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我が人生に幸あれ!  作者: 瑞鳥
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PC001

初投稿です。

お目汚し失礼します。

PC01001

(園児な幸太郎)






 “前世”



 それは自分の生誕を起点とし、それよりも以前の人生のことである。

 つまりは自分が産まれる前に歩んでいた一生のことだ。




 ――― なんと俺にはその前世の記憶が備わっていた。




 いや、びっくり。

 困っちゃうね。まったく。






 そんな前世の記憶持ちな俺は園児でありながら神童として名を馳せていた。

 まぁ当然?みたいな?大学生まで在学した記憶の持ち主が幼稚園にて無双するのは当然である。


 「ねーねー。なんで空は青いの?」

 「んーそれはね、海が青いからよ。」

 「先生。空が青いのに海は関係ないですよ。空の色の変化は可視光線の波長の違いによって生じる現象です。つまり今は青色の光がほかの色よりも届きやすいから青色に見えるだけで、夕方になれば赤色の光が届きやすいから赤色になるのですよ。」

 「へー。」

 「そ、そうだったの。先生知らなかった…。」


 無双するのは当然である。

 “耳に指を入れるとゴォーって音がするんだよ!”“それは腕の筋線維が動いている音だよ。”

 “台風ってどうしてカーブして進むの?”“地球には風の流れがあるからその風に流されているの。”

 当然なのである。


 そうこう過ごしているうちに自分のクラスであるひまわり組でのあだ名は“ハカセ”となった。

 ちなみにほかのさくら組とコスモス組、スイセン組の子供たちからは“ひまわり教授”と呼ばれるようになった。なんかその呼び方だと俺がひまわりについて詳しいみたいじゃないか。別にひまわりについては詳しくはない。






 このように俺は園児でありながらハカセとして日々を過ごしていた。



 正直なところ、超楽しい。

 なんか万能感と全能感が半端じゃない。



 なるほど。人はこうやって傲慢になっていくのかとよく理解させられる。

 俺も人生二度目でなかったら勘違いしていたかもしれない。だが俺には挫折の経験も成功の経験も黒く染めたい歴史も持ち合わせている。言うなれば歴戦の戦士だ。そんな勘違いも慢心もしない。


 よって俺はマンボウ程度の脳みそしかなさそうな大人であろうと敬意をもって対応し、ニコニコ顔で疲弊していく先生方を労わり、無限のエネルギーを内蔵する同園の園児たちには親しみを持って接した。ひまわり教授は超園児級のコミュニケーション能力を持っているのだ。

 前世にて培った経験や知識をもってしてお悩み相談教室を開くことだってお茶の子さいさいである。




 そうして本日もまた、迷える子羊が俺の元へと足を運んできた。

 ひまわり組の教室の片隅。もはや俺の定位置となっている裁縫道具の積みあがった場所。裁縫については俺の今世の趣味にしようかと思っているので教室にも道具一切を持ち込んでいる。休み時間になればせっせと技術習得のために編み物をしている。


 その編み物の手を止めて俺は顔を上げた。


 「市川先生…、でしたか。」

 「う、うん。」


 年齢は二十代前半。容姿もなかなか良く、この幼稚園の園児たちからの人気もナンバーワンな先生だ。

 この先生の悩みは主に二つ。一つは市川先生の容姿を妬んだモンペママからのモンスター攻撃。もう一つは恋人の大輔さんと上手くいっていない事だ。後者に関しては幼稚園児に相談してんじゃねーよ案件だが、切羽詰まっていたらしい。ならしょうがないのか?


 市川先生が正座で俺の前に座る。

 それを合図に俺は編み物セットを脇へと置いた。


 「ハカセ君…!」

 「幸太郎です。」


 最近は先生方まで“教授”だの“ハカセ君”と呼ぶ。

 園児に呼ばれる分には放置している。だが先生方に呼ばれたら訂正していたのだが、そろそろ面倒になってきた。放置すべき時が来たのだろうか。


 「幸太郎君…!」

 「…、本日はどちらのご相談でしょうか?」

 「えっと、大ちゃんの方で…。」

 「恋人さんの件でしたか。」


 で、内容は?そう伺うように先生をじっと見ると市川先生はモジモジとしだした。


 「えっと、ね。ハカセ君の言うとおりにしたら大ちゃんとは上手くいくようになったんだけどね、でも…。」

 「何かあったのですか?」


 そう聞くと恥ずかしがりつつも話し出す先生。聞くところによるとこういう事だそうだ。

 なんでも市川先生は職業柄園児たちの頭を撫でるクセがあるらしい。よって恋人さんの頭が見えるとついつい撫でてしまうのだそうな。すると恋人さんはムスッとなって不機嫌になってしまうのだとか。

 なるほどね。ほほう。ほほほほう。


 「ちなみに、先生はお姉さんぶりたかったのでしょうか?」

 「えう!?」

 「無いとは言えないようですね。」

 「まぁ、ちょっとはあるケド…。」


 ちょっとね。ふーん。

 撫でるのを辞めれば不機嫌になることもないのでは?の問いに対して食い気味に真顔で「それは無理」と言ったのに?はーん。ふーん。ちょっと、ねぇ…。どう考えても確信犯じゃないですか。というか無表情かなり怖いですよ。どんだけお姉さんぶりたいのだ。


 ハァ…、とため息を一つ。


 「以前聞いた話によると恋人さんは五歳ほど年上でしたよね。」

 「うん。」

 「あのですね、男ってのは女性に頼られたいという欲求がある人が大多数なのですよ。年下の女性が恋人であれば尚更でしょう。稀にバブみを感じてオギャりたがるといった人もおりますが、市川先生の恋人さんは違うのでしょう。」

 「オギャる…?」


 知らないワードが出てきて戸惑っている先生へビシリと指をさす。


 「撫でられなくなるのが嫌ならば、撫でた後に自分の頭を恋人さんへ撫でさせなさい。」

 「撫で、させる…?」

 「ええ、そうです。しかもただ撫でさせるだけではありません。上目遣いでこう!リピートアフタミー!“次は、大ちゃんの番ね。私の頭も撫でて”」

 「つ、次は大ちゃんの番ね。私の頭も撫でて…。」

 「そうです!撫でてくれたら“えへへ”って笑えばパーフェクトです。甘えて甘えさせるのです!」

 「なる、ほど…。」


 何度も頷く先生へ深い頷きを返す。何事もギブアンドテイクが順風満帆の秘訣なのである。

 もう何も言うことは無いとばかりに、俺は脇へと置いた編み物セットと手に取る。今はかぎ針でコースターを作っているのだ。今の目標は円編みをマスターすることである。幼稚園在園中に編み物系は免許皆伝しておきたいものだ。いやまあどこかの流派に属しているわけではないが。完全に我流だが。


 「上手くいかなかった時はまた来てください。その時は一緒に突破する方法を考えましょう。」

 「はい!先生!」

 「先生は貴女です。」


 何をとち狂ったことを言っているのだこの人は。まあでも、良い笑顔で小さくガッツポーズをする先生はかわいい。

 あと十五年くらい早く生まれていたらなぁ…。なんてことを考えてみたもののその時に存在したのは幼稚園児の市川先生である。駄目だな。恋できない。時間が流れるのを待つことしか出来ない己が酷く恨めしい。


 その後の相談は女児二名だけだった。

 なんでも本郷君がその女児二名と結婚の約束をしたそうだ。モテモテじゃあないか、本郷君。地図を広げて一夫多妻制の国を紹介しておいた。日本を飛び出すのだ本郷君。











 そんな感じの日常を満喫してはや数年。

 あと一年も経たずに卒園となったある日のこと、母親と共に俺は幼稚園へと呼び出された。



 なんでもお坊ちゃんやご令嬢の方々が集まる学校へ行かないか?とのこと。

 名家の子息や子女、それに富豪の子供だけではなく将来の優秀な人材の育成も兼ねている学校らしい。ゆえに庶民な俺もそのお眼鏡にかなったとのことでお声が掛かったようだ。こりゃあ凄いことだ。ちなみに母はどうやら乗り気なご様子。旦那と相談して…、とは言っているもののノリノリである。口がモニュモニュしているのがその証拠。嬉しかったり乗り気な時の母は口がモニュモニュするのだ。


 だがしかし、俺としてはその提案はとんでもない事であった。


 いやだって、今は優秀かもしれないけど、俺の頭は平凡なのよ?そのうち絶対にボロが出ちゃうよ?だって前世の知識の前借りをしているだけだもの。そのうち借りるものがなくなってスタート位置が一緒になってしまえば置いて行かれちゃう!平々凡々だってバレてしまう。バレるならばせめて平凡な学校でバレたい!周り全て総エリートの中で自分だけ平凡は嫌だ!


 という訳で、そんな恐ろしい学校に行きたくないと両親に対して断固拒否の構えをとる。

 しかし残念。家に帰った母は父に熱弁を奮い父まで賛成派に回ってしまった。そもそも父は母にスペシャルラヴなので、基本的に母の意見に対して赤べこになるのだ。母の提案が拒否されるとは考えていなかったが、もうちょっとくらい時間をかけて考えて欲しかった。




 両親ともに賛成派となってしまったか…。

 ならば徹底抗戦だと父にタックル。だがしかし「ハハハ。幸太郎は元気だな」と言って受け流される。


 ふむ、園児の腕力では何の抵抗もできないか…。




 あぁ…。学校の入学の手続きを普通に行われ、普通に入学することになってしまった。

 制服が届くなり身ぐるみはがされ着せ替え人形となった俺。母よ、キャーかわいい!じゃない。


 ぐぬぬぬぬ。なんてこった。











00P終



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