02:地獄のどん底と光明
※年齢設定や魔女についての説明など一部を変えました
あたしたちが魔力判定を受けたのが、幸せの崩壊の始まりだった。
あたし自身だって知らなかったのだ。
古の『魔女』、その魔力を持って生まれた子供だったなんて。
この世界の人間は全員、何かしらの魔法を使える。
その属性を判定する儀式を誰もが必ず受けることになっていた。そしてあたしたちももちろん例外ではなく、八歳になった時、魔力判定してもらったのである。
マディーは火の魔法の使い手、あたしは世にも珍しい氷魔法の使い手だった。
まあそんなことはどうでもいい。
大事だったのはあたしたち双子の体の中に、『魔女のカケラ』と呼ばれるものがあったこと。
魔女の説明をすると長くなるが、端的に言うと、悪魔に魂を売った女のことなんだとか。
魔女が死んだ時、その魔力が粉々になって世界に飛び散ったという。……難しすぎてあたしにはよくわからない。
ともかく魔女の一部のようなものを受け継いで生まれてくる子供がたまにいるらしい。
それがあたしたち――マディーとメディーだった。
『魔女のカケラ』を持つ者は忌み子とされ嫌われる。
そしてあたしとマディーも例外ではなかった。
愛されていた両親にも、蝶よ花よと可愛がられていた村人たちにも、みんなみんなあたしたちを裏切った。
そして武器を向けられ無理矢理に追放された。たった八歳の子供二人なのに、だ。
あたしたちはこれから二人だけで生き延びなければならない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……。ねえマディー、これからどうすればいいかわからないわ」
「全然平気だよ! 泥水でも啜って生きりゃいいよ」
「――――」
明るいマディーは、村を追放されてもいつも通りの笑顔だった。
ただその赤い瞳には怒りの炎が揺らめいており、悔しさが見て取れるけれど。
あたしはマディーみたいに強くなれないわと思う。
泣いてばかりの弱虫。特別な『氷』の魔法を使えるのに何の力にもなれなくて。
「ごめんなさい。あたし、マディーを助けたいのにダメだわ……」
「謝ることはないよ。魔女だの何だの言って愛娘を裏切る方が馬鹿なんだよ」
母さんと父さんの顔を思い出す。
村を追い出される時、最後に投げかけられた言葉は「こんな娘産まなきゃ良かった」だった。
どうして? あたしたちは何もしていないのに。
「世の中、どうかしてるわ」
みんな、死んでしまえ。
あたしは世界中の人々全員を呪いたい気持ちになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あちらこちらの村や町を転々とし、あたしとマディーは命を繋いだ。
しかし金を持たないから、ゴミを漁ることしかできない。泥棒もたくさん繰り返した。
その度に追い出され、また逃げ惑う。
そんな月日がどれほど続いたか。
どこまで行っても幸せはなく、待ち受けるのは絶望ばかり。
安寧などないことを思い知らされて涙を流す。それでもただただ生き続けた。
マディーはいつも烈火の如く怒りに燃えていた。
そしてあたしは、次第に心を凍らせるようになる。
「いつかきっと……復讐してやるよ」
マディーのそんな言葉を聞きながら、あたしは両親の体を引き千切ってやることを夢見ていた。
そうしてあたしたちは共に十五歳を迎えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
長く続いた地獄に光が差したのは、とある女性との出会いだった。
身も心もボロボロだったあたしたちを救い出してくれた彼女。その名はマレという。
紫髪に金色の瞳、黒いローブの女。若く見えるがはっきりとした年齢はわからない。
彼女から物を盗もうとして、そしてあたしたちは取っ捕まってしまったのだ。
捕まったのなんてこれが初めてのことだった。
「離せ! 離してよ!」
怒りに声を震わせるマディー。
一方のあたしはすでに死を覚悟していた。むしろやっと死ねるのかと安堵すら感じる。
しかし女性はあたしたちを拘束したままで微笑むと、言った。
「あなたたち。……『魔女のカケラ』を持っているだろう?」
彼女は魔女だった。
あたしたちと同じ、いや、あたしたちなんかよりもっとすごい最強の魔女だった。
あたしたちは彼女の僕となるか、今ここで死ぬかと選択を迫られた。
あたしは本当に死んでも良かったのだが、マディーは生きることを諦めていないようだったので、あたしは流れに身を任せることにした。
「どうでもいいわ。マディーが望むなら、魔女の手下にでも何にでもなってあげるわ」
あたしたちはそうして魔女の弟子になる。苦痛の時から解放され、姉と二人で生きていく道を選んだ。
……全ては、大好きな姉の復讐のためだけに。
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