第243話 最後の技
虚空は倒れたカエデを冷ややかな目で見下ろしていた。
「……お前はよくやった。だがこれで終わりだ!」
虚空の手には漆黒の魔力の刃が凝縮され、カエデへのトドメとして振り下ろされようとしていた。
「……溜まった」
静かに呟いたのは闇魔力を溜め続けていたヴァルロだった。
ついにレイカとヴァルロの闇魔力が溜まり切り、準備は整った。
「カエデ、ありがとう!準備は完了だよ!!」
レイカが息を整えながら立ち上がる。
ヴァルロも虚空を見据えた鋭い目で告げる。
「行くぞ、レイ!これで虚空を封じる!!」
レイカとヴァルロは互いに手を取り合い、その目には固い決意が輝いていた。
「終わりだよ、虚空!!」
2人は声を合わせて魔法を放つ。
「「ダーク・レクイエム!!」」
2人がそう叫ぶと、闇魔力の融合が空間を震わせ、巨大な闇の塊が虚空に向かって一直線に飛び込む。
その一撃が虚空を捉えると、闇が虚空を包み込み、エルダー・ドラゴンの魔力が徐々に封印されていく。
「な、なに!?エルダー・ドラゴンの力が抜けていく!」
虚空の声は苦痛と怒りに満ちていた。
虚空の体からは、まるで糸を巻き取られるかのように魔力が抜け落ちていく。
「クソッ!忍者部隊の夢が!清浄様の夢……俺の夢がぁ!!!」
虚空はもがきながら叫び、その力が失われていく自分に絶望した。
全ての魔力を使い果たしたレイカとヴァルロは地面に座り込む。
レイカは虚空の崩れ去る姿を見つめながら呟いた。
「これで終わりなんだね……」
虚空の魔力はさらに縮小し、エルダー・ドラゴンの魔力が完全に封じられようとしていた。
しかし虚空は最後の力を振り絞り、魔力を凝縮して魔力の刃を形成した。
「このままでは終われない……魔王レイカ!清浄様の仇!!お前だけでも道連れだ!!」
虚空の刃がレイカに向かって猛スピードで飛んだ。
レイカは魔力を使い果たしていて、動くことができず、その場で目を見開いた。
「しまった……!」
「レイカ!!」
カエデが倒れたままそれを見て叫ぶ。
「魔王様!!」
その瞬間、気が付いたロイが瞬間移動を使い、レイカの前に立ちはだかった。
「ロイロイ!!」
レイカが驚きの声を上げる。
「殺させねぇ!魔王様は大切な人だから!!」
「ロイ……いや!死なないで!!」
カエデは立ち上がりながら叫ぶ。
「ありがとな……カエデ」
ロイは微笑みながら目を閉じた。
次の瞬間、鮮血が飛び散る。
「え……」
レイカが驚き、声も出せない。
ロイは目を開ける。
そこには、腹に魔力の刃が突き刺さり、大量の血を流しながら立ち続けるヴァルロがいた。
「な……」
虚空は膝をつきながら呟く。
「クソッ……清浄様……俺は……俺……は……」
そして、完全にエルダー・ドラゴンの魔力は封印され、虚空は力を失い倒れ込んだ。
同時に空に差し込む光が戦場を明るく照らし、暗雲は消え去った。
レイカは涙を浮かべながらヴァルロに駆け寄る。
「お兄様!!!」
ヴァルロは苦しそうに微笑みながらロイに向かって告げる。
「僕にも焼きが回ったかな……お前なんかを庇うなんてな」
ヴァルロは腹に開いた風穴を押さえながら言う。
「だが勘違いするな……僕はレイを庇ってくれようとした奴を……庇った…………だけだ……」
ヴァルロは片膝をつき、倒れた。
「ヴァルロ!!」
ロイは倒れるヴァルロを支える。
「お兄様!お兄様ぁ!!」
ヴァルロに駆け寄るレイカ。
「……終わったんだな、全部」
「ああ!終わったよ!だからしっかりしろ!」
「僕はどうせ死ぬ、遅かれ早かれね」
「やだ!お兄様!!死んじゃやだ!!」
「ロイ頼む、僕のこの体を使って魔血凍病の治療法の研究をしてくれって帝国に頼んでくれないか?」
「お前……もしかして始めからそのつもりで……」
「……魔血凍病の治療方法の研究に必要なのは2つ、献体者と帝国が持っている技術だ……」
ヴァルロは続ける。
「ドクターステードのG3……あれは細胞から人工的に魔力を生成したりコントロールすることが出来る技術だ……魔血凍病は魔族の膨大で大きすぎる魔力が原因で引き起こされる病、G3の技術を応用することで魔血凍病は治せるはずだ」
「お前……そこまで知っていたのか」
「エルダー・ドラゴンを復活させて結果的にこれが揃った。初代魔王の予言はこういうことだったんだ……」




