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因縁の相手_2

作戦開始から30分が経過した。


今のところ部隊に損害は無く順調に目的地へと進んでいる。飛行術があるのだから飛んでいったらどんなに楽かと思うが無限に霊力がある訳では無く長距離移動で霊力を使い果たし目的地へ着いた瞬間敵との交戦となれば全滅へのカウントダウンはそう早くは無い。


ある程度の飛行移動は効率化の為必要ではあるが、必要以上の霊力の消費はよろしくない。

だが既に30分で5kmに達しているところから、やはり歩くより飛ぶ方が速いのは一目瞭然だろう。



榊『こちら東京本部司令部、第101部隊、純桜寺少佐。そちら任務の具合は?』


美澪『こちら第101部隊より(さかき)中将へ経過報告致します。今のところ順調であり目的地まで残り半分を切りました。』


榊『了解。……楽しそうな声も聞こえるし精神状態も問題無さそうだな、幸運を祈る。』


美澪『ええ、今とっても楽しいところなので。お心遣い感謝します、大属星に勝利を。』



約1分の経過報告とちょっとした雑談を交え、ふぅ…とひと息つき、霊力での通信を可能としたホログラム映像での経過報告のやり取りを終える。時計型の通信機であり、時計とも併用出来る優れ物である。


そして通信が終わると同時に片手に持っていた拳銃の引き金を迷いなく引き、パンッ!と乾いた音が鳴り響く。無論銃口の先には美澪に攻撃され深手を追った妖であり、横たわっている所トドメを刺そうとしたら榊中将からの連絡が入った為、トドメの時間を先延ばしにしていただけだ。



美澪『周囲に他の妖は?』


絃葉『ありません、今ので最後です』



弾倉を装填しながら美澪は敵の残りの確認を取り、他にいないと八乙女(やおとめ)絃葉(いとは)少尉からの知らせを受け安全が分かると少しホッとしたような顔を見せた。


だがそれも当たり前だ。“とりあえず”な安全地帯が出来上がったのだ、これで少しは気を抜いてもマヌケにも敵に殺されるという事態は避けられるだろう。



美澪『少し休憩をしよう、5分後に再び作戦を開始します。』



残り半分を切っている以上、最早ゴールは目前。まだショッピングモール内での戦闘も控えているため、今のうちに体力や霊力を回復させなければと小休憩を挟むことを決めた。


事実、休憩を挟むことは仕事の効率が上がることは証明されており美澪もそれに異論は無い。


疲れたな、と思いながら美澪は適当な瓦礫の上に座り霊力回復ドリンクが入った小瓶を取り出しグイッと一気に飲み干す。これは少量でかなり回復出来るところが良いとこだ。


各隊員の様子をぼんやりと見るが多少怪我をして絆創膏やガーゼやらで手当をしている隊員はいるがかなりの負傷を負った者はいなくこのまま任務続行は可能そうだ、なんて思う。

きっと大属星に入っていなければ怪我をして心配、なんて思ったのだろうが今は任務への差し支えがあるか否かへの心配をしてしまうあたり随分と冷たい人間へと変わってしまった、と1人思うが上からの命令を完遂させるには人員不足はまずい。


軍人というのは、上からの命令には全てYESで答えるものだ。No、なんて答えは端から存在しない、上官からの命令には忠実に遂行する。



緋翠『どうしたの美澪、疲れちゃった?』


ぼんやりと仲間を見ていた美澪の元へ緋翠は雑談混じりに問いかけてきた。

疲れたか、というのならとうの昔からずっと疲れている。主に精神の消耗が毎日かなり激しい、いつまで経っても特に仲間が目の前で死んでいく様を見るのは慣れない。


誰も好き好んで死に怯える生活はしたくないだろう、無論美澪とて復讐に生きようが人間だ。恐怖心だって人並みにあるに決まっている、ただそれを超える憎しみがあるだけであり何も怖くない無敵な軍人です、なんて訳ではない。



美澪『ううん、大丈夫。ただ皆が今のところ無事で良かったなって。』



勿論これは本音だ。仲間が生きているという事は素晴らしいことだ。



緋翠『君は部隊の隊長だからって苦を吐くのはご法度だと思っている節があるけれどそんな事はないんだよ、何か辛いならせめて僕にくらい相談してくれると嬉しいな、なんて』



えへへ、とはにかみながら緋翠は美澪の隣に腰を下ろし霊力回復ドリンクをグイッと一気飲みする。


ふぅ、と息をつく緋翠の横顔を見て思わず言葉に甘えて本音をこぼしそうになるがグッと下唇を噛みその甘さを心の奥底へを押し込む。


今は任務中だ、その様な甘えは今この時必要は無い。


自分とは違う環境で育ってきた緋翠、軍で厳しい規律と共に育ってきた己には無い甘い考え方と包容力、更にそれが己より年上の人間とあれば自然と甘えたくなる。

無論、それを完膚なきまでに押さえ込める自我は美澪にはあるが。



もし戦争が終わるのなら、この綺麗な青空の元を何も気にせずのんびり緋翠と歩いてみたい。


一般人のように、幸せそうにお互い笑い合いながら手を繋ぎ、次はどこへ行こうかと雑談を交わしながらこんな鉄屑と化した建物や硝煙が上がる中ではなく可愛く着飾って、キラキラ綺麗なものが建ち並ぶ街中を歩いて回りたい。



…全ては明楽を殺せば済む話だ。今更殺すなんて、なんて偽善な言葉は出てこない。


むしろ本心から明楽は殺したい、叶うなら己の手で全てが肉片へと変わるまで、二度と生まれないようにと殺して叩き潰して焼いて灰へと変わらせてやりたい。



一刻も早く終戦をしてくれ、そう軍人が願うのは罪では無い。



美澪『…行こっか、ショッピングモールへ。』


そう言うと美澪は立ち上がり座っている緋翠へと手を差し出す。

その言葉に緋翠は少し苦笑いをしながら遠慮なく美澪の手を借り立ち上がる。



緋翠『その言葉は、普通のデートの時に聞きたいね。』



そう返す緋翠に、美澪も同じく苦笑いを浮かべた。


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