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転移転生自衛隊 異世界自衛隊戦記  作者: FECT
第3章 <竜殺しのハジメ>
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03-03.<竜殺し>

敵をおびき寄せたハジメたちが前衛のラインを通り抜けた後、怒り狂った盲目の黒竜が洞窟内を突進してきた。

そして、あらかじめ設定してあったキルゾーンに入った。

「てーっ!!」

前衛班を率いる岡崎が発射号令を叫び、自らも身を伏せて機関銃に取りついた。


ガガガガガガッ!!!!

洞窟の地面に設置された2丁の62式機関銃が莫大な量の弾を吐き出して、怒れる黒竜の下腹を横なぎに薙ぎ払う。

7.62ミリのNATO弾、合計3000発ほどを打ち込まれた黒竜の腹は裂け、内臓が外に飛び出して血や体液が漏れ出した。

伝説のドラゴンは恐ろしい咆哮を上げた。

「撃ち終わりーっ! 引け―っ!」

岡崎が機関銃を持って立ち上がった。


「いいっ! 機関銃は捨てろっ! 逃げんぞっ!」

後方からハジメは叫んだ。機関銃手を担当していた岡崎と吉田が未練ありげに機関銃を放り投げる。

残りの前衛班Aは小銃で威嚇射撃を繰り返しながら後退し、機関銃手と副機関銃手を逃がしたのちに逃げ出した。


「ドラゴンくんぞ!」

ハジメは前衛たちの撤退をせかしながら走った。

「左右に散れっ!」

ハジメの命令で左右の壁際ぞいに別れた前衛たちは、無反動砲を構えた金井とすれ違った。

「哲さん、うてーっ!」

「あいよーっ!」

無反動砲の後方には扇状にバックファイアーが発生して危険なのだが、全員が危険領域を抜けたのを確認してからハジメが叫んだ。


金井は黒竜の下腹部めがけて対戦車無反動砲をぶっぱなした。

まともに決まれば戦車のキャタピラをやすやすと破壊する砲弾が、表皮を傷つけられた黒竜のどてっぱらに突き刺さった。

黒竜は金属音のような大声を上げて身をよじらせた。

さらなる怒りを込めて酸性の唾を飛ばしたり吠え声をあげたりしていたが、その動きはだいぶ鈍くなっている。


金井は無反動を抱えたまま一目散に逃げた。無反動砲の重量もけっこうあるのだが、重量バランスが良いので62式機関銃と比べたら格段に持ち運びやすい。ハジメは捨ててもいいと叫んだのだが、金井は聞かなかった。

「2連隊に申し訳ないでしょうが―っ!」

「わかったよ、勝手にしろっ!」

バックファイア―を避けつつ途中でとどまって見守っていたハジメは金井と並んで洞窟の入り口めがけて逃げた。


「仕上げだ、森っ!」

洞窟の入り口まで逃げ戻ったハジメは、爆薬のスペシャリストである森に向かって叫んだ。

「ぶちかませっ!」


「りょーかいっ!」

普段は気鬱で落ち込んでいるばかりの森だが、今日は調子がいいらしい。あらかじめ洞窟の入り口付近、天井には爆薬が仕掛けてあった。

黒竜が仕掛けの下までやってきたのを確認してハジメは、

「3、2、1、今ッ!」

と叫び、森は爆薬を起爆させた。


激しい爆音と衝撃、そして洞窟の天井が落盤する音があたりに鳴り響いた。

「やったかっ!?」

砂埃がある程度収まったところで、ハジメたちは洞窟を覗き込んだ。

ドラゴンの巨体は岩盤の下敷きになっていて、動きを封じることに成功したようだ。


「前衛班B! 前足の腱を切ってから失血死させんぞ!」

ハジメは続いて叫んだ。洞窟の外で接近戦用の武装をして待機していた残りの前衛班が、前に出て洞窟に入って行った。

「油断すんなよ! 酸を吐いてくるかもしれねえ」

「りょーかーいっ!」


岩盤の下敷きになって身動きの取れなくなった黒竜に前衛班Bが群がり、前足の内側を切りつけたり鱗の間を縫って槍を突き刺した。

「ここまでやっつけたら復活はしないと思うが、念入りに殺しておかねえとな」

「A班もいくぞっ!」

岡崎たちも手に手に剣や槍を持ち直し、B班の後に続いた。


それから黒竜が完全に絶命するまで3時間かかった。内臓破裂から3時間を生き延びるというのは、実に驚異的な生命力であった。

「ふぃーっ、やっと終わったか」

身動きも呼吸もしないことを念入りに確認したのち、ハジメは戦闘終了を告げて隊員たちをねぎらった。

「誰もケガしてねえな? 死んでねえな?」

撤退時に機関銃を2丁捨ててきたのと、接近戦用の武器が半分使い物にならなくなったものの、人員は無傷の勝利であった。大勝利と言っていい。

「上出来だ! 前衛班はとりあえず休憩!」

ハジメは叫んだ。


戦闘員たちを休ませている間、ハジメは後衛組を中心に勝利の証拠として黒竜の体組織をはがしにかかった。

「鱗の二、三枚と手首でもあれば報奨金はもらえるだろ」

「のこぎりでもあれば良かったですね」

岸井を中心に後衛たちが剣で竜の手首を切り落としにかかり、横田たちが竜の鱗をはがしにかかった。

その作業は結局一時間以上かかったが、とりあえずは終わった。


「さて、帰るか」

ハジメは最後に人員武器装備の異常がないか全員に再確認して、下山を命じた。

「駐屯地に帰るまでが竜退治だからな、油断すんなよ?」

ハジメが言うと、みな笑った。

その後イェルベまでの道のりには特に何事もなく、かくして特務隊による黒竜討伐は終わった。


******

木下ハジメ率いる特務隊が伝説のドラゴンを倒した、という話はトラホルン国内に瞬く間に知れ渡った。

そればかりでなく、そののちにはラール大陸全土に名をとどろかせることになるのであった。

以来、ハジメたち特務隊は<竜殺し>の二つ名で呼ばれるようになり、特にハジメに関しては<竜殺しのハジメ>として、大陸中で知らぬ者のない英雄となった。


トラホルン王宮からは大きな額の報奨金を受け取ることが出来たし、異世界自衛隊からはボーナス判定Sとして冬のボーナスに色がついた。全員を特別昇進させるという案も出たらしいが、今回は昇進序列のアップだけで、その案は見送られたらしい。

特務隊の昇進スピードがあまりにも早くなってしまうことを危惧してのことかもしれない。


それから三か月ほど、特務隊はドラゴン退治の後も相変わらずトラホルン国内各地を放浪して、魔獣や合成獣などを狩って回っていた。

国内のどこでも特務隊は歓迎されるようになっていて、特務隊が訪れると村や町の子供たちが群がってくるようになった。

そればかりか、どこから広まったのか<竜殺しの身体に触れると寿命が延びる>などという迷信が言われるようになったらしく、老若男女問わず、竜殺しのトクムタイと言えば人気と羨望の的であった。


「特務隊もすっかり人気者になりましたね」

「トラホルンの民衆に溶け込むっていうのが設立時からの課題だったからな。これで正解だ」

南西のトラザム方面に遠征して、南東のカリザト経由で王都ボルハンに帰還する途中の道のりであった。

押井が楽しそうにハジメに向かって言ってきたのへ、ハジメは満足げにうなずいた。

押井の除隊予定日が三か月先に近づいていた。

寂しくなるな、とハジメは思ったがあえて口にしなかった。


「どうだ、商売を始めるのに十分な資金は貯まったのか?」

「竜退治のボーナスがでかかったので、計画していたよりも多くなりましたよ。ありがたいことです」

「自衛隊を除隊したら、まず何からとっかかるんだ?」

「まずは人を集めることですが、キャラバンを編成してバルゴサ方面に行ってみようと思います」


「行商か。バルゴサ人ならあいつをスカウトしたらいいんじゃねえか? ほら、あの決闘のときの」

「ああ、シャザームですね。実は同じことを考えていました。賭博場の見張り番をつたってシャザームにつてを作ってもらい、スカウトをかけました」

「あの銀貨握らせていた門番か。やることが素早いな」

「商売はスピード勝負ですからね。まだ返事はもらっていませんが、たぶん良い返事をもらえると思っています」


自衛隊を辞めていきなり異世界で商売を始めるなんてハジメにはとてもついていけない発想だったが、商売人の息子だという押井には何か確信のようなものがあるのだろう。

「行商の目的には、トラホルン国外の情報を仕入れてくるっていう目論見もあります。特務隊では限界がありますしね」

「特務隊の外郭団体として、国外諜報に動いてくれるってことかよ」

「まあそんなところです。戻ってきたら隊長に報告しますよ」

「そいつは楽しみだな。期待してるぜ」

ハジメは笑った。


カリザトから王都ボルハンへの帰還は岡崎に指揮を任せることになった。タラス砦に到着したのちは整備を済ませて休暇をとって良いと伝えてあった。


ハジメ自身はこれからカリザト駐屯地に3日間ほど滞在する予定があった。

特務隊本隊と別れて、ハジメは岸井だけを伴ってカリザトに残った。

いつもなら押井を副官に残していたところだったが、押井には退職後の準備もあるだろう。

伊達男として知られる岸井だったが、人当たりも良く、押井ほどではないにせよなかなか切れる男である。


これからカリザト駐屯地で行われるのは押井の後任となる補充隊員の選抜だったのだが、もし適格者が見当たらなければハジメは岸井を押井の後任にすることを考えていた。


「どんな奴がやってくるんだかなあ。使える奴がいるといいんだが」

「押井君の後釜となると、どうでしょうね」

「副官役はお前、って案もあるんだがな」

「謹んで遠慮いたします」

岸井は男でも惚れてしまいそうな優雅な笑みを浮かべながら、その案はきっぱりと拒否した。どうやらハジメの御守りはやりたくないということらしい。


とりあえず、ハジメたちは第3普通科連隊長室に向かった。

いつものごとく、特務隊の様々なことを3連隊に代行してもらっている。

今回の人員募集についても、砦の守備以外は全員で国内を動き回っている特務隊に代わり、3連隊の人事係が動いてくれていた。

「どーすか、応募のほうは」

「殺到しているぞ」

戸田冴子連隊長は、いつも通り表情に乏しい顔でハジメを見た。

「特に<竜殺し>の武勇で国内に名を知られてから、お前たちは羨望の的だ。うちの連隊からも希望者が多い」

「はあ、そうすか」

ハジメはあんまり実感なくそう言った。


「で、使えそうなやつはいますかね?」

「ひとり、抜群の成績をたたき出している隊員がいる」

戸田はちょっとだけ面白そうに、ハジメの反応をうかがうような顔をした。

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