外伝)家族を愛せしもの失敗パターン
【ウィルが剣術の練習をしている時に泣かなかった場合】
外ではウィルが剣術の練習を、エニシャはそれを笑顔で見守っている。
そんなところに2人の男がやってくる。
「こんにちは。あなたがこの辺境の地を治めるウィル様ですか?あなたを暗殺して欲しいという依頼が来てまして。」
ウィルは険しい顔をして、そして少し小馬鹿にするように笑って言った。
「そんな装備で大丈夫か?殺せるものならやってみるがいい。」
(ウィルがこう大きく発言するのも納得である。ウィルが持っているのは練習用の木刀とはいえ、なんせウィルは2年前にあった戦争の英雄。そんな簡単に負けるはずがない。)
怖いくらいにヒョロリとした暗殺者は不気味な笑みを浮かべてこう言った。
「大丈夫だ。問題ない。もうすでに私たちの勝ちは決定しているよ。」
暗殺者はウィルの方向を指差した。いや、ウィルを指差したわけではない。その後ろにいる人質にとられ、口元を覆われたエニシャを指差したのである。
それにつられてウィルも後ろを振り返る。目の前の暗殺者と相対する時にはさっきまでの余裕は消え、殺気に満ち溢れていた。
「エニシャを人質にするなんて、お前ら卑怯だぞ!!」
暗殺者はウィルの目の前まで歩いて行って言った。
「元々正面から戦ったら勝てない勝負。正々堂々戦うはずがありません。さぁ武器を捨てて投降してください。」
ウィルは振り向き、エニシャを一目見たあと首を振って、武器を捨てる。英雄も家族を人質に取られてしまうと、単なる一般人に成り下がるのである。
この後の出来事は割愛したい。様子を語るのも少し躊躇うものである。なので簡潔に話すことにしよう。
暗殺者はウィルの手を後ろで縛り座らせた。エニシャにも同じように手を後ろで縛り座らせたのであるが、エニシャとウィルを相対するようにするのである。
そして暗殺者はウィルにこう問う。お前は妻を助けたいかと、もちろんウィルの答えはYesである。
すると暗殺者はウィルに目隠しをして、何も言わずに首を剣で斬るのである。エニシャの心情を思うと、夜も眠れなくなるだろう。目の前で最愛の人の首が転がるのである。ウィルの心情も恐ろしいものである。目隠ししてから首を切られるまで沈黙が続くのだから。
この後エニシャも同じように目隠しの後殺される。暗殺者は2人を殺して家の中に入るのだが、金目のものを漁っている内に主人公である赤ちゃんを見つける。
あんな残酷な暗殺者であるが、ターゲット以外は殺さないようで主人公はベタスの家に連れてかれ、ベタスの隠し子として生活していくことになる。
(初めてこのゲームをプレイした時、作者には人の心がないんだと思った。それに暗殺者が、人に気づかれる危険を冒してまで、あんな殺戮ショーをするなんて違和感を感じる。しかし暗殺の後、家に入ってまで金目のものを漁る奴らだ。つまりはそういうことである。)
【上手く泣けたものの、ウィルが家に近づく暗殺者に気が付かなかった場合】
家の扉を乱暴に開ける音がする。
ウィルはエニシャの様子を確認し、廊下に出ながら言った。
「俺が下の様子を確認してくるよ。エニシャは速くオムツを替えてやってくれ。」
ウィルが階段を降りる音がする。
エニシャはとても不安そうな顔をしていた。
下から少し話し声がした後、剣のぶつかり合う音や、家具が倒れる音など激しい音が鳴り響く。
エニシャも下に降りても自分には何もできないことがわかっているからであろうか、オムツを替え終わった後、近くにあった木の棒を持ってベビーベットの前に立つ。木の棒を持つ手は震えていたものの、目線は開いた部屋の扉から見える廊下をじっくりと見ていた。
少し時間が経った後、下からなる音はすっかり止んだ。ウィルは大丈夫なのであろうか。エニシャは心配なのか目線が泳いでいる。
すると誰かが階段を上る音がする。
ギシ、ギシ、ギシ
エニシャの目線は廊下に釘付けになり、木の棒を持つ力は一層増す。
突然、ウィルが扉から笑顔をひょっこりと出した。エニシャの全身の力が抜ける。もう泣き出してしまいそうである。
ウィルが部屋に入ってくる。しかしその姿は無惨なものだった。右脇腹は血だらけになり、胸には剣の刺し傷があった。エニシャの表情がこわばる。
「ごめんな。2人とも不覚を取っちまった。」
そういうとウィルは膝から崩れ落ちた。
エニシャの表情はよく見えない。ただ、エニシャは何も言わずに走って廊下に出て階段を下っていった。
数十秒もたたずして戻ってきたエニシャの手には救急箱のような木箱。髪は乱れ、涙が溢れている。
エニシャはウィルの体に服の上から包帯を巻く。涙で服を濡らし、嗚咽をもらしながら、ポツリポツリと言葉を生む。
「どうして...どうして...ウィル死なないでよ...
(ファンタジーにあるまじき出来事。戦争の英雄、家族のヒーローはこの日、人生に幕を閉じた。エニシャもこの出来事から立ち直れず主人公が9歳の時に他界するのである。ウィルが最後に見せた笑顔は死ぬことを覚悟したウィルの、最後の強がりだったのかもしれない)