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03:烈火の魔女と氷冷の魔女の誕生

 あたしたちは魔女の手下になることを決めた。

 手下と言っても別に働かされるわけではなく、ただ育ててもらっていただけだ。


 けれども、紫髪の美女――大魔女マレの元でも、あたしたちは満たされなかった。

 食事もある。衣服も綺麗なドレスを着せてもらった。家はどこかしらをその日その日で借りて暮らせば何も問題ない。


 なのにそれだけでは物足りないのだ。


 殺したい。人間をこの手で八つ裂きにしたい。あたしたちを裏切った奴を、あたしたちを不幸にした奴を、全員を血の海に沈めたい。

 胸の中で膨れ上がる残酷な欲望は恐ろしく、あたしの胸をきつく締め付ける。


 そんなある日、突然にマレはこう言った。


「あなたたちもいい年頃。そろそろ魔女になり、私に尽くす頃だ」


 あたしとマディーはいつの間にか十六歳になっていて、なるほど確かにいい年頃かも知れない。

 でも魔女だの何だの、あたしにはさっぱりわからなかった。だから尋ねた。


「魔女になれば人殺しもできる?」


「ああできる。思いのままに」


 そう聞いて、あたしは心から歓喜する。

 ああ、人を殺せるのだわ。この手で殺していいのだわ。それなら魔女になりたいわ。


 マディーもキラキラと目を輝かせて頷いている。

 この時にはすっかりあたしもマディーも歪んでしまっていたのだろう。あたしたちの心に芽生えた負の感情はもはや爆発寸前だったのだから。


 大魔女マレはそんなあたしたちを見て、どこか悲しげに笑った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 魔女になるのはそう難しくはなかった。


 あたしたちの中にある『魔女のカケラ』をマレが成長させ、体全体に広げる。

 それは呪いのようになりあたしたちの体を苦しめ、その激痛に耐えられた者だけが魔女になれるのだという。


 その儀式は痛く辛いものだった。何度も意識が遠ざかり、いっそのこと死んでしまおうかと思うくらい。

 けれどあたしは諦めなかった。あたしにとってはマディーだけがこの世の全てで、マディーの復讐の力にならなければならない。


「ああぁぁぁ――!」


 全身を駆け抜ける痛みに悶えながら絶叫する。

 あたしはこの時、今までの地獄など本当の地獄ではなかったのだと知る。


 隣ではマディーの悲鳴がした。

 姉の泣き叫ぶ声を聞いたのは初めてだったかも知れない。


 何度も何度も気絶し、そして痛みに襲われて。

 そんな時間を耐え抜いたあたしたち姉妹は、『真の魔女』として生まれ変わった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 『烈火の魔女』マディー。

 『氷冷の魔女』メディー。


 そう名付けられたあたしたちが世に恐れられるようになるにはそう時間はかからない。

 全てを怒りの炎で焼き払うマディーと、残虐な氷の刃で人々を悶えさせるあたし。二人はあっという間に多くの町や村を滅ぼしていく。


 大魔女から下された命令は、とにかく殺戮を行うこと。

 だからあたしたちは何も間違っていない。このめちゃくちゃな世界を滅ぼし切ってやる。


 マレはそれを、やはり悲哀のこもった笑顔で見つめていた。しかし決して止めることはしない。


 あたしたちは裁きを続ける。

 不当な虐待を受けた相手を絶対に忘れず、そして許さない。死をもって必ず償わせた。


「はぁ、幸せだわ……」


 いつしかそんなことに幸福を感じるようになる。

 まさに歴史に残る魔女の所業、それを何度も何度も繰り返した。けれどまだ足りない。まだまだまだまだ足りない。


「……母さんと父さんを殺したいわ」


 愚かな裏切り者には処罰を与える。

 それをしてこそ本物の魔女だ、あたしはそう思った。


「……うん、いいよ」


「なら明日、早速行きたいわ!」


 ああ、悲鳴が楽しみ。

 あたしたちを魔女だと罵り、追い出し、そして本物の魔女にしてしまった彼らの阿鼻叫喚の声が聞こえてきそうだわ。

 あたしは青髪を揺らし、にっこりと微笑んだ。




「待っているがいいわ。魔女だからって捨てたこと、後悔させてあげるわ」


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