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第3話 魔王のアシスタント

「ただいまー!母さんすまん!買い物忘れて......」


「ロイー!!」


自宅に入ると同時に謝って許してもらうという俺の作戦は失敗に終わった。


なぜか母さんは機嫌が良さそうに走ってきて、俺の手を握った。


なんだなんだ、すっげー嫌な予感がするぞ!


「ど、どうしたの母さん?」


「あなたがいない間にこれが届いたのよ!」


母さんは大きめの箱を持ってきて、俺の前に置く。


なんだろうな、だいたい大きめの植木鉢が入るぐらいの大きさの箱だが。


「とりあえずこれ読んでみなさい」


そう言うと箱の中から黒い封筒に入った手紙を取り出し、俺に手渡してくる。


なんだこれ?


俺が疑問を感じている間も母さんはニコニコしている。


とりあえず読んでみようと、俺は封筒を開けて中の便箋を取り出した。


「え、えーと、何々?」


俺は書いてある文字を口に出して読み上げていく。


「ロイ・レンズ殿、貴方を魔王城の使用人として雇用することが決定いたしました。詳しい説明は口頭で御説明いたしますので魔王城へ御越し下さい。その際はこの内定通知と御一緒に同封している魔王城へのワープ装置を御使い下さい。また、もし内定を辞退するようなことがあれば、人生を辞退したことと同意と御考え下さい。魔王軍 人事採用担当 サイ・トリコーリ」


俺はその手紙を読み終わると同時に手紙を持ちながら、ガタガタと震え出す。




ヤバい理解が追い付かん。


まず確かちょっと前に当て物気分で魔王城でのアルバイトに応募した。それは覚えている。



え?魔王城のアルバイト受かったってこと?


や、やっちまった......


いや普段なら嬉しかったはずだ、魔王城で働いてみたくて応募したのだから、なのに何故今なんだ!今だけは違うだろ!


カエデさんと旅をする約束しちゃったんだから魔王城でバイトすることは出来ない。って言うか魔王を倒す旅をしながら魔王城で働くって意味わからんだろ!


でも相手は残虐無道の魔王だ、手紙にも断れば殺す的なこと書いてあるし、とても簡単に辞退させてもらえるとは思えねぇ......


じゃあカエデさんとの旅を断る?いやそれも出来ないだろう男として。



どうすればいい......


どうすれば......



やっぱり魔王城でのアルバイトを断るしかないか......決死の覚悟で......



そう熟孝していると、母さんは段ボールに入っている機械を取り出していた。


機械は青い円盤形の機械で大きさは半径30cmほど。


「これワープ装置かしら?」


「......」


母さんが円盤形の機械を回したり、下から覗いたりしているが、そんなものは俺の視界には入らない。それどころではない。



カチッ!!



その瞬間なんかスイッチを押したような音がした。


「あ、なんか押しちゃった」


どうやら母さんがスイッチを押したらしい。


「ちょうどいいや、頑張んなさいね!!」


そう言う母さんはニコニコしながら円盤形の機械を俺の方に向ける。


円盤形の機械は光を放って回転し始めた。


「え?」


その光は俺に当たり、俺は円盤形の機械に引き寄せられる。


「え?え?ちょ、ちょっと!待って!!」



その瞬間、円盤形の機械はスゴい力で俺を吸い込み、俺はまるで掃除機に吸い込まれるゴミのように円盤形の機械に飲み込まれた。


それと同時に俺の目の前は真っ暗になった。


なんだよこれ!!もうどうとでもなれや!!










ドガッ!!


「いてぇ!!」


俺は背中から地面に落ちた。


その床は自宅の木造の床ではなく大理石のような硬い材質で出来ていて、とても痛い。


この床からしてワープには成功したらしい、周りを見渡してもさっきまでの風景とは打って変わり、広い部屋に禍禍しい雰囲気と言うか、全体的に黒っぽいレイアウトの部屋だった。


そして俺の直ぐ後ろを見ると、さっきのワープ装置と全く同じデザインで色が赤い円盤形の機械があった、恐らくさっきの青色円盤形装置とこの赤色円盤形装置が繋がっているのだろう、多分。


なのでこの赤い円盤形装置を使えば自宅に戻れるはずだ、一旦これを使って戻り、作戦を整えよう!


そう思って赤い円盤形装置に手をかけようとした。


しかし......



「お、早速来たようだな」


その声が背後から聞こえてきた。


どうやら早速見つかってしまったらしい。逃げることも出来ないってか!


俺は恐る恐る背後を振り返る。


そこには一人の女の人が立っていた。


あれ?女の人......


その女の人は鋭いキリッとした目に、驚くべきほどに透き通った真っ白な肌、そして......細身なのにたわわに実った2つが特徴的である。


「え、えと......」


「まあとりあえずここに座れ、えーと、ロイ・レンズくん」


その巨乳美女は部屋の真ん中辺りにあった机の椅子を引いて、俺に座るように促す。


「あ、あれ?どうして俺の名前......」


「君が送ってくれた履歴書に書いてあったではないか」


「で、ですよねー」


そう言いながら俺はもう逃げられないと思ったのと、たわわに実った2つに引き寄せられるように巨乳美女の直ぐ近くまで歩き、引いてくれた椅子に座った。


巨乳美女は棚からファイルを取り出し、俺と机を介して向かい側に座った。


そしてファイルを開き、俺の方を見て呟く。


「まずは自己紹介からだな。私は魔王軍人材採用担当のサイ・トリコーリです。種族は氷魔人、よろしくな」


「あ、さっきの手紙を送ってくれた、え......モ、モンスターなんですか?」


俺は震え声で言う。


対面にいるのがモンスターである。しかも普通のモンスターではない、魔王城にいるモンスターなんだから相当な強さのはずだ。


「ああ、魔王城にいるのはほぼモンスターだ、たまに違うのもいるが」


そりゃそうだよな、モンスター達の根城である魔王城ですから、やっぱりど偉いところに来てしまった。


「ち、ちなみにですが、ここってどこなんですか?」


「ここは魔王城の客室だ」


やっぱりそうだよな、俺は魔王城の中にいる。正直いつ殺されてもおかしくない状況である。


このサイっていうお姉さんだって何人も人を殺してきているんだ。


「どうした?顔が強ばっているが」


「い、いえ......」


下手なことがバレれば命はない。発言にも細心の注意を払わねば。


俺が目を泳がせながら冷や汗を垂らしていると、お姉さんはフッと笑って俺を見る。


「まあなんだ、初めての場所で緊張するなと言う方が難しいかと思うが、もう少し気軽になった方がいいぞ」


お姉さんは前のめりになりながら言う。するとたわわに実った2つが机に乗った。


こ、これはなんという......


こんな命がかかった場面でもしっかりとその果実に目が行くのだから男と言うものは厄介である。


そう思っていると、お姉さんは俺から目を離し、ファイルを見る。


「ま、私も不器用だからな、気持ちは痛いほどわかるが、まあそれよりだ、仕事内容の確認から行いたい」


お姉さんはファイルに入った資料を見ながら言う、手慣れた感じだな、結構長いこと採用担当をやっていることが伺える。


それより俺はこのアルバイトを断らなければいけない、そのタイミングはいつだ......俺が殺されないタイミングは......


「それとそういう視線は以外と女性は気が付いてるものだからな。気を付けた方がいいぞ」


ファイルを見ながら言うお姉さん。


え?もしかして、胸見てたことバレた?

もう終わったじゃん俺。


しかし、意外にもお姉さんは淡々と仕事の説明を始める。


「仕事の説明をするぞ。まあ仕事内容と言っても固定的にこれをやると決まっている訳ではなく、基本的には初めは簡単な清掃や食事の準備などで慣れてくると重要な書類の整理や顧客対応などを行ってもらう」


お姉さんは普通のアルバイトと同じような仕事内容説明をしている。


嘘だ!ぜってー拷問とか人肉料理とか作らされたりするんだろ!!


このままではまずい!早いとこ断らないと余計怖い思いをすることになる......


「あ、あの......」


俺は恐る恐る手を上げる。


「どうした?質問なら随時聞くぞ?」


「じ、実は......こ、このアルバイト辞退したいなーって思ってて......」


俺がそう言うと、しばらく沈黙が訪れた。


い、言っちまった......


こ、殺される......



冷や汗をダクダクにしながらチラリとお姉さんを見ると、お姉さんはなんだから悲しそうに眉を細めていた。


あ、あれ?予想していた反応と違うぞ......


「そうか......何か不満があるのか?」


お姉さんはそのまま下を向きながら聞いて来る。


「ふ、不満はないのですが......」


「不満がないのであれば、とりあえず魔王様に会ってみればどうだ?働きたい気持ちになるかも知れないぞ」


ま、魔王様......


極悪非道な魔王様に俺を会わせると言うことは生きて帰すつもりがない訳だ、終わった......


魔王様に会えば働きたくなくても恐怖で働きたい気持ちになるってことだろ?末恐ろしい......


「もし時短勤務などが良いのであればそこで魔王様と交渉してみればいい、せっかく応募してくれたのに何もせずに辞退するのは勿体ないだろ?」


そう言うお姉さん。


なんだ?なぜ俺を引き止めてくる?一体なんの意図があるって言うんだ?


「わ、わかりました」


「それでは魔王様の部屋に行くか、ちょうど退屈している頃だろうからな」


早速の打診である。俺は今から天下無敵の魔王様に会いに行くらしい。


ああ、どうしてこんなことになってしまったんだ......まあ俺が応募したからなのだが。


さっきミノタウロスに殺されなかったのはカエデさんっていう天使と少しでもお話しさせてもらえるっていう神からの慈悲だったのかも知れん。


そう思っている内にお姉さんに案内されて部屋から出る俺。


部屋の外は横幅5mはあるであろう広さの廊下がずーっと伸びていた、恐らく巨大なサイズのモンスターでも通れる設計になっているのであろう。


そこから歩きながらお姉さんが城の構造についての説明をしてくれていたが全く頭に入らず返事をする機械となっていた俺、少し廊下を歩き、階段を何階か上ると、何か変わった雰囲気の部屋に着いた。


「え、えと......」


その部屋にはレイカの部屋と書かれたハート型の表札にいくつかのハートのシールのような物が貼られている。


それはまるで小学生の部屋の扉のような......


「あ、あの......俺今から魔王様の部屋に行くんですよね?」


「ああ、ここが魔王様の部屋だ」


こ、ここが魔王の部屋......


一体どういう......


「まあそんなに緊張することはない」


そう言うとお姉さんは俺の前に出る。


「魔王様~」


すると、お姉さんはその扉をコンコンッとノックする。


ちょ、ちょっとそんな軽はずみな!


「はいはい、誰~?」


その声は扉の向こうから聞こえてきた、何とも甲高く可愛らしい声である。


なぜこんな可愛らしい声が魔王の部屋から......


「サイです、お部屋入っても構いませんか?」


「いいよ~」


そう聞くお姉さん改めサイさんと返事をする扉の中の人物。


事は全て俺を置いてけぼりにして進んでいる。


「じゃあ失礼しますね」


ガチャッ!!


と言う音と共に扉を開けるサイさん。


俺は何が起きているのかわからず呆然としていたが、サイさんの手招きにより一緒にその部屋に入った。


その部屋の中は普通の部屋だったが、一面にキャラクターのポスターであったり、フィギュアやプラモデルであったりが置かれていて、言うならばオタクの人の部屋のようであった。


な、なんなんだここは......



そして部屋の中心を見ると、一人の小学生ぐらいの黒髪の少女が座って、何やら機械をいじっている。


「魔王様、また何か作ってるのですか?」


へ?魔王様?


「うん、まあ今回は前作ったワープ装置より高度な何かを作ろうと思っててね」


そう言って持っていた工具を置き、こちらを見る黒髪少女。


その瞳は真っ黒でいて透き通り、全てを見透かしているような色をしている。



「あー!もしかして新しいお手伝いさん!?」


俺を見ると、少し上体を反らして驚く黒髪少女。


「そうです、早速魔王様へ挨拶をと思いまして」


さっきから思っていたが、サイさんがこの子を魔王様と呼んでいる。


もしかして......


「サ、サイさん、こ、この子は......」



俺は恐る恐る聞く。


「ああ、紹介が遅れたな、この方が現魔王にして我々のトップであるレイカ・ユミナル・ダーク様だ、くれぐれも失礼のないようにな」


「へ?魔王って......」



えええええええええええ!!!



こ、この子が今世の中を震撼させている魔王様だって!!


そ、そんなまさか......



「ちょっとサイちゃん、新しい子連れてくるなら言ってよ!部屋の掃除とかするのに!」


「え、魔王様、そんなこと気にするのですか?」


「気にするよ!もう!」


魔王様は立ち上がりながら言う。


立ち上がった魔王様の背丈は140cmほどの小柄な体型である。


「初めまして!魔王のレイカだよ!これからよろしくね!」


魔王様は笑顔で言う。


笑うとその八重歯が見えてとても可愛らしい......


「よ、よろしくお願いします......」


「新人くん若いね?名前は?歳は?」


魔王様は興味津々に聞いてくる。この無邪気な顔の裏に話に聞く残虐な一面があると思うと恐怖でしかない。


「ロ、ロイ・レンズです、歳は17......」


「んじゃロイロイだね!僕は13なんだ、4つお兄ちゃんだね!」


魔王様が13......まあ見た目はそれぐらいだろうと言う見た目だけど......

って言うかロイロイってなんだ?


そう思っていると、隣に立っていたサイさんが俺に耳打ちをした。


「ほら、聞きたいことがあるなら聞いてみろ」


そう言って俺の背中を押す。


ああそうか、俺はこの魔王様のお手伝いさんを辞退するために来たのだった。魔王様の正体があまりに衝撃的だったので、忘れていた。


で、でも一体何から聞けばいいのだろうか......


そう思いながら俺は魔王様を見ると、魔王様はポカンと口を開けて待っていた。


か、可愛い......


「あ、あの......魔王様」


「なぁに?」


「ま、魔王様のアシスタントになれば、その......人殺しとかもやらないといけないのですか!?」


俺は思いきって聞いた。


そうだ、こんな無邪気な顔をしているが残虐な魔王、きっとお手伝いになれば殺しの1つや2つさせられるに決まっている。


しかし、魔王様はこう返してきた。



「いやいや、させる訳ないじゃん 」


「へ?」


「魔王軍に所属するモンスター達は敵国の人間でも殺しちゃいけない法律があるんだから、僕が命令するわけないよ?」


魔王様はなぜそんなこと聞くんだと不思議そうな顔をしながら言っている。


ほ、法律?


「そうだぞロイくん、我が魔王軍は殺しは愚か傷害や窃盗なども禁止だ。まあ不慮の正当防衛なら仕方がないが」


とサイさんが付け足すように言及する。


後々聞いた話だが、モンスターにも魔王軍に所属するモンスターとそうじゃないモンスターがいるらしい。


なので基本的には魔王軍に所属するモンスターや人間は魔王軍の法が適応され、魔王様の責任を持って優遇されたり処罰されたりするらしい。

それとは別にさっきのミノタウロスのような魔王軍に所属しないモンスター、無法者のモンスターは魔王様曰く「知らん、そんな奴らはどうなっても知らん」らしい。


それを帝国やメディアがまるで魔王軍の仕業のように下手あげるのが世の常なのだと言う。


「で、でも魔王様!魔王城に派遣された帝国の冒険者達は殺されて川に流されると噂で聞いたのですが......」


そうだ、これもカエデさんから聞いた。


恐らくカエデさんが言うぐらいだから帝国側では当たり前の話なのだろう。


「しないしない、襲撃してきた冒険者は当然返り討ちにするよ毎回」


魔王様は手を上下に振りながら、違う違うとアピールしながら言う。


「けど殺したことはないし、ボコボコにしたのを小船に乗せて川に流して強制送還してるだけだよ。だって近くに逃がしたらまた襲ってくるじゃん」


そう言う魔王様と隣でうんうんと頷くサイさん。


これもメディアが大袈裟に流したフェイクニュースだったらしい。



兎に角、帝国側が魔王軍を悪者にしようと色々と策を講じているみたいだ。


帝国側の民度の低さが露見しているな。まあ国民なんてメディアが言っていることを鵜呑みにするように出来ているか......


「そんなこと言ったら帝国の方が酷いよ、だって帝国の冒険者なんかモンスターを八裂きにして焼かずに食べるのが流行っているんでしょ?」


「へ?」


「お皿が足りなきゃモンスターの膝のお皿をエグリとって使うし、オモリがなかったらモンスターの歯を抜いて使うって聞いてるよ」


ああ......


どうやらどっちもどっちらしい。



それから魔王軍について色々聞いたが、全く持って安全な集団であることがわかった。


どうやらお互いがお互いの情報戦略により間違った情報が行き来しているようだ。世の中自分で見てみないとわからん。


そして、魔王様と話していてわかったことがもう1つある。



魔王様はスゴく魅力的で興味を引かれる人物である、ロリだけど。


俺は魔王様をじーっと見た。


「ん?どうしたの?」


この部屋の感じ、散らかった衣類や漫画、機械、食べかけのスナック菓子を見るとズボラな人であることはわかる。


13歳と言えど女の子であるならば、少しは身の回りに気を使うはずだが全くそんな素振りが見えない、相当ガサツな人物である。


「何考えてるかわかんないけど何か失礼なこと考えてない?」


それなのに魔王。

それにさっきからの受け答えや質問に対する答えは完璧に近い、俺が聞きたいことや知りたいことを全て教えてくれる。まさに理想の上司のあるべき姿だと言える。


どうしよう、正直この人の下で一度働いてみたい。しかも魔王様は可愛いし、サイさんって言う巨乳美女もいる。


けど、カエデさんとの約束もあるし......



どうすれば......




「ま、魔王様」


俺はしばらく考え、恐る恐る魔王様に聞く。


「なに?」


「このアルバイト、夜間だけにしてもらえないでしょうか?」


考えた結果、この無茶しかなかった。


昼間はカエデさんと旅をして、夜間は魔王様の下でアルバイト。


寝る時間ほとんどないけどそれしかないと思った。


「えー、やだよ、魔王城でのアルバイトは住み込みって決まってるよ?」


そういえば募集要項に書いてあった、魔王城でのアルバイトは部屋も用意してもらって住み込みで行うと、部屋がタダで貸してもらえるからいいなって思って応募したのだった。


俺のそろそろ実家から出たいっていう無駄なプライドが仇に......



「ロイくん、夜間だけにしたいのは理由があるのか?」


見かねたサイさんが聞いてきた。


そうだよな、そんなもん理由を聞かないと許可できる訳ありゃせんわな。


正直に勇者の子孫と旅するからとか言えないし......



ここは嘘を吐くしかねー!



「じ、実は実家の母さんが病気で、心配で昼間は家にいてあげたいんですよ」


って言う嘘をついた。


ちょっと臭かったか?バレるか?


俺は下を向きながらチラッと魔王様を見た。


すると、魔王様はなぜか涙を溜めている。


「ま、魔王様!?」


「ええ息子やで......」



な、なんだその喋り方は......


「そっか、それはこんなクソバイトよりそっちを優先しなよ」


クソバイトとか言っちゃったよこの魔娘!


「と、と言うことは許可していただけると言うことでしょうか?」


「正直来たいときに来て帰りたいときに帰っていいよ」


テキトーか!魔王城ホワイト企業かよ!!


「っと言うことはロイくん、夜間のみの勤務で問題ないということで大丈夫か?」


サイさんが言う。


元はと言えばこの人が魔王様に会えば気が変わるかも知れないと言い始めた。


見事に気が変わったよ......


「は、はい、これからよろしくお願いします」


「ああ、よろしくな」


サイさんは笑顔で手を差し伸べてきた。


やっべ、こんな美人と握手が出来る!


と、俺は揚々とサイさんの差し伸べた手を握った。


「うわ!冷たっ!!」


しかし俺はサイさんの手が冷た過ぎて直ぐに手を離した。


サイさんの手はまるでドライアイスのように冷たく、触るだけで痛い。


「ああ、すまない、私は氷魔人だったな」


そう言えばこの人達モンスターだった......


「もー、サイちゃん、雪女ギャグはもういいよ」


「なんですか雪女ギャグって、ギャグでやったわけではないですよ。それと私は雪女ではありません、氷魔人です」


なんか訳わからないコントを繰り広げてるけど、この人達はモンスター達の頂点、やはりスゴいバイトを始めてしまったものだ。


「まあ、ロイロイ、サイちゃんとは握手出来ないけど代わりに僕と」


そう言うと、魔王様は俺の前に歩いてきて、手を差し伸べる。


「これからよろしくね!ロイロイ!」


「は、はい!よろしくお願いします!!」


そんなこんなで魔王城でのアルバイトを夜間だけすることになった。


物理的にはカエデさんとの旅の両立が可能な訳だが......睡眠時間は一時間も取ることが出来ればいいぐらいだ。


恐らく、カエデさんとの旅も魔王城でのアルバイトも困難を極めるだろう。


だけど、俺は頑張るぞ!カエデさん!サイさん!魔王様!こんな美女と働けるのだから俺は頑張るぞ!!



多分......

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