第52話 王女と田舎娘
「「きゃぁぁあああ!!」」
コアネールとリコを乗せた小船は濁流にのまれていた。
「ちょ、ちょっと!どうにかできないですの!?」
「こ、こんな厳しい環境の中生きているお魚さんはすごいです!」
「話聞いてますの!?」
その時、小船の前方には巨大な滝が見えていた。
「あれはヤバいですの!」
「すごい!大きいです!」
「そんな暢気なこと言ってて大丈夫ですの?落ちたらヤバイんじゃなくて!?」
「多分こんな小船木っ端みじんになるでしょうね」
「バカーーー!!」
小船は滝から放り出され、真っ逆さまに落下する。
コアネールとリコはその拍子に外へ投げ出された。
そして、滝壺に転落し、水飛沫が上がる。
薄れ行く意識の中、コアネールは思った。
ああ、このままこの訳のわからない貧乏天然娘と海の藻屑になってしまうのか。
あ、ここ川か。
「ハッ!ここは!?」
コアネールが目を覚ますと、そこは陸地だった。
「わ、私助かったですの!奇跡ですわ!」
コアネールは自分の両手を見ながら言った。
「そういえばあの貧乏天然娘は......もしかして......」
コアネールの脳裏には最悪の想像が流れた。
「うぅ、短い付き合いでしたけどいい天然娘でした......どうか安らかに眠るですの......」
「勝手に人を殺さないでください!」
コアネールが声をする方を見ると、リコが手に何かを抱えながら歩いてきていた。
「貴方......意外としぶといですのね、いや見た目通りでしょうか」
「あー!私が田舎者だからって馬鹿にしましたね!」
「いえ......そういうわけではないですわ......」
「いいんですよ、田舎者の方がすごいこともありますし。はい!これ!」
リコは砂浜に大きい葉っぱを敷いて、何かを置いた。
「なんですのこれは?」
「そこの森で採れた果物や、食べれる雑草です」
「そんな物が食べられるですの!?」
「はい!私の村では食べ物は全て自給自足でしたから」
そういうと、リコは果物を食べ始めた。
「.......」
「見てないで食べていいですよ?」
「えっ!わ、私はいいですの!」
「食べず嫌いはよくないですよ?騙されたと思って」
リコはコアネールに果物を渡した。
「こ、これはどうやって食べるですの?」
「思いっきり噛り付いちゃってください、こうやって......」
リコはカプッと果物に噛り付いた。
「おいしいですよ?」
「うぅ......わかったですの......食べればいいんでしょ!」
コアネールも果物に噛り付いた。
「おお!なかなかいい食べっぷりですね!」
「ふふはいへふの!(うるさいですの!)」
コアネールは果物を噛み切り、頬張った。
果物の味がコアネールの口に広がる。
「おいしい.......」
「ですよね!やっぱり私の言う通りです」
ふんっ!と嬉しそうに笑うリコ。
それを見てコアネールも笑った。
「あっ!ちょっと待ってください!」
「ん?何ですの?」
リコがおもむろに自分の背中に手を伸ばした。
しかし、何もないことに気が付く。
「あれ?私の荷物は?」
「滝から落ちたときに失くしたのではなくて?」
「そうですよね......はあ」
「何か大切な物があったのですか?」
「はい、私のお絵描きセットが入っていました。今の表情がスゴく綺麗だったので絵を描こうかと思ったのですが......」
アハハと笑うリコ。
「貴方、絵を描くですの?」
「はい、旅に出た目的がそれですから!旅に出て色々なものを見て絵を描くのが私の目的です!」
「そうなのですね」
色々なものを見る。コアネールにも興味があることだった。
立場上今まで自由に見聞を広めたことがない。外出時はいつも王女として振る舞っていた。
ロイとカエデを見たときも、きっと私には一生出来ない体験をしてきているんだと思っていた。
「スゴいですのね、皆さん」
「全然スゴくないですよ、結局こうしてお絵描きセットを失くして絵を描けない訳ですから」
「早く新しい物を見つけないといけませんわね」
「いやー、見つけたとしてもお金が......」
「まあでもどちらにせよ早く町を見つけないと。天然娘さん、あなたここがどこだかわかりますか?」
「いえ、さっぱりですね。私デザール村からあまり離れたことがないので」
きっぱりと言うリコ。
「そうですわよね......相当サンベルスからも離れてしまいましたから私もわかりませんの。川を上っていくしかないですわね」
さっき墜落した滝の上を指差すコアネール。
「そうですね。まずは滝の上に登らないとですが......」
滝は100mほど高さがあり、とても近くから登れそうもなかった。
「迂回するしかないですね。崖沿いに進んでどこか登れるところがないか探してみましょう。山道なので馴れている私が先導します」
「ありがとうですの天然娘さん」
「ハア......ハア......」
リコとコアネールは1時間程歩き続けた。
しかし、一向に登れそうな場所が見当たらない。
「大丈夫ですか?少し休憩しましょうか」
「い、いえ、大丈夫ですの!お気遣いありがとうございます」
「そうですか?」
凸凹道を草木を掻き分け進むリコとコアネール、馴れていないコアネールには少しキツい道のりであった。
「し、しかしスゴいですわね、天然娘さん」
「何がです?」
「私と歳が変わらないですのに色々知ってるですの」
「そんなことないですよ。私は世間知らずです」
「そんなこと言ったら私の方が世間知らずですの、最近は本当に驚きの連続ですわ」
「私もですよ、旅を始めたのもつい最近ですし、それもある方に勇気を頂いたからですから」
「ある方?天然娘さんにも事情があるですのね」
ザッ!ザッ!と歩みを進みながら話すコアネールとリコ。
「良かったら旅に出た理由を聞かせてくれませんか?」
「はい、いいですけど大した理由ではないですよ」
コアネールの素朴な問いに、リコは歩きながら話を始めた。
「昔から絵が好きで色んなものを描いて行きたいというのがあったので、そのために旅は出たいと思っていたのですが」
リコは一度口を閉じる。
そして、すぐに再び口を開いた。
「私はドジだから、要領が悪いから無理だって決め付けて諦めていました。ですがある方に背中を押してもらって旅を始めました。その方は完璧ではなく失敗も多い人なんですけど、明るくてとても元気が貰えるのです」
「......」
「これは秘密なのですが、本当はその方のようになりたくて旅を始めました。歳は私より年下ですが、目標の人です。って言うのが私が旅を始めた理由ですね」
「.......そうなのですね、目標とする人になりたいからですか」
コアネールはリコの背中を見ながら言った。
「ふーん、天然娘さんにも憧れの王子様がいるのですね」
「えっ!?」
リコは立ち止まり、振り向いた。
「あ、憧れの王子様って!その方には大切な人がいますし......そ、それにそんなのではなくて!目標としているだけです!って言うか男の子だなんて一言も言ってないじゃないですか!」
取り乱しながら言うリコ。
それを見て笑うコアネール。
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