日常生活の中では感じられない偉大な存在(トイレに金貨を投げ入れて)
事件から2ヶ月が経った。ウィルはセントラルから帰ってきて、最近は事件の後始末に領地を治める仕事と大忙しである。ウィルが言うにはセントラルから仕事のできる官人が1人、派遣されるそう。
(でも実際は『セカンドセカンド』のゲーム内だとあと1ヶ月くらいは誰も来ないことになっていたはずだ。ウィルには頑張ってもらわないと。)
その官人がくれば2人の仕事はある程度落ち着くのだろうが、今はウィルもエニシャも1日中働き詰めで、僕のことをずっと見ていることはできなそうだ。
僕は生後5ヶ月になった。ハイハイができるようになって行動の幅が一気に広がった。
しかし、『セカンドセカンド』の世界では、幼少期にどんな分岐をとるにしろ大きな行動は起こせない。年齢らしからぬ動きをすることができないのである。
もしも大胆な行動をして大人の目に留まることがあれば、デバフスキルを得ることになる。
【監視の目】
スキル所持者が相応の年齢になり家を出るまで、監視の目の的になります。1人でいる時間は減り、単独行動ができなくなります。
こんなデバフスキルを得ないためにも、大人にバレるまでに目的を達成し家に戻って来れるような移動系のスキルが必要である。
次のイベントは僕たちの領地とエルフの国の間にある
五月雨の森で起こる。猶予は後一週間ほどであろうか。次の新月の日に起こる。
五月雨の森は別名、人喰いの森と呼ばれていて森に入った人は誰も戻って来られないという言い伝えがある。その奥地には五代魔法、火、水、土、風、雷の妖精が祀られている神殿があるのだが、魔物のレベルが高く、今の状態では攻略は不可能と言っても良い。
ところで、最近僕がしていることは、盗みと信仰である。
みんなはトイレの神様を信じるだろうか。植村花菜さんの歌では決してない。このファンタジーの世界には本当にトイレの神様なるものが存在するのだ。
ではまず、トイレの神様への参拝方法を伝えようと思う。最初に一階の棚の奥に隠されたウィルのへそくりから1枚の金貨を盗む。(ウィルは根っからにいいやつなので、このへそくりは全てエニシャへの誕生日プレゼントのために毎年貯めているもの。)その金貨を持って家の外にある廁に向かうのだ。もちろんハイハイで。
廁に入ったらまず金貨をトイレの中に入れ、手を合わせて願う。これでワンセット。これを毎日繰り返す。
そして今日はなんと7日目。ついに成果が出る時である。ウィルのへそくりが少し減ってしまったのは申し訳ないが、これをしないとこれからのイベントに支障をきたす。
廁の扉を開ける。何度ここに来ようとも、この臭いニオイにはなかなか慣れない。実際、異世界にきて1番恋しいのはもしかしたら、とても綺麗なトイレなのかもしれない。ウォッシュレット付きの。まだオムツだけどね。
コインをトイレに投げ入れて、手を合わせる。目を閉じて手を合わせていると、目を閉じた状態でもわかるほどの光がトイレの中から飛び出した。
眩しくて思わず手で目に影を作る。トイレの中から現れたのは小さな妖精のようなもので、僕の周りをひと回りするとまたトイレの中に消えていった。
(これで成功したはずだ!!)
自信満々で心の中で唱える。
(ステータスオープン)
【name クウ 年齢 0才 レベル 1
知力 1+1 機敏 1
筋力 1 魅力 10
魔力 1+3 運気 1+1
称号ボーナス スキル
家族を愛せしもの 風魔法レベル1
トイレに金貨を投げ入れて 】
(やっとこれで次のイベントのスタートラインに立てた)
次のイベントは『セカンドセカンド』の序盤の中でも難しい部類に入るものだ。なんせ制限時間はゲーム内時計でたったの20分。その間に五月雨の森まで行って戻って来ないといけない。もし過ぎて仕舞えば、エニシャが部屋に入ってきて僕が不在なことがバレてしまう。バレたらもれなく、デバフスキル【監視の目】をつけられる。
新月の日まであと6日もあるのだが、風魔法の練習をしないと。しかもエニシャとウィルにバレるわけにもいかない。この年で魔法が使えるやつはいるはずがないのだから。
これから忙しい毎日になりそうな予感がした。
トイレに金貨を投げ入れようと最初に思ったのは、ポケットミラーというゲームの中で井戸に金貨を投げ入れるという描写があったからです。