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転移転生自衛隊 異世界自衛隊戦記  作者: FECT
第2章 特務隊
9/29

02-02.結束

規格外の隊員たちを中心に集められた新設部隊、特務隊。

その選考に合格した隊員たちがぞくぞくとカリザト駐屯地に集まってきていた。


新設部隊のための仮隊舎は多目的隊舎を一時的に借りていたが、自衛隊の服装規定にとらわれない無頼の輩たちが駐屯地をうろつくのは他の隊員たちに悪影響を与えるとして、王都ボルハンに拠点となる場所が準備されることになっていた。

「部隊が本格的に動き始める前から鼻つまみ者扱いかよ……」

ハジメは昼休みの食堂でタモツ相手に愚痴をこぼした。


「まあまあ。それだけ部隊のカラーが今までの自衛隊とは全く違うっていうことだろう。現実世界の特戦群みたいなものじゃない?」

「特戦群? なんだっけそれ」

「聞いたことない? 言い方は悪いけど殺し屋部隊みたいな、自衛隊の中でも本当にプロフェッショナルの戦争屋みたいな人たちだって」

「そんなのが現実世界の自衛隊にもあったのか」

「部隊の詳細は広く知らされていないけどね。僕もうわさでしか聞いたことが無い」

「へえ。まあ俺たちが他の部隊とは異質な部隊を目指すように言われているってのは確かだな」


その日の午後に一番遠いイェルベ駐屯地からの人員が到着して、ついに特務隊の面々が一堂に会することになった。

「よく集まってくれた、特務隊の諸君。俺がお前たちの隊長になる木下ハジメ2尉だ」

特務隊が終結する直前に、ハジメは階級を一つ上げて2等陸尉に昇進していた。

「募集要項にあった通り、この部隊は特殊な性質の新設部隊でやることはたんまりある。他の部隊より死の危険にも多くさらされるだろう。その代わり、一般部隊の3倍の給与が約束されている」

隊員たちはそれぞれ癖のありそうな顔つきの連中が多かったが、ハジメの言葉を黙って聞いていた。


「この部隊の任務はトラホルン国内を放浪しての遊撃、そしてトラホルン国民相手の広い情報収集、そして刈谷ユウスケの探索、この3つが主な任務となる」

ハジメはつづけた。

「一つ目は説明の必要がないだろう。今まで依頼されて迎撃してきた怪物たちを、こっちから積極的に狩りに行くってことだな。情報収集についてはなんでもかんでも拾ってこい。よって、今後すべての隊員がトラホルン語を学んでそれに精通することを目指す。第3の任務についてはカリザト出身者以外には説明が必要だろう」

ハジメは全員が話についてきているかを確認した後に、刈谷ユウスケによる襲撃事件のあらましを説明した。

トラザムとイェルベから来た隊員たちは一様に驚いているようだった。


「各駐屯地に魔法防御だか何だかが設置されたって話は聞いていましたが、そんな経緯があったとは」

「恐ろしい話ですね。その魔導だかっていうのは」

「自衛隊を辞めていって四年で習得可能なものなんですか?」

隊員たちが口々にそう言った。

ハジメはしばらくの間、それぞれの性格を見極めるために黙って言わせておいたが、


「よしよし! みんな静まれ。色々疑問はあるだろうが、それらについてはおいおい話していく。とにかくその刈谷ユウスケっていう男が目下異世界自衛隊の明確な敵だってことは覚えておいてくれ。奴のバックに何者がいるのか、その目的がなんなのかもわからん」

ハジメは全員を改めて見回した。

「だから俺たちが動く。トラホルンの人々と身近に触れ合って日常的に情報を収集していく。調査隊では手が回らないところまでをな。これでブリーフィングは終わりだ。明日は俺たちの根城になる王都ボルハンの素敵なところにご案内するぜ」


ハジメは一同を見てニヤリと笑った。

「素敵なところ?」

「それは明日のお楽しみだ。きっとお前らも気に入る」

ハジメは自信満々にそう言った。


*******

「すっげえ!」

イェルベ出身の足立2曹という隊員が感嘆の声を上げた。

「まじっすか。ここに住むんすか」


「おう。ここが今日から俺たちの活動拠点となるタラス砦だ」

トラホルンの王都ボルハンの旧市街と新市街の境目にあるタラス砦は、現実世界の陸上自衛隊の隊舎を3つ合わせたくらいの大きな砦であった。

三百年ほど前には王都ボルハンの外縁部にあり敵を食い止める拠点であったようだが、今では街中にある観光スポットのようになっているようだ。

方面総司令部はここの所有者を突き止め、持ち主である没落貴族からこれを買い上げた。よってタラス砦は異世界自衛隊の持ち物となったのであるが、それはそのままハジメたち特務隊の活動拠点として使われることになったのだ。


建物の高さは3階建て相当で、外からも各所に矢ぶすまが見える。外敵が近づいてきたら自分たちは安全な壁の向こうから、敵に向かってクロスボウの矢などを一方的に射かけることができるのである。


「かっちょええなあ」

「でかいよなあ」

「掃除は大変そうだけどなあ」

「一回に全部はできないだろ。順繰りにやっていくしかないな」

オリエンテーションが終わった後に互いに自己紹介などをしたのだったが、隊員たちは徐々に打ち解けあって来たようだった。


「ここを拠点にするのは、やっぱり王都での情報収集がやりやすくなるからですか?」

身長2メートルの巨漢、岡崎1曹がハジメに近づいてきて言った。背が高いだけではなく身体に厚みがあり、その顔立ちは怖い。

まるっきり悪役プロレスラーと言った風情で、ハジメはちょっとだけビビった。

「そうだな、それもある。あと、俺たちは自衛隊の服装規定には縛られず、現地に溶け込みやすい恰好で活動することになるからな。そんな連中が駐屯地をうろついているのはあんまり歓迎されないんだろう」


その日は、全員で分担して砦の中の主要な部屋を大掃除して日暮れまでの業務を終えた。

金井1曹と双葉2曹は早くも炊事担当としての実力を発揮し、異世界の食材を使ってうまい料理をふるまってくれた。

「じゃあ、酒盛りでもするか」

日が暮れてその日の夕食が終わった後、ハジメはあらかじめ用意してあった酒類とつまみを足立らに運ばせて言った。


「おおっ!」

「いいっすね、飲みましょう!」

隊員たちは喜んでハジメを取り囲んだ。


********


初めての実戦で、特務隊はいきなりナンバー2の水村曹長を失った。

マンティコアと呼ばれる魔獣の巣穴を特定して襲撃を仕掛けたのだが、巣穴となっている洞窟は予想外に広かった。

そして、さらに予想外のことにその洞窟には2グループのマンティコアの群れが巣穴をシェアしていたのだった。


洞窟内での跳弾を恐れて近接武器を主体で戦っていたが、2グループ目の襲撃を受けたときにハジメは撤退を決意した。

前衛要員をしんがりに残して後衛から撤退させ、特務隊は応戦しながら洞窟の入り口に向かって退却した。

そんな中で、最後尾に立ってしんがりを引き受けていた水村曹長がマンティコアの餌食になった。

「くそがあっ!」

ハジメは思わず叫んだ。

しかし、自分が冷静さを失っては部隊が全滅しかねない。

「岡崎、お前が前衛の指揮をとれ! 水村の敵討ちはまた今度だっ! 今は逃げるぞっ!」

「はいっ!」

岡崎1曹は大声で返事をし、両手持ちのバトルアックスでマンティコアの攻撃をしのいでいた。


特務隊の面々が洞窟から脱出した後、マンティコアは巣穴の外までは追いかけてこなかった。

今頃水村の死体が怪物たちの餌になっているのかと思うとハジメの身は怒りに震えた。

「すまねえ、水村。俺の判断ミスだった」

「危険な任務を引き受ける部隊だってことはみんな承知して志願しています。それに、初めて尽くしの部隊運用だ。うまくいかないことだってたくさんあるでしょう」

水村曹長の死によって繰上りで部隊のナンバー2になった岡崎1曹がそう言ってくれたが、とうてい慰めにはならなかった。

「……」

ハジメは押し黙ったまま、マンティコアの巣穴を見つめて報復を誓った。


後日、特務隊は水村曹長の弔い合戦を果たした。

周辺の村々を脅かしていたマンティコアを狩ったという事で、トラホルンの領民たちからはいたく感謝されて王宮からも報奨金をもらうことになったのだったが、ハジメは部下を死なせてしまった後悔を長く引きずった。


その後ハジメは部下を死なせることなく戦い抜くという方針を心に決めて数々の怪物と戦って行った。

実際に部下を死なせることなく半年余りを戦い抜いたのだったが、負傷者は出してしまった。手や足を魔物に食いちぎられた隊員である。

それらの隊員を、ハジメは除隊させることなく特務隊にとどめ置き、タラス砦の維持管理をすることを専門にさせて使うことにした。

「すまねえなお前たち、俺の采配が悪いばかりに大怪我をさせることになった」

「とんでもない。自分たちの不注意と、あとは運が悪かっただけです」

「でもまあ、こうして特務隊に残って働けるなんて嬉しいですよ」

左手首を失った佐伯と、右足の膝から下が義足になった宮下がそう言った。


「お前らは日中はほぼタラス砦の門番をしてもらう。休日等は他の者に交代させる」

「警衛専門みたいな感じですね。了解です」

「夜間は歩哨を立てなくていいんですか?」

「人員的にそれは無理だなあ。隊員の財産は極力民間の銀行に預けてもらおう」


特務隊の活動資金は武器庫に武器と一緒に保管してそこには常に警戒員を立てていたが、実際にタラス砦を運用してみると小隊規模の人員で全部の組織運営を賄うのは難しいということが分かってきた。

組織経営のために人員を割けば、その分戦闘員の数が少なくなってしまう。


「斥候組ー、ファイトっ!」

砦の哨戒回廊をどかどかと走っている、足立率いる斥候組の足音が聞こえてきた。

足立は足立で、偵察段階で2グループ目の存在を察知できなかったことを強く反省しているようだった。


結成から半年、特務隊の中には部隊の結束が生まれてきていた。

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