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転移転生自衛隊 異世界自衛隊戦記  作者: FECT
第1章 異世界自衛隊
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01-05.情勢

刈谷の連隊長襲撃以降、駐屯地内で起こっていた怪死事件はぱったりと止んだ。

しかし、いつまた再開されるかわからない恐怖は隊員たちに残った。


駐屯地司令および駐屯地警務隊は元自衛官刈谷ユウスケを一連の殺人事件の主犯と見定めたが、魔導による空間移動を使う相手となると捜査のしようがなかった。

駐屯地司令田辺ナオマサ1等陸佐は駐屯地調査隊に王都ボルハンへの聞き込み調査を命じた。

一般的に異世界言語に明るくない自衛官たちの中で、調査隊だけはトラホルン語を日々研究して身に着けていた。


刈谷の行方を追うための捜査には、独自にトラホルン語を身に着けていたタモツとハジメの両名も加わることになった。刈谷の行方を追って捕縛し、奴の背後に何者がいるのかを突き止める必要がある。

刈谷襲撃を退けてから一週間ほどして、戸田冴子連隊長はタモツとハジメにそう告げた。


「駐屯地司令は方面を通じてトラホルン王国に魔導による協力を仰ぐ考えだ」

「あのテレポートみたいなのを防ぐ手立てがあるんスか? だったらもっと早くにそうすべきだったのに」

ハジメがそう問いただした。

「異世界自衛隊を敵視する勢力というのは今まで想定されていなかった。今となっては危機管理が甘かったと言えるが」

冴子はつづけた。

「それに、問題が一つある。我々異世界自衛隊が自衛隊の武器装備をトラホルンに渡さないのと同じように、トラホルン側でも魔導の技術を我々に教えるつもりは無いようだ。いきおい、協力を仰ぐとなればトラホルンから技術者として白魔導士を派遣してもらうことになる」

「それに、何か問題が?」

タモツは不思議に思って言った。

「現実世界の日本がアメリカの核の傘下でいいなりになっていたことと同じだ。トラホルンの庇護を多く受けるという事は、それだけトラホルンに対する我々の立場は弱くなる。方面は長らくそのことを懸念していたのだ」


「なんか面倒くさい話っすね」

ハジメはあきれたように言った。

「俺たちは命を的にして国内に動き回っている魔獣やらなにやらを倒す。トラホルンはトラホルンで俺たちを外敵から守る。それでウィンウィンってやつじゃねえすか。なんかそんな七面倒くさい話にする必要あります?」

「なにもかもがそうスッキリと割り切れたらいいのだがな木下3尉。そうもいかんのだ」

戸田3佐はため息をついた。


「お前たちも自衛隊幹部になったことだし、この世界の政治事情について知っておいてもいいころだろう。別段秘密にしているわけではないのだが、知ったところで我々にはどうすることもできないという実情もあってな、一般隊員たちにはあえて説明はされていないが」

「周辺国の事情については、私と木下3尉も、独学で調べてはおりました」

タモツは言った。

「ではすでに知っていることを話すことになるかもしれんが、まあおさらいだと思って聞け」

戸田は静かに続けた。


「我々が囲われているのはトラホルン王国だ。ラール大陸の南西に位置しており、肥沃な土地を持つ。人々の気性は穏やかで、農業のほかに商業も盛んだ。我々異世界自衛隊はこのトラホルン国内に、いわば自治領を拝領する形で3個の駐屯地を維持している」

「王都の南東にこのカリザト駐屯地、それからトラホルンの南西にある森林地帯にトラザム駐屯地、それからトラホルン北西、イェルベ川沿いの丘陵地帯にイェルベ駐屯地ですね」

タモツが言い、戸田はうなずいた。

「この三個駐屯地の近くに、なぜかは知らんが陸上自衛隊の装備がきまぐれのように現れることがある。それを回収して我々はこうして戦力を維持している。おそらくは現実世界から転送されてきているのだろう。車両などが転送されて来ても燃料が無いから役に立たないがな」

「電池の入っていない懐中電灯や放電したバッテリーなんかのハズレもありますしねえ」

とハジメは苦笑して言った。


「ところがだ、現実世界の日本と違って我々を国税で養ってくれる日本国民はこの世界にはいない。我々を食わせてくれているのはひとえにトラホルン国民だ。トラホルンの国民が王国に支払う税の中から、王国が我々を養うための俸給が支払われている。なんのためかと言えば、国民に対しては領内の怪物どもを討伐するための傭兵、という名目でだ」

「はい。一般隊員たちにもそのように説明されていますね」

タモツはうなずいた。


「その名目とは違う、本当の目的があるっていうことですかい?」

ハジメが身を乗り出してたずねた。

「その通りだ。我々はおそらく、隣国バルゴサに対する国土防衛の目的でトラホルンの魔導士によってこの世界に召喚されたと方面は見ている」

「バルゴサ……。竜を操ると言われている武門の国ですね。トラホルンとは歴史上、イサ地方という領土問題を抱えているとか」

「そうだ。異世界自衛隊が初めてこの世界に発足したのが今から40年前。当時、トラホルンはイサを巡りバルゴサと戦争の危機にたたされていた。結局そのとき戦争は回避されたのだが、このトラホルンに自衛官はずっと召喚され続けている」

「それが本当なら、トラホルン側に責任を追及して私たちを元の世界に戻してもらうべきでは?」

「トラホルン側はそれを公には否定している。この転移転生現象はあくまでも現時点では謎の怪異現象ということになっているのだ」

戸田3佐はきっぱりと言った。


「そこで本題だ。方面がこれまで魔導による支援を積極的にトラホルン側に要求してこなかったのは、トラホルンとの間に条約を結ぶのを拒んでいたためだ」

「条約?」

「バルゴサが攻めてきたときにトラホルンの国土を守るために、人を殺すかどうかということだよ」

「なるほど……」

「よくわかんねえな、どういうこと?」

タモツは話を飲み込んだが、ハジメは飲み込めなかったようだ。


「異世界自衛隊は建前としては日本国に属しているだろう? トラホルンという異国の防衛のために戦うということは、専守防衛の理念に反することになるからだよ」

「あー、そゆことね」

ハジメは一応うなずいたが、納得できない様子で反論した。

「でもさ、今俺たちを養ってくれているのはトラホルンだろ? だったらその国民と国土を守るために戦うってのは当たり前なんじゃねえの?」

「そういう意見も方面の中では強い。それも正しい理屈だろうとは思う」

戸田3佐はハジメを見てうなずいた。

「だが、我々が抱える専守防衛の理念を王国にどこまで理解してもらえるものか……。ゆくゆくはトラホルンが他国を攻めるときの先兵として国外に派遣されてしまうことだってありうる。どこで線引きをするかについては方面の中でもまだ答えが出ていなかったのだ」


戸田3佐は少し間をおいてから言った。

「異世界自衛隊に関わるトラホルンの国内事情はこのような感じだ。目下のところトラホルン王国、そして仮想敵国である北東のバルゴサ王国と、魔導の国と称される北部のカディール帝国がラール大陸西部の三大国家だ。それにトラホルンとバルゴサの間にあって、常に両面外国を強いられてきた小国のイサ、さらに東のはずれには商業都市国家の連合国である東方通商連合がある」

「刈谷が言っていたライフェルというのは?」

「ああ、忘れていた。カディールの北方に位置する小国家だ。一年の大半を雪と氷におおわれているというが、詳細は私も知らん。カディールとの間に細々と交易があるようだが」

タモツの問いに、戸田3佐は答えた。


「その中のいずれかが、トラホルンに味方する自衛隊をぶっ潰そうとテロを仕掛けてきたってことですかね?」

「さあな。現時点では何とも言えないが、可能性はあるだろう」

ハジメに向かって戸田3佐は真顔で言った。

「なぜ連続殺人などと言うまどろっこしいことをしていたのか謎だ、テロよりは何かの脅し、ほのめかしが目的だったのかもしれないが」


「あれから刈谷のなんだっけ、念話? だったかは来なくなったのかよタモツ」

「ああ、来ていない」

タモツもいつ刈谷から再び連絡があるかと身構えていたのだが、あれ以来念話が送り込まれてくることは無かった。

「いったい何がしてえんだ刈谷の野郎はよ!」

「だからそれを、お前たちに調べてもらおうというのだ」

戸田3佐はハジメをなだめるように言った。

「これからしばらくの間、二人は連隊を離れて駐屯地調査隊の増加人員として配備される。期間は当面一か月を予定している。刈谷ユウスケの除隊後の足取りを探り、どんな些細なことでもいいから情報を集めて来い。成果を期待しているぞ」

「はいっ!」

「はぁい」

タモツとハジメは連隊長に向かってそれぞれに言った。


「ところで連隊長……」

先日の非礼を改めて詫びようと思ってタモツはおそるおそる呼びかけた。

「なんだ、セクハラ大王」

本題の話が終わった途端、戸田冴子はキッとなってタモツのほうを見た。


横ではハジメがゲラゲラ笑っている。

「セ、セクハラ大王って!」

「いえ、あのですね。あれは小隊長にかけられた呪縛を解くために仕方なく……」


「他に何か思いつかなかったのかよーっ」

ハジメは横で腹を抱えて笑い転げていた。

「ひっ、く、くるしい。ツボに入ったわ」

それでも、自分がいるとタモツがやりにくいと思ったのか、ハジメは笑いながらも連隊長室を出ていってくれた。


「まことに申し訳ありませんでしたっ! 二度とあのような真似はいたしませんっ!」

タモツは誠心誠意の限りを尽くして戸田冴子に詫びた。

「当たり前だ、馬鹿者っ!」

戸田冴子は顔をわずかに紅潮させて怒鳴った。


しばらくの間、二人とも一言も話さずに気まずい時間が流れた。

「……だが、ありがとう」

「はっ?」

「だから、命を救ってもらったことについては礼を言うと言っているっ!」

「はっ、はいぃっ!」

タモツは思わずびしぃっ、と姿勢を正す敬礼をした。


「そ、それでは先日の非礼についてはお許しいただけるので?」

「む。……まあ、それは貴様の今後の働き次第では考えておこう」

戸田冴子はむっつりした表情でそう言った。

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