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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第五章 闇の核

第五章 闇の核


 わたしたちはダンデの所へ戻り、お別れの挨拶をしてから東へ向け、旅を続けることにした。どうやらこの宇宙というものは、結局のところ消滅してしまうらしいが、わたしは特に気にしていない。ムクも気にしていない、というか話を理解していないが、ガンジイは大きなショックを受けていた。ガンジイはここまでずっと、人々を助けるために旅を続けていた。それが徒労に終わってしまう、最後は滅びるしかない未来が突きつけられたのだ。

 わたしが大してダメージを受けなかったのは、かつての文明社会の中で暮らしてきた経験があるからだと思う。世の中には、自分でどうにも出来ないとてつもなく大きな権力だの、金銭の流れがある。テレビやインターネットでは、貧困や格差に苦しむ人々を報道する一方で、結局のところ誰にもどうにも出来ない現実がある。全ての人が幸せになれる世界なんて、実現不可能だ。どれだけこの社会、この世界に不平不満を抱こうが、自分の生活を守ることしか出来ないのだ。

 だったら割り切って考えるしかない。せめて自分が納得出来る選択を選び続けるしかない。いい意味で諦めながら生きていくという習慣が、現代人には染み込んでいるのだ。ガンジイは挫折を経験した上で、諦めないために生きてきた人だから、八方塞がりの状況に大きなショックを受けてしまったのだろう。わたしは未来の人間だの宇宙だのがどうなろうが、知った事ではない。今の自分の人生に納得出来ればそれでいい。

 そう、納得出来ないまま今回の人生が終わるなんて、悔しすぎる。わたしはもっと強くなるんだ。弱い自分のまま死んでたまるか。園子を助けないといけないし、まだこの世界の謎が全て解決したわけでもないのだから。

「おかえりなさいよ~」

「おかえりなのよ~」

 ……花畑に戻ると、おかしな事態になっていた。大きなダンデが、小さなダンデを抱っこしている。手の上に乗せられる、リンゴのように小さなダンデだ。まさか、子供?

「さっき飛ばした綿毛の中の一個が、落っこちてきたのよ~。芽吹いたのよ~」

「生まれたてのぼくなのよ~」

 冷静に考えればそうか。ダンデはあの研究所に、自分を生み出した人がいることを知っていた。たくさんの綿毛があちこちに飛んでいくが、そのうちの一つは必ず、この花畑で芽吹く仕組みになっているのか。

 大きなダンデは踊りながら、わたしに小さなダンデを渡してきた。渡してこられても困る。流れで手のひらの上にミニダンデを乗せてしまったが……。可愛いじゃないか。大きなダンデとちがって、体がみずみずしくて、ぷにぷにしている。絵本に出てくるお花の妖精みたい。タンポポの妖精といったところか。ムクが触りたがっていたので渡すと、ミニダンデのほっぺを指で高速連打し始めた。

「ここここれえれっれからよよよ」

「ムク、連打止めて。なにか言ってる」

「これからよろしくなのよ~」

「……これからってなに?」

「ぼぼぼぼもいいいいににに」

「ムク、連打止めて」

「ぼくも一緒に行くのよ~」

 ……わたしたちの旅に同行するつもり?邪魔にはならないだろうけど……。

「毎日お水をくれればいいのよ~。ご飯はいらないのよ~」

「なんで一緒に来たいの?」

「世界の色んな所、見てみたいのよ~。お山に登って楽しかったのよ~」

「どうしよう?」

「連れていく!こいつかわいいな!」

「……この大きさならば、問題はなかろう」

 そんな形で、ミニダンデが旅の仲間に加わった。役に立たないけど、邪魔にもならないし、まぁいいか。マスコットキャラクターとして迎え入れよう。ダンデのおかげで、闇の扉の中を見れたわけだし、そのお礼ということにしよう。

 わたしたちは大きなダンデと別れ、東へ向け旅を再開した。園子いわく東の果ての国、かつての日本に世界がこうなった元凶があるらしい。闇のエネルギーを発生させている装置がそこあるのかな。それをどうさせたいのだろう。単純に壊させたいのか、別の方法で利用したいのか。まぁ、今気にしても仕方がないことか。

 東の果てか。おそらく長い旅路になるだろう。日本に辿り着くまでに、他の村をいくつも見つけることになるはず。その方がわたしにとっては都合がいい。わたしはまだまだ弱い。もっと経験を積んで強くならないといけないのだから。


 ……とは、言ったものの。花畑を後にしてから、すでに二カ月が経過した。その間一つも村を見つけていないし、人にも会っていない。ガンジイとムクは、数か月誰にも会わないのは普通のことだと言っている。ガンジイは一年以上、誰とも出会わなかったこともあるらしい。わたしは村を出てから、連日のように新しい村や人に出会っていたから、それが普通だと思ってしまっていた。この世界はわたしが考えていたよりずっと、暗闇と孤独に満ちていたようだ。

「ムク、見てこれ」

「なんだー?」

「ついに、お腹に縦にすじが入りました」

「うわあああ!」

「このまま横にも筋が入れば、ついに割れた腹筋が手に入ります」

「やめてえぇ!」

「そのうちムクみたいに、ばっきばきの腹筋になるから」

「そのままでいてー!レイレイはつるっつるのままでいてー!」

「いません」

「いやぁーだあー!!」

 この二カ月で、ずいぶん体が強くなったと思う。とはいえガンジイやムクにはまだまだ及ばない。自分を鍛えるほど、この二人がいかに規格外なのかを思い知らされている。

「お昼をお知らせするのよ~」

「休憩にしよう。たき火の準備を頼む」

 ミニちゃんが光ると、太陽が真上にあることが分かる。ミニちゃんというのはダンデのことだ。闇に覆われていても、この子は太陽の位置を感知出来る。植物の遺伝子が反応しているのだろう。

 たき火の準備はわたしの仕事だ。これもトレーニングの一つ。木材を砕いて火を点けるだけだが、慣れるまでは重労働だった。最近は狩りのやり方をガンジイに教えてもらっているが、今のところうまくいったことがない。弓矢をつくってもらい、練習中だ。わたしには闇視の力があるから、離れた位置の動物を見つけることが出来る。それなら弓で狩りが出来るのではと、ガンジイが作ってくれたのだ。だが、仕留めるのが難しい。結局ムクが「ふんーっ」と捕まえてしまう。

「この世界に、わたしたち以外の旅人っているのかな」

「過去に一人だけ会ったことがある。どうしても集団生活に馴染めぬと、独りで闇の中を歩き、生き延びている者がおった」

「相当な変人だね」

「しかし実力は確かなものだった。共に旅をしないかと誘ったが、断られてしまった」

「男の人?」

「うむ。再会することはないだろうが、稀にみる強者であった」

 世の中にはそんな人もいるのか。わたしだったら絶対に無理だ。当たり前の感覚を忘れないようにしないと。この世界には闇人がいたるところいて、普通は外を歩き回るなんて出来ないのだ。たいまつを持っていたとしても、常に警戒が必要。ガンジイやムクと一緒にいると、その当たり前が消えてしまいそうになる。もっとこう、普通の人間と、たまには話をしたくなるときがある。

「向こう、火が見えるぞー」

「たいまつの明かりだ。警戒せよ」

 ずっと遠くに、一つの明かりが現れた。一つ、という部分が怖い。火が複数なら、付近の村人が資源を集めに集団行動しているか、放浪の一派だろう。だが一つだけというのは、どういうことだろうか。

 その火はまっすぐこちらに近づいて来る。こっちもたき火を燃やしているのだ。向こうから火が見えているはず。ガンジイは、たき火は消さなくていいから、ここで待ち構えようと言った。火を消すことで、付近にいる複数の闇人が寄ってくることの方が危険だと判断したのだろう。

 わたしは闇視で近寄ってくる人物を待ち構えた。まず武器を持っているかを確認する。……現れたのは、二○代後半くらいの男の人だ。中肉中背。ぼさぼさとした髪の、なんだか気だるげな、だらしのない人といった印象。顔つきは少々男前なアジア人といったところ。武器は持っていないけど、ずいぶんと大きなリュックサックを背負っている。しっかりとした旅用の出で立ちだ。周りを確認してみたけれど、この人以外には誰もいない。一人だけで行動しているようだ。

「どうもー。そっちも旅人かい?よかったら物資を交換してもらいたくてさ」

 ずいぶんとフランクに話しかけてきた。こっちは武器を構えているのに、怖がる素振りを見せない。ガンジイは手斧を、わたしは弓を、ムクは鼻息を荒くして拳を掲げている。ミニちゃんはムクの、腰袋の中に隠れている。

「そう警戒しないでよ。お互い大変でしょ?取引だよ、取引」

「警戒せぬ方がおかしかろう」

「あはは、確かに。おれはカンスケっていうの。この世界では珍しい行商をやってる者でね」

 カンスケと名乗った人物は、背負っていたリュックサックを下ろし、中から大量の黒炎石や、薬草を取り出した。

「ご覧の通り、物資はあるけど食べ物がなくなっちゃってさ、物々交換してもらえないかい?」

「……薬草と交換しよう。黒炎石には困っておらぬ」

「そろそろ武器下ろしてもらっていい?こっちもだてに、一人で旅してるわけじゃないからさ。きみたちが危険な奴らじゃないことくらい分かるよ。中々個性的な集団だとは思うけどね。ははは」

 なんだこの人は。世間ずれしているというか、放っておくと向こうのペースに呑まれてしまいそうになる。それに、どこか底知れないものを感じる。ガンジイの指示でわたしたちは武器を納めて、薬草と食べ物を交換した。

「あ、このまま川沿いに真っすぐ行ったら、だいぶ大きい村があってさ。もしかしたら、そこでまた会うかもね」

「一緒に行かないの?」

「その村と取引を結んでてさ。もっと黒炎石を集めないといけないんだ。それを届けに行ったときに、また会うかもって話。じゃあね~」


 取引が終わると、カンスケはリュックサックを背負い、早々に立ち去って行った。……何者なんだ、あの人は。本人は行商人と言っていたけれど。闇の中を渡り歩いて、商人として生きているのならとんでもない人だ。命知らずにもほどがある。ガンジイやムクのように、超人じみた体を持っているわけでもないように見えたけれど……。

「なにかしらの武器を隠しているのであろう。争わずに済んだのであれば、それでよい」

「この先に村があるって言ってたね」

「立ち寄る理由がない。見つけても接触せぬように」

 まぁ、実際その通りだ。太陽の情報を、村を回って集める必要はもうない。かつての日本を目指していけばいいだけだ。

「なぁー。ミニちゃん消えたー」

「……消えた?どっか行ったじゃなく?」

「あたしの腰の袋に入ってたはずなのに、いなくなってる」

「……さきほどの男か。カンスケと名乗ったな。奴に盗まれたようだ」

 いつの間に。わたしたちに一切気付かれずに、どうやって盗んだのだろう。それになんのために盗んだのか。考えられる理由は……。

「この先の村で会おうってことだよね。人質を取って、村に行かざるを得なくされた」

「意図が不明だが、見捨てるわけにもいかぬ。行くしかなかろう」

「あいつ悪い奴だったんだな!次会ったらぶっ飛ばす!」

 本当に何者なんだ、あの人は。ミニちゃんを放っておくわけにもいかないし、誘いに乗るしかない。わたしたちは川沿いに足を進め、やがてたくさんの火が見えてきた。火が多い。ぱっと見ただけで、百を超えている。こんなにも大きな村があるのか。人口の維持はともかく、物資の確保はどうしているのだろう。これだけ火を掲げられていると、こっそり近づくというのも難しい。闇視で村の中を調べたいけど、村の周囲は隙間なく照らされ監視されている。

「立派な村だね。近づいて大丈夫かな」

「さきほどの行商は、この村と取引を結んだと言っておった。それが事実なら、来訪者を問答無用で攻撃することはないであろう」

「ごっつい門があるなー。勝手に入るのは無理っぽいなー」

 ムクが言う通り、村には高さ十メートルを超える、大きな門がある。太い丸太をいくつも組み合わせたもので、数人がかりじゃないと、動かすことは出来なさそうだ。村の周りには石が積み上げられ、石垣の壁になっている。その上にたいまつが置かれており、等間隔で見張りの人間が立つ。しっかりとした警備だ。闇人だけではなく、放浪の暴徒からも村を守ることが出来るよう作られている。

「私一人で門の正面から行く。村に入れるか声をかけてみよう」

 ガンジイが門へと歩いていく。見張りであろう人間が、門の上から顔を出し、問答をしているのが見えた。会話の内容までは聞こえないが、向こうは武器を持っていない。一方的に攻撃するつもりはないようだ。しばらくすると、ガンジイが手招きしてわたしとムクを呼んだ。交渉はうまくいったようだ。門が重苦しい音を上げながらゆっくりと開き、わたしたちは村の中へと足を踏み入れた。

 村に入ってすぐ、見張りの男が五人やってきて、ついて来いと言った。来訪者はまず、村長に会うことがこの村のルールらしい。見張りに囲まれながら、わたしたちは村を歩いたが、すぐに気付いたのは村人たちが、わたしたちに対して関心を持っていないことだ。普通は外部から人間が入ってきたら、物珍しい目で見られると思うのだが……。

 村の奥へ進むと、立派な木造の家があった。驚異の三階建てだ。この世界は二階建ての建造物ですら珍しいというのに。どうやらこの村の長は相当な権力の持ち主らしい。見張りにうながされ家に入ると、応接室に通された。しっかりと手入れされた木製の家具が並んでいる。テーブル、椅子、棚、どれも傷みがなく綺麗に磨かれていた。

 わたしたちは椅子に座り、村長が現れるのを待った。数分すると、どたどたと慌ただしい足音と共に家のドアが開かれ、大柄な男が入ってきた。この家と同じように、体がやたらと大きい。ガンジイよりも大きいのではないか。薄手の布の服の上に、筋肉の輪郭がはっきりと浮かび上がっている。どうやらこの人も、ガンジイやムクのような、超人組の一人らしい。

「いやぁ、待たせてすまんな客人!中々忙しいもんでなあ!がははは!」

 大男は豪快に笑いながら、テーブルを挟んでわたしたちの向かいの椅子に座った。椅子がぎちっと悲鳴を上げた。正面にいられると、体の大きさが際立つ。顔なんてわたしの数倍はあるし、首もわたしのウエストよりずっと太い。丸い顔立ちに、大きな目と口。体は大きいが不思議と威圧感はなく、第一印象で人を安心させるような柔らかな顔つきをしている。髪やひげは全く生えていないため、丸い顔立ちがいっそうのこと際立っていた。

「……サイモンか?」

「ん?……ん!?おめぇまさか……」

「ガンジイだ。久しいな、友よ」

「うおお!ガンジイ!まさかまた会うなんてなあ!」

 大男は勢いよく立ち上がると、笑い声を上げながら手を叩いた。まさかのガンジイの知り合いだったようだ。

「今日は宴だな!この村では酒を作ってんだ、乾杯といこうや!」

「お前が村の長になっているとはな」

「色々あったわけよ、もうとにかく色々と!そっちのお嬢ちゃんたちは連れか?まさか娘じゃないよな?」

「旅の仲間だ。今は東へ向け旅を続けている」

「待っとけ、今から飯の準備をしてもらうからよ!今日はめでたい日だ!がははは!」


 大男はずんずんと機嫌よく足音を響かせながら、家の外に出て行った。見た目も中身も豪快な人だ。ガンジイとはどういった経緯で知り合ったのだろう。

「さきほど話した、過去に会った旅人だ」

「集団生活に馴染めないから、独りで旅してたっていう?」

「うむ」

「そんな人が村長になってるって、どういうことだろうね」

「それはこの後聞く。ダンデをさらった商人のことも聞かねば」

「あ、おれの話?ちゃんと来てくれたみたいだね」

 カンスケが家に入ってきた。よくもまぁ、のうのうと現れることができたものだ。ムクが問答無用で殴りかかろうとしたが、ミニちゃんが飛びついてきたので急停止した。ミニちゃんはムクの頭の上によじ登り、のんきに「ただいまよ~」と言いながら踊っている。乱暴なことはされてないようだ。

「まず謝っておくよ。大事な仲間をさらってごめんね」

「なぜそんなことをした?」

「おれのこと信じてもらえるとは思えなくてさ。どうしてもこの村に来てほしかったんだよね」

「どのような理由でだ?」

「この村、もうすぐ闇の扉に呑まれるよ。それを止める手助けをしてもらいたくてね。感知出来るんだよ。おれ、闇側の人間だからさ。オクゼツくんはおれの友達なんだよね」

「……色々と、聞かねばならぬことが出てきたな」

「サイモンさんはまだ戻ってこないだろうし、説明させてよ」

 カンスケは家の奥から水瓶とコップを持ってくると、わたしたちの前に置いた。水をそれぞれに注いでから、まずはカンスケがそれを飲んだ。毒は仕込まれていないというアピールだろう。ガンジイが念入りに、わたしたちの水のにおいを確認し、飲んでも大丈夫と判断した。

「この家にはよく出入りしているようだな」

「そりゃあね。この村がこれだけ発展してるのって、闇側のおれたちが援助してるのも要因の一つだし」

 カンスケはわたしたちの正面に座ると、だらりと姿勢を崩してから説明を始めた。

「まず言っておくと、闇の扉ってね、昔はおれたちが制御してたんだよね。出現する場所とかも操れてたけど、今はもう暴走しててさ」

「何故にだ?」

「光側の連中のせいだよ。あいつらが制御装置を壊しちゃってさ。ざっと百年くらい前のことね。あいつらはそれで闇の扉の発生を止められると考えてたみたいでさ。でも結果は暴走。最悪の事態になっちゃったってわけ。おれたちは闇の扉に呑まれた人間の救助なんかもしてる。たまーにオクゼツくんみたいに、魂の闇が深くてすぐには闇人化しないで耐える人がいるんだよ。そういった人を助けて仲間になってもらってるわけ」

「人間を闇人にしようとしていたわけではないのか?」

「昔は制御してそれをしてたよ。故意に人に害を及ぼしたり、集団を自分の欲の為に利用する悪いやつらがいるわけじゃん。そういうのを闇人化させてたんだよね。でも今は本当に最悪。守られるべき心優しい人とか、弱者まで闇人になってしまってる。光側の連中のせいだよ、余計なことしてくれたよね、ほんっとにさぁ」

「その話が真実だとする根拠はあるか?」

「ないんだよねーこれが。おれを信じてとしか言えないわけ。この村を助けたいから、力を貸してほしい。頼むよ」

 ガンジイは腕を組んで、どうしようかと思案している。ムクは小声で「つまりこいつ、良い奴ってことでいいのかー?」と聞いてきた。分からない。この人が言ってることが全部嘘の可能性だってある。

「この村の人はみんな善良だよ。このまま闇人にさせたくない。でもおれだけだと、力が足りない。ガンジイさんとムクちゃんが強いのは、オクゼツくんから聞いて知ってたから、手を貸してもらいたい」

「闇側の人たちみんなで、どうにか出来ないの?」

「おれの組織のいいところ、全員が自由に動いていいところ。おれの組織のわるいところ、全員が自由に動いてるから、招集をかけられないところ」

「それ組織じゃなくて、集会所じゃない?」

「あはは、確かに。でもおれは気に入ってるよ。がっちがちに規則で縛られた場所なんて、性に合わないしね」

 ガンジイは組んでいた腕をほどいて、カンスケを真っすぐに見据えながらこう聞いた。

「具体的に、闇の扉の発生を止める手段を提示してくれ」

「闇の扉が発生するとき、闇のエネルギーが急激に集まって、闇の核をつくるんだ。この核は人間が知覚できるものじゃない。でもおれが核を引きずり出して、人間が見たり触ったり出来るようにする。それをみんなで壊せば止められるよ」

「過去にそれを実行したことはあるか?」

「あるよ。惨敗だった。闇のエネルギーって、元は人間の魂だったのは知ってるでしょ?だから闇人も人間の形してるわけだし。核ってつまり、化物みたいに強い闇人なんだ。そのとき生き残ったのは、おれ含めて三人だけ。おれとオクゼツくんと、きみたちの知らない人。……それ以外の二〇人は、みんな死んじゃった」

 カンスケの目に、一瞬深い悲しみが現れた。それは次の瞬間には消えていたが、演技で出来ることではないと思う。

「それを、サイモンや村人達は知っているのか?」

「サイモンさんと、副村長の二人だけが知ってる」

「わざわざ危険を犯し、闇の扉の発生を止める必要があるのか?避難準備を進めた方が確実であろう」

「この規模の村を再建設するのは厳しいでしょ。この村、千人近くの人がいるんだ。道中で相当数の死人が出てしまうはず。……それに」

「どうした?」

「単純に避難を進められない、最大の理由があるんだ。……サイモンさんは、病に侵されてる。もう長くないはずでさ。この村はサイモンさんっていう強力なリーダーのおかげで発展して、維持していけてる。放浪の中でサイモンさんが亡くなったら、全滅は必至なんだよ」


 テーブルには、この世界では驚くほど贅沢な食事が並べられた。こんなに手厚いもてなしを受けるわけにはいかないと遠慮したのだが、サイモンさんはこれくらいなら、この村では贅沢というほどではないと言い、結局わたしたちは恩を受けることになった。

 食卓にはカンスケも同席した。サイモンさんは、カンスケたち闇の勢力がいるから、物資に困ることはないのだと言った。豊富な黒炎石のおかげで、なんと村の一角で農業をしているのだという。さらに鶏の畜産までしているというのだ。その全員が飢えることのない規模で、食料の生産が出来ているという。

「ついにはこうして、酒の生産まで始めたってわけだ!がははは!」

「……病人に酒は、体に障るぞ」

「心配すんなって!寿命が縮むほど飲んだりしねぇさ!オレぁちゃんと責任を自覚してるからな!」

 一見すると、サイモンさんが病人だとは思えない。常に笑顔ではきはきと話し、むしろ健康だとしか思えないのだ。これは無理をしているだけなのだろうか……。受けた恩を無下にするのも失礼なので、食事は全ていただいた。ムクには足りない量だっただろうけど、流石にもっと食べたいとは言いださなかった。ムクはそのあたりの礼儀をわきまえてる。

 食事の最中の話題は、わたしたちの話が中心だった。ガンジイとわたしが出会って、ここに至るまでのことを話した。オクゼツに襲われたときのことを話すと、カンスケが気まずそうに「ごめんねぇ」と謝ってきた。そしてこの村に来た経緯を話したところで、サイモンさんがガンジイを外へ連れ出していった。

「ガンジイだけ連れて行かせてくれや。こいつにだけ見せたいもんがあってよ」

「しばらく席を外させてもらおう」

 二人が去ると、カンスケが話しかけてきた。さっきのオクゼツの話の続きだった。

「その時のオクゼツくん、大分メンタルやられてたもんでさ。ほら、さっき話した闇の核に惨敗した話。オクゼツくん、仲間を守れなかった自分を大分責めててね。闇の力に溺れそうになってたんだよ」

「オクゼツが?」

 わたしの言葉は、オクゼツに仲間と呼べる人間が複数いたのかという、驚きの意味だったのだけど、カンスケは違うとらえ方をしたようで、こう返答した。

「ずっと言ってたんだよ。『もっと強くなりたい』って。それが悪い方向に暴走し始めて、正気を失う寸前まで追い詰められちゃっててさ。おれがちゃんと導かないと、と思ってた矢先の出来事だね。結果おれじゃなくて、ムクちゃんのおかげで改心したみたいでよかったよ」

「あいつ、ちょっとは強くなったかー?」

「残念だけど、今はまだまだ。今までと全く違う戦い方を模索してるから仕方ないけどね」

「まだ弱っちいかー」

「でも、なにかのきっかけで、オクゼツくんは化けるよ。ガンジイさんに並ぶくらいに強くなる」

「あいつがかー?……でもそうなれるといいなー。あいつ、ほんとに頑張ろうとしてたからなー」

 ……ここまでの話を聞いて、わたしは一つの核心を持っていた。このカンスケという人物、ただの闇側の勢力の一員じゃない。この人は……。

「カンスケってさ」

「なに?」

「闇側のボスだよね?」

「そうだよ。おれが闇の勢力を発足させて、今も最高責任者」

「一つお願いがあるの」

「へぇ、なに?」

「闇の力の使い方を教えて。もっと強くなりたいの」

「……うーん」

 カンスケは、わたしの顔をじっと見て、眉間にしわを寄せてうなり始めた。そう簡単に、ぽんと力の扱い方なんて、教えてはくれないか。……それともわたしには、強くなれる見込みがないのかな。

「レイレイちゃんさ、気付いてないよね」

「何に?」

「きみさ、すでに化物だよ」


次回へ続く……

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