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第9話 聖剣アンヘル

それから俺と魔王様は別れて、俺は仕事に戻った。


仕事はさっきの侵入者の処分をやらされた。


処分と言っても、前に魔王様が言ってた小舟に気絶した侵入者を乗せて川に流す川流しの準備と実行をやらされただけだが......


本当に川に流すんだな。


ちなみに川は魔王城のすぐ隣に流れている。そしてその川が魔王城から少し離れた城下町に流れ、もっと下流の方へ流れていくらしい。


侵入者達がどの辺りで気がついているのか気になるところだな。


まあそんなこんなで1日が終わり、俺はカエデさんの元に戻り、旅を再開している。


俺達は昨日泊まった町の門外へ来ていた。



「さて、ここから次のデザール村までは3日ほどかかるけど忘れ物はない?」


昨日は町に立ち寄って宿屋で寝たが、当然旅の途中、泊まれる宿がある町まで毎日着けるはずもなく、大半は野宿である。


「おう!ちゃんと食べる物いっぱい用意したよ!」


俺は持っていた風呂敷をカエデさんに見せる。


「うん、食べる物も重要だけどあなたにはもう1つ持ってほしい物があって」


「え?」


カエデさんは自分の腰に付けていた剣を外して、俺に手渡す。


よく見ると、カエデさんは剣を2つ持っているらしく、もう1本腰に付いていた。


俺はそれを見て、カエデさんが手渡してきた方の剣を手に取る。


「これは?」


「私が昔使ってた剣よ。私はもう1本あるしあなたに上げるわ」


「え、マジ!?いいの!?」


嬉しそうに言う俺に対して、しっかり修行しなさいと付け加えるカエデさん。


そうだ、今まで買うお金がなかったから買えなかった。

これまでは家にあったおもちゃみたいな剣を一応使っていたが、ずっとちゃんとした剣が欲しかった。

少しでも強くなって、カエデさんや魔王様を助けたいと思ったから。


「よーし!どう?カッコいい?」


俺は剣を腰に付けて言った。


「バカ......早く強くなって私の旅を助けてよね」


「おう!任せとけ!」


俺は腰に付けた剣を右手で握り、勢いよく抜いた。


シャキンッ!!


鞘から抜ける剣からは心地よい金属音が鳴り響く。


そして、抜いた剣を目の前に構えてマジマジと見る俺。


「かっけー!しかも結構丈夫な剣じゃねーか」


「そうよ、一応私の家に代々伝わる勇者の剣、聖剣アンヘルよ」


「ええ!!」


俺は驚きながら剣を遠ざける。


目の前にあるのが勇者の剣らしい、なぜそんな大事そうな物を俺にくれるのか。


「ま、もうそんな伝統とか血筋って割りとどうでもいいのよ。私達の家系が勇者の家系だなんて知ってる人ほとんどいないし」


そう言うカエデさん、詳しく聞くとどうやらカエデさんの家系エーユエジル家は昔は魔王を倒した勇者の家系と崇められていたが、時間が経つ内に忘れられていったと言う。今ではその存在を知っている人は学者とか研究者とかだけだとか。


「それにしてもどうして俺にくれんだよ?」


「それは......」


カエデさんは「うーん」と迷ったような顔で上を向く。



「なんとなくよ」


「なんとなくかよ!!」


「後あげるって言ったけど訂正するわ、貸してあげる」


「返さないとダメなのかよ!まあいいけど」


俺は剣を鞘に戻しながら言う。


「その剣はどっちかって言うと守りに優れている剣でね。大砲の球を防いでも折れないぐらい丈夫らしいわ」


「確かに丈夫に出来てるな、けど......」



俺はカエデさんを見る。


カエデさんは俺の方を見ながら不思議そうな表情をしている。


「なんか、カエデさんの勇者話って、~だと思うとか、~らしいとかばっかだね」


「え!?」


そう言うと、カエデさんは明らかに動揺したようなリアクションをする。


「な、何よ!疑ってるわけ!?」


「いや、なんか怪しいなって思って」


確かに魔王様は正真正銘の魔王だが、カエデさんにいたっては勇者だという確信が持てていない。


強さは本物だけど、なんか眉唾物なんだよな。


「それにエーユエジル家が勇者の家系って知ってる人全然いないんでしょ?」


「そ、それは......そうだけど」


「あっ!もしかして光魔法使えるとかないの?勇者と言えば光でしょ!」


俺は閃いたように言う。


そうだ、魔法の属性は代々受け継がれる。勇者が使ったとされる光魔法を受け継いでるはずだと思った。



しかし、カエデさんは「むう......」っと悔しそうな顔をしている。その顔も可愛い。


「い、いや......私は、雷属性よ」


「雷?これまたスゴいサブキャラっぽい属性で」


「うるさいわね!私のお父さんは光魔法使ってたわよ!お母さんが雷属性だったの!」


魔法属性は母親に似たと言い張るカエデさん。


でもいいな、やっぱり当たり前のように属性持ちなんだな。


そう思っていると、カエデさんはプーッと頬を膨らましている。可愛い。


「じょ、冗談だよ、カエデさんが嘘つくような人だと思ってないし」


俺は誤魔化すように言った。


「もういいわよ、どうせ私は勝手に勇者とか言ってる変態よ」


そう言ってプイッと顔を反らして、歩き始めるカエデさん。


やべ、怒らしちまったか?と思う俺。確かに少しデリカシーのない発言だったか。


うーん、困ったなぁ、女性との会話に慣れていないからどう機嫌を取ったらいいかわからん。



「カエデさん!」


「何よ!」


カエデさんは少し怒ったように振り向く。


「剣ありがとな!大切に使わせてもらうよ!」


俺は笑顔で言った。なんか余計なことを言ってしまったが、これに尽きる。


剣を貰えたことは素直に嬉しかったが、カエデさんからプレゼントを貰えたことも嬉しかった。


「な、何よ!大切に使うんじゃなくていっぱい使って早く強くなってほしいって言ってんの!」


赤面しながら言うカエデさん。


カエデさんはすぐに赤くなる、意外と照れ屋で恥ずかしがりな一面がある。


少しずつだけどカエデさんのことわかってきたかな。


「わかってるよ、カエデさんより強くなるからな!」


俺は自分の胸を軽く叩きながら言った。


それを見て、カエデさんは少し笑みを溢す。


「なーに言ってんのよ!私に勝つなんて百万年早いんだから!」


そう言って後ろを向くカエデさん。


その後ろ姿はなんだか嬉しそうだった。


「さっ!こんなとこで長居していても仕方ないわ!そろそろ出発しま......」


そのとき、カエデさんの後ろに小さい何者かが立っていた。


その何者かはカエデさんのお尻を触っている。


「え?誰だお前」


「あんたね!!」


「へ?」


振り向くカエデさんと同時にカエデさんの後ろに回る小さい何者か。


当然、カエデさんからしたら俺がお尻を触ったように感じただろう。

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