第210話 ランドの過去 3
『ありがとうランド、修行に付き合ってくれて』
『いいえ、当然ですよ。それよりやっぱりヴァルロ様はお強い!魔王様喜びますよ』
『フフ、お父様は最近忙しくてなかなか相手してくれないけどね』
『魔王ですから、多忙にされています。仕方ないですよ』
『ランドがいてくれなかったら僕はどうしてただろうか、ランドは僕のもう1人のお父様みたいだ』
冷静でクールなヴァルロ様の口からこんな言葉が出るとは思っても見なかった。
嬉しかったが、ガイル様とヴァルロ様の距離を感じて少し心配になった。
『魔王様も今日は休日です。久しぶりに修行を見てもらえばどうです?』
『そうだね、なかなかないチャンスだ。頼んでみるよ』
『おーい、ランドにヴァルロ!』
その時、ガイル様が庭に来た。
『ちょうどいいところに来ましたね』
『お父様、今日は久しぶりに僕の』
『わりぃ、急な仕事が入っちまった』
『え......』
『だからランド、またヴァルロのこと頼んだぞ』
『は、はい......』
そう言って、ガイル様は出かけていった。
『......』
『ヴァルロ様......』
『いいんだ、お父様は忙しい。それは息子の僕にも誇らしいことだよ』
そう言うヴァルロ様は寂しげに見えた。
それからしばらくガイル様はほとんど休日がなく、ヴァルロ様との距離はどんどん離れていっているような気がした。
その日、俺はガイル様と2人で飲んでいた。
『はあ!仕事終わりの酒は最高だな!』
『あまり飲み過ぎたら、ミーナ様に怒られますよ?』
『大丈夫大丈夫!ちょうどいいところで止めとくから』
『それならいいですけど』
『さっ!お前も飲め飲め』
ガイル様は俺の酒をついだ。
『なあランド、最近のヴァルロはどうだ?』
『え?あ、はい、剣術も魔法もどんどん強くなってます。心配するようなことはないでしょう』
『そうか』
『ただ......最近寂しそうな気がします。家族と一緒にいる時間が少ないからではないでしょうか?』
『うむ......』
『魔王様は多忙ですし、ミーナ様も最近ピアノでいないことが多い。ヴァルロ様は1人でいらっしゃることが少なくなくなっています。俺がこんなこと言うのもなんですが、もう少しヴァルロ様を見てあげたらどうです?ヴァルロ様は大人っぽいですが、まだ幼い、家族が恋しくないはずがありません』
俺は話している途中でハッとした。
『す、すいません......俺なんかが魔王様に意見して......』
『ハハハ、お前はそんなにヴァルロのことを考えていてくれたんだな。つくづくお前を雇ってよかったと思う。ヴァルロのことはしっかり考えておくよ』
今考えたら、俺が魔王様に意見したのはこれが初めてだった。
この時、俺は気がついた。
大切なものがもう1つ増えていたと。
いつの間にか、ガイル様と同じぐらいヴァルロ様を大切になっていた。
その次の日、ガイル様はミーナ様とヴァルロ様、それに俺を自室に呼んだ。
『久しぶりだな、家族みんな集まるのは』
『お父様が自室に呼ぶなんて、何か重大な用でも?』
『いやあのな、随分先な話なんだが、次の年明けぐらいにみんなで旅行でも行かないか?』
多分、家族で一緒にいる時間を作ろうと考えた結果だった。
すごくいい考えだと思った。
『旅行?大丈夫なのお父様?』
『一日ぐらい大丈夫だ、パーッと行こうぜ』
そう言って笑うガイル様を見て、嬉しそうな顔をするヴァルロ様。
こんな嬉しそうな表情のヴァルロ様は久しぶりに見た。
俺も自分のことのように嬉しかった。
『良かったですね、ヴァルロ様』
『何言ってんだ、ランドも一緒に行くんだぞ?』
『え?』
何故家族旅行なのに俺も誘ってくれているのか、わからなかった。
『あの......俺が行ってもいいのですか?』
『当たり前だろ、ランドは俺達の家族当然だからな』
家族......
家族のいない俺にとってこれほど嬉しいことはなかった。
俺はヴァルロ様の手前、込み上げる涙を押さえ、冷静を装う。
『ヴァルロはどこ行きたい?ママは南の暖かい国へ行きたいな』
『僕はみんなで行けるならどこでも』
『というかお前まだママって呼ばそうとしてんのかよ、無理だって、ミーナはママって柄じゃねーもん』
『うるさいわね!ねえヴァルロ!ママって呼んでみなさい!』
『え......』
『止めてやれよ、ヴァルロが可哀相だろ!』
『なんでよ!私子どもが出来たらママって呼ばせるのが夢だったんだ!さあヴァルロ!』
『マ、ママ......』
『きゃー!可愛い!』
ミーナ様はヴァルロ様に抱き着いた。
『お、お母様!』
『ミーナはたまにこういうモードに入るよな』
家族に囲まれるヴァルロ様を見て、俺はほっとした。
家族がいない俺にもわかる。
せっかく家族という関係で生まれてきたんだ。大切にし合わないと勿体ない。
特に子どもの間は家族の愛を感じていないとダメだと、そう思った。
しかし、それからしばらくたったある日、俺の人生で最大の事件が起こった。
また俺とヴァルロ様はガイル様に呼ばれた。
『魔王様、今日は何の用だろうか?』
『わからない、けど最近よく胸騒ぎがする。悪いことが起こらないといいけど』
『......』
実は俺も胸騒ぎしていた。この予感が外れることを強く願った。
しかし、その予感は当たってしまった。
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