後日談1 久しぶりの再会
私の名はコアネール・サン・サンベルス。サンベルス王国の王女ですわ。
あの最終決戦から、もう1年が経ちました。
あの戦いでエルダー・ドラゴンを封印し、ロゼーリアと忍者部隊の野望を打ち砕いたことで、ようやく平和への道が開けた気がいたします。
けれど、それでもまだ完全な平和とは到底言えません。
今はサンベルス国内の安定に力を注いでいますが、これからは世界全体を見据えて行動せねばなりませんわ。
どうにも、楽はさせてくれないみたいですわね。
正直に申しますと、世界中の人々を満足させるなんて、まるで夢のような話。
でも、魔王軍と和解できたおかげで、反乱分子は随分と減りました。魔王との対立が終わった今、貧困に苦しむ人々も少しずつ減りつつあります。
とはいえ減っただけ。
まだまだ足りませんわ!
私の目標は、貧困や争いの根を完全に断ち切ること。これは、天才であるこの私にしか成し得ない偉業ですの。
そしてそれは、未来永劫、私だけが為し得る誇るべき使命……
……などと立派なことを言ってみましたが、最近ちょっぴり寂しいのですわ。
カードの皆は遠征やら任務で忙しく、城にいることも少なくなりましたし……それに何より、カエデさん、ロイさん、レイカちゃん、そしてリコにも……あの人たちに会いたいのです。
1年も連絡なしで、いったい何をしているのでしょう?
まあ、それぞれにやるべきことがあるのは理解しておりますわ。風の噂によれば、リコの描いた絵がとても高く評価され、高値で売れているとか。
貧乏だった彼女が、今では裕福な暮らしをしているそうですわね。
素晴らしいことですけれど……やっぱり寂しいですの。
コンッ、コンッ。
あら、誰か来たようですわね。
「お入りなさい」
「はっ!」
扉が開き、兵士が一人、部屋に入ってきました。
「コアネール様、城内にて不審な人物を発見、拘束いたしました。ご指示を仰ぎたく」
不審者? まさかとは思いますが……
「その者をここに連れてきなさい」
「はっ!よし、入れ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!私は無実です!やめて、引っ張らないで!」
ずるずると引きずられて部屋に入ってきたのは、どう見てもリコでした。
「……はぁ、何をしているのですの」
「あっ!コアネールさん!助けてください!やっと会えました!」
「この者は一応私の友人です。手を放して、退出なさい」
「は、はっ!」
兵士はリコを解放し、頭を下げて部屋から出ていきました。
「いやー、ほんと久しぶりですね、コアネールさん!」
「本当に久しぶりですわ。……あなた、少し大人びた顔立ちになった気がしますの」
「私はもう20歳ですしね。コアネールさんも18歳。月日の流れは早いものですね」
「そうですわね……それで? どうして突然、城へ?」
「いやあ、野宿しながら旅の途中でふらっとサンベルスに立ち寄ったんですよ。それで、コアネールさんに会いたくて」
「……野宿って、貴女、大金を手に入れたのではなくて?」
「おっと、もう噂が届いてるんですね!すごいなあ、情報って」
「で、その大金はどうしたのですの?」
「実はですね……」
そう言って、リコは少し照れながら話し始めました。
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私はある丘の上で、絵を描いていました。
『ふふ、いい景色だなぁ……こういう自然を見ると、どうしても描きたくなってしまうんですよね』
『おやおや』
背後から柔らかな声が聞こえてきて、振り返ると、立派なひげを蓄えたジェントルマンが立っていました。
『私のお気に入りの場所を取られてしまったようじゃな』
『え?』
その男性は穏やかに微笑みながら、こちらを見ています。
『毎朝ここで景色を眺めるのが、私の日課でのぅ』
『そ、そうだったんですか!すみません、すぐどきます』
『いやいや、構わんよ。それより君は、絵を描いているのかね?』
彼はそっと、私の描いていた絵に目を落としました。
『はい、まだまだ未熟ですけど……』
『見せてもらってもいいかな?』
『どうぞ』
私が描いていたのは、かつてコアネールさんと出会った時のことを思い出しながら描いた、「少女と自然」という作品。
少女のモデルはもちろん、コアネールさん。
『……なるほど、決して上手とは言えん』
『や、やっぱりそうですよね……』
『だが、これは素晴らしい。背景の自然が生き生きとしていて、そのまま自然を写し取ったような印象を受ける。そしてこの少女、親しみやすく、感情が伝わってくる。無心で描いたからこそ生まれる作品じゃな』
『え、えっと……ありがとうございます?』
『この絵、わしの美術館に展示してみんか?』
『えっ!?おじさんの美術館ですか!?』
『うむ、わしは自分の絵だけでなく、心を動かされた作品を自分の美術館に展示しているのじゃ』
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「……という感じで、私の絵がおじさんの美術館に展示されることになったんですよ!」
「うんうん、順調そうですわね」
「しかもですよ、そのおじさんがグッホさんっていう、あの有名な画家だったんですよ!」
「まさか……あの、グッホ!?世界的に有名な……?」
「ええ!しかも私の母が、昔グッホさんの弟子だったこともあるそうで。びっくりですよね」
「……そのグッホに認められたあなたの絵。確かに価値が跳ね上がりますわね」
「それでですね、なんと私の絵を1000万Gで買いたいって方が現れて!」
「い、1000万G!?あなたの絵が!?信じられませんわ!」
「ちょっ……そんな言い方……でもまあ、私も営利目的で描いていたわけじゃなかったんですが、人に見てもらうにはお金も必要かと思いまして」
「それで、その1000万はどうしたんですの?」
「それが……ですね……」
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『すごい……これが1000万G……!』
ケースいっぱいに詰まった紙幣を見ながら、私は呆然としていました。
何に使おう?
絵の道具? おしゃれ? 美味しいもの?
いろいろ考えながら歩いていたそのとき……
ガンッ!
足元の石につまずき、体勢を崩してしまいました。
「……はぁ、ここまででなんとなく予想できますわ」
「ま、まだまだ続きますから!」
ケースは坂道を転がりはじめ、コロコロと音を立てながら加速していきます。
「うわあああ!お金がぁぁぁぁ!」
私は全速力で追いかけましたが、ケースはどんどん先へ進み……そして、湖へ一直線に転がっていきました。
「くっ……ここで決めるしかない!」
私は弓を手に取り、取っ手を狙って矢を放ちます。
「ここです!」




