第123話 魔王VSジョーカー 3
「ハア……ハア……そろそろ終わりにしよう、魔王」
リアは血に濡れた頬を拭い、鋭い眼光でレイカを睨みつけた。
「終わらせられるものならね」
レイカもまた、傷だらけの体を起こし、闇の気配を纏って睨み返す。
「やっぱりお前は今までで一番強かったよ……お礼に、リアの必殺技を見せてあげる」
リアはゆっくりと両手を地面につけ、腰を低く落とした。
いわゆるクラウチングスタートのような構えで、その目は獣のように赤く光っている。
(必殺技?あの四属性魔力玉が必殺技じゃなかったのか?それに……何だ、あの構えは)
「世界でリアだけが使える、必中の一撃……見せてあげる!!」
その瞬間、リアは地面を蹴り、爆発的な勢いでレイカに突っ込んだ。
ドンッ!!
足元の地面が陥没し、土煙が舞い上がる。
リアは走りながら土魔法で地面を隆起させ、さらに踏み切る。
「なっ!!速い!!」
レイカの目が追いつかない。
リアは空中で両足の裏に炎を灯し、火魔法を噴射。
ロケットのように加速するリア。
ドオオオオオッ!!!
「まだまだッ!!」
リアは右手から水、左手から風を噴射。
その身を軸に、ドリルのような高速回転を始める。
シュルシュルシュルシュル!!!
風を裂き、空気が悲鳴を上げた。
肉眼では捉えられぬ速度で、リアの姿は一筋の閃光と化す。
「は、速すぎる……!!」
レイカは腕に闇魔力を溜め、構える。
だが、すでにリアはレイカの目の前に来ていた。
「くらえッ!!リア・ロケット・アタァァァァック!!!」
ガキィィィンッ!!!
「ぐ、ぎぎぐぐぐっ!!!」
レイカはその渾身の頭突きを闇魔力を溜めた腕で咄嗟に防いだ。
「何これ重い!!!」
「まだだ!!!重力魔法!!!リアの重力を十倍に!!!」
リアが高速回転しながらそう叫ぶと、リアの頭突きの威力は一気に重くなる。
防いでいた闇の腕は、まるで紙のように砕け散った。
「グッ……!!グアアッッ!!」
次の瞬間、音をも置き去りにしたリアの頭突きがレイカに炸裂する。
ドゴォォォォォン!!!
レイカの身体が宙を舞い、リアと共に吹き飛ぶ。
二人は50メートル先の巨大な岩壁へ突っ込む。
ドガアアアアアアアアアアアン!!!
大地が揺れ、岩が粉々に弾けた。
「ああっ!!」
リアは中を舞い、地面に倒れる。
「ゲホッ……ゲホッ……見たか!これがリアの……必中の頭突き……!!」
リアは倒れたまま、血を吐きながら笑った。
火、水、風、土、四つの魔法を同時に制御し、さらに重力魔法で体重を重くし、威力を上げ自らを弾丸と化す技。
四属性使いクアドラプルの名を冠するリアだけが扱える、世界唯一の頭突き。
「ハア……ハア……使用者に反動がくるのが欠点だけど……必中、そして魔王にも効く体術……」
リアの頭からは血が流れ続けていた。
それでも、勝ち誇るように微笑む。
「……リアの勝ちだよ、魔王」
砂煙の中、ゆらめく影。
レイカは地に伏して動かない。
「ハ……ハハハ!やっぱりリアの勝ちだ!」
リアはよろめきながらも、レイカへ歩み寄る。
その体は限界を超え、今にも崩れ落ちそうだった。
「魔王……これで、終わりだ」
リアは震える手を上げ、魔力を込めた。
――ドクンッ。
「……え?」
胸の奥に、重い鼓動。悪寒が全身を這い上がる。
ドクンッ!!ドクンッ!!
レイカの身体から、黒い靄が噴き出した。
それは瞬く間に膨れ上がった。
「な、なんだこれは……!?」
闇は渦を巻き、形を成す。巨大な漆黒の龍の首が天を衝いた。
「ガアアアアアアアアアアア!!!!」
黒龍の咆哮が空気を震わせ、地面が裂けた。
リアは圧倒的な魔力の奔流に押され、思わず数歩下がる。
「こ、これが……魔王の……力……」
「……僕の最後の力だよ」
レイカがゆっくりと立ち上がる。
全身に傷を負いながらも、なおその瞳は揺るがない。
「な、なんで……!?確実に仕留めたはず……!」
「僕の闇魔力は、瀕死になると心臓に溜め込んでいる最後の魔力が自動的に絞り出されるようになっている。その魔力が体を再生し、外へ溢れ出して形を取る、それがこの黒龍」
レイカの周囲を、闇が渦を巻く。
血の気を失いながらも、その姿はもはや魔王そのものだった。
「当然、代償は大きいけどね」
「くっ……そんなの……リアが……リアが勝っていたのに!!」
リアは歯を食いしばり、炎を纏って再び突っ込む。
「戦いは最後に立っていた方の勝ちだよ、ジョーカー」
レイカが手を掲げると、黒龍が唸り声を上げ、口を開く。
ドオオオオオッ!!!
闇の奔流が吐き出され、リアの身体を吹き飛ばした。
「うわああっ!!!」
ズザザザザッ!!!
土煙の中、リアはうつ伏せに倒れ込む。
呼吸も荒く、目は虚ろになっている。
「ジョーカー……もうやめよう。お前を殺したくない」
「う、うるさい!!リアは負けない!!世界の平和のため……負けられないんだ!!」
リアは震える手で再び立ち上がり、叫びながら突っ込む。
ガシッ!!
しかし、レイカから出る巨大な闇魔法の手に掴まれ、動けなくなる。
そして、レイカが纏う黒龍が口に闇魔法を溜め始めた。
「ジョーカー、最後だ、お前を殺したくない」
「リアは……リアは……」
リアはレイカを睨む。
「リアは!!!魔王を!!!お前を!!絶対許さない!!!」
「ジョーカー……ごめん」
レイカが静かに呟いた瞬間、黒龍が巨大な闇魔法を吐き出した。
ドガアアアアアアアアアアアン!!!
世界が裂けるような轟音。
閃光と爆風が全てを飲み込み、辺り一面が黒い閃光に包まれた。
「今の音は……!」
アルガンド城へ向かって駆けるロイが顔を上げる。
夜空の彼方、黒い光柱が立ち昇っていた。
「無事でいてくれよ……魔王様、リア……!」
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