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男子NGの美少女と秘密の交換日記  作者: 佐藤瑛斗
第1章 あなたを知りたくて
5/7

5話 過去と違って

==========================================

 私がこの秘密基地を持つことになったのは今から1ヶ月前のGWが終わったあたり。私は放課後、いつものように図書室に向かっていた。扉を開け、本の香りを吸ってから、私は窓際に並べられている左右に仕切りのある机に腰をかける。

 「ふぅ~さて、お待ちかねのアレを……。」

 テンションが上がっているのか独り言を呟き、私はカバンからブックカバーがかけられた1冊の本を取り出す。裏面のあらすじと表情裏の作者のコメントを読んだ後、物語を読み始める。買ったばかりの本の香りとページをめくる手触り。それらが私の期待を膨らませる。ページに描かれているキャラのセリフと表情はガラス細工のように澄んでいて、私の心に生きたキャラがいるかのように感じさせる。

 「ん~~。」

 気づいたら、笑みがこぼれていた。でも、しょうがない。新刊が出ると聞いて、待ち遠しく日々を過ごし、やっと新刊発売日の今日がきたのだ。なので、しょうがない。うん、しょうがない。誰か見られる訳でもないので私は噛み締めるように新刊に目を通す。

 「やっぱり、面白いな〜〜。」

 「何を読んでるの?鈴川さん。」

 「!?お、小野寺先生!?これはその……。」

 「隠さなくて良いよ。もう、見ちゃったから。少女漫画よね?」

 「………はい。ちなみにいつから見て……。」

 「1人でニヤニヤしてるところからかしら?」

 「……………。」

 見られてしまった。しかも、小野寺先生に。小野寺先生は古文担当のおばあちゃん先生。穏やかな雰囲気で人気なのだが私の所属する図書委員の顧問や学年主任でもあるのでその小野寺先生に見られてしまったのはかなりまずい。指導され、漫画を没収され、最悪、保護者に連絡を………。

 「すいませんっ!!今後はやりませんのでどうか、この漫画だけは……。」

 「良いのよ。別に怒ろうとはしてないから。」

 「え、どうゆうことですか?」

 「そのままの意味よ。ちょっとおしゃべりしたいなってだけ。」

 私は状況が理解できず、数秒固まってしまった。一般的に考えて、私が校則を破った行動を取ってしまったので怒られるのは当然だと思っていた。しかし、目の前の小野寺先生は夕日の差し込む窓に少し目をやってから、私に向き合って、話し始めた。

 「もちろん、校内で漫画を読むのは悪いことよ。でも、普段の鈴川さんを見ていたと何か理由があるんじゃないかって思ったの。それを聞いてから怒っるかどうか決めても遅くないかなって。」

 先生の表情は優しさに満ちていて、聖母のようだと感じさせる。私はそんな表情をする先生に親友以外に話していない私の過去をゆっくりと水が滴るように話し始めた。

 「実は……私、小さいころから少女漫画に好きで。でも、親の教育方針で買って貰えなくて…。だから、少女漫画を読んでる人が……羨ましくて、憧れてて。」

 そこまで話して私は顔を伏せて一旦中断する。他人に話さずに秘密にしていた私の過去。話し慣れていないせいで相手がどう思っているのか。どんな表情をしているのか。どうしても不安になってしまう。再度ゆっくりと小野寺先生の顔を見る。先生は変わらず、聖母のような表情で話し詰まってしまった私を催促することなく、ただ待っている。それに安心した私は1つ深呼吸をすると話を再開した。

 「だから、お小遣いとかお年玉を使って、買ってみたんです。その時の感動と衝撃が忘れられなくて、また、秘密で買って。でも、家には置けないから親友の碧海さんの部屋に置かせて貰ってたんです。でも、碧海さんから部屋に置くスペースがもうないから勘弁してくれって言われて…。でも、新刊は買いたくて……。悩んだ結果、親にバレない量を買って、親にバレないように放課後に買った漫画を図書室で読んでた……。そんな感じです。」

 ザックリと先生にそう伝えた私は顔を伏せて、身構えていた。校則を破るくらいなら少女漫画を買うのを自制するのが最善のはずだ。高校生として。でも、私はそうしなかった。全て、私に非があるので怒られるのだろう。そう、思っていたが小野寺先生は「うふっ」と笑うと明るげに言った。

 「なんか、安心したわ。」

 「……??どうゆうことですか。怒らないんですか?」

 疑問符を浮かべる私に先生は言う。

 「いやね、鈴川さん。あなた、普段から真面目だから先生からも評価されてるんだけどね…。私は正直、少し不安だったの。学生らしく見えなくてね。でも、今の話を聞いたら、学生らしく見えて安心したの。鈴川さんも乙女心を持った女子高校生なんだって。」

 「……っ?!」

 なんだか、予想の斜め上すぎる反応で混乱と羞恥で頬が熱くなるのを感じる。そして、そう先生に認識されたということはさっきの私が1人で笑ってしまったのはどう思って……。

 「だから、少女漫画を読んでた鈴川さんは可愛いなって思ったのよ。でも、予想以上にストーリーが甘々で胃もたれしちゃったわ。」

 「……っ?!ア、アリガトウゴサイマス??」

 もう、何がなんだか分からなかった。少なくても、この出来事が黒歴史になることだけは理解できた。そんな感じでパニックになっている私に先生は何かに気づいたで質問した。

 「鈴川さん。さっき碧海さんの部屋にもう置けなくなったからここで読んでたのよね?」

 「はい、そうですね。」

 「で、買った本は親御さんにバレないようにあなたの部屋に隠してるの?」

 「はい、現状は……。」

 そこまで聞いたところで先生は何かを察したようで額に手を当てて、言った。

 「鈴川さん…。それって、親御さんにいつかバレるわよ……。」

 「はい……。なので、今までに買った本を売って減らそうと考えています……。随分前から買ってきたのでいつかその時がくるだろうなとは思っていたんですけど……。やっぱり、手放せなくて……。」

 そう、いずれそうなると分かりきっていた。なのに、それから目を逸らして、買い続けた結果がこれだ。心苦しくてもやらなければいけない。今後の断捨離について思考を巡らせていると先生は何かを思い付いたようで私に話しかけた。

 「鈴川さん。良かったら、私と取引しない?」

 「取引ですか?」

 教師の口から出てこないであろう言葉を言った小野寺先生は笑顔でニコニコと続ける。

 「実はね、図書室の隣の準備室の物品整理で広いスペースができたのよ。当分、その部屋は使わないからそこの本棚にあなたの漫画を好きなだけ入れていいわよ。」

 「え、いいんですか?!」

 「えぇ、いいわよ。でも、その代わりに私もあなたの漫画を少し読んでもいいかしら?実は私も読んでいた時期があってね。あなたの漫画を今日読んでまた、読みたくなっちゃてね。」

 「はい、構いませんけど……。その……良いんですか?本当に?」

 「良いわよ。私以外の先生は誰も使わないからね。あ、でも、他の生徒を入れてはダメよ。」

 「〜〜ありがとうございます!!」

 こんなことが許されても良いのだろうか?でも、小野寺先生は了承してくれた。この恩を私は忘れることは決してないだろう。それから、私は次々と本を持ってきては本棚に入れて。日がたつにつれて増えていく様子を見て、先生がちょっと引いてしまったり。時々、先生と読んだ漫画の感想について語り合ったり。そのお供で先生がコーヒーやお菓子を用意してくれたり。このようにして、私にとっての秘密基地。私の新しい日常がここに生まれた。

==========================================

 「なるほどね。ありがとう鈴川さん。正直、意外すぎてびっくりしたよ……。」

 「そうですよね……。」

 説明してくれた鈴川さんは申し訳なさそうに軽く礼をする。しかし、俺的には確かに意外ではあったが話を聞いて、鈴川さんらしいなと思ったのも確かで、彼女の人当たりの良い面はそこからきているのだろう。女子限定だが……。でも、今は俺にも少し砕けた様子で接してくれている。彼女との交流はまだ短いがそれでも鈴川さんは人当たりが良いなと感じるには充分だった。そこでふと、疑問が浮かぶ。

 「あの、俺はここに入っていいの?小野寺先生に許可貰ってないけど……。」

 「あ、それについては大丈夫だよ。鈴川さんがと一緒なら大丈夫だろうって。」

 「あ、あはは。そうなんだ。よかった……。」

 いくら、優等生である鈴川さんからの頼みだとしても許してしまっても良いのだろうか?鈴川さんにどれだけの権力があるのか気になってしまう。

 「いや、秘密基地についてもだけど!本題はね!!」

 彼女は場を仕切り直すと視線をそらし、顔を俯いてぼそりと呟くように言った。

 「あ、あの、佐々木君。わ、私と、と、友達になって、ください……。」

 「え?」

 あまりにも小さい声でお願いされたのは「友達になってください」。男子NGの高嶺の花の鈴川さんと庶民の俺が?でも、今までの鈴川さんとの交流を経た今はそんなことはどうでも良かった。彼女は本当は人当たりが良くて、少女漫画が好きで、真面目で、ちょっと不器用な一面もあるそんな普通の女子高生なのだ。それを知った今、鈴川さんとは釣り合わないだろうと勝手に持ち上げ、遠ざけるのは失礼だ。

 「ありがとう。鈴川さん。俺でよければ、これからも宜しくね。」

 「っ……!ありがとう……。」

 彼女は俯いたまま、囁くようにお礼を言った。表情は窓からの夕日によって、よく見えないが彼女の顔が紅くなっているように見える。それが夕日によるものなのかどうかは分からなかった。

 

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