第245話 戦いの果て
エルダー・ドラゴンの魔力を封印し、虚空を倒したことにより、戦いの火蓋が完全に閉じられた。
全員が協力し合った結果、戦場には平穏が訪れた。
帝国軍の制圧派は倒され、指導者のロゼーリアとキャプテン・トップはまた姿を暗ませた。
残された帝国軍の制圧派は降伏し、これからは魔王軍と帝国軍が手を取り合い、平和を目指す世界となるだろう。
しかし、その平和には犠牲があった。
この戦いで命を落とした者。
そして、ヴァルロとモミジ。
その犠牲の重みを、俺達は決して忘れることはないだろう。
2日後、魔王城の会議室には帝国軍と魔王軍双方の首脳陣が集まっていた。
帝国軍と魔王軍で新たに平和条約を結ぶ大事な会議中だった。
「うーん……大丈夫でしょうか?」
帝国軍の皇帝、エンバンスが言う。
「すいません……もう少しかかりそうです」
コアネールが少し汗をかきながら答えた。
会議室には帝国軍側のエンバンス、コアネール、リコ、その他数名の首脳陣。
そして魔王軍側にはキザ、サイ、ゴラドが並んでいる。
「帝国軍と魔王軍が同盟を結ぶ重要な会議なのに……最高権力者がいないのでは……」
コアネールがそう言う。
「仕方ないですよ……あんなことがあったのですから」
リコが悲しげに呟いた。
「魔王様は辛いことがあると部屋に閉じこもる癖があってな……帝国軍の首脳陣を待たせてしまい申し訳ない」
サイは申し訳なさそうに頭を下げる。
「構いませんよ。そちらの方がリコさんを見ていられる……ではなく、平和条約のためならいくらでも待ちます!」
エンバンスはチラチラとリコを見ながら言った。
「ハハハ……でもレイカちゃん大丈夫かな」
リコが少し心配そうに呟く。
「今はロイさんとカエデさんが様子を見に行っていますわ」
ロイはレイカの部屋の扉を軽く叩いた。
「魔王様ー」
しかし、返事はない。
「まだ無理そうね」
カエデが静かに言った。
「うん、魔王様の気が晴れるまではそっとしておいた方がいいか」
ロイは心配そうにため息をつく。
「そうね……」
カエデも同じくため息をついた。
そして、ロイを見るカエデ。
「ねえロイ、ちょっとあっちの庭で話さない?」
カエデが提案する。
「ああ、俺もちょうど話したいことがある」
ロイはうなずき、カエデとともに庭へ向かう。
2人は庭のベンチに腰掛けた。静かな庭には風の音だけが響いている。
「……」
「……」
沈黙が続き、カエデが痺れを切らした。
「ちょ、ちょっと!何か話しなさいよ!」
「いや!心の準備があるんだよ!」
ロイは焦りながら答える。
「何よ?そんなもったいぶらなくてもいいじゃない」
「わ、わかったよ……あのな……」
ロイは下を向き、一度ため息をついた後、カエデの方をゆっくりと見た。
「や、やっぱり私の話していい!?」
「な、なんだよ……いいぜ」
「今回の戦いは必要なものだったのかな?」
カエデは少し悲しそうな表情でロイに聞いた。
「わかんねーが、必要だったんじゃねーか?結果的に帝国軍と魔王軍は同盟を組めたんだから。ただ、ヴァルロとスカーレット、2人の犠牲はあまりに重すぎる」
「うん……私は特にモミジには感謝してもしきれない、何度も命を救われた」
「俺もあいつには世話になったよ。あいつには俺も何度も助けられた。もしあいつがいなかったら、今の俺はなかっただろうな」
「……もし生きていたら、もっと色々一緒にしたかったな」
「……そうだな」
「貴方達とでも友達になれる年齢でしょうか?」
「大丈夫よ、モミジの歳はわからないけど」
「だな。友達に年齢なんか関係ない。それにモミジなら十代だって言われても疑わねーよ」
「うれしいことを言ってくれますね。ですが、さすがに十代はきついと思います」
「ハハハ……って」
ロイとカエデが同時に後ろを振り向くと、そこにはメイド服のモミジが立っていた。
「テ、テメー!スカーレット!!」
「ど、どうして!?まさかオバケ……」
「オバケに見えますか?うーらーめーしーやー」
モミジは無表情のままふざけるように手を掲げる。
「ひえー!!」
カエデが大きな声を上げる。
「何冗談言ってやがんだ!!スカーレット!お前確か虚空の攻撃で……」
「あの程度で私が死ぬと思いますか?」
モミジは無表情でロイをまっすぐ見た。
「実はですね……」
2日前、サンベルス近郊の森にて……
「……」
モミジは目を覚ました。
周囲を見渡すと、青々と森が広がっている。
「ここは……」
「ホッホッホ、間一髪だったのう」
「え?」
モミジの後ろにはおにぎりを食べる祖父カツラの姿があった。
「お、おじい様……どうして……」
「始祖龍の魔力を纏った虚空の攻撃が当たる前にワシが影移りの術で助けてやったんじゃ」
「おじい様が助けてくれたのですね、ありがとうございます」
「ホッホッホ、可愛い孫娘じゃからのう」
「でもどうしておじい様がこんなところに……」
「実はのう、この先の山に秘湯と言われる温泉があるのじゃ!その温泉は何と混浴でな!若いお姉ちゃんと温泉に入れると思って遥々来たのじゃ!!そしたら、たまたまお前がピンチの場面に出くわして、助けてやったという訳じゃ」
「なるほど」
「ホッホッホ、良かったらお前も温泉来るか?」
「遠慮しときます」
「っと言うことです」
「お、お前……どれだけ心配したと……」
ガバッ!!
その瞬間、カエデが勢いよくモミジに抱きついた。
「どうしました、カエデ様?」
「よかった……生きててくれてよかった……!!」
カエデは泣きながらモミジにしがみついた。
「……この私を大切に思ってくれるのですか?」
「うん!当たり前じゃない!」
「そう……ですか」
モミジはほんの少し、柔らかく微笑んだ。
「ハハハ、そんな笑い方するんだな、お前も」
「おかしいですか?」
「いや、すごくいい笑顔だ」
ロイは親指を突き出して笑った。
その仕草を見たモミジも、無言で親指を突き出す。
「変わったな、お前も」
「おかげさまで」
そう言いながら、モミジはそっとカエデを引き離した。
「聞いてください。私は空っぽでした、忍者として育てられ、日々任務をこなしていました」
モミジは真剣なまなざしで2人を見つめながら語り始めた。
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