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一話

月の光だけが窓から差す薄暗い部屋で二人の人物が対峙する。一人はこの世を恐怖に陥れた魔王。もう一人はその恐怖を払拭する勇者。


「人間の分際でよくここまで来たな!我はディザスタ。この世を支配するものだ」

「ご丁寧にどうも。俺はレイヴン。地獄に行っても覚えてろよ」

「フハハハハ!その自信、命もろとも打ち砕いてやるわ!」


魔王は馬鹿にするように高笑いすると漆黒の剣を抜きレイヴンに襲いかかる。それと同時にレイヴンも、剣を抜き応戦する。

ほぼ互角と言える二人の壮絶な戦いは三日三晩にわたり続き、討伐はできなかったが魔王を封印することに成功した。


傷の治療を受け歩けるまでに回復した数日後、レイヴンと仲間達は王座の間に呼ばれ功績を称えられ富と名誉を与えられた。


「なんかああやって表彰されるのは照れくさいな。俺、どちらかと言うと影でひっそりしてたい方なんだけど…」

「そんなことないですよ師匠。師匠は人々を脅かす魔王を封印したのですから。あれくらいのこと当然です!胸を張ってください!」

「そうだぜレイヴン。…でも俺たちも表彰されてよかったのか?魔王と戦ったのはレイヴン一人だけだし。俺たちがやったことと言えば魔王幹部の足止めだろ?」

「いいに決まってるでしょ。幹部だって魔王より弱いとはいえ名のある兵士や魔術師達が束には なっても手も足も出なかった相手なんだから。レイヴンもそう思うでしょ?」


王座の間を後にしたレイヴン達は国の中心から少し離れた酒場で改めて今までの旅のことを話していた。


「そうだな…。お前達が足止めしてくれなかったら俺はここにいなかったかもしれない。ありがとうな。…そんなお前達に一つ頼み事があるんだがいいか?」


レイヴンが申し訳なさそうに聞くと三人は不思議そうな表情をしながら頷いた。それを確認したレイヴンは笑って口にした。


そしてその日以降レイヴンという名の勇者はいなくなった。




魔王がこの世から立って五年が過ぎた。まだ危険な魔物や魔王軍の残党がいるもののこの五年で世の中は平和になり様々な技術が発展していた。青年レイン、もとい元勇者のレイヴンは呑気にそんなことを思いながら門番をサボり日陰でくつろいでいた。


「今日も平和だな…。やっぱり平和が一番だ」

「そう思うならちゃんと働いてください…。毎日俺たちがどんだけ苦労してるんだか…」

「あ、お疲れ、ヤン。それで村周辺はどうだった?」


レインは欠伸をしながら聞くとヤンは大きなため息をつき報告を始めた。


「魔物の数は先週より減りましたが、一体あたりの強さが格段に上がりました。俺やキースなど一部の者は対処できますが、他の者は少し厳しいかと」

「それは困ったな。俺の平穏が崩れるじゃないか」

「崩れる前に動いてくださいよ。隊長なんですから…」

「でも俺が動かなくてもお前やキーレスで対応できるだろ?今日の魔物の討伐数を言ってみろ」


眠気を隠そうせずに横たわるレインにヤンは呆れながら報告をした。


「今日はレッドボア三匹とサングリズリー一匹です。村人に怪我はないですが遊撃部隊の数名が打軽い怪我を負いました」

「サングリズリーか…」


サングリズリー。朝から夕方にかけて胸元にある魔獣石という魔物の心臓に近い存在の石に日光を当てて、夜になると蓄えた日光を力にして寝ている魔物や動物を襲う危険な魔獣だ。


「もう火が傾いてるし餌でも探しにきたんじゃねえのか?」

「それが奇妙なことに俺らが遭遇した時には背中に大きな傷を負っていていたので恐らく何か強大な敵から逃げて来たのではないかと思われます。今はキースが死体を調査してます」

「まじかよ…。ここら辺じゃサングリズリー以外に強力な魔物とかいねえぞ。とりあえず今日は夜の見張りを増やして何事にもすぐ対応できるようにしておけ。俺は森の様子でも見てくるわ」


指示を出しながら俺は体を軽く動かして森に向かう。ヤンは後ろで「お気をつけて!」と叫んでいたので手を挙げて返事をしておく。


夜の森はとても静かで何も見えないので持ってきた灯を片手に森を進む。この時間ならサングリズリーが獲物を探してうろつきまわっているが今日は不思議なことに見かけない。少し違和感を覚えるが特に何もなかったのでその場を後にする。


次の日の朝、外がやけに騒がしいので外に出るとヤンが声を荒げてこっちに来た。


「た、大変です隊長!」

「声を荒げてどうした?近所迷惑だぞ」

「王女様が…。ミティス王女がこの村に!」

「…は?」


ガルディア・ミティス。その国に無いものが無いと言われるほどあらゆる資源資材があり世界の倉庫と言われるガルディア。その王国の第二王女がこんな何もない村に何の用があるのだろうか。


「てか王女様が来たところでなんで俺が行かなきゃならんのだ」

「理由はわからないですが、この村で一番強い人を連れてこいとことなので」

「訳がわからない。強い奴なら騎士団にいるだろうし。とにかく早く行こう」


家を出て村長の家に向かう。村の人たちは不安そうに窓から見てたり、家の周りで井戸端会議している。


村長の家に着くと綺麗なエメラルドの髪をした少女が座っていた。顔立ちは幼いが整った顔立ちに見る人を吸い込むような凛とした碧眼、紅茶を飲む動作、着ている衣服。さすがは王族だ。


「待たせてすまない。俺が警備隊をまとめてるレインだ」

「遅い!いつまで待たせるのよ!」


前言撤回。ただのガキだ。


「私が呼んだら十秒以内に来るのが常識でしょ?!それなのに五分も待たせるなんて!田舎者は礼儀がなってないわね!」

「お、落ち着いて下さいミティス様。今はそんなこと言ってる場合じゃないですぞ!」


村長が宥めるとミティスはムスッとしながらも落ち着きこちらを向いて話し始めた。


「先日私の父、ガルディア・ラインハルトが何者かに呪いを受けました」

「呪い?」

「ええ。調べた結果あと五日後には効果が発動して…。解呪方はその呪いをかけた術者を倒さないといけないみたいで…」


表情が暗くなる。そりゃそうだ。親が十日後には死ぬと聞かされて悲しくならない子どもなどいない。


「なるほど。でもどうしてここに?話を聞く限り術者は分からないし他の解呪方も見つかっていない」

「王族お抱えの占い師の予言よ。この村で一番力のある者が今回呪いを解くだろうって言われたのよ。それで私がテレポートしてここまで来たってわけ」

「護衛もつけずにわざわざ王女一人で?」

「うっ…。そ、それは今動ける騎士がいなかったから…。それに私もお父様を救えると思い一人で突っ走ったから」

「それならいいが…」


何か色々引っ掛かる。護衛や側近に守られながら生きている王が易々と呪いをかけれるとは思わないりマジックアイテムだとしても誰かが中身を確認し危険物ではないかチェックするはずだ。


次に王女が一人で来た理由。占いで場所がわかれば他の誰かが代理としてくるはずだ。態々王女が一人で直接来るなんてあり得るのか。


「まぁ断る理由もないしな。こっちにもテレポート使える奴がいるし大丈夫だろ」

「本当?!」

「あぁ。呪いとかに詳しいやつも連れて行くし俺がいるなら大丈夫だろ」

「そこまで自信あると逆に不安なのだけれど…。お願いするわ」

「任せておけ」


こうして呪いを解くためにガルディア王国に向かうことになった。


そこから長い旅に出ると知らずに。

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