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第244話 思い出の中庭

「魔血凍病って……まさかお兄様!」


レイカは震える声で問いかけた。


ヴァルロは静かに目を伏せた。


「レイ、お前が気にすることじゃない……」


その瞬間、ヴァルロの目から涙が一筋流れ落ちる。


「お兄様、なんで泣いてるの!?痛いの!?」


レイカは動揺し、彼の顔を覗き込む。


ヴァルロは微笑みを浮かべたまま、小さく首を振る。


「レイ……お前は本当にいい子だ。だから、絶対に幸せになれ。世界を平和にしろとか、良い魔王になれとか、そんなことは望まない。ただ……お前が幸せになってくれる。それだけでいい。」


「なら、お兄様も一緒だよ!早く病院に行こう!僕が連れて行ってあげるから!!」


涙を流しながら必死にヴァルロを支えようとするレイカ。


「もういいんだレイカ……」


「良くないよ!!お兄様、魔王城に戻ってきて僕の代わりに魔王になるって、約束したんだよ!!」


「魔王様……」


ロイはレイカの肩に手を乗せる。


「魔王様……ヴァルロの気持ち、わかってやってください。妹のことが大好きで、全力で生きた男の最後の言葉、聞いてあげてください」


ロイの顔も涙に濡れていた。


「ロイロイ……」


ヴァルロは静かに頷き、ロイの方を向いた。


「すまないロイ……お前には世話になった。そして……今度こそお前に頼みだ、これからもレイを頼む」


ヴァルロは手を差し出した。


ロイはしっかりとその手を掴み、力強く答える。


「ああ!!約束する!!任せとけ!!!」


ヴァルロは微笑みを浮かべながらレイカの方を見た。


「レイ、僕はお父様やお母様……それにランドのところに行く。何か伝えたいことがあれば、言ってほしい」


「……」


レイカは涙で前が見えなくなるほど泣き崩れた。


そして、震える声で呟く。


「僕……僕……」


レイカはヴァルロに抱きつき、胸に顔を埋めた。


「僕は大丈夫だよって……元気にやってるよって、伝えて……」


「わかった……」


ヴァルロは優しくレイカの頭を撫で、微笑みながらその涙を拭った。




















数年前、ヴァルロは穏やかな陽だまりの中、城の庭に座っていた。


『お兄様』


振り返ると、幼いレイカが歩いてくる。


『レイ、どうした?』


『お兄様に聞きたいことがあるの』


『なんだ?』


『幸せってなぁに?』


ヴァルロは少し驚いた顔をした後、優しく笑った。


『ハハッ、また難しい質問だな』


『僕わかんなくってさ……お父様に聞いても、俺はレイがお母様似の美人に生まれてくれて幸せだぁ!とか言うだけだし……』


『お父様らしいな……まあ、幸せなんてものは、どうこう説明するもんじゃない。レイがこれだと思えば、それが幸せなんだよ』


『うーん……よくわからない……じゃあ、お兄様にとっての幸せってなんなの?』


ヴァルロは一瞬だけ空を見上げ、そしてレイカを見つめて微笑んだ。


『僕にとっての幸せか……』






















ヴァルロはその最後の言葉を紡ぎ出す。


「レイが幸せになれば……僕も幸せだよ……幸せになれ……レイ」


ヴァルロの声が途切れ、静かにその体が安らかに横たわった。

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