第139話 愛する姫様
「ここまで来れば大丈夫ですな」
ニューペルシアルの郊外の森まで逃げ込んだトップ。
担いでいたロゼーリアを下ろした。
「と、とりあえず助かりましたわトップ」
「ハッハッハ、勿体無いお言葉でございます」
トップは歯を見せて笑いながら言うのに対し、ロゼーリアは神妙な面持ちである。
「さて、姫、皇帝になるために次はどういう手を打ちましょうか?」
「はあ!?何言ってますのトップ!?」
「何って、姫が皇帝に返り咲く算段を考えるのですよ」
「皇帝に返り咲くって......今はもうそんなことを言っている段階ではないです!後はどう帝国の追手から逃れ生き残っていくか考える段階ですわ!」
ロゼーリアはトップから目を反らす。
「......それにもう疲れました。確かに私はタカ派を貫いてきました、私なりに帝国を良くしようと皇帝になるため頑張ってきたつもりでした。こんなことで台無しになるなんて、もう何をやっても無駄です」
ロゼーリアは近くの岩に座り込む。
「ハア......っで?何であなたは私を助けてくれていますの?」
「ハッハッハ、愛する姫君を助けるのに理由が要りますか」
「あ、愛するって......」
ロゼーリアは赤くなる。
「先程も言いましたが私はあなたを捨てたのですよ、助けられる理由がありませんわ。あなた1人なら簡単に逃げられるはずです、私を置いて1人で逃げなさい」
「......」
トップはロゼーリアが座る岩の前に跪く。
「だから先程も言い返したではありませんか、何があっても私はあなたの騎士です」
「そんなこと言ってもらう義理はありませんわ!!一度捨てたあなたに助けてもらうほど私も落ちぶれていません!今すぐ1人で逃げなさい」
ロゼーリアはトップを睨み付け言う。
「相変わらずワガママで強情な姫だ」
「く、口を慎みなさい!私なりのけじめですの!!」
「わかりました、ならば条件があります」
トップはロゼーリアに剣を持たせた。
そして、その剣を自分の喉元に当てる。
「な、何をしますの!?」
「私があなたの騎士を辞める時はあなたに殺される時です。本当に私を捨てたいのであれば今ここで斬り捨てて下さい」
「な......」
トップは目を瞑り、剣を首に押し当てる。
「や、止めなさい!!バカ者!!」
ロゼーリアは剣を離し、トップを蹴って遠ざけた。
「ハッハッハ、これで契約破棄は破棄ですな!」
「くうぅ......」
「私はあの時からあなたの騎士です。あの時から死ぬのはあなたを守って死ぬかあなたの手で死ぬかのどちらかです」
トップは跪き、ロゼーリアと目線を合わせる。
そして、手を差し出すトップ。
これは15年前。
「全く、空気が悪い町だこと」
当時12歳だったロゼーリアはコースクという町に視察に来ていた。
コースクの町は閑散としていて、大量の工事用機材が置かれている。
「お父様はこんな町を重要視していたのですね」
この少し前、コースクと帝国軍は戦争を行っていた。
原因はコースクが帝国の傘下に加わることを拒否したせいである。
コースクは山に囲まれた小さな町だったが、その山には大量の資源が埋まっていることが判明した。その資源を巡っての戦争だった。
傘下に加わることを拒否したコースクに対し、帝国が強制的に山の押し入り資源を取ろうとした。それに反乱を起こしたコースクと帝国の戦いだった。
結果は当然帝国の勝利、反乱の首謀者の町長とその家族は処刑され、反乱に加わった者は投獄された。それ以外の元コースクの住人達は十分な支援金を受け取り、隣町や他の町に移り住んだ。
ロゼーリアは次期皇帝候補として、資源元の視察に来ていたのである。
「今ここには元住人はいないですのよね?」
ロゼーリアは兵士の聞く。
「はい、住人は全員立ち退きました。ですが......」
「ですが?」
「処刑された反乱の首謀者である町長の長男だけが行方不明です。処刑の対象なので所在を確かめていますが見つからなく」
「......」
「ですがまだ10歳の子どもですし、いなくなってから1ヶ月以上も経っています。この辺りにはいない可能性が高いですし、もうどこかで死んでいるものと思われます」
「ま、10歳の子どもがこんな町で帝国から隠れながら生き残るのは至難の技ですわね」
「はい、なので安心なさって下さい」
「......」
「それではロゼーリア様、ここからは山道となります。馬車の準備を致しますので少々お待ちを」
「わかったわ」
そう言って兵士は走っていった。
「全く、何で高貴な私がこんなところに来ないといけないのかしら」
ロゼーリアは隣にあった木箱の上に座った。
「はーあ、帰ったら新しいドレスを新調しましょう......ん?」
ロゼーリアはふと木箱と木箱の間を見た。
そこには隠れながら体育座りしてジーッとロゼーリアを見る少年の姿があった。
「......」
「......」
しばらく見つめ合う二人。
「ハア......全く面倒なものを見つけてしまいましたわね」
「......」
「あなた、噂の町長の長男ね」
「......」
少年はジーッとロゼーリアを見て何も言わない。
「あなた見つかったら処刑の対象ですわよ、兵士を呼んで来ましょうか?」
「......」
そう言うと少年はフルフル首を振った。
「あなた生きたいの?家族は全員死んだらしいですわよ」
「......」
「死んだ方が楽という場合もあるのですよ」
ロゼーリアは懐から拳銃を取り出し、少年に向ける。
「護身用の拳銃ですけど、これなら苦しまず楽に死ねるわよ。ここで隠れてると空腹や見つかる恐怖に苛まれ余計に怖い想いをしますわよ」
「......」
「どう?殺してあげましょうか?」
「......生きたい」
少年は小さな声で言う。
「......それはなぜ?家族ももういないのですわよ」
ロゼーリアは拳銃を向けながら聞いた。
「......僕の父さんはバカだ、帝国に逆らって殺されて家族もみんな殺されて、そんなことのために僕は死にたくない」
「ほう、でもあなたの父上は町のため勇敢に戦って死んだのですわよ」
「帝国を拒否すればこうなることはわかっていた。なのに拒否してみんなを危険に陥れた父さんはリーダー失格だ」
「正しいですが間違ってますわ、あなたの恨む対象は父上ではなく帝国ではなくて?」
「......僕も家族は好きだった、感情では帝国を怨んでいる。だけど帝国はやるべきことやっている、父さんはやるべきことをやっていない、この時代に力ある方を恨むのはナンセンスだよ」
「......」
ロゼーリアは拳銃を下げた。
「私こう見えて皇帝の娘なのです。私もお父様のやっていることを間違っていると思いません。帝国は十分な立ち退き料を払うとコースクに約束していました、なのに町のプライドだの先祖から受け継いだ町だのなんだので承諾しなかったあなたの父上は愚かだと思いますわ」
「......」
「嫌になるわよね、こうやって人はどうにかして争う理由を作りたがるのですから」
「......お姉ちゃんは争いが嫌い?」
「嫌いです、どちらも自分達が正しいと思っているから止めようがない、そう言うところが嫌いです」
ロゼーリアは頬杖を付き、身体ごと少年の方を見る。
「ねえ、あなた名前は?」
「......僕は」
「やっぱりいいですわ。決めました、私はあなたを世界一の騎士に育て上げますわ」
「え?」
「私が皇帝になり、あなたが世界一の騎士になれば怖いもの無し、魔王軍も完全に制し争いの少ない世界が作れるはず」
「争いの少ない世界......」
「私の権力を持ってすれば知らない子どもが1人増えるのなんて何の問題もありませんわ。さあ、どうしますか?今までの自分を捨てて私の下に来るか、このまま隠れているか」
ロゼーリアは立ち上がり、少年に手を差し出す。
「......」
少年は黙ってロゼーリアの手を取った。
「決まりですわね!それでは当然名前も今までのものは捨てていただき、新しく決めて差し上げますわ!そうですわね......」
ロゼーリアは少し考え込む。
「あなたは頂点を取らなければいけない存在ですわ!なのであなたの名前は今日から」
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