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転移転生自衛隊 異世界自衛隊戦記  作者: FECT
第3章 <竜殺しのハジメ>
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03-05.愛内カナデ曹長着隊

第2普通科連隊のあるイェルベ駐屯地からは、馬車による定期便がトラザム駐屯地に出ている。そこからさらに、トラザムからの定期便に便乗して愛内カナデ曹長はカリザト駐屯地までやってくる手筈になっていた。


その日ハジメは押井を伴って馬で王都ボルハンを出立し、カリザトの第3普通科連隊まで愛内を迎えに出かけた。

ボルハンで借りた馬を官舎村の馬屋に預け、とりあえず連隊長室に顔を出した。


「うぃーっす、サエちゃん連隊長」

「うぃーっす、ではない。もう少し自衛官らしくせんかっ」

戸田連隊長はそう言って見せたが、本気でしかりつける気は無いようだった。

特務隊という部隊の特性上もあるが、木下ハジメを自衛官らしい自衛官に調教することは半分諦めているらしい。

「どうした、今日は」

「今日なんすよ。例の交代人員、愛内カナデ曹長がこっちにくるの」

「そういえばそうだったな。業務に忙殺されてうっかり忘れていたぞ」

「俺、やっぱ特務隊にオンナが入るの気が進まないんだけどなー」

「性差別は許さんぞ。愛内曹長が有能な人材であることは私が保証する」

「えー。そうすか?」


ハジメはふーん、と言ってから、戸田に向かってたずねた。

「愛内って、どんなやつなんです?」

「どんなって……。一言では言えない。とにかくすごい人だ」

「えええー」

ハジメははぐらかされたような気分だった。


「あれ、そういや今日はタモツのやつは?」

「遠方の村に魔獣が出たから討伐に出かけている。帰還は明日か明後日になるだろう」

「あれま。しばらく顔を見てないな」

ハジメは盟友の不在を残念に思った。


そこで、連隊長室の入り口のドアがノックされた。

「どうぞ」

「愛内曹長、入りますっ!」

戸田連隊長の声に応じて、長身で肩幅の広い愛内カナデ曹長がきれいな入室要領で連隊長室に入ってきた。

まずは第3連隊長である戸田2佐に向かってびしいっ! とした敬礼をしてみせたあと、半ば左向け左でハジメの方に向き直り、再びびしいっ! とした敬礼をした。

「愛内曹長は、本日付けをもって特務隊への着隊を命じられましたっ!」


ハジメはそれに対して、だるーんとした気の抜けた敬礼を返した。

「お久しぶりです、愛内曹長。どうか楽にしてください」

戸田冴子連隊長がそう言うと、愛内曹長はでれでれとした笑みを浮かべ、

「さえちーぃぃぃぃっ!」

と叫んで戸田に駆け寄った。


「ひっさしぶりぃ! 元気でしたかぁ?」

「ちょ、ちょっとカナデさんっ!」

愛内は連隊長デスクを迂回して、着席している小柄な少女に思い切り抱き着いた。

豊満な胸を頬に押し付けるようにひとしきり抱きしめた後、両肩に手をやって娘か姪の成長でも確かめるようにまじまじと戸田を見つめた。

「さえちーも、もう連隊長かあ! 出世しましたねえ~!」

「カナデさんのご指導のたまものです」

戸田はいつもの無表情とはうって変わってどぎまぎした様子だったが、ハジメの目には心なしか楽しそうにも見えた。


(あー、幼年学校の教官だって言ってたっけ。ふたり、仲いいんだなー)

ハジメはじゃれあう二人を見ながらぼんやりとそう思った。かたわらに控える押井に目をやると、押井は突っ立ったまま微苦笑している。


「愛内、こちらはお前の前任者になる押井2曹だ」

ハジメが声をかけると、愛内はハッと我に返ったようにかしこまり、押井に向かってびしいっ! と敬礼をしてみせた。

「後任を拝命いたしました愛内曹長ですっ! なにとぞご指導ご鞭撻のほど、よろしくおねがいいたしますっ!」

押井もきれいな敬礼を返し、

「押井2曹です。このたび一身上の理由で職を辞することとなりました。後任を引き受けていただいてまことにありがとうございます」

と、言った。


「もう知っていると思うが俺たちの拠点は王都ボルハンの中心部にあるタラス砦だ。カリザトからは遠くないし、補給などで立ち寄る機会も多い。戸田連隊長と旧交を温める機会はこれからいくらでもあるから、今日はこの辺にしてタラスへ行くぞ」

ハジメは愛内に向かってそう言った。

「りょーかいっ!」

愛内曹長はまた、びしいっ! とした敬礼をした。


「じゃ、木下2尉以下3名のものは退出しまーす」

ハジメはてれーんとした敬礼をして、他二人をともなって連隊長室を後にした。


馬を預けた官舎村の馬屋まで歩き、押井が馬の引き取り手続きをしている間、ハジメはそれとなく愛内を見ていた。

(それにしてもでけえなあ、こいつ)

男性としてはかなり小柄な押井と比べて、拳二つくらい背が高く肩幅も広い。白人女性みたいな骨格をしている。格闘などをやらせてもかなり強そうであった。


押井はおよそなんでもできる男だったが、口の悪い吉田に言わせると、

「高いところにあるものだけは取れない」

ということになっていた。


その押井が引き取ってきた二頭の馬を見て、ハジメは愛内に向かってきいた。

「お前、馬は乗れるのか?」

「はいっ。大丈夫ですっ!」

「じゃあ三頭借りて来るんだったかな。まあいいや、とりあえず押井の後ろに乗れ。俺とお前とじゃ馬がかわいそうだからな」

「りょーかいですっ!」


******

タラス砦に帰還すると、警衛班の佐伯と宮下がハジメたちを出迎えた。

「本日よりお世話になる愛内曹長ですっ! よろしくお願いしますっ!」

びしいっ! とした敬礼ののち愛内は元気いっぱいにあいさつした。

「あ、ど、どうも。よろしくおねがいします」

「ようこそ特務隊へっ!」

門番二人は明らかにデレデレになっている。困ったものだった。


砦の中に入っていくと、ハジメの帰還時刻を見越して全員が中央ホールにすでに集まっていた。

あんまりぴしっとしていない様子で全員があわてて整列し、ハジメのほうを見つめた。

押井と愛内はハジメの後ろに控えた。


「選抜時にみんなには通達したが、愛内カナデ曹長だ。本日付で特務隊の一員となった。有能な人材だと聞き及んでいるが、なにぶん特務隊は変わったところだからな。業務に慣れるまでは大変だろうと思う。みんなも助けてやってくれ。ほい、自己紹介!」

愛内はいつものごとくびしいっ! とした敬礼をしてみせたあと、

「愛内カナデ曹長ですっ! 第2普通科連隊からまいりました」

と、堅苦しいあいさつをしてみせたあと、

「階級は高いほうになりますけど、特務隊はあまり上下を気にしないところだと聞いています。気軽にカナデちゃんって呼んでくださいねっ!」

と言って笑みを浮かべた。


「カナデちゃーんっ!」

お調子者の足立2曹が、昭和のアイドルの親衛隊みたいな叫び声を後ろから上げた。愛内は機嫌よくそちらの方に向かって手を振って見せた。

「はーいっ! ちなみに将来の夢は、可愛いお嫁さんになることでーっす!」

愛内が言うと、隊員たちは湧いた。


「愛内の階級は曹長で、今のところ特務隊のナンバー2になる。まあ、次に岡崎が曹長に昇進したらそれより序列は下になるが」

ハジメはいちおうそう言ってみた。

「しつもーん!」

足立と同じくお調子者の矢橋がカナデに向かって挙手をした。

「はい、そこのひとっ!」

愛内は右手にマイクでも持っているかのようなしぐさで、矢橋のほうに向かって手を差し伸べた。

「幹部への任官拒否には何か理由があるんですかーっ!?」

「はいっ、それはですねえ」

にこやかな笑みを浮かべて愛内は少しの間をとってから言った。

「ひみつでーっす!」


ハジメが最後に締めくくって愛内の着隊式らしきものは終わりとなり、とりあえず砦の大掃除をすることとした。押井と愛内は庶務業務の申し受け申し送りである。

隊員たちの大半は、なにかにつけて愛内に話しかけようとしたり、意識してそわそわしている。

愛内は誰に話しかけられても愛想よく明るく応じて、そのたびに相手の名前を確認して覚えるように努めていた。

ハジメがびっくりしたのは、あの鎧塚までもが自ら進んで愛内に話しかけに行ったということだった。

(マモさん、あんたも男だったのかっ!)

と、ハジメは内心で叫んだ。


砦の中で愛内相手にデレデレしていないのは婚約者のいる押井と、女には不自由していないという噂の岸井くらいか。

あとは、2連隊出身で愛内のことを良く知っているらしい岡崎は、なぜだか心なしか愛内のことを避けているかのように見えた。

(ははあん、もしかして過去に告ってフラれてるのか?)

と、ハジメは見当をつけて勝手に納得した。

(岡崎のやつ、根はやさしいけど顔は悪人面だしなあ。かわいそうに)

事実か分からないまま決めつけて、ハジメは岡崎にちょっと優しくしてやろうと思ったのだった。


それからしばらくは遊撃任務を休み、隊員たちへは王都での情報収集を命じて散開させた。

押井には商売の準備のためと有給消化のために休みを与え、ハジメは愛内を伴って王都に繰り出した。

「愛内、お前トラホルン語は?」

「できますよっ。カナデちゃん、転生者にしては珍しく幼少期の記憶が残ったままの子だったんです」

「へえ?」


戸田や愛内のような転生者は、幼年期のいつかに前世の記憶を取り戻す。これは覚醒と呼ばれているのだが、前世の記憶に覚醒した時点で赤ん坊から幼児期のトラホルンでの記憶は失われてしまうことが多かった。つまり、転生してからの人間関係とともに、トラホルン語も忘れてしまうのである。

愛内カナデはその例外で、覚醒後も今世の記憶が残ったほうだという。


「転生者は覚醒するまでの間は官舎村の幼稚舎ようちしゃで過ごしますけど、カナデちゃんは幼年学校に入ってからも保母さんやトラホルン人のお友達と親しくしてました。なのでトラホルン語はバッチリですっ!」

「そうか、それは頼もしいな。現地の情報収集は特務隊の任務の要の一つだ。がんばってくれ」

「はいっ!」

ハジメが言うと、愛内は胸を張ってそう答えた。

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