第208話 ランドの過去
20年前、当時俺は15歳だった。
俺は両親がいない孤児だった。
物心ついた時には既に両親はいなく、15年間盗みをはたらいてハイエナのように生きてきた。
世の中誰も信用出来ない。
特に大人はクズだ、そんな大人が動かしてる世の中もクズの塊だ。そう思って生きてきた。
そんなある日、いつものように食料を盗んだ時だ。
俺はヘマをして捕まった。
当然盗んだ食料を取り返されたあげく、店主にボコボコにされて町の外へ追い出された。
季節は冬、殴られた痛みに寒さ、空腹が俺を襲った。
ここで死ぬんだと思った。
15年という短い時間の中、この世に未練など残っているどころか、作ることすら出来なかった俺は死ぬことを不幸に思わなかった。
むしろ生きていても何の生き甲斐もなく、ただただゴミみたいに生きているだけだ、それなら死んだ方がいい。
そう思って目を瞑った。
無駄な命だった、生まれてきて意味がなかった。
そう思いながら死んだ。
死んだはずだった......
俺が目を開けると、上には白い天井があった。
そして、人生で初めてふかふかしたベッドで寝ていた。
そうか、天国に来たんだなと少年だった俺は思った。
『おっ!気がついたか?』
しかし、俺の期待はすぐに打ち砕かれた。
目の前には天使ではなくそれと掛け離れた、まるで閻魔大王のような図体のデカい男がいたからだ。
『道端で倒れてたからビックリしたぞ』
『ここは?アンタは誰だ?』
『ここは魔王城、そして俺は魔王のガイル・ユミナル・ダークさ』
魔王城、魔王......
何を言っているんだこの男は、そう思った。
『アンタが俺を助けたのか?』
『そりゃ道端でガキが倒れてたらほっとけないだろ?』
その瞬間、怒りが込み上げた。
こういう本当の地獄を知らない癖に綺麗事を言う大人は1番嫌いだった。
『ふざけんな!俺は今日死んでたんだ!邪魔すんなよ!!』
『ちょ!馬鹿!うるせぇ!!』
ガイル様は横を見ながら人差し指を口に付けた。
『今横のベッドで俺の息子が寝てんだ!お前子どもを寝かしつけるのどれだけ苦労すると思ってんだよ』
『知るかよそんなこと』
『知れ!俺が教えてやるよ!まずな』
『貴方も十分うるさいわよ』
扉を見ると、今度は女の人が入って来ていた。
美人でスタイルの良い綺麗な人だった。
『ミーナ、休憩は出来たか?』
『うん、その間ヴァルロを見てくれてありがと』
『ところで今日の昼飯なに?』
『ざるそばよ』
『えー、またざるそばかよ。何日連続だよ』
『文句あるなら食べなくていい!ざるそばは万能なの!』
『自分がざるそば好きだからって......』
なんなんだこいつら......
お節介を焼いたあげく、くだらない痴話喧嘩も見せてくる。
今までこういうくだらない光景を見たことがない俺は衝撃を受けた。
『お、おい、ガイル......だっけか?』
『おおっと!失礼、紹介が遅れたな、この飛び切り美人な女が俺の妻のミーナ、それから今寝てる可愛い子どもが息子のヴァルロだ』
『あ、ああ......』
自慢げに話すガイル様を見て、俺は言葉を失った。
『そういえばお前なんていうんだ名前?』
『名前……名前なんてないんだ、俺は物心ついた時にはもう一人だったから』
そう名前なんて存在しない、第一俺を呼ぶ奴なんて今までいなかった。
『そうか......』
同情される、そう思った。
同情なんかされても腹が立つだけだ。
『なら俺がつけてやるよ!!』
『はあ?』
『名前がないと何かと不便だろ?なーに、俺はネーミングセンスあるから安心しろ、なっ!ヴァルロ?』
その瞬間、ヴァルロ様が首を横に振った......気がした。
『まあ......そう言うなら』
もうなんでもいいと思った。
『うーん?ランドってどうだ?』
『ランド?』
『そう、次男が生まれたら付けようと思ってた名前だがお前にやるよ!』
『ちょっと待って!まだ子ども作る気なの!?』
『当たり前だろ、ヴァルロだって一人っ子だと可哀相だろ?弟か妹がほしいだろ』
『貴方ねぇ、出産の苦しさがわからないからそんな簡単に言えるんだよ!!』
『な、なんだよ!じゃあもう子どもいらないのか!?』
『そういう訳じゃないけど!!』
『じゃあどういう訳なんだよ!俺達もういい歳なんだから早めにしとかないと』
バシッ!
その瞬間、ミーナ様はガイル様を蹴った。
『イタッ!なにするんだよ!』
『いい歳とか余計なお世話だよー!べーっだ!』
『う、う......うえーん!!』
ヴァルロ様が泣き出した。
『ああああ!ごめんねヴァルロ!ママ達うるさかったね』
ミーナ様はヴァルロ様を抱っこした。
『ぷっ!ママだってよ!』
『うるさいこのダメダメ亭主!!』
『う、うえぇぇぇん!!』
俺はこの時、この男はダメな男だと思った。
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