町に出ても不運に見舞われる
竜人族のペンダントを手に入れたから約2年が経った。僕は3歳になり、歩けるようになって喋れるようにもなった。あの駄神がチート能力さえくれていればする必要はなかったのに、あいつのせいで異世界に転生してまで勉強をする羽目になったのだ。
あの後すぐに中央から僕たちの領地に官人がきて、ウィルとエニシャの仕事はある程度落ち着いた様だ。官人のダストは仕事が良くできるようで、僕たちの領土は大きく発展し、僕たちのお家も大きな家に建て替えた。まさに西洋の貴族の家という感じである。
また、ストーリーと同じように僕が2歳になったのと時を同じくして領地の近くに初級ダンジョンが発見された。そのダンジョンは初心者の冒険者が最初に力をつけるのにぴったりである。その影響を受けて、領地内に冒険者ギルドや商業者ギルドなどが建てられて領地はさらに活気だったものになった。
ウィルの稼ぎも2年前と比べて著しく増加したようで、屋敷が大きくなったこともありメイドさんや料理人など多くの人を家で雇うようになった。
僕はというと専属のメイドさんがつけられるようになって自由に行動ができなくて苦労している。
「クウ様。早く起きてください。今日は町に散策に行くんじゃないんですか?」
エミリーが僕を呼ぶ声がする。こっちの世界に来ても起きる時の気だるさはかわらない。
「はやく起きないとお母様が怒られますよ。クウ様」
目を開けて確認するとエミリーが部屋に入り、僕のそばで待機している。なぜこんなにも人に起こされる目覚めは気分が悪いのだろうか。でも朝ごはんは家族みんなで食べることになっている。
「わかったよエミリー。着替えたいから外に出て待っててくれ」
僕は体を起こして目をこする。本当のことを言えばもうちょっと寝たかった。
「了解しました。お待ちしておりますね」
エミリーは表情を変えずそう言って部屋を出ていった。
エミリーはとても可愛い女の子であるのだが、表情の変化に乏しく気持ちの表現が少し苦手そうである。ゲームでも少しは出てくるのだが、ほとんど情報がない。
僕は正装に着替える。一応領主の子供であるから町に出る時は、それなりの準備が必要になってくるのだ。
着替えが終わり、部屋の外に出る。扉の前で待機しているエミリーを連れて朝食を食べる部屋まで行く。
こちらの世界でのご飯はというと、専属の料理人が作るので3食全てとても美味しい。たくさん食べすぎてしまうので、太らないか少し心配だ。
テーブルの上座に座るウィルが笑顔で僕に問う。
「クウは今日は領地内を散策するそうだな。」
それを聞いたエニシャは少し心配そうな顔をして僕にこんなことを言った。
「最近は盗みの被害が増えてるそうだから、気をつけなさいね。」
僕は口に入れたサラダを飲み込んでから口を開く。
「はい!お父様。お母様。気をつけて行ってきます」
朝食も食べ終わり、部屋で少し準備をしてから家の玄関に向かう。町に出かけようとしていると、エニシャに呼び止められた。
「それじゃあ。エミリー、ウィルのことをお願いね。2人とも行ってらっしゃい。」
「行ってきます」「行ってまいります」
今回の形式的な目的は、僕が町の人と交流をすることにはなっているのだが、まぁウィルの考えは跡取りになるかもしれない僕に、町の人と良い関係を築いて置いて欲しいのだろう。僕的にはゲームに出てくる主要キャラが今何をしているのか知れたらよいなと思っている。
町に出てまずは、出店形式でお店が並ぶ市場へと足を運ぶことにした。野菜にフルーツなどの食品系や雑貨、アイテムなどを取り扱うお店まである。だいぶ繁盛しているようで市場沿いの道は人でごった返していた。
そんな中をエミリーと一緒に歩いて行く。僕のことを知っている人も多いようで、「クウ様食べていってや」とか「クウ様一個いかがですか」など、声をかけられることも何度もあった。
ある程度のものをエミリーと一緒に食べたり買ったりして満足したので、次の目的地に向かおうとしていた矢先、人とぶつかって倒れてしまった。
「大丈夫ですか!クウ様」
エミリーがすぐに僕を起こしてくれて、汚れも払ってくれた。
「大丈夫なんだけど、ぶつかった人は?」
僕が尋ねるとエミリーは少し怖い顔をして、膝立ち状態になって俯きながら言った。
「逃げらてしまいました。申し訳ございませんでしたクウ様。こういう時は私が盾とならなければならないのに。罰してください」
こういう時のエミリーは少し怖い。僕が死ねと言えば、死んでしまうようなそんな気迫を感じる。これからもエミリーはなんとしても大切にしていかないと。
「やめてよエミリー。そんなことはしないよ」
エミリーがハッと顔を上げて僕を見て苦しそうにしている。
「ですが...」
間髪入れずに僕は、自分で言っていて吐き気がするような事を言ってしまった。
「いいんだよ。そんなことよりエミリーが苦しそうにしているのを見る方が僕は苦しいよ」
そう僕が言うとエミリーはすぐに立ち上がり、僕のそばについた。
「ありがとうございますクウ様。一生お側に従えさせてもらいます」
僕が笑顔でエニシャを見ると、エニシャは珍しく恥ずかしそうな顔をしている。
そんなこんなで落ち着いた後、大事なことに僕は気づいた。
「やられた!お財布がない」