漫才「百貨店家具売り場」
漫才・コント38作目です。よろしくお願いいたします。
百貨店の家具売り場。背中を向けて立っている店員。そこにお客が現れる。
お客「はあはあはあ」
店員が振り返る。
店員「おお、いらっしゃいませ。お待ち申し上げておりました」
お客の方に寄って行く。
お客「服、全部持ってきました。十袋」
抱えてきた袋を床に降ろすお客。
店員「それは大荷物だ、大変だったでしょう」
お客「駐車場から五往復、休み休みでなんとか。でも、おっしゃってた通り、実際に入れてみないと」
店員がうなずきながら、
店員「十分収まるだろうと思って買ってみたものの、いざしまってみたら入りきらないなんてことは避けたいものです。追加でもう一竿買うのでは場所をとりますからね」
お客「試しに入れてみれば、その心配はないと」
店員「必要な段数の箪笥を購入することが出来ます。じゃ、さっそく入れるとしましょうか」
お客「ええ」
二人で服をしまい始める。
お客「せっせせっせ」
店員「よいしょよいしょ」
お客「なかなか減りませんね」
店員「そうですね、けっこうな衣装持ちでいらっしゃる」
お客「先週実家からいきなり送りつけられてきたものなんですよ。押入れに押し込んであったものまで全部」
店員「何かあったんですか?」
お客「実は私、実家から勘当されましてね」
店員「なるほど」
お客「まずは服が第一弾のようです。次は何が送られてくるやら・・・」
店員「たいへんですな」
お客「その時はまた相談させてもらえますか?」
店員「なんなりと」
しまい終わって、
お客「けっこうな数が余っちゃったな」
店員「半分しか入りませんでしたね」
お客「ということは、この箪笥が八段だから、十六段のものが必要になるのか。ありますか?」
店員「ございますが、上の段の方は天井を突き抜けてしまうのではないかと」
お客「やむをえません」
店員「値段もかなり上がっちゃいますけど・・・」
お客「仕方ないですよ」
店員「差し出がましくなりますが、全部は必要ないのでは? 袖を通すことのない服もあるんじゃないですか?」
お客「ええ、それはまあ」
店員「この際、断捨離にチャレンジされたらいかがでしょう」
お客「なるほど、いい機会かもしれませんね」
店員「はじかれた服はうちで引き取りますから」
お客「古着をですか? ご迷惑になるだけでしょう」
店員「ご安心を。うちは百貨店ですよ。値札をつければすべてが立派な商品になるのです」
お客「古着売り場ってありましたっけ?」
店員「骨董品売り場が」
お客「はあ」
店員「古伊万里の横に展示しようかなあ」
お客「古伊万里って、たしか江戸時代の陶器でしょ。そこにTシャツやジーパンは・・・」
店員「掘り出し物だということで、買っていただけるかも」
お客「勘違い狙いですか」
店員「お客様双方に喜んでいただけるのであれば、なによりです」
お客「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
店員「なんの、お安い御用です」
お客「じゃあこの箪笥、頂戴します」
店員「ありがとうございます」
笑顔の二人。
店員「次はベッドでしたね」
お客「そうそう、いい感じのを見つけておいたんですよ」
店員「それはよかったですね。では移動するとしましょうか」
寝具売り場に歩いていく。
お客「これです」
ベッドを指さす。
店員「なるほど」
ベッドに腰かけて、
お客「ふかふかが気に入りましてね」
店員「お目が高い」
お客「これください」
店員「そんな簡単にお売りするわけにはいきせませんな」
お客「え?」
店員「後悔する買い物はさせたくありませんからね」
お客がベッドに寝転んで感触を確かめる。
お客「大丈夫だと思いますけど・・・」
店員「あせらないあせらない」
お客「はあ」
店員「専門家からのアドバイスは聞いて損はありませんよ」
お客「確かに」
店員「一泊してもらいます」
お客「泊まる? どこに?」
店員「ここにです。一晩このベッドを使ってみて、寝心地に満足していただけるようであればお売りしてさしあげましょう」
お客「なるほど。試し寝しておけば、はずれをつかむ心配はなくなりますね」
店員「そうなんです。質の良い睡眠は、クッションだけで決まるのではありません。夢は見ますか?」
お客「よく見ます」
店員「夢見が悪いベッドは嫌でしょう」
お客「はい、うなされたくありませんね」
店員「よだれはたらしますか?」
お客「はい、いつも」
店員「よだれの流れ具合も大切ですから」
お客「そうか、よだれの行方は気になりますねえ」
店員「さて、寝巻はどうしようかなあ」
お客「さっきの箪笥の中に甚兵衛が」
店員「それはよかった。じゃあ、さっそく着替えてお休みになってください」
お客「人が大勢いますけど」
店員「試着みたいなものですから、どうぞお気になさらず」
お客「でも、人に見られる中で寝るというのはちょっと」
店員「じゃあ、電気を消しましょう」
お客「え? まだ営業中でしょ」
店員「寝具売り場ですからね、暗くても不自然じゃありませんよ。明るい方がむしろおかしいんです」
壁のスイッチを押そうとする。
お客「いいです! 私、閉店時間に合わせて出直して来ます」
店員「わかりました。わたしは早番なので、今日は帰らせてもらいますが、明日の朝また」
お客「はい、それまで勝手に使わせてもらいます」
店員「そうだ、夜中巡回に来る警備員に気をつけてくださいね」
お客「は?」
店員「お客様、いびきは?」
お客「いいえ」
店員「それはよかった。暗いところで物音でも聞こえたりしたら、撃たれかねませんからね」
お客「なんですと?」
店員「警備員は銃を携帯していましてね」
お客「物騒な」
店員「貴金属とかも扱っておりますからね、警備にはおのずと力が入るんです」
お客「でも、銃っていうのは・・・」
店員「ここは百貨店ですからね。発注すればどんなものでも入ってくるんです」
お客「そんなものでしょうか」
店員「警察にも納品しております」
お客「ああなるほど。でしたらね」
店員「護身用にいかがです?」
お客「私でも買えるんでしょうか?」
店員「外商を通せば大丈夫じゃないかな。外商つけてます?」
(外商・・・個々のお客さまの担当者)
お客「いいえ」
店員「急ぎじゃなければ、福袋で入手することもできますよ」
お客「えええー! 福袋に入っているんですか?」
店員「そんなに驚かなくても・・・」
お客「まさかと思いますもん」
店員「百貨店を見くびらないでもらいたいものですな」
お客「入らないものはないんでしょうか?」
店員「もちのろんです」
お客「じゃあ、UFOなんかも入るのかな。UFOもらえます?」
店員「運転免許証はございますか?」
お客「ええ、車のですが」
店員「残念ですな。UFOの免許をお取りになってから、改めてご用命くださいませ」
読んでいただき、ありがとうございます。