのが得意だからね」

『独立して別勢力を興すっていうのはただの陽動。そんなことする気はない。光側の指導者をここに呼びよせて、話をしたいだけ』

「百の兵隊に匹敵する、一の力を作れるなら、わざわざ子供達の魂を危険にさらす必要なんてないよね」

『そのときに、あなた達の力を借りたい。あなた達が、闇と戦うに十分な戦力を持っていると証明出来れば、子供達を戦いから離脱させることが出来る』

「これもばらしてしまうけど、実は光側って、もう時間がない状況なんだよ。あらゆる魂は、転生しないとそのうち消滅してしまうんだ」

『光側の指導者は必ず来る。あの人にはもう、時間がないから』

「つまり、光側の指導者はもうじき消滅してしまう。もうのんびりと、兵達を訓練している余裕なんて実際ないんだよ」

 ……この文字は、ガンジイもここに入ったときにすでに目にしているはず。難しいことになってきた。わたしたちも、口から出す言葉を考えないといけない。園子と明に協力するのであれば、口裏を合わせた会話をしないと駄目だ。

「……子供達はどうせ大した戦力にはならないから、危険に巻き込まずに自分たちだけで戦ったほうがいい。そう考えたってことね」

「そういうことだね。ただ、一人だけ戦力に出来そうな子もいてね。そこに立ってぽかんとしてるけど」

「……僕、ですか?」

「そう。ナナゴウだけはこのまま、明達と一緒に戦ってもらいたいの。あなたには才がある。もっと鍛錬を積めば、闇との戦いに参加させられる」

「それを私が見極める。……だが、まずは園子達と合流した方がよいか」


 園子と明が反乱を企てているのは変わらない事実だった。だけど光側の勢力から離脱する、なんて大事おおごとにするつもりはなかったみたい。反乱の中身は、あくまで機械の兵隊たち、子供たちを戦いに参加させないことの要求。わたしたちを光側の勢力に加えることで、兵達がいなくても十分な戦力を確保出来ると、説得材料にするつもりらしい。

 なのだが、光側にとって困ったことになるだろうが、わたしたちは現在のところ、本気で闇側と戦うつもりがない。今までに会ったことがあるのは、カンスケとオクゼツの二人だけではあるが。カンスケは薄気味悪い部分があるとしても、オクゼツが悪い奴だとはもう思えない。ムクもさっき、はっきり戦えないと言ったわけだし、簡単に解決する話ではなさそうだ。

 ……前々から、考えてはいた。「この旅の着地点が見えない」と。この世界に分かりやすく、悪い奴と良い奴がいるのなら、わたしたちは良い奴の味方をすればいいだけだった。悪い奴を打ち倒し、世界の闇を払い、かつてと同じ青空と太陽を取り戻す。それだけのことだった。

 しかし状況は刻々と複雑化していく。この世界の謎が解明される度に、それぞれの勢力の目的と、そこに属する人間の人となりが開示され、かえって善悪という単純な秤で物事が判断出来なくなっていく。

 不謹慎な考え方だが、分かりやすい悪者が出てきて、状況を簡単なものに変えてくれないか、なんて考えてしまう。ずっと前に、ガンジイが話してくれたことだ。争いを続ける二つの勢力が、それを止める方法の一つ。両者が手を取り合わないといけなくなる、新たな驚異の出現。まぁ、本当にそんなものが現れるわけがないけれど。

 ……いや、待てよ。お姉ちゃんがわたしに話したこと。そして今現在の状況……。それらを全て合わせて考えると……。ありえるどころじゃない。それしか考えられない。

 まさかお姉ちゃんは、その脅威に対抗する為に、わたしたちを集めたのか……?

 

次回へ続く……

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