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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第四章 太陽の民

第四章 太陽の民


 ガンジイは村人たちに、オクゼツを紹介しようとしている。根は悪人ではないとガンジイは彼を評しているが、表面上の人間性に問題がある人物を、この村に入れていいものだろうか。これから一致団結しようという集団の中に、不和をもたらすであろう人物を放り込むのは怖い。わたしとしては、あの人はやめておいた方がいいと思うのだが……。

 目の前に座っている女性と、獣人の男性は家の外に出て、ほんの数分後に戻ってきた。この二人が村の運営を相談し、実行している村長の立場をしているのだろう。

「ご提案はありがたいのですが、協力者は入れるべきではないと結論を出しました。本来であれば村のみんなで相談した方がよいと思うのですが、今はみんな浮足立ってしまって、正常な議論は出来なさそうですので」

 それを聞いてほっとした。村人たちがそれを歓迎していたら、どうやって説得しようかと、本気で悩まなければならないところだった。

「よいのか?」

「この村にいるのは、みんな弱い人です。今までずっと、強い人にぶら下がって生きてきた人たちです。それをこれからも続けてはいけないと思うのです。みんなで協力し合って、強くならないといけません。大きな力を持つ誰かに頼るような生き方は、もう捨てないといけないのです」

 この村は変わろうとしている。その変化を為すのは、外部から入ってきた協力者ではなく、自分たち全員なのだと。

「では、我らはもう去るとしよう。一度戻り、黒炎石を持ってくる。しばし待っておれ」

「お待ちください、そちらのお嬢さんに、贈り物を差し上げたいのですが」

「わたしですか?」

「これから山を越えるのでしょう?その服では怪我が心配です」

 たしかにそうだ。わたしが来ているのはワンピースに、革靴だけ。腕も足も露出していて、山歩きをするには軽装が過ぎる。

「自分の仲間の皮でよろしいか?しかし申し訳ないが、そちらのお嬢さん分しか皮が残っていません。一人分だけでよろしければ、になりますが」

「私は木や枝で肌を痛めることはない。この子の分だけ頼もう」

「では仕立てに時間をいただきたい。あなたが戻ってくるまでにつくっておきましょう」

 服に使う皮は、獣人のものだという。牛型の獣人の仲間が死んでしまったときに、遺言でその皮をなめして大事に取っておいたらしい。ただ死んで埋められるより、誰かのために体を使ってほしいと、本人からの申し出だったそうだ。

「……いいや、私も服が出来るまでここで待つ。この子を一人にするつもりはない」

「大丈夫だよ。この人たちは信用出来るよ」

「それでも心配なのだ。すまぬが、気を悪くしないでもらいたい」

「いえ、当たり前の警戒です。ではなるべく早く、仕立てましょう」

 獣人男性が何人かの女性を連れてきて、わたしの体型を調べていった。ガンジイは心配しすぎだとも思ったが、今まで生きてきて、こんなに私を心配してくれる大人なんていなかったから、その心遣いは本当に嬉しかった。

 服が出来上がるまでの時間、わたしは気になっていたことを調べるために、ガンジイと一緒に村の中を歩いて、様々な人に質問をしてみた。わたしの容姿がどう見えているか、だ。

「実はわたし、少し特殊な種族なんです。人によって、違う容姿に見えるんですよ」

 適当にそんな嘘をついて、その人にはどう見えているかを探ってみる。返答は十人十色だった。全員が全く別の容姿を答えたのだ。しかし全員の返答に共通点もあって、わたしの体型、額に目があること、そして着ている服が違って見えていることはなかった。その三点はガンジイの答えと一緒だった。

 ……しかし、その原因については、やはりなにも分からなかった。わたしの体には、どんな秘密があるのだろうか。

 服はすぐに出来上がって、旅で使ってほしいと革製の袋まで用意してくれた。ガンジイと同じように、ズボンの腰部分に取り付けられるようになっている。革製の丈夫なジャケットとズボンだ。元々着ていたワンピースは、その場で裁断して肌着に使うことにした。

「黒炎石を届けていただくのは、明日で構いません。ここからすぐに離れるわけではありませんので」

 そう言われ、わたしたちは一旦村を後にした。今日はたき火に戻って、明日ここに寄ってから山へ向かおう。

「オクゼツのおかげで、悲劇が希望に変わったね。未来の可能性が生まれたよ」

「いずれまた、奴は現れるだろう。村人たちが感謝していたと伝えねばならぬ。奴はもっと、背筋を伸ばした生き方をするべきだ。そのきっかけになればと考えたのだがな。武力に限っては常人を超えているが、奴もまた弱い者の一人だ。しかし村の代表が奴を入れないと判断した以上、それに従うべきであろう」

「そんなにオクゼツのこと気に入ってるの?」

「村の生き残りがいたことは、久方ぶりに心が明るくなる出来事だったのでな。しかし奴を甘やかすつもりもない」

「他の生き残りはいないのかな?」

「いるなら会うことになるだろう。それだけだ」

 どっしりと構えた生き方だ。ガンジイはずっと一人、太陽の伝承を追い旅をしてきた。その中で形成された処世術なのだと思う。よい意味で、この先にあるものに希望を持たないこと。子供の頃、楽しみにしていた遠足が、雨天中止になってひどくガッカリしたのを覚えている。明るい未来があることを、自分の中で確定させると、それが裏切られたときに大きな精神的ダメージを負うことになる。

 今目の前に現れたもの、常にそれと向き合って生きていくことが肝要なんだ。かといって計画や目標を立てずに、無鉄砲に行動するのもよくない。そのあたりのバランス感覚が、この闇の世界を生きていくうえで大事になってくる。

「そういえば、ムクとどうやって合流しよう」

「私の予想だが、あの子はすでにたき火で鹿を焼いておる」

 そして、その予想は当たった。たき火まで戻ると、ムクは鹿を綺麗に分解し、内臓肉を焼いているところだった。

「鹿は心臓が一番うまいぞ!内臓はすぐ焼いて食わないとな!」

「ムクって、どうやって動物捕まえてるの?罠なんて持ってないでしょ」

「追っかけて、しがみついて、ふんーって」

「そっかぁ」

「私と麗冷は、明日山を越えるつもりだ。お前はどうする?」

「一緒に行く!」


 こうして軽いノリで、ムクが正式に仲間に加わった。ムクにはそもそも、大きな目的というものがない。わたしやガンジイのように、太陽を探しているわけでもないし、旅を通して成長したいということもない。わたしたちと一緒にいたいから、旅に加わっただけだ。わたしはもっと強くなりたいと、妹やロイさん夫婦の件から願うようになったが、ムクはすでに超人の域に到達している。

 強いてあげるとするなら、その強力すぎる力の使い道を覚えることか。ガンジイはそれをムクに教えたいと考えているようだし。彼女の度を越えた強さは、ただ生きるためではなく、もっと大きな目的のために使われるべきだとは思う。……が、ムクがそんなことを考えるようになる日が、果たして来るのだろうか。ムクがこの旅の中で学ぶべきことは、精神性の成長なのかな。つまり子供から、大人になるということ。

「ガンジイ、わたしってまだ子供だよね」

「お前がそう考えているなら、そうなのであろう」

「わたし、生まれ変わる前も含めたら、もう三○歳なんだけど、全然そんな気がしないよ」

「……私にも、そうとは思えぬな」

「大人になるためには、知識を頭に詰め込むだけじゃ駄目なんだよ。知恵ばっかり付けて、そこに実際の体験が伴ってないなら、大人になったふりをしているだけの、子供のまんまなんだろうね。色んなことを経験した人ほど、早く大人に成長するんだよきっと。ね、ムク」

「はんほぇ?」

「恐らく『なんて?』と言っているのであろう」

「ムクもこれから一緒に、いろんなことを経験していこうねって話」

「ほむほほほほり、ふぇいふぇいおひはふいはほ」

「ガンジイ、今の聞き取れた?」

「恐らく『そんなことより、レイレイも鹿食いなよ』と言っておる」

「なんで分かるの?」

 ムクは焼いた鹿肉を、わたしの口にぐいぐいと詰め込んでくる。動物の肉をお腹いっぱい食べられることなんて、この世界では通常ありえないけれど、この鹿はムクが捕ってきたものなのだし、今日は彼女の優しさに甘えさせてもらおう。

 満腹になったわたしとムクは、明日の山越えに備えてゆっくりと睡眠を取った。翌日目を覚ますと、ムクが姿を消していた。ガンジイに聞くと、起きてすぐに食料を捕まえにいったらしい。怪物じみた体力だ、うらやましい。

 わたしとガンジイは村へ向かい、黒炎石を届け、帰り際村人たちに、感謝の言葉を雨あられのように浴びせられた。どうやらこの人たちは、わたしたちが村を救ったのだと勘違いしているようだ。この称賛はオクゼツが受けるべきものなのだが、わざわざ説明することもないか。

 ガンジイは旅の助言なんかは一切残そうとせず、ただ幸運を祈るとだけ言って村を出た。強くなろうとしているこの人たちの覚悟に、水を差すような真似はしたくなかったのだと思う。村を出て少し歩いたところで、ムクと合流した。たいまつの火を目印に走ってきたという。どうやらガンジイから事前に、村の近くで合流しようと話をしていたようだ。

「食料は捕まえられたの?」

「鹿なら捕まえられそうだったんだけど、近くに子鹿がいたの見つけてなー。逃した。子供の前で、お母さん捕まえるのは嫌だったからなー。お腹減ったなー」

「山の中で食料を見つければよい。出発しよう」

 さぁ、これから山を越えよう。目指すは山の向こうにいるらしい、太陽の民という人たち。危険な集団と石板に記されていたが、どんな人たちなのだろう。あからさまに太陽という言葉が付けられている以上は、接触してみるしかない。

 石板に書かれていた進路へ進むと、しばらくして山の麓へ辿り着いた。どれほど高い山なのか、見当もつかない。闇が濃くて頂上が全く見えない。うっそうと茂る草木の中を、縦に並んで進んで行く。ムクが先頭に立ち草木をかき分け、わたしが真ん中。後ろにガンジイだ。明かりはガンジイが持っているたいまつだけ。真っ暗な森の中は、子供の頃の暗闇への恐怖を思い出させるようだったが、ムクがいてくれるおかげで、だんだん登山遠足のように思えてきた。

「山の中にはおいしいものがいっぱいあるからな!ほら、この木の皮はうまいぞ!」

 ムクはどんどん進みながら、食べられる野草や、木の実を食べつつ袋にも放り込んでいく。木の皮を食べるのは初めてだったが、わずかにシナモンのような香りと甘みを感じた。中々おいしい。

「じいちゃん、これクルミの木だ!登って取ってきていいよな!」

「クルミは備蓄がきく。持てるだけ取っていこう。麗冷は少し休むとよい」

 しばらく山登りを続け、体がしんどくなっていた。ガンジイはわたしに気を遣って、理由をつけて休憩時間を設けてくれたのだろう。ガンジイやムクのように強くなるのは、わたしには無理だろう。だけど最低限、足手まといにならないくらいの体力はつけたい。

「水はまだあるか?近くに沢があるようだ。水流の音が聞こえる」

「大丈夫、まだあるよ。もう行こう、わたしはもう歩けるよ」

「子よ、体に過酷な負荷をかけることは、鍛錬にはならぬ。適度な負荷が大事なのだ」

「……もう少し、休ませて」

「レイレイ、クルミ食え!もう袋に入らないや!胃袋に入れていこう!」

 ムクは握力でクルミの殻を砕いて、実をわたしにくれた。ムクはずっと元気で、なにかしら話続けている。元気づけられるし、野生動物が寄ってこないという利点もある。野犬に噛まれて感染症にでもかかったら命に関わるし、森の中では闇人の他にも、警戒しないといけないことが多い。

 その後登山を再開し、怪我なく山頂へと辿り着いた。合計で六時間くらいはかかったと思う。ガンジイに「正直に教えてもらいたいけど、わたしがいなかったらどれくらいで登れてた?」と聞くと、三時間程度ということだった。わたしのせいで、倍の時間がかかったということか……。

「山頂には湖があると石板にあった。足元に気をつけよ」

 闇視で山頂の様子を確認すると、火口湖がそこにあった。闇視で見ることの出来る範囲の先まで広がっている、それなりに大きな湖のようだ。

「私は少し下山し、沢の水を汲んでこよう」

「え、この湖は駄目なの?」

「煮沸すれば飲めはするが、この湖は雨水のみが水源であろう。循環の少ない水は、汚れが多い。口にするなら綺麗な水の方が安全だ。水浴びになら使ってもよかろう」

 ガンジイはそう言い、山を下りて行った。今がチャンスだ、汗を流そう。わたしとムクは服を一気に脱ぎ、湖で体の汚れを落とした。ついでに肌着も洗っておこう。明日までには乾いているはずだ。

「ムクの体、すっごいね」

「すっごい?」

「でっかくて、すっごい」

「レイレイは小っこいな!全体的にな!つるつるだな!」

 余計なお世話だ。わたしは卑猥な話をしているわけではなく、ムクの筋肉のことを言っている。裸を見てあらためて分かったが、ボディビルダーのような肉体だ。これだけの筋量を維持する為には、たんぱく質をそれだけとらないといけない。ムクは狩りが上手いし、鹿一頭を丸ごと食べてしまえるほどの、強力な消化器官を持っている。たくさん食べることが出来るのも、才能の一つだ。わたしは食が細い。わたしというか、みんながそうだ。この世界ではみんな、基本的にお腹をずっと減らしているから、胃袋が小さいのが当たり前だ。ムクのように、暗闇の中を走り回って、動物を捕まえるなんて、本来ありえないことだ。

「……レイレイの体、綺麗だよなー」

「そう?」

「母ちゃんみたいでなー。すらっとしててなー。いいなー」

「わたしはムクみたいになりたいよ」

「えー、レイレイはそのままの方がいいぞー」

 ムクがこんなことを言うのは意外だった。生きてきた中で、屈強な体になっただけで、本当はすらりとした体でいたかったのかな。ムクのお母さんってどんな人だったのだろう。わたしの親とは違って、立派な人だったのだろうなぁ。

「髪もさらっさらでなー。いいなー」

「前も言ってたね。わたしの髪綺麗って」

「あたしの髪、ごわごわだもんなー」

「でも、ムクらしくていい髪だよ。かっこいい感じ」

「触っていい?」

「髪?」

「全部」

「だめ」

 驚いて反射的にそう答えた。全部?全部ってなに?わたしの体、上から下まで全部触りたいってこと?……詳細を聞くのはやめておこう。ろくな話にならない気がする。ムクもそれ以上のことは言ってこなかった。


 わたしは湖から上がり服を着た。ムクはぷかぷかと湖に浮かんで、のんびりと体を冷やしている。ガンジイがそろそろ帰ってくるよと伝えたが、ムクは気にする様子もなく、水とたわむれている。この人あれだ。裸を人に見られても平気なタイプだ。

「猪を仕留めた。今日は食料が存分に確保出来た」

 ガンジイが帰ってきて、遠くからそう声をかけてきた。まずい、ムクはまだ裸だ。急いでムクを呼び、服を着せる。本人が気にしてないからって、うら若き乙女の裸体を男性に見せるのはよろしくない。

「ガンジイ、こっち見たら駄目だよ!ムクが着替えてるから!」

「……奇妙なものが見えるな」

「奇妙!?ムクになんてこと言ってるの!?」

「山の麓に、奇妙な光が見える」

 ムクに服を着せガンジイのところに行くと、確かに山の麓に光が見えた。最初は二、三個の光だったが、どんどん数が増えていく。……強い光だ。黒炎石の炎でも、白光石の光でもない。もっと明るく、まるで大都会の夜景のようだ。でも電気よりもっと明るい。あんなに強力な光を発生させる方法、昔の地球にもなかったはず。

「今までああいう光、見たことある?」

「私は無い」

「あたしもないなー。山のあっち側に行ったことないしなー」

「太陽の民かな」

 わたしがそう言った瞬間、光の爆発が起きた。その一瞬、あまりの光量で山の麓に昼が訪れたようだった。その光は流星のように数秒の輝きだけを見せつけ、その後には闇だけが残された。光なんて最初からそこになかったかのように、この世界らしい暗黒に染まってしまった。

「……今の、すごかったね」

「凄まじい光だ。太陽の民というのは、あの強烈な光を発することから、そう名付けられたのやもしれぬな」

「明日はあそこに行くんだな!すごかったなー!ぴっかぴかだ!」

「いや、明日は一度麓へ下り、さきほどの光がまた発生するのか確認する。今日は疲れたであろう。食事をしっかり取り、体を休ませよう」

 疲れているのはわたしだけだと思うけど。登山は登りよりも、下山の方が大変だと聞いたことがある。ガンジイの言う通り、今日はしっかり栄養を取りすぐに寝よう。まずはムクを見習って、ガンジイが捕って来てくれた猪のお肉を、出来るだけ食べておく。……全然食べられなかった。疲れていて食欲がなかったのもあるが、どうしても胃の限界値というものがある。無理に食べ過ぎるのも体に負担をかけてしまうだろうし、わたしが今出来るだけのことをこなしていこう。

 そして翌日、わたしの体は案の定、筋肉痛で悲鳴を上げていた。幸いだったのは、疲労感は残っていなかったこと。昨日は横になってすぐに眠ることが出来た。しっかりとした睡眠は、ちゃんと体を回復させてくれたようだ。筋肉痛なんて、歩き続けていればそのうち感じなくなるし、気にするようなことじゃない。不思議だったのは、下山の方が登りよりもずっと楽だったことだ。山道の歩き方を体が覚えたのだろうか。四時間半ほどで山の麓まで下りることが出来た。昨日よりも大分早い。上出来だろう。

 わたしたちは当初の予定通り、下山後にたき火をつくり、今日はこのまま休むことにした。そしてこの日も、昨日と同じように、強い光が遠くにぽつぽつと現れ始めた。

「今日は、もっとちゃんと見ておかないとね」

「なにか分かればよいが」

 そしてこの日も、光の爆発が起きた。だが、その様子をしっかりと見ることは出来なかった。驚くことに「まぶしい」という現象を、この世界で体感することになったのだ。わたしは地球にいた頃にその感覚を知っていたが、ガンジイとムクは初めてのことだろう。ムクは目がちかちかしているようで、しきりにまばたきしたり、目をこすっていた。

「反射的に目を閉じてしまった。光とは度が過ぎると、目に悪影響を与えるものなのか」

「あそこ、近づいて大丈夫なのかな」

「あの光が発生するのが、日に一度だけなのであれば、発光後に行けば問題なかろう」

「今日行く?」

「いや、今日はここで様子を見る。昨日は一度しか発光しなかったが、今日もそうとは限らぬ」

 結果から言うと、その日に発光は起きなかった。それが起きたのは、翌日になってから。わたしはここで一つミスを犯した。闇視で光の爆発を見ていればよかったのに、それをしなかった。なぜ頭の中からその考えが抜け落ちてしまっていたのだろう。闇視なら目を傷めることはない。魂だけなのだから。闇視は闇の中を見渡せるものだという固定概念が、いつの間にか染みついてしまっていた。

 しかし百聞は一見に如かず、百見は一触に如かずという言葉がある。遠くから眺めるより、現地に行ってみた方が、得られる情報は多いはずだ。気持ちを切り替えていこう。わたしたちは光の発生した地点を目指し足を進めた。もしも二度目の発光が始まってしまったら、背を向け目を手で覆い、地面に顔を伏せる。あくまでただの光だ。直視しないようにすれば、危険はないはずだろう。

 しばらく歩くと、花畑が現れた。小さな可愛らしい花が、絨毯のように敷き詰められ、気持ちよさそうに風に揺られている。たくさんの種類の花が咲いていたが、わたしに分かるのはタンポポとか、シロツメクサくらいだ。花の名前について勉強したことはない。ここを歩くのは、少々気が引ける。なるべく花は踏まないようにしよう。

「花の他には、何もないようだが」

「ムクレーダーで、なにか分からない?」

「むくれーだー?」

「音の反射のやつだよ」

「もう少し先に行ったら、岩が転がってるくらいだなー。レイレイれーだーはどうだー?」

 闇視での周囲確認はとっくにしているが、ムクの言った通り、少し大きめの岩があるだけだ。この場所から、あれだけの光が発生したとは思えない。なにか秘密があるはずだと思うが……。

「……なにか、呼吸音のようなものが聞こえる。ここで待っておれ」

 ガンジイレーダーがなにかを捉えたようだ。ガンジイは手斧を持つと、一番近くにあった岩まで近づいていき、しばらくそれを注意深く観察していた。わたしはその間、なんとなく足元に咲いていた、タンポポの花を指でつついていた。わたしがよく知る、地球のタンポポと同じだ。これもそのうち綿毛になって、どこかに飛んでいくのかな。

 ……地球の花と、同じ?今まで考えた事がなかったが、なぜこの世界に、植物は普通に生息しているのだろう。太陽の光がないこの闇の世界の中で、なぜしっかりと生きることが出来ているのか……。

「これは岩ではない。生物だ」

 ガンジイがそう言い、手招きしてわたしとムクを呼んだ。ガンジイが指差した部分を見てみると、岩に指一本分くらいの太さの穴が開いていて、そこから規則的に空気が出入りしているようだった。呼吸をしている。岩に見えるこれは、生きている。サンゴ礁のような生物なのだろうか。一見すると無機物のように見えるが、れっきとした生き物だ。

「周りにある岩、全部生き物なのかな」

「呼吸音が小さく判別が難しい。風と花の揺れる音にかき消されてしまう」

「じゃあ見てみればいいじゃん!てきとーにその辺の岩、全部見てみよう!」

 わたしたちは周りに転がる岩を十個見て回ったが、その全てが生物だった。どうやら周囲に転がるこの岩は、全てそういう生き物のようだ。この岩が光っていたのだろうか。岩と会話が出来るわけもなく、それを確かめる方法がない。

「この岩寝てるのかー?起こしてみるかー?」

「叩いちゃだめだよ」

「じゃあこの穴に、お花一本挿し込んでみるか?びっくりして起きるかも!」

「ならぬ。未知の生物を、刺激することは避けるのだ」

 ガンジイが正論でムクを止めた。お花を挿すのは少し面白そうだけど、やめておいた方がいいだろう。だけど実際問題、なにかしらの方法で事態を前に進めないといけない。このまま情報がなにもないままでは、ここまで来た意味がなくなってしまう。だけど、具体的に出来ることが思い浮かばない。

「足音が聞こえる」

「向こうからなんか来たぞ」

 ガンジイとムクが、同時になにかの接近を感知した。ありがたいことに、新情報が向こうからやって来てくれたようだ。闇視で確認しにいくとそこには、やせ細った謎の生物がいた。こちらに向かって、ゆっくりと歩いてきている。人型の生物だが、身長が高く、三メートルくらいはある。しかしその体は貧弱で、浮き出た骨と、皮だけで形成されており、軽く小突いただけで死んでしまいそうだ。

「武器は持ってないよ。ていうか、弱々しすぎて心配になる」

「警戒を怠る理由にはならぬ。注意せよ。石板には、太陽の民は危険だと記されていた」

 わたしたちは、謎の生物を待ち構えた。ガンジイとムクは、いつ戦闘になってもいいように、武器やこぶしを構えた状態だ。本来ならこちらが武器を持っていることを、あからさまに相手に伝えることは悪手だろう。しかしケースバイケースというものだ。相手が人間なら会話から始めるという選択肢があるが、その正体が不明であるなら、突然戦いが起きてもおかしくない。

 謎の生物は、ゆらゆらと体を左右に振りながら、わたしたちの前に立った。この生き物は一体なんだろう。たいまつを持たず、服すら着ていない。見た限りオスでもメスでもない。その顔は頭蓋骨に皮膚を張り付けたようで、不健康極まりない造形だが、不思議と柔らかな印象を与える顔つきをしていた。頭髪やひげは生えているが、それらにもみずみずしさというものがない。火であぶってちりちりになったような毛髪だ。

 謎の生物は、こちらが武器を出しているというのに、全く警戒するそぶりを見せない。そして唐突に、一言こう発したのだ。

「太陽は、ここに、あるよ」


次回へ続く……

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