第125話 親友
「……」
レイカが目を閉じて、数秒が過ぎた。
しかし、いつまで経っても何も起こらない。
恐る恐る目を開けると、そこには右手を振り上げたまま、動かないリアの姿があった。
「……」
リアの体は小刻みに震えていた。
「何をしている!!早くトドメを刺せ、ジョーカー!!」
バルコニーから皇帝の怒号が響く。
だが、リアは震えながらも、動こうとしなかった。
「……ペッタンコ?」
動かないリアに、レイカが小さく問いかける。
リアはゆっくりと口を開いた。
「……リアは……強い子になったと思ってた……だけど……全然なれてなかった……」
シュン……
右手の風の刃が音もなく消える。
リアは大量の涙を流しながら、力尽きたようにその場にぺたりと座り込んだ。
「カッコつけてたけど……魔王でも……任務でも……世界の平和がかかってようと……」
そして、リアは声を上げて泣き出した。
「親友は……イカちゃんは殺したくないよぉぉぉぉぉ!!うわああああん!!」
リアは上を向いて号泣した。
涙で顔はぐしゃぐしゃになり、嗚咽が止まらない。
「ペッタンコ……」
レイカは驚いたようにリアを見つめていたが、自然とその目にも涙が溢れた。
「ぐすっ……ずずっ……さっきね……イカちゃんが死んじゃうって思ったら……リア、何もできなくなっちゃって……サンダトルトでの約束……リアとイカちゃんは離れててもずっと仲良しらって……約束したの思い出したんら……」
泣きすぎて呂律が回らないリア。
「エースくん、キングさん、クイーンさん、ジャックさん、ごめんなざぁぁぁい!!リア、やっぱり初めて出来た親友を殺すことできないよぉぉぉ!!」
リアは両手で顔を覆い、声を上げて泣く。
レイカも涙を流しながら叫んだ。
「……僕は……最初から言ってたじゃん!!ペッタンコとは戦いたくないって!!!」
レイカはリアに抱きついた。
「だってぇ……だってぇ……リアだって戦いたくなかったけど!!任務なんだもんって……仕方ないって思って……ずずっ!!」
リアは涙を拭いながら言う。
「もういいよ……ありがとう、ペッタンコ。大好きだよ……」
「ぐすっ……リアも、イカちゃんのこと大好きだよ……」
二人はギュッと抱き合う。
「まったく……困ったペッタンコだよ」
「ペッタンコじゃないもん……将来有望だもん……」
バルコニーの上からその様子を見ていた皇帝は、拳を強く握りしめた。
ドンッ!!
バルコニーの壁を殴りつける。
「ジョーカー!!ここにきて私を裏切るつもりか!!」
身を乗り出し、怒鳴り声を上げる皇帝。
リアは涙と鼻水を拭い、皇帝を真っ直ぐ見上げた。
「ま、待ってください!!魔王は、イカちゃんは良い子です!!それに、リアの大切な親友なんです!!恥を承知で言いますが、もう戦いたくありません!!」
「ほう……任務を放棄するというのだな?」
「ち、違います!!イカちゃんとなら、戦わなくても平和を目指せると思うんです!!まずは話し合いで」
「そんな言い訳は聞きたくない!!話し合いで平和を目指すだと!?そんなことが可能なら過去にいくらでもやっている!!どっちつかずの小娘が、綺麗事を言うな!!」
「そ、それは……」
リアは下を向く。
レイカは心配そうにリアを見つめた。
「魔王城を落とし、魔王軍を捕らえる任務も失敗したくせに!お前はカードのリーダーとしての責務を放棄するのか!!」
「え……?失敗したって……?」
レイカがリアを見る。
数日前、アルガンド城近くの森。
カードのメンバーが、魔王軍から連れ去ったモンスターたちを連れていた。
『なんでこんなところに連れてきたんだ、ジョーカーちゃん?』
『……』
リアは少し間を置き、メンバーを振り返る。
『ごめん!!この任務、失敗したことにしてもいいかな?』
『え!?何言ってるんですか、ジョーカーさん!!』
『皇帝様に魔王軍の仲間を渡したら、きっと酷い扱いをすると思う。最悪、殺されるかもしれない。それは……嫌なの』
『それはそうかもしれんが……バレたらジョーカーさんもただじゃ済まないぞ?』
キングが眉をひそめて言う。
『わかってる。でも、リアはなるべく被害を出さずに魔王を仕留めたいの。魔王軍の仲間を何人か攫ったという事実だけで、きっと魔王は動くから』
『賛成しますわ』
クイーンがリアの肩に手を置いた。
『平和主義なジョーカーちゃん、好きよ。それに、滅多にワガママ言わないジョーカーちゃんのお願いを聞くのが大人の役目ですわ』
『ありがとう、クイーンさん』
『ぼ、僕も!もちろんジョーカーさんの言う通りにします!!』
『ありがとう、エースくん』
3人の視線がキングとジャックに向く。
『ま、いいんじゃねぇか?女と子どもが賛成してるのに、オッサンだけ反対したらカッコつかねぇしな。なあ、キング』
『……わかっている。リーダーはジョーカーさんだ。リーダーの意向に従うよ』
『キングさん、ジャックさん……ありがとう』
『その代わり、デート1回お願いでー』
ジャックがリアの肩に手を伸ばそうとする。
ガシッ!!
クイーンがその腕を掴んだ。
『私がお相手しましょうか?』
『い、いや……遠慮しとくでー……』
リアは笑顔で言った。
『みんな、ありがとう。このメンバーで戦えて……リア、誇りに思うよ』
リアは空を見上げた。
(イカちゃん……リアにとって初めての親友だけど、戦わなきゃいけない運命みたい。リアは絶対に負けないよ……)
そして現在。
「二度の任務失敗、責任はリアにあります!!それでも……イカちゃんとは戦いたくありません!!」
「もういい。お前などに期待した私が愚かだった」
「皇帝様……」
皇帝は踵を返し、冷たく言い放った。
「ロゼーリア、トップ。魔王とジョーカーを捕らえろ。ドクターステードのもとへ連れて行け。奴らの化け物じみた魔力は、研究材料になる」
「はい、わかりましたわ。お父様」
そう言い残し、皇帝はアルガンド城の奥へと姿を消した。
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