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因縁の相手_3

戦争というものには、ルールがある。


無差別に侵略しても良いという訳ではなくこの世には戦時国際法というれっきとしたルールがある、が、誠に遺憾ながら今回日本が、大属星が相手にしているのはそんな国際法も通じない異界の妖である。


郷に入っては郷に従え、という言葉がある事を是非とも教えてやりたいくらいだがそれが理解出来る相手ならば現に戦争なんかには至ってないだろう。大属星が相手するは国際法も通じず無差別に人を殺し、壊し、侵略する悪魔そのものである。日本風に言うなれば禍である。




美澪『臆するな!!それでも貴官らは軍人なのか!!』


銃弾が飛び交い刀が交じ合う金属音の中、美澪率いる第101部隊はショッピングモールへと続く街中で妖と交戦真っ只中だった。


歴が浅いものは飛び交う銃弾に未だ躊躇を見せるがそれを美澪は許さなかった、死を恐れるな、戦場で散る事を誉れと思え。


それが前線で戦い続ける軍人としての在り方だ、死を恐れる事は悪い事では無いがそれで軍務の、任務の妨げになるくらいなら前線から退くべきだ。



美澪だって死ぬのは怖い、今だって当たり前のように銃弾の嵐の中を駆け進み、相手を斬り殺し、必要があれば拳銃を発砲する。


既に美澪も頬に銃弾が掠めている、1歩間違えれば頬の肉が抉られていた、もっと中心に当たっていれば死んでいた。そんな中でも恐怖より怒りが、憎しみが強くなる。



妖『…っ、この!!人間風情がいつまでもしぶとく生き残りやがって!!』


美澪『勝手に侵略してきて何寝言を言っているんだ!寝言は寝て言え、だ。永遠に眠っていろ!!』



憎い、憎い憎い憎い憎い!!!!



恨めしい、何が人間風情が、だ!!この国は、土地は、我ら人間の、日本人のものだ。



我がもの顔でこの地を踏みしめてるその足が


まるで正義のヒーローのように上っ面の言葉を並べるその口が


悪を倒す魔法少女が持つステッキが如く刀を握りしめるその手が


お前を形作るその身体が


こんな愚かな考えを持ってしまうその脳が



__全てが憎い。



拳銃の引き金をひく、まだ息をしているなら脳に刀を突き刺す、まだそれでも微かに動くならば喉元を切りつけて確実に殺す。


1匹でも多く、殺さなければ、それが大属星に所属する私達軍人の、責務。





……………………………




<1時間後>



美澪『…っはぁ……はぁ……ッッ……』



ゼーゼーと肩で息をする、少しでも酸素を取り込む、この昂った感情を落ち着かせなければと深呼吸をして辺りを見回す。



美澪『……っは……はぁ……はー………』



周りに敵はいない、息をしてる妖も居ないことが分かると流石に疲れたと美澪はその場に座り込んだ。



美澪『…みんな、無事?怪我人は私に報告を、5分だけ休憩するからそれまでに体力回復に努めて。』



その言葉に他の隊員は皆いっせいにその場に座り込んだ、思いっきりその場に倒れ込み寝転がる者もいるが美澪はそれを許した。


それで少しでも体力回復するなら是非寝転んでくれと、因みに寝転がった結果奇襲で怪我したなら「愚か者」と引っ叩くだけであるが。



特に報告に来る者がいないことから少なくとも怪我人はいないようだ、ちなみにだが怪我人とは美澪程度のちょっと切った、銃弾が頬をかすめた程度の事を言うのでは無い。


動けなくなるほどの負傷をした人間のことを指している、ちょっとやそっとの怪我は怪我とは言わない。


無論それを放置することはよろしくない、ほんの少しの怪我でも後々膿んで大変な事になるかもしれないからだ。



緋翠『…っはぁ………み、れい……美澪、頬、怪我してるよ…』


美澪『緋翠……』



その場に項垂れるように座り込み体力回復に務めてる美澪に緋翠はガーゼを手に持ちながらフラフラとした足取りで隣にやって来ては座った。


1番動いたのは美澪だ、倒したのも勿論美澪。それは熟練の差と隊長である責からくるものである。

だがそれに順列をつける事はしない、皆同じように疲れてるのだ。



緋翠『ほら、じっとしてて……ちょっとしみると思うけど…』



まだ息が荒い緋翠、自分だって疲れてるはずなのにこうしてわざわざ手当をしてくれる彼の優しさは美澪は好きだった、無下には出来ない、だが贔屓であるならこの戦場においてそれは許さない。


ありがとう、と言いながらジッと緋翠を見つめる美澪に対しその視線の意味に気付いたのか緋翠は「安心して」と優しい声色で美澪の手当を続けた。


緋翠『他の隊員は大丈夫だよ、…美澪が庇ってくれてたからね』


美澪『……それなら、良かった』



庇うということは美澪が危険にさらされる確率は上がる、しかもそれが恋人がなら余計良くなんか思わないのは事実。だが恋人以前に美澪や緋翠は軍人だ、軍務が、作戦が何よりも最優先だ。

それを緋翠もわかっている、だからこそ表面上は不安だやらの気持ちを出さないようにしていた。



美澪『…ごめんね。でも、これが私の責務だし…私の願いだから。緋翠を優先出来ないことを、許してね。』


緋翠『…うん。』




無論美澪だって緋翠の想いは痛い程分かっている、より多く沢山幼い頃から失ってきたからこそ緋翠が何を想っているのかは分かっている。



美澪だって叶うなら緋翠の事は優先したい、こんな血なまぐさい戦場では無くもっと別な平和な所で出会いたかった。


普通にデートをしたかった。もしかしたら大学か何かで出会っていたかもしれない、バイト先かもしれない、はたまた街中で一目惚れなんて夢みたいな出来事かもしれない。


だがいくらそう願えど我らがいるのは常に死と鉄と火薬の匂いが立ち込める戦場、希望や夢なんて偶像より絶望が似合うそんな場所。


そんな中唯一無二、美澪が出来ることは己の手で平和を守る事くらいだ。


世界中を、とまではいかなくてもせめてこの部隊の平和くらいは…と思っている。


同じ隊長クラスの双子の兄の事も心配だ、それはもう隊長とかそんなものは関係ない。


兄が強いのは知っている、最悪の場合己の身だけでも守れるのは知っている、だが戦場では未来の予測なんか付かない。



心配事なんて底なし沼のように出てくる、毎日毎日精神が擦り減っていく、悪夢を見る、仲間の嘆きと苦しみの声が未だ再生させる、疲れだって満足に取れない。



……___だがそれももう遠い昔からだ、今更始まった事では無い。


眠れないなら睡眠薬を飲んで無理矢理寝る、例え疲れていても毎日の鍛錬は欠かさない、食事が喉を通らなくても最低限は喉に無理矢理詰め込む、新兵が特訓を頼むなら付き合う、そうすれば人員はより増える。


そんな事をもう何年も繰り返して来てる、全ては部隊を守るために、いずれはこの日本の為に、世界の安寧の為に。


部隊が守れれば恋人の事を守れる、部隊が守れれば人員は減らない、そうすればより妖を殲滅出来る、そうすれば日本が平和になる、そして世界が平和になる、そうすれば恋人と平和に過ごせるかもしれない。


そんな一途な希望を持って夢に縋り、毎日を過ごしている。



緋翠『…ねぇ美澪、この作戦が成功すれば少しの間休暇だよね。その間は僕とゆっくり過ごそうね、僕だって部隊のことは心配だよ。でもそれと同じくらい美澪の事も心配だよ、……また最近眠れてないでしょ、服薬の数が増えてるって軍医から聞いたよ。』



手当が終わりジッ…と美澪の瞳の奥を見つめる緋翠、せめて相談くらいはしてくれと少しの怒りと心配の感情が揺らめいている。



美澪『…うん、その為にはまず生き残らないと、妖を全て殺さないと……。ショッピングモールに巣食う親玉を、殺さないと…。』



フラっと立ち上がり美澪は身なりを整え髪をギュッと今一度固く結び直した。



美澪『…今回の作戦も私が皆を守るからね。』



だから無事に帰れたら、甘やかしてね。…なんて美澪は言い、へにゃりと気を抜いた笑みを緋翠に見せた。


そんな美澪に緋翠は思わず目を見開いたが、ふふっと直ぐに微笑み「分かったよ。」と頷いた。



因みにそんな2人を部隊の隊員達はニヤニヤしながらこっそり見ていたんだとか。

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