第246話 レイカの決意
「そこでヴァルロ様に拾われ、生き甲斐を与えられた……そしてその後も、生き甲斐を与えてくれた人達がいた」
「それって?」
「ロイ様とカエデ様です」
モミジは2人に柔らかな笑顔を見せながら言った。
「私は貴方達を守りたいと思った。貴方達の成長を見てみたいと思った。それが私の人生を救い、私の目に光を取り戻してくれたのです」
モミジは空を見上げ、静かに続けた。
「ありがとう……それだけが言いたくて、今日は来ました」
そう言うと、モミジは一歩下がり、後ろを向いた。
「どこか行っちゃうの?」
カエデが声を上げる。
「ええ、本当に今日はそれだけのために来ましたから」
「ヴァルロがいなくなった今、お前はどうするんだ?」
ロイが問いかける。
「おじい様とともに旅を続けます。あれでもおじい様は私の師匠であり、家族ですから」
「モミジ!!」
カエデは大声を出し、モミジを見つめた。
「また……会いに来てよね!!私、モミジと一緒に町を回ったり、買い物したりしたい!!」
それを聞くと、フッと笑うモミジ。
「はい、カエデ様は私の妹みたいなものですから」
その瞬間、モミジの姿は消えた。
「……モミジ」
「ホント、神出鬼没な奴だな……」
ロイが呆れたように呟く。
「はーあ、なんか安心して疲れちゃった」
カエデはベンチに横になった。
「はしたないぞ、女の子なのに」
「うるさいわね。で、ロイの話ってなんなのよ?」
「お、俺の話か?そーだな……」
「……」
「俺の話はまた後ででいいか?」
「なんなのよ、気になるじゃない」
「ま、まあ……またすぐ言うよ」
カエデは横になりながらロイをじーっと見つめた。
「まあいいわ、許してあげる」
「ありがとよ。とりあえずもう一回魔王様を呼びに行ってくるよ。カエデはここで待ってな」
「わかった」
ロイは一人、レイカの部屋に向かった。
「うーん、魔王様を元気づける方法はないだろうか……」
ロイはレイカの部屋の前で腕を組んで考え込んでいた。
「そうだ!魔王様ー!一緒にプラモデル作りませんか!?」
しかし、返事はない。
「うーん、じゃあ苺食べませんか!?」
しかし、またしても返事はない。
「うーん、うーん……あっ!」
ロイはポケットから飴を取り出した。
「これは実はカエデへのプレゼントなんですが、この前サンベルスの市場で極秘で手に入れた胸が大きくなる飴らしいです!これで魔王様の貧乳も大きくなるはず」
ドゴッ!!
「誰が貧乳じゃゴラー!!」
その瞬間、ドアが勢いよく開き、レイカの跳び蹴りがロイに直撃した。
「ぐはっ!!」
ロイは壁にめり込んだ。
「全く……ロイロイはエロイロイなんだから」
「ま、魔王ちゃま……ひどい……」
「ったく!」
そのレイカの右手には大きなリュックが握られていた。
「な、なんですか?そのリュック?」
「ああ、これ?これはね」
レイカはリュックを開け、中身を取り出した。
「まず保存食でしょ、それに持ち運び用のプラモデル、着替えや替えの下着」
「魔王様、そんな下着はいてるんですね」
「え?」
気づけばロイの手にはレイカの替えの下着が握られていた。
「なにタダ見してんだゴラー!!」
レイは再びロイを蹴り飛ばした。
「パンチー!!」
ロイはまた壁にめり込む。
「もう今日からロイロイじゃなくてドエロって呼ぶね」
「え……もうエロイロイでもなくなっちゃったんですか、魔王様……」
「あ、僕もう魔王じゃないから」
「へ?」
「だから僕もう魔王じゃないって」
「それはどういう……」
「僕、魔王を辞めるって決めたから」
「魔王辞めるって……ええぇぇえぇえ!!」
「うん、まあ置き手紙しといたから、みんなに説明しといてくれる?」
レイカは歩き出し、城の出口に向かおうとする。
「待ってくださいよ!なんでまた急に……」
すると、ピタッと歩みを止めるレイカ。
「僕……幸せになるんだ」
そう言ったレイカの目は、いつものレイカの目ではなかった。
「僕、決めたんだ……お母様と同じピアニストになるって、それが僕の小さい頃からの夢だから」
「魔王様……」
「だから僕は魔王城にはいられない。次に帰ってくるのはいつになるか……だから魔王は続けられないよ」
そう言うレイカの目からは涙が流れていた。
「無責任だって……勝手だってわかってる……けど、どうしてもなりたい。お兄様との約束、僕が幸せになるって……この夢を追いかけることが今の僕にとっての一番の幸せだから!!」
「わかりました、魔王様!!俺は夢に向かって突っ走る貴女を全力で応援しますよ!!」
「ロイロイ……ありがとう……けど僕、もう魔王じゃないって言ったじゃん」
「え!あ……なんて呼べば……」
「レイカ様でいいよ」
「じゃあリアと同じでペッタンコって呼んでいいですか?」
「ダメに決まってんだろ!!」
レイカはまた蹴りを入れた。
「ボハッ!!」
またまた壁にめり込むロイ。
「自分はリアのこと呼んでるくせに……」
「ふんっ!じゃあ僕行くね。元気でね、ロイロイ」
レイは後ろを向き、歩き出した。




