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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第五章 闇の核 二

第五章 闇の核 二


 どういう意味だろうか。わたしのどの要素を見て「化物」という比喩表現を用いたのか。わたしは怒る気なんてなかったけれど、ムクの方が不機嫌になってしまった。

「あんた、レイレイを悪く言うならぶん殴るぞ」

「あぁ、ごめんね。今のは悪口じゃないよ。畏敬の念ってやつだね」

「けんかはよくないのよ~」

 ミニちゃんがテーブルの上で踊り始めた。この子は踊ることで感情表現をすることが多い。わたしは気にしてないとムクに伝え、その言葉の真意をカンスケに尋ねた。

「もしも、おれとガンジイさんが真正面から、本気で戦ったとしようか。たぶん相討ち。両方死んで終わりだね」

「あなた、そんなに強いの?」

「一応闇側のボスなんで。で、ムクちゃんと真正面から戦ったらどうなるか。これはおれの負け。おれが殺されて死ぬね」

「あたしより、じいちゃんの方が強いと思うぞ」

「真正面から、ってところがポイントだね。単純な殴り合い、殺し合いなら、きみの方がガンジイさんより強いと思うよ」

 それはありえる話だと思う。ムクに本気で殴り掛かられたら死ぬと、ガンジイ本人が言っていたことがある。単純な腕力でもムクの方が上と言っていたし、おそらくカンスケの予想通りになりそう。

「ただ搦手からめてを使うなら話は別。手段を選ばずに戦うなら、おれはムクちゃんに勝てるよ。ただガンジイさんには、負けはしないけど勝てもしないだろうね。ガンジイさんはどんな状況に置かれても、それを突破するだろうから。うまいこと逃げられて終わりかな。ま、総合力で言えばガンジイさんの方が強いよ。ムクちゃんは戦闘特化って感じ」

「それで、わたしのことはどう評してるの?」

「手も足も出せない。おれが一方的に殺されて終わる」

 数秒、無言の時間が流れた。これは冗談のつもりで言っているのか?わたしにそんな強さがあるわけない。……でもカンスケの目が笑ってない。ジョークを飛ばして、相手の反応を待っている顔じゃない。

「本気で言ってる?無理だよそんなの」

「だから『気付いてないよね』って聞いたんだよ。正面から戦おうが、策を用いようが、おれはレイレイちゃんには勝てない。ガンジイさんや、ムクちゃんだってそうだよ。きみがもし本気になったら、全員一方的に殺されてしまう」

 なにを言えばいいか分からなくて、なんとなくムクの方を向いてみた。ムクも「そんなわけないじゃん」という顔で、首をかしげている。

「たださ、きみが欲しい強さって、そういうことじゃないよね。一方的に気に入らない奴を殺す力なんて、望んでないでしょ?だからその力の使い方は、教えない方がいいと思うんだよね。力を手に入れた結果、精神を疲弊させるだけになっちゃうよ」

「いや、欲しいけど」

「へ?」

「普通に欲しいよ。こんな人死ねばいいのにって奴を殺せるなら、殺すよ」

「うわーお……。まじかぁ。……まじかぁ。え、本当に、本気で言ってる?」

「うん」

「……きみ、やっぱり化物だね。あ、ムクちゃん怒らないでね。今のはほめ言葉だからね」

 カンスケは頭をかきながら「やっぱり教えない」と言った。理由は単純で、わたしが敵に回ったときに、危険すぎるから。

「おれとしては、きみたちも仲間になってもらいたいんだけどね。闇側についてもらいたいわけ。でもきみたちもまだ、どうしようか決めかねてるでしょ?光側につくか、もしくはどちらにもつかないか」

「光側の目的がよく分からないし。闇側の目的は察しがつくよ。闇のエネルギーに覆われたこの世界の中で、生きていくことでしょ?光が全て消えた世界の中でも、あなたたちは生きていけるよね」

「光側の連中も、結局目的は同じなんだよね」

「そうなの?」

「宇宙の崩壊を超えて生き延びる。それが両陣営の目的だよ」


 花畑の地下にあった研究施設。そこで見つけた、宇宙はいずれ必ず崩壊するという情報。どうやらそれは全て真実だったようだ。なんだか急に小さな話に思えてきた。宇宙、なんて大げさな舞台の上に引きずり出されたけれど、宇宙だろうが、地球だろうが、どこだろうが、結局生物は自分がどう生き延びるかを考えている。自分の寿命が終わりを迎えるまで、どうやって生きるか、生き延びるか。舞台がどれだけ広くなったところで、やっていることは同じだ。その演劇が終幕するまで、踊り続けるだけのことじゃないか。その後に劇場が火事で燃え尽きたところで、わたしの知った事ではない。

「違いがあるのは、光側の連中は全ての魂を救おうとしていることだね」

「博愛主義者なんだ」

「でもおれは、おれが選んだ人間だけで崩壊を超えたい。心優しい人だけの理想郷をつくりたいわけね。だからその住人にふさわしくない奴は、みんな殺して闇のエネルギーに変えてるわけ」

「大変だね」

「あはは、すんごい他人事だね。宇宙が崩壊したら、レイレイちゃんという魂そのものが消滅するのに」

「別にいいよ。生まれ変わらなくて済むなら、それが一番いいから。この人生を精一杯生きて終わりにするよ」

「ガンジイさんやムクちゃんと、永遠に生きていきたいと思わない?」

「思わない」

「……面白いなぁ、きみ。大好きになっちゃったよ。あ、セクハラとか言わないでね。今のは人としてって意味だよ。口説いてるわけじゃないからね」

 カンスケは席を立つと、ひらひらと手を振りながら家から出て行こうとしたが、最後に一つだけ質問をしてきた。

「そういえばレイレイちゃんさ、魔女に会ったことある?」

「……魔女?」

「時を超える魔女がいるんだよ。どう?」

「いや、ないはずだけど。魔女ってなに?この世界に魔法なんて使える奴がいるの?」

「おれの、まぁ、師匠?になるのかな。気を付けてね。この世界に神と呼べる存在がいるなら、その魔女がそうだよ」

 カンスケはそう言い残し、家を出て行った。……時を超える魔女。どこかで聞いた気がする。いつだろう、思い出せない。

「なあー、今の話、分かりやすく教えてくれー」

「みんながんばって、おどってるってことなのよ~」

「おー、分かりやすいな!ミニちゃんって頭よかったんだな!」

 間違ってはいない。どうやら闇側の人たちも、みんな一生懸命にもがいてるみたい。……それぞれの舞台の上で、自分が主役になって踊ってる。わたしには無理だな。わたしがいる場所は自分の舞台じゃない。誰かの舞台の上だ。ここの主役は誰なんだろう。それぞれが主役の座を奪い合っているように思えてきた。

 そして、そんなことより、もっと重大な疑問が一つ。

 この世界の中に、わたしたちが立っている舞台を、劇場を、作り上げたのは誰だ?

『この世界に神と呼べる存在がいるなら、その魔女がそうだよ』

 ……そうだ、思い出した。時を超える魔女の話。ガンジイだ。ロイさんとアリーンさんの魂が旅立ったとき、ガンジイが話してくれたことだ。

「ガンジイ、帰ってこないね」

「探しにいくかー?」

「村の中、歩いてみようか。ずっと座ってても暇だし」


 わたしたちは、ガンジイとサイモンさんを探しがてら、村の探索を始めた。これほどの規模の村は、おそらくこの先もそうそうお目にかかれない。清潔な住宅、活気のある声、路上を走る子供たち。成熟した生活様式が形成されている。ムクとミニちゃんは歩いていて楽しそうだった。……が、やはりわたしには、村人たちの無関心が気にかかる。

 村に入ったときから、ずっと村人たちは、こちらに関心を向けてこない。わたしたちは部外者だ。装いで村外の人間であることは分かるはずなのに。どうしてこうも、わたしたちを無視することが出来るのだろう。危機管理、という点において、どこか欠落した意識が漂っている。わたしは適当に、歩いていた村人に声をかけてみた。

「すみません、サイモンさんを探しているんですけど、見ませんでした?」

「いや、こっちには来てないなぁ。きみたち、村の外の人だね、放浪者かい?」

「そうです」

 とりあえず嘘をついておく。わざわざ旅人ですなんて、本当のことを言う必要はないだろう。

「だったらもう安心だ。この村にいれば、サイモンさんが守ってくれるよ。もう会ったんだろ?この村に来た人は、まず最初にサイモンさんに会うことがルールになってるからね。あの方は忙しいから、そのまま家で待ってた方が確実だよ」

 村人はそう言って、人のいい笑顔を向けながら去って行った。……サイモンさんが守ってくれる、か。それがこの無関心の根拠なのかな。その後も何人かに声をかけてみたが、全員がほとんど同じことを言った。

「サイモンさんの家で待ってればいいよ。仕事をくれるから、あとはサイモンさんの指示に従ってれば大丈夫」

「住む場所はサイモンさんが用意してくれるよ。食べることに心配はないし、すぐにこの村が最高だって気付くさ」

「この村なら安心して暮らせますよ。危険な放浪者が襲ってきても大丈夫。自警団の訓練は欠かさずしているし、なによりサイモンさん自身がとんでもなく強いのですよ。闇人と殴り合いで勝ててしまうんです。危ない人が村に入り込んでも、サイモンさんがみんなを守ってくれますからね」

 ここまでくると、もはや不気味だ。カルト宗教かこれは。一言目にはサイモンさん。二言目にもサイモンさん。どうやらこの村は、一人の強力過ぎる統治者によって運営されているようだ。なにが起きても、最終的にはサイモンさんが解決してくれる。それがこの無関心の理由か。サイモンさんが病に侵されていることを、村人たちは知っているのだろうか。いや、おそらく知らない。それを知っているなら、もう少し意識に変化が生まれているはずだ。

 ……本当に、有能な人なのだろう。村の様子をしばらく見て気付いたのは、徹底した役割分担と、それらの共有だ。それぞれに仕事があり、かつそれをローテーションで回しているみたい。一部の人間に決まった仕事を任せるのではなく、全員が時間ごとに交代し、全ての仕事を回している。そうすることで、病人や怪我人が出た場合でも欠員が出ることなく、すぐに空きを埋めることが出来る。

 サイモンさんは、自分が死んだ後のことをちゃんと考えてる。だからこうして、村の運用を徹底的にルール化しているのだろう。食料の生産、運用。物資の管理、消耗。それらを自分が死んだ後に、村人たちだけでも行えるように。……なのだが、村人たちの意識は別の方向を向いてしまっている。村を運営しているのは村人ではなく、サイモンさんであると考えてしまっている。

「なー、この村、大丈夫かー?」

「今は大丈夫だけど、そのうちまずいことになるね」

 ムクも村の危険性に気付いたようだ。サイモンさんは、能力人格ともに、優れ過ぎてしまっているようだ。頼りになるリーダーは素晴らしいものだが、あまりに完璧であるために、その人なしでは組織が成立しなくなっている。

 とはいえ村人たちに多大な問題があるわけでもない。見ていれば分かる。この村の人たちは、みんな善良だ。生活の豊かさが精神の余裕に繋がり、それが人間関係の温かさや、他者への配慮に向上されている。怠け者なんていなくて、ちゃんと自分の仕事をこなしているし、全体の雰囲気に柔らかさがあり明るい。

「サイモンさんなら、強そうな男の人と外に行ったよ」

 そう情報を手に入れ、わたしたちはサイモンさんの家に戻った。外になにをしに行ったかは分からないが、追っても合流するのは無理だろう。大人しくここで待つことにする。

「サイモンさんって人、すごい人なのね~」

「でも、すごい苦しんでると思うぞー」

「ほえ?なんでなのよ~?」

「たぶんあの人、あたしの父ちゃんとか、母ちゃんと同じことになってる」

 ムクのご両親。ムクが幼い頃に亡くなってしまったというが、その二人と同じことになっている、というと……。

「自分が死んだ後、残された人が心配だよね」

「そうなんだよ。父ちゃんも母ちゃんも、死ぬことは怖がってなかった。残されたあたしがちゃんと生きていけるか、ずっと心配してたからなー……」

 サイモンさんは、自分勝手な独裁者ではない。第一に村人たちのことを考えているのは、もう分かっている。サイモンさんはこの村の父親、といったところか。村人という子供の育児もしてるし、一人立ち出来るように教育もしている。決して甘やかしているわけではないのだろう。

 なんだけど、父親があまりに偉大過ぎて、子供たちが独立出来なくなってしまった。それは甘えや怠けといった成分ではなく、尊敬と好意。サイモンさんという父親が大好きで、彼なしで生きられなくなってしまった。それがこの村の現状、その統括といったところかな。

「サイモンさんが死んだ後、一気に崩壊しちゃうかもね。みんなを引っ張っていける、新しい統治者がいればいいけど」

「あいつでよくない?カンスケ」

 ムクが意外な発言をした。ムクはカンスケのことを、それが出来る人間だと評価していたのか。

「あー……。闇側のボスだしね。人を動かすのは得意かもね。でも本人にその気はないと思うなぁ」

 村を任されるのを嫌がっているわけではなく、おそらく単純に時間と労力が足りない。カンスケはこの村だけでなく、他の村にも援助をしているはず。この村にしか協力してないなんて、そんなことはないだろう。サイモンさんが亡くなった後も、物資の供給なんかは続けていくはずだけど、この村だけに留まることは厳しいと思う。それに、一人の統治者におんぶされた生き方を続けていたのでは、本当の意味でこの村が成熟することはないだろうし。

「っていうか、カンスケはどこ行ったんだー?鹿でも見つけに行ったのかなー」

「色々忙しいんだろうね」

「ガンジイも遅いなー。外に猪でも見つけに行ったのかなー」

「昔の友人同士らしいし、サイモンさんと思い出話とかしてるんじゃない?」

「仲良しはいいことよ~。戻ってくるまで、のんびり待ってあげてちょ」

 ミニちゃんの言う通りだとは思うが、もう一時間は経ったけど、二人が帰ってこない。どこでなにをしてるのかな。色々と聞きたいことがあるから、早く戻ってきてほしいけれど……。


 サイモンは私を、村の外へと連れ出した。村の中ではなく外に、大事なものがあるという。どうやらそこに、サイモンがここで村長となるに至った理由があるらしい。二人でたいまつを掲げながら、闇の中を歩く。目印になるようなものはないが、サイモンの足取りに迷いがない。道を完全に覚えきっているようだ。

「さて、どこから話したもんか。最初に結論言っちまうか。オレがこんな立場になってんのは、女のためだ」

「その人は?」

「もう死んじまったよ。今向かってる場所が、その女房の墓だ」

「子供はいないのか?」

「二人で話し合って、子供はつくらなかった。女房の体が元々弱いってのもあったし、村を立ち上げたばかりで、村人みんなの面倒を見ないといけなかった。オレたちで子供を作るより、村の夫婦が安心して子供を育てられるようにな。オレたちが育てるのは、子供じゃなくて村だ。二人でそう決めたんだ」

 墓には供え物の酒が添えられていた。どうやら毎日のように、サイモンはここに来ているようだ。村から離れた場所に、木の柵で覆われた小さな花畑があり、その中心に石造りの墓が一つ。……いや、二つ目の穴が用意されている。

「オレが死んだらここに埋めてもらうわけだ。まだしばらく死ぬ気はねぇがな!」

「後継者はいないのか?」

「一人育ててきた女がいるぜ。オレに負けず劣らず、豪快な女だ。あいつがうまいことやってくれる。……やってくれるはずだ」

「……そうならよいが」

「うまくいかなかったら、オレが悪い。オレの責任だ」

「……先に、亡くなった奥方の話を聞こうか」

「いいや、今はそれより大事な話があんだろ。分かってるだろ、言ってくれ友よ」

「本当に、お前なしであの村はやっていけるのか?」

「そう、それだ。死んじまった素晴らしい女の話より、これからを生きるあいつらの話をしないといけねぇ」

 あの村は規模は大きいが、サイモンがおらねば、継続が難しいと思える。我らが村に入った際の、村人達の反応でまずそれを感じた。麗冷やムクならまだしも、私のような体格の大きい男が現れたならば、ある程度の警戒があるはず。しかしあの村の住人達は、我らを気にする様子がなかった。外部からの刺激に対し、無関心なのだ。

 それはこの村の規模を証明する、ある種の成熟した反応ではあるが、それは村の物質的継続力に根拠を置くものであり、村人達の精神性の高さに由来するものではない。つまりは問題が発生した際に、自分達でどうにかするのではなく、強力な統治者による解決を前提とした態度だ。はっきり言ってしまえば、無責任であろう。しかしそうなる仕組みをサイモンが組み上げたのなら、なんとも言えぬ話になってくる。

「なぁ、友よ。完璧な独裁政権と、未熟な民主主義なら、どっちが優れてると思うよ?」

「その答えが出ているのであれば、何故ああなってしまったのだ」

「オレもなんとかしようとしたさ。だがよ、運が悪かったとしか言いようがねぇ。オレのやったこと、全部が裏目に出ちまったのよ」

 サイモンは墓に備えてあった酒を捨て、腰の水袋から新しいものを補充した。そのまま酒をあおると、私にも差し出してきた。

「悪いな、せっかくこうして再会出来たってのに。愚痴なんてこぼすより、思い出話に花を咲かせてぇよな」

「構わぬ。今までそれが出来る相手がいなかったのであろう。あのカンスケという男は頼りにならぬのか?」

「あいつのこと、どう感じた?」

「分からぬ」

「そう、オレもそうだ。あいつは分からねぇ。世界一優しい奴に思えるときもあれば、世界最低の悪党に思えるときもある。……いや、悪い奴じゃねぇよ。カンスケたち、闇側の連中がいるから村はやっていけてる。ただ常人とはかけ離れた精神構造の持ち主ではあるわな」

「この酒が飲めるのも、奴のおかげというわけか」

 私は酒をあおり、サイモンへ袋を返した。サイモンはそれ以上酒は飲まずに、墓の前に座ると、ここまでの経緯を話し始めた。

「一番最初の村は、ここより離れた場所に作ったんだ。女房と二人で、放浪の民を集めて立ち上げたんだ」

「どこかの村に、身を寄せたのではなかったのか」

「女房がまず、放浪の民だったのよ。あいつと出会ってオレの人生が変わった。さっきちらっと言ったが、女房は体が弱かった。このまま放浪なんて続けたら、すぐ死んじまうと思った。怖かったんだよ。あいつに死なれちまうのが。だから旅をやめて、村を作ることにした。女房の体に負担をかけたくないっていう、オレのわがままでな。自分で言っちまうが、オレなら村の設立くらい、どうとでも出来ると思ったんだ。で、実際どうとでもなった。最初はしんどいことも多かったが、一回軌道に乗っちまえば、物資の確保も供給も安定した」

「すでに独裁の気配が現れておるな」

「そうなんだよなぁ……。分かってんだよ。オレがどこかに身を寄せたら、みんなオレ頼みで生活するようになっちまう。だから集団生活は馴染めねぇ。オレがいるせいで、そいつらが腐っちまう。……でもよぉ、放浪の民は放っておいたらどうせ死んじまうだろ。だったらまだ、オレが村長になることで生存の道が開けた方がいいはずでなぁ」

「奥方はなんと言っていたのだ?」

「『調子に乗るなよ』だ。毎日言われたぜ。起きて一回、飯食って一回、寝る前に一回。それを毎日だ。おかげで自制が効いたぜ。女房がいなけりゃ、もっとあれこれ手も口も出してただろうな」


 よき妻だったのであろう。サイモンが共にいたいと願った人だ。出来ることなら、生きている間に一度会ってみたかった。

「それでだ。女房が死んじまった後で、オレは後継者の育成を始めたわけだ。村の存続を女房は願ってたし、立ち上げたオレの責任でもある。が、ことごとくうまくいかなかった」

「放棄されたのであろう」

「それだ。全員口をそろえて同じこと言ったぜ。『自分には無理だ。あなたのようにはなれない』ってな。あいつらは悪くねぇ、オレの責任だ」

「友よ、それは村人達にも責任がある。人はいずれ必ず死ぬ。お前の死から目をそらし、楽をすることを選んだのは村人達だ」

「いいや、あいつらは悪くねぇ。オレが独裁体制を作っちまったのが悪いんだ。村の創立期だけなら仕方なかったと思うぜ。強力な指導者が必要だ。だけどそれをやり続けちまった」

「手を引こうとはしなかったのか?故意に村人達からの恨みを買うような行動を取り続ければ、彼等も行動を起こさざるを得なかったであろう」

「したぜ。それが最悪だった。あんなに運が悪いことなんて他にねぇ。信じられねぇ結果になっちまった」

 サイモンは深くため息をついて、その時のことを話し始めた。

「オレは完璧な独裁者から、最悪の犯罪者になろうとした。村人連中から見放されるためにな。無責任な方法だとは思ったが、それくらい極端な手段に出ないと、もう打つ手がなかった。権力に身を浸した結果、魂が腐った最低の野郎になっちまったと、あいつらに思わせようとしたんだ」

「物資の独占でも始めたか?」

「がははは!やっぱりまずはそれを考えるよな!まさにそれをやったわけよ。多少飢えはするが、生存には影響ない程度で、食料を独占した。そいつを村の外の、隠れ家に保存することにしたんだ。黒炎石も村を照らせる程度だけの供給にして、外に出られないようにしてやった」

 それが最も確実な方法であろう。物資の供給を約束された村は、安全と安らぎを提供する家となる。しかしひとたび物資の供給が滞れば、それは牢獄に変わる。食料が足りず、かといって黒炎石の不足から村外の探索すら不可能となれば、否が応でも死の恐怖に怯えることになる。そうなれば生存の為に、行動を起こす者が必ず現れる。

「ちゃんと革命を起こそうとする連中が現れたぜ。オレを村から追い出そうって動き始めたやつらがな。オレもようやく安心出来ると思ってた。一応言っとくが、村を追い出された後は、陰から姿が見えないように助けるつもりだったぜ」

「それで、何が起きてしまったのだ?」

「オレが村から追い出されようとしてたときのことだ。当時の村人連中とオレと、全員でケンカを始めてよ。適当なところで、オレは負けたふりをして逃げたんだ。物資を隠していた隠れ家に向かってな。あいつらが物資を見つけたら、オレは姿をくらます計画だった。だがな、村からある程度離れたときに、闇の扉が村を吞み込んだ。一瞬だったぜ」

「……通常なら、絶望しかない状況だな」

「そう、通常ならな。だがどこかの誰かさんが、どういうわけか、事前に物資を村の外に持ち出してたわけだ。しかもその誰かさんは、悪人のふりをやめて、村人たちを率いて村の再建を始めたわけだ。隠してた物資を放出して、食料と明かりの供給を指示して、その日のうちに全員分の寝床も確保した。村人たちの寝息を聞きながら、こう思ったぜ。『あぁ、調子に乗っちまった』ってな。袋に入れてた女房の遺骨から、ため息が聞こえてきたぜ」

「そしてお前は、先見の明を持つ偉人になってしまったか」

「村人たち全員、最初はきょとんとしてやがった。怠け者の悪人になったはずのオレが、突然昔の姿に戻っちまってな。……ま、そこで悪者のふりを続けられるほど、余裕のある状況ではなかったな。あいつらの命を守ることが最優先だからよ。そうしたらあるとき、こんなことを言いだす奴が現れた。『物資を隠してたのは、闇の扉の発生を予期してたからだ。悪人を演じてたのは、実際にその時が来るまで、みんなを不安にさせないようにするための配慮だったんだ』とか言い始めてよ。オレが何言ったって無駄だ。あいつらの中で、オレは絶対的な指導者に固定されちまったんだ」

 ……不運、ではある。しかしその不運が、結果一つの村を滅びから救ったのも事実だ。サイモンがそうしていなければ、闇の扉に呑まれて全員が闇人と化していたであろう。今まで暮らしていた村が消滅したのだ。新たな心の拠り所を、村人達は求めていたはず。そしてそれを、サイモンに定めてしまったということか。

「そして時が経ち、村はここまででかくなった。その中でカンスケたち、闇の連中が訪ねてきて、協力関係も結べた。しかしまぁ、問題が尽きることはねぇな」

「そろそろ村へ戻るか。今後のことを、私の仲間とも相談したい」

「だな。よし、戻るか」

 サイモンは戻り道で、大きめの独り言を言った。私に意見を求めていたわけではなかろう。口ぶりでそうと分かった。

「未熟な民主主義が正解だわな。完璧な独裁者が死んだら、それでもう終わっちまうじゃねぇか」


次回へ続く……

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