第1話 二足のわらじ
「キシャァァァァアアア!!」
「うおおおおおおおお!!」
突然だが、俺は今モンスターに襲われている。
モンスターは体長3mはありそうな百足のような見た目をしている。その名前の通りに無数の脚をカサカサと動かしながら素早く動く。そして、気性が荒く、俺を補食対象と見て元気に襲ってきているようだ。
俺は右手に剣を持っているが、全く意味をなしていないどころかモンスターの攻撃を避けるのに邪魔になっている。モンスターは俺に攻撃の隙を与えないぐらいの猛攻を仕掛けてきていた。
簡単に言えば勝ち目がないのである。
「ガギャアァッ!!」
そのとき、モンスターが鋭く尖った顎で俺を挟もうと飛び込んできた。恐らくあの顎に挟まれると即死は免れないだろう。
「ひいいいいぃいいいぃぃ!!!」
俺は咄嗟に地面を蹴り、右側に転がりながら避けた。
モンスターの顎は間一髪俺に当たらなかったが、モンスターは勢いよく突進し、俺が元いた位置の少し後ろにあった木を顎で挟み込むと、それを真っ二つにへし折った。
それを見てやっぱり当たってたら即死だったと核心する。
なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ。
そう思っているとさっきの避けた勢いでうつ伏せに倒れている俺の目の前に脚が見えた。
そう、俺の前に誰かが立っている。
「あなた、あんなザコモンスターも倒せないの?」
そう言う俺の目の前の脚の持ち主、その持ち主の特徴はスラッとした細い脚に引き締まったウエスト、装着した胸当ての上からでもあまりないと想像出来る胸、端正な顔立ち、そして一番特徴的なのは肩までぐらいの白銀色の髪である。
脚の持ち主はスタスタと俺の横を歩き、モンスターと3m離れた位置ぐらいで止まった。
「お、おい!!危ないぞ!」
俺は咄嗟にそう言った。
活気盛んなモンスター、あの大きさのモンスターが3m先の獲物を捕らえるのは一瞬である。完全にモンスターの間合いに入っている。
「キシャアァ!!」
モンスターもそれに気がつき、白銀髪の少女をジーッと睨む。
今にもあの鋭い顎で捕らえられても不思議ではない間合い、その状況でも少女は目を瞑り、顔色1つの変えず腰にかけている剣に手を添えていた。
それを何も出来ず、両手両膝を地面につけながら見ている俺。
刹那......
ドゴッ!!
っと言う音とともにモンスターが女の子に跳びつく。
しかし、モンスターが跳びつき女の子を顎で挟み込もうとした時点で既に女の子はモンスターの背後で剣を鞘に戻す体制を取っていた。
俺の目には一瞬で女の子が瞬間移動したように見えた、いつの間にあそこに移動したのだ。
すると、モンスターの長い体の頭部の少し下の辺り、ちょうど真ん中の辺り、そして体の一番後部の辺りが斬れ、体液が漏れる。
「キシャア......」
そう断末魔を上げると、モンスターは力無く崩れ落ちた。
俺は立ち上がり、倒れたモンスターを恐る恐る見ると、ピクリとも動かない。
た、倒したのか?
「さ、3ヶ所斬れてる......あの一瞬で3太刀入れたのか!?」
「そうよ、それに......」
白銀髪の少女は鞘に戻した刀を抜いた。その刀はまるで鏡のようにピカピカに光り、傷1つない。
「ス、スゴいね、あれだけ斬ったのに刃溢れ1つねぇ」
「それだけじゃないわ、汚れると嫌だからモンスターの体液が付かないように斬ったの」
言われてみれば刀にも服にも汚れが1つもない。今の一瞬の間にそこまで考えて行動していたのか。
そう、この少女は強い。それも並の強さではなく世界でも上位に入るぐらいの実力はあるだろう。
「き、君スゴすぎだよ......」
しかしそれもそのはずである、何故ならばこの少女は......
「当然でしょ、私は勇者の血を引いているんだから」
勇者とは、かつて正義を持って魔王と戦い、平和を作ったと言われる人物。そのおとぎ話のような話に出てくる勇者の血を引いていると言うのだ。
初めは眉唾物だと思ったが、その強さを見ると信じざるを得なかった。
「あんたも私のアシスタントなんだからもう少し強くなってよね」
そう言って歩き出す少女。そう、俺は今この少女のアシスタントをしている。
初めはこんな可愛い子と一緒に旅が出来て有頂天になっていたが、毎日のようにモンスターに襲われる日々は大変なんてものではなかった。
「わかってるけどさ、いきなりそんな強くなるなんて無理だよ」
「まあいきなりとは言わないけど......そんなのじゃ魔王は倒せないんだからね」
少女の旅の目的は先祖の勇者と同じように魔王を倒すことである。俺はそのお手伝いをすることになっている。
けど......
「なあ、魔王ってそんなに強いのかな?」
「当たり前でしょ、モンスター達の王様なのよ」
っと少女は言うが、俺は信じられなかった。
なぜなら......
その日の夜。
俺は何畳あるのかわからないぐらい広い部屋、床は大理石で出来ていて、広すぎて壁や天井までの距離が遠く落ち着かない部屋にいた。
その一番奥の真ん中には大きな椅子があり、その椅子には長い黒髪の少女が座っている。その周りには鎧を着た騎士やモンスター達が膝を付いていた。
「おっそーい!!遅刻だよ!」
俺は少女の前に膝を付き座っている。
その少女は真っ黒な長い髪に小学生のような見た目に八重歯が特徴的な女の子である。それによく見ると背中には小さな翼が生えていて、黒くて細い尻尾がある。
普通の人間でないことが伺えた。
「す、すいません......魔王様」
そう、この黒髪の少女こそが世を騒がせるモンスター達の王、魔王様である。
「貴様、新人がよく遅刻をしてノコノコと魔王様の前に現れたな!打ち首は覚悟するんだな!」
そう魔王様の隣に立っている熟年の騎士が言う。
え、打ち首って死刑ってこと?
「ちょっとそんな怖いこと言わないでよ!時代遅れだよ!」
「す、すいません魔王様......」
魔王様がその熟年の騎士を諭すと、騎士は申し訳なさそうに下がる。
「君、もういいよ、次からは遅刻しないように気を付けてね」
魔王様は俺に向かってニコッと笑う。
笑ったときに見える八重歯がスゴく可愛い......
じゃなくて!
どうやら命拾いしたようだ。
「あ、ありがとうございます!魔王様!」
「いいよ、んじゃみんな仕事に入ろうか」
「「「はっ!!」」」
そう魔王様が指示すると、モンスター達は一斉に散っていった。その様子からこの少女の権力の高さが伺える。
「ま、魔王様、俺は何をすれば......」
「あー、そうだったね」
魔王様は椅子から立ち上がり、小さな翼を羽ばたかせて俺の前に来た。
近くで見ると、魔王様は幼いながら整った顔立ちでクリクリした大きい目に鼻筋の通った鼻、将来絶対美少女になるような顔立ちである。
俺の近くに来た魔王様は俺に顔を近付けた。
か、可愛い......
「じゃ!新人くんには僕が城の中を案内してあげるよ!」
そう言いながら魔王様は俺の手を握り、引っ張る。
「あっ!魔王様!」
それに引かれ、俺は立ち上がり魔王様に付いていく。
楽しそうに手を引くボクッコ黒髪ロリ美少女の魔王様。
そう、俺は今昼間に勇者の子孫のお手伝いをして、夜は魔王様のお手伝いをしている。
なぜこのような生活をおくっているのか......
それはほんの1週間前の出来事だった。
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