第四章 太陽の民 四
第四章 太陽の民 四
我らは休息を取り、翌日ダンデの元へと出発した。昨日聞いた話によると、今日発光するのはダンデのみで、他の仲間が激しく光ることはないという。花畑に到着すると、ダンデが転がりながら近寄ってきた。もうしばらく後に、闇の扉を打ち消すというが、本当にそれが可能なのだろうか。
「扉の場所はもうわかってるのよ~。目印の火もまだ燃えてるのよ~」
「昨日置いた黒炎石、まだ燃えてるね」
「あとあと、ぼくがぴかーってするときは、絶対後ろにいてちょーよ」
臆舌の話と一致している。強力な光を放つようだが、物理的な力を持つほどの光とは、どれほどのものか。まだそのときではないようだが、いつ始まるのであろうか。
「なぁー、なんですぐに、ぴかーってしないんだー?」
「太陽の光が、まだ集まってないからよ~」
「今日は、みんなは光らないんじゃないの?」
「太陽、真上に来たとき、ぼくたち元気いっぱいいっぱい。そのときぴかーなのよ~」
太陽が、真上に来る?……頭上に光は見当たらぬが、なにかの比喩表現であろうか。麗冷は空を見上げ、なにか考え事をしているようだ。
「なにか、気にかかる点があるのか?」
「……後で話すね。まさかとは思うけど……」
「そろそろいくのよ~。ぴっかぴかよ~」
ダンデが転がりながら、闇の扉が正面になるように、体の向きを変えた。ダンデの下半身から、複数の植物の根のようなものが生えてきて、地面に刺さっていく。すると周囲に転がる岩が、発光を始めた。白光石のようなはっきりとした光だが、目を痛めるほどのものではない。
「みんなから、ぴかぴかの力、わけてもらうのよ~。……ふふ、ふははは」
ダンデが不気味な笑い声を上げ始めた。麗冷とムクは怖がり、私の後ろに隠れた。そしてダンデが大きく息を吸い込むと、丸々と巨大化していた体が、一気に収縮していく。体内に貯め込んでいた水分が蒸発し、体から蒸気となって吹き出す。それと同時に筋肉が膨れ上がり、筋骨隆々とした肉体へと変貌していく。
「ライオンみたいだ」
麗冷がそう言った。ダンデの髪とひげが急速に伸び、まるで獅子のたてがみのように変化する。麗冷が表現した通り、その姿は獅子型の獣人のようだ。……いや、そんなものではない。あまりに肥大化した筋肉は、皮膚を突き破るのでないかと思うほどになり、その姿は異質な怪物としか形容出来ぬものになっている。
「ふははは!力がみなぎりよるわ!ぐわははは!」
ダンデは容姿のみならず、その口調まで変化しておる。笑い声を上げながら両腕を左右斜め上方向に伸ばし、両脚はかかとを合わせ、つま先をそれぞれ外側に向けた。その状態で腰を下げ脚を曲げる。ダンデは奇怪な体勢を取ると、空気が震えるほどの大声で、謎の言葉を発した。
「SUN!燦!サンシャイーン!!」
後に麗冷から聞いたことだが、その言葉は日本語と英語という二つの言語が混ざり合ったものだったという。なぜダンデが、麗冷が生まれ変わる前の言語を知っていたのか。おそらく言葉の意味は理解しておらず、太陽賛美の宗教的な儀式が口伝で伝わり続けたのでは、と麗冷は分析していた。
その後なにが起きたかというと、ダンデの顔が強烈に発光を始め、その正面方向に光の道が現れたようだった。遠くにある闇の扉を目視で確認できるほどの光量であった。広範囲を照らしていた光は、やがて闇の扉へ向け集まり、扉を覆うほどの太さを持つ一本の線となった。光が闇の扉へ集中され、数秒で扉は塵のように分解され始める。
そして、闇の扉は消滅した。長く旅を続けてきたが、こんな光景を目の当たりにしたのは初めてだ。光の跡には、ダンデから闇の扉があった場所まで、赤く焼けただれた道が伸びている。火山の噴火後に、大地がこのように高温化するのを見たことがあるが、自然災害規模の熱をダンデは発生させていたのか。生物の一個体が、闇の扉を払うほどの力を発揮するとは……。
「ぼくの力、もう空っぽなのよ……」
ダンデはそう言うと、力尽き倒れ込んだ。その姿は元々のやせていた体よりも、さらに干からび、枯れ木の枝のようだ。
「ちょっとだけ、さよならなのよ……。ぼくはねむるのよ……」
ダンデの体が、砂のように細かな粒子となって、砕け始めた。麗冷とムクが、慌てて走り寄っていく。そのときにはすでに、ダンデは目を閉じ、意識を失っていた。枯れてゆく体と対照的に、獅子のたてがみのようだったダンデの髪が、みずみずしく膨らみ始めた。まるでタンポポの綿毛のような形状に変化していき、風に乗って飛んでゆく。あてもなく飛ぶ綿毛達は、すぐにその姿を暗闇の中に隠し、行く先を告げずに出立する旅人のようであった。
「ダンデ、死んじゃったのかー……?」
「……この綿毛が、どこかの土地に根付いて、そこがまた花畑になるのかもね」
「そうなのよ~」
ダンデの声が聞こえた。後方にあった一つの岩が立ち上がり、ダンデと全く同じ姿になった。その足元は植物の根で絡み合っていたが、新しいダンデはそれを手で払い、陽気に跳びはねている。麗冷とムクは口を開けたまま固まっておる。私もずいぶんと驚いている。この生物はあまりにも規格外だ。
「みてみて、新しいぼくなのよ~。生まれたての元気いっぱいいっぱいよ~」
「……ダンデなの?」
「そうよ~。ぼくたち根っこを通して、みんなひとつの生き物なのよ~」
共通した人格を持っている、ということか。記憶をも共有しているようだ。今活動している体が朽ちたところで、別の個体が目を覚まし、活動を再開する。ある種の不老不死だ。植物であるが故に可能な生存戦略か。こんな方法で命を繋いできた生物がいるとは。
「ほんとなら、みんなカラカラになって死んじゃうのよ~。でもお水いっぱいだったから、まだみんな死んでないのよ~。すごいのよ~」
「……普通はみんなを犠牲にして、さっきの綿毛を飛ばして、繁殖していくの?」
「そうそう、そうなのよ~。わたげたち、元気にとんでいけ~なのよ~」
「それだけなら、あんなビーム撃たなくてよくない……?」
「だってこの世界は、危険でいっぱいいっぱいよ~。辺り一面、ぜーんぶキレイキレイしてから飛ばした方が、わたげたち安心よ~」
ダンデがのんびりとした性格をしているから忘れるところだったが、石板には太陽の民は危険だと記されていた。……その通りだ、危険極まりない。もしもこの周囲に村があったのなら、さきほどの光によって消し飛ばされていたのか。
「次にさきほどのような光を放つのは、いつのこととなる?」
「ずーっと、ずーっと先なのよ。一個前のぼくは、百年生きてたのよ。きっと次もそれくらいよ~」
麗冷が私の腕を掴んで、そっと耳打ちしてきた。「まさか、ダンデたちを駆除するつもりじゃないよね?」と。私が首を横に振ると、麗冷は安心したように笑みを浮かべた。百年後のことは、そのときを生きる人間達に任せよう。ダンデもまた、この世界で生きる知性ある生物の一つなのだ。これ以上は、我らが介入するべきではなかろう。
我らはダンデと一旦別れ、闇の扉の跡を調査しに行くこととした。扉の中にある、ダンデの先祖が残したという太陽の情報。それを得れば、この世界の謎が少しは解き明かせるのであろうか。
「ていうかさー、扉の中って、全部消えちゃうんじゃないのかー?なんか残ってるのかー?」
「全部残ってるはずだよ。人間以外のものは」
麗冷の言う通りだ。ロイ殿とアリーン夫人の件からそれが判明している。彼らの研究所は一度闇の扉に呑まれたが、中にあった物は元のまま変化していなかった。
「お前の友が、東の国へ向かうための道具がそこにあると、話していたな」
「うん。なんだろうね、地図は役に立たないだろうし」
「なぁー、なんか、でっかいのがいっぱい立ってるぞ。近づいて大丈夫かー?」
ムクは闇の扉があった方向を指差した。私の聴力で分かることはない。風の音と、なにかがこすり合う音、おそらく植物同士がぶつかる音が聞こえるだけだ。こういうときに頼りになるのが麗冷だ。闇視で偵察に出た麗冷は、近づいても問題ないと言った。そこには花があるだけだという。
麗冷の言った通り、そこには私の背丈と同じほどの、巨大な花が立ち並んでいた。黄色い花弁が特徴的なこの花は、過去に何度か見たことがある。毒性の植物ではなかったはずだ。種を食用に出来たはず。ダンデがよいと言うなら、いくらか収穫させてもらうとしよう。
「ムクはこの花、見たことないの?」
「ない!なんだこれー!でっかいなー!」
「ヒマワリっていうんだよ、この花。……気になってたことがあるから、ちょうどよかった」
「どういう意味だ?」
「さっき話してたことだよ。ヒマワリってね、太陽の方向に花を向ける習性があるの」
……全ての花が、ほぼ真上の方向を向いている。さきほどのダンデの言葉が頭をよぎる。まさか、そういうことなのか……?
「あそこ、闇視で見つけたよ。地下へ続く扉がある。扉というか、石の蓋」
乱立するヒマワリを押しのけ、麗冷が示した場所へ進むと、そこに大きな平たい石があった。ムクと私で石を横に移動させると、地下へと続くなだらかな坂道が現れた。これは人工的に掘られたものであろうか、それとも天然の洞窟か。無邪気にそこに飛び込もうとするムクを止め、まずは麗冷に偵察を頼む。
「蓋してあったのに、危ないもんが中にいるのかー?」
「毒虫や動物は、わずかな隙間から中に入り込むものだ。それに、それよりも危険なものがある」
「なんだそれ?」
「洞窟そのものだ。なぜかは私にも分からぬが、洞窟というものの中には、入るだけで生物を死に至らしめるものがる。空気が毒をもっているのやもしれぬ。深い洞窟や、こういった地面の中に続いていくものが危険だ。麗冷が戻ってきたら、たいまつの火を近づけてみるのだ。火が消えるようであれば、この洞窟に入ってはならぬ」
しばらくすると、麗冷が闇視を終え戻ってきた。ずいぶんと時間がかかったが、その分、収穫は大いにあったようだ。
「すごいよここ、信じられないよ、まだ発電機が動いてるの。電気が使われてる!」
「生物はいたか?」
「いない。闇人はいないし、コウモリとかムカデとか、そういうもいないよ。人間の死体はあったけど。みんな骨になってた。入って大丈夫だよ、換気扇が動いてるのも確認してきたから」
しばらく坂道を下ると、石で補強された通路が現れた。細長い洞窟を、崩れぬように工夫したのであろう。
「この通路まではまだ真っ暗。でもそこの扉の先はもう、電気で明るい。光が強いから、目を閉じて入った方がいいよ」
通路を真っすぐ進むと、鉄製の扉があった。扉は私が全力で押し引きしても動かなかったが、ムクが突進すると開いた。その瞬間、扉の先の空間から、白い光が溢れた。麗冷の言った通り、薄目にしていなければ、目を傷めていたであろう。ゆっくりと目を慣らすと、……まるで別の世界だ。見慣れぬ材質の凹凸の無い平面の床と壁。石に似ているが違うものだ。麗冷は、コンクリート、というものだと言った。過去の技術の建築材のようだ。そして光を発する奇妙な道具が、天井に取り付けられておる。これが、かつて麗冷が暮らしていた世界なのか。
「あれなんだー?どうやって光ってるんだー?」
「電気っていうの。昔はこれが世界中にあったんだよ」
「しかし、どこから調べたらいいものか迷うな」
扉の先には、さらに真っすぐな通路が伸びていた。長さは三○光ほどか。その通路の左右に、扉が等間隔で三つずつ設置されている。通路の正面の突き当りにも扉があり、麗冷はその先にはもう通路はないと言った。我らは手前の扉から順番に、中を調べていくこととした。焦る必要はない。一つずつ調査し、確実に情報を手に入れられればよいのだ。
「ガンジイ、わくわくしてるね」
「そうか?」
「目がきらっきらしてるよ」
焦りではなく、弾む気分というべきか。自分の中に、まだこのような感情があったことが意外であった。
まずは左側の扉に入ろう。中にあったのは、ベッドが三つだけ。このベッドも見たことのない材質で作られておる。古代の遺跡とは思えぬほど、保存状態がよい。他に目につくものはなく、右側の扉へと場所を移した。
こちらにはベッドが二つ。その両方の上に、白骨化した死体が寝かされていた。毛髪がまだ残っておる。骨格から見るに、両方とも女性のようだ。
「たぶんこっちが女性用の寝室。向こうが男性用だったのかな」
「骨が残っておるということは、ここが闇の扉に覆われたのは、この者達が死んだ後ということになるか」
「うん。生きてるときにそうなったら、闇人になってるはずだからね」
「早く次の部屋行こうぜー」
ムクに急かされ、次の部屋を調査する。男性用の寝室の隣だ。……ここはなんの部屋であろうか。三つの小部屋に分けられ、その中それぞれに奇妙な形状の、椅子のようなものが並んでおる。椅子には蓋があり、空けると壺のような形状で、底には水が張られていた。
「トイレだね」
「……これが、か?」
「水洗トイレ。まだ水、流れるのかな」
麗冷が椅子の後ろにある突起を倒した。すると水が壺の中を洗い流すように噴出し、どこかへと吸い込まれていった。……あまりに未知の道具だ。しかし清潔であることは分かる。これによって排泄物を流し処理出来るのなら、衛生状態は良好を保てるはずだ。ムクが面白がって、何度も突起を倒して水を流したが、水は枯渇することなく、その度に流れた。この水はどこからやって来ているのだ……?
「床とか壁の中に配管が通ってるんだよ。地下水を利用してると思う。次の部屋に行こう」
女性用の寝室の隣に入ってみる。そこには棚が並べられ、大量の書物があった。百冊はあるか。こちらも保存状態は良好だ。数冊手に取って開いてみたが、全て記されているものを認識出来る状態であった。私とムクには読めぬが、麗冷ならば読めるのであろうか。
「……英語だけど、難しいなぁ……」
「ある程度の分析は可能か?」
「量もあるし、わたしの知らない単語だらけ。後回しにして、他を見てみよう」
次の部屋へ進む。さきほどのトイレの隣の部屋だ。ここには鉄製の、大きな道具が置かれていた。私の体よりもずっと大きい。細長い管が縦横無尽に壁を伝い、その中へと入り込んでいる。仕組みと構造が全く分からぬ。
「これがたぶん、発電機。これで電気を生み出してるの」
「これが壊れれば、ここは機能を停止してしまうのだな」
「便利だけど、反面脆くもあるよね。電気がなくなったら、なにも出来なくなっちゃう。ここには発電機以外、なにもないかな」
おそらく私が仕組みを覚えようとしても不可能な代物であろう。ハツデンキ、か。過去の人間達は、一体どうやってこの道具を生み出すに至ったのであろうか。麗冷に聞いてみたが、覚えていないということだった。勉強したことは覚えているが、その中身を忘れてしまったという。麗冷は生まれ変わる前の記憶を、全て覚えているわけではないようだ。
次の部屋、大量の書物があった部屋の隣を調べる。ここにも見慣れない道具が並んでいた。鉄製の小さな物体が、棚の中に大量に並んでいる。その表面には文字らしきものや、魚の絵が描かれているものがあった。他には木箱もあり、その中にも同様の小さな物体が入れられている。
「缶詰だね。この中に食べ物を入れて保管してるの」
「食べ物なのかこれー?割ればいいのかー?」
「まって、これ開けて大丈夫なのかな。消費期限いつのだろう。ていうか今がいつか分からないけど」
麗冷がカンヅメを回転させながら、そこに書かれた文字を確認する。私にも読める文字がないかと、いくつか確認してみたが、一つもない。
「消費期限、二○八○年か……。じゃあ少なくともそれ以前に、世界はこうなったってことか……」
「食べられそうかー?」
「やめた方がいいよ。ここにあるものには、手を付けない方がいい」
「では、最後の部屋に行くか」
我らは通路の突き当りにある扉を開けた。広い部屋だ。今まで見てきた部屋を全て合わせても、この部屋には及ばない。まず目につくのは部屋の中央にある、大きな円筒状の物体だ。それは無数の管が伸びる土台の上に設置され、透明で中に入っているものが見えるようになっている。今はなにも入っておらぬが、どういったものをこれに入れていたのであろうか。
「面白いなー。水みたいに透明だなー。向こう側が見えるぞー」
「これがなにか分かるか?」
「全然。なにかの実験に使ってたんだろうけどね」
周囲には箱のようなものが、無数に置かれている。規則正しく整列しており、よく見ると内部に小さな光があり、わずかに虫の羽音のようなものが聞こえる。
「コンピューターだね。この中に大量の情報を記録出来るの」
「過去の記録があるか?」
「どこかから見れるのかな。探してみるね」
「なー、こっちにあるこれ、なんだー?」
ムクが離れた場所から声をかけてきた。私と麗冷がそこにいくよりも先に、何者かの声が聞こえ、ムクは無言でこちらに逃げてきた。
「この記録がいつまで残るか分からない。誰かがこれを聞くとも思えないが、研究者の性かな。全て残しておくとしよう」
「鳴いた!なにあれ、音出た!」
「ボイスレコーダーだ。日本語だこれ。ガンジイ、分かる?」
「……分からぬ。所々聞き取れそうな部分はあるが、うまく認識出来ぬ」
「わたし、これ全部聞いてみる。二人は他になにかないか、調べてて」
ムクが見つけたのは、小さな箱型の道具だった。横に長い机があり、そこに用途の分からぬ道具が散乱しておる。ムクはその中の一つを起動させたようだ。どうやら言葉を記録として残せる装置のようだ。この言葉は、ニホンゴというらしい。私の部族に伝わっていた文字は、この言葉を文字にしたものだというが……。音で聞くのと、文字で読むのでは大きく違う。長い年月の中で、発音が変わったのであろうか。なんにせよ、麗冷に任せた方がよかろう。
それからしばらく、私とムクは何度も今まで見た部屋を往復し、細部まで徹底的に調査した。結果、新しく分かることはなかった。隠された部屋もなく、読める書物もない。無暗に置いてある道具を触るわけにもいかず、麗冷を待つのみとなった。
「……全部、聞き終わったよ」
「なにか分かったか?」
「……どこから話していいか、分からないや。信じられないことばっかりで。最初から要点をかいつまんで話すよ」
麗冷は消耗している様子だった。頭脳を酷使した結果の疲労であろう。休息を入れた後で構わぬと伝えたが、麗冷はこのままで大丈夫と、話始めた。
「普通はこういう情報って、もっと小出しにされるべきだと思うんだけどね。この世界の核心に迫る情報が、大量に押し寄せてきて、なんか疲れたよ」
「太陽がどこにあるか、それ以上のことが分かったのか?」
「うん。この宇宙は、そのうち消滅するらしいよ」
「ウチュウって、確かこの前レイレイが話してたなー。なんだっけ、ウチュウの中に、あたしたちがいるチキュウってのがあるんだっけ?」
「そう、宇宙っていう村の中に、地球っていう家があって、そこでみんなが暮らしてるの」
「じゃあ、村が滅びちゃうから、家も無くなって、みんな死んじゃうってことかー?」
「人間が滅びるどころの話じゃないよ。あらゆる動物も、植物も、全部消えることになる」
「宇宙の崩壊は、なにが原因で起こる?」
「エネルギー不足らしいよ。黒炎石がなくなったら、火をつけられなくなるのと同じ。この宇宙を支えているエネルギーが足りなくなって、そのまま崩壊に向かって行くんだって」
「それは、どれほど先のことになる?」
「正確な時期は分からないけど、わけわかんないくらい先の話みたい。何千億年も先の話」
「なんだそれー。誰も生きてないじゃんかー」
「……しかし、全てが無になる時が、いつか必ず来るというのか」
私の中の前提に、人間は決して滅びることなく、親から子へ、そして孫へ、命を繋ぎ生き続けていくものだという考えがあった。だが、そうではない。人間に限らず、あらゆる生命の火が消えてしまう時が来るというのか。
「わたしが生きていた時代、過去の地球で、それを突き止めた人たちがいた。そしてその人たちは、宇宙を崩壊させない方法を探し始めて、一つの結論に到達したの。『不可能』だって」
「……出来ることなどない、と」
「そう。だけど諦めずに、地球を守ろうとした人たちがいたんだって。たくさんの科学者、研究者が協力して、一個だけ実現可能な方法を導き出したの。それは『地球を高濃度のエネルギーで覆い尽くす』ことだった」
「そのエネルギーというのが……」
「そう、闇だよ。闇のエネルギー」
「お前の友、園子が言っておったな。闇のエネルギーとは、魂が分解されたものだと」
「うん。おびただしい数の魂が、ただのエネルギーに分解されて、この世界を覆いつくした。……太陽からの光を、遮断してしまうくらいにね」
……やはり、そうだったのか。
「太陽は、消えてなどいなかったか」
「太陽はわたしたちの上に、ずっとあったんだよ。毎日登っては沈んで、変わらずそこにあったんだよ。闇が濃すぎて、それが見えなくなっていただけだったんだ。……ガンジイ、わたしの予想、当たってたよ」
「……闇を晴らしてはいけないのか」
「このまま闇をさらに濃くしていけば、地球は宇宙の崩壊を乗り越えられるかもしれない」
「だが、地球が闇に覆われたままでは、宇宙が崩壊するより前に、人間が滅びてしまうであろう。黒炎石の枯渇がいつか必ず起こるのだ。あらゆる光の消えた世界の中で、人が生きていくことは不可能だ」
「そうなんだよね。だからそれを見越して、生きていく術を探っていた人たちがいたの。この研究所の人たちみたいにね」
「ここにいた者達は、なにを目指しておったのだ?」
「ダンデ」
「……なに?」
「人間と植物の融合だよ。骨になってた女性が二人いたでしょ。あれ、融合に失敗したんだって。残った男性のうち二人は、骨すら残らなかったって。この記録を残してくれた最後の一人は成功した。ボイスレコーダーに記録を残してくれてた人だよ。その人自身が、植物と融合したわけではないけど、自分の体の一部と、植物を融合させることが出来たんだって」
「その末裔がダンデ、なのか」
「地球の別の場所では、動物との融合を目指した人たちもいたって。闇人に勝てるくらいの、強靭な肉体を持つことを目指した人たちもいた。もう分かるでしょ?」
「獣人がそれか。……だが、獣人やダンデのような存在も、完全な闇の中で生きていくことは不可能であろう」
「だろうね。なんにせよ、ここに残されていた情報は、これで全部だよ。……ガンジイ、大丈夫?」
「……もう、終わりだ」
「なにが?」
「消えてしまったではないか……」
この世界を闇で覆わねば、宇宙の崩壊と共に、地球が滅びる。
だが世界が闇に覆われたままでも、人間はいずれ必ず滅びる。黒炎石の枯渇がいつか必ず起こる。太陽を見つけ闇を晴らし、光をこの世界に取り戻せば、人間は未来への入口を開くことが出来る。……そう、信じていたのだがな。
人間の行く末は、結局滅びなのか……。ならば、ならば……。
希望が、消えてしまった……。
「行こう」
麗冷がそう言った。その言葉と表情には、一切の迷いが無かった。
「難しく考えることなんてないよ。ね、ムク」
「お、話終わったかー?ほとんど分かんなかったや!あははは」
「これだよ、園子が言ってた東を目指すための道具。ただの方位磁石だったよ」
……丸い容器の中で、針が浮かび一定の方向を指し示しておる。不思議な道具だ。
「結果的に滅びを避けられないからって、足を止める理由があるの?」
「……歩み続ける理由があるのか?」
「悔しいから。だからわたしは歩き続けるよ」
真っすぐな眼差しだ。……そうだ、諦めるわけにはいかぬ。友に誓ったではないか。必ずこの世界に、光をもたらすのだと。この子を見習い、老いの中でこの身に張り付いた、雑念を振り払わねば。己の原点を思い返すのだ。
「あぁ、そうだ。行こう」
我らはベッドにあった二人分の骨を、ヒマワリ畑に埋葬し、東へと旅を続けることとした。出立の前に、ダンデに会っておこう。これほどの情報を得られた礼を伝えねばならぬ。
麗冷とムクは、笑いながらヒマワリの種を袋に詰めておる。……お前達がいなかったのなら、私はここで足を止めていた。
「麗冷よ」
「なに?」
「太陽は、消えておらぬ」
「うん?うん、そうだけど?」
この世界に光をもたらすものは、今ここに、私と共にいる。
次回へ続く……




