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転移転生自衛隊 異世界自衛隊戦記  作者: FECT
第3章 <竜殺しのハジメ>
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03-01.西進

ハジメたち特務隊は休暇を明け、翌日は遠征準備に一日を費やした。

「明日からはイェルベ駐屯地方面に向かって西進するぞ。道中の怪物どもを平らげ、行く先の村や町で情報収集だ」

ハジメは隊員たちに気合を入れた。

休暇を満喫したらしい特務隊員たちは誰もが皆やる気十分で、てきぱきと準備に取り掛かった。


武器、弾薬、食糧の点検、それから寝具や火おこしの道具、荷車、などなど。

遠征に当たって準備をすべきものは色々あった。それらを手分けして準備して点検し、最期に押井がチェックリストにチェックしていった。

ハジメは砦の各所をまわって隊員全員の顔を見て声をかけた。


遠征準備は午前中であらかた終了し、午後に少しだけ追加で作業したのちにブリーフィングに移行した。

「経由地はサルドバ、ハドス、アラカーン。それからイェルベ駐屯地に入る」

ハジメは木の板で出来た掲示板に貴重な地図を張り付けて、指示棒で指し示しながら全員に行程を達した。

「経由地の村や町で水と食料を買い求めるが、可能なら途中で鹿狩りでもして現地調達する。補給については以上だ」


「はい!」

と、吉田1曹が挙手して質問した。ハジメは指示棒で吉田を指した。

「帰りも同じルートでタラス砦に帰還ですか? あと、イェルベで弾薬の補給は受けられそうですかね?」

「わからん!」

と、ハジメはいった。

「行きの道中で帰りをどうするかは俺が判断する。同じルートを逆順で帰ってくるか、トラザムへ南下して南を大回りして帰ってくるかもしれん。行きで隊があまり消耗していないようだったら大回りだ。弾薬の補給については、これも先方の都合次第だ。頼んではみる」

「りょーかい」

と、吉田はうなずいた。


「他、質問のある者!」

特に誰も何も言わなかったので、ハジメはブリーフィングの終了を告げて隊を解散させた。

あとは夕食まで休務で、その後は体を休めて早めに寝るようにと告げた。


そして翌朝、特務隊は王都ボルハンを西に向かって出発した。

ボルハンにほど近いサルドバ村で聞き込みをしたところ、この頃は魔物の数もめっきり減って鹿による農作物への被害が増えたくらいだという。

「怪物どもの頭数がずいぶん減ったというのは間違いないみたいだな」

「異世界自衛隊が40年ほど戦い続けてきましたし、我々もかなりやっつけましたからね」

ハジメと押井は隊列の真ん中やや後方寄りでそう言葉を交わした。

偵察班と前衛班が散開して弓矢で鹿狩りをしている間、残りの人員は荷物の番をしたり、煮炊きの準備をしていた。


岡崎と足立がともに鹿を一頭ずつ仕留めて班長の威厳を保った。鹿狩りチームに鎧塚もくわわって、仕留めた鹿の血抜きを始めた。あとから矢橋が小さめの鹿を追加で仕留めたので、それも血抜きをして今日の狩りはおしまいとなった。

「よーし、今夜はこの辺で野営だ。鹿狩りチームはごくろうさん、休んでくれ。後衛班はテントを設営。糧食班は炊事を頼む」

ハジメは全員に指示をした。


それから日が暮れて、鹿肉を囲んでの小宴会に移行した。酒については、今日は少量のみを許可している。

「じゃあ、みんな聞いてくれ。伝えておきたいことがある」

ハジメは立ち上がり、焚火を囲んで車座になった隊員たちの顔を見まわして言った。

「押井2曹が、異世界自衛隊を辞めて外で起業することを決意した。退職の次期は半年後を予定している。周知しておいてくれ」

ハジメがそう言うと、隊員たちはざわめいた。誰もが初耳のことだったらしい。

「じゃ、押井君から一言」

「えー、少し前から、自衛隊を退職して商売を始めることを考えていました。トラホルン国外との交易商人をすることを考えています。今すぐ辞めるというわけではないのですが、残りの期間を皆さん方と精一杯努めて悔いを残さずに辞めたいと思います」

「だ、そうだ」

ハジメの見る限り、誰もが残念そうな顔をしている。隊員の誰からも好かれている押井を失うのは残念だ、とハジメは改めて思った。


「押井の抜けた穴はどうするんですか?」

と、巨漢の岡崎が問うてきた。

「もうちょっとしたら、方面のほうに後任の隊員を補充してもらうように打診してみるつもりだ。庶務係のできる奴をな」

ハジメはそう返した。

「知っての通り押井は特務隊の庶務としてよくやってくれていた。失うのは惜しいのでよほど慰留しようかと思ったのだが、当人の意志が固くてな。みんな半年先には快く送り出してやってくれ。辞めていくからって意地悪とかするなよ?」

「しないっすよお」

足立がケラケラと笑って言った。


「まあそういうわけだ」

とハジメは言い、

「残りの期間、改めてよろしくお願いします!」

と、押井が最後に全員に頭を下げた。


押井の退職希望は驚きを持って迎えられたが、翌朝には全員いつも通りの感じであった。

荷物をまとめてさらに西進し、王都ボルハンとイェルベ駐屯地の中間ほどにあるハドスという町に立ち寄った。

周囲の農村などからあつまる作物や、王都ボルハンから運ばれてくる物品を中継する交易の街で、石造りの建物の中には4階建ての立派なものもある。

王都ボルハンと比べれば段違いではあるものの、トラホルン国内ではそこそこの人口を誇る町であった。


荷物番に後衛二人を残して、ハジメを含む残り全員で聞き込みにあたった。

ダメもとで刈谷ユウスケの足取りを探らせたのだが、予想通りそれについては何の手掛かりも得られなかった。

自衛隊を辞めたのちに刈谷が王都ボルハンに立ち寄ったことは間違いないとみられたのだが、その後に西に向かった可能性は非常に低いと思われた。

となると、ボルハンから馬車に乗せられてトラホルンをでて、北東のイサ経由でカディールかバルゴサにでも向かったのだろうか。


聞き込み調査を終えた隊員たちが町の入り口に帰って来たのをまとめて、ハジメはハドスの町を後にした。

この近辺では特に怪物の被害報告も無いようだったので、次の目的地であるアラカーン村に向かうことにした。


寒村のアラカーンでは近隣にケルベロスによる被害報告を聞いたので、これをあっさり退治し、証拠として死骸を村まで持ち帰った。

村長からいたく感謝されたのち、特務隊は目的地であるイェルベ駐屯地へとまた出発した。


アラカーンを後にして5時間ほど歩いたところで、丘陵地帯の上にイェルベ駐屯地が見えてきた。

とても川幅の広い大河イェルベ川を眼下に望む丘の上に、イェルベ駐屯地はあった。

元々は辺境伯爵が治める城塞だった場所なのだが、50年ほど前に空飛ぶ黒竜によって破壊されたと伝え聞いている。

その跡地を異世界自衛隊が拝領して、第二駐屯地として建設しなおしたのがこのイェルベ駐屯地であった。


えっちらおっちらと荷車を押しながら丘を登り、イェルベ駐屯地の正門までたどり着いたころには日暮れ近くであった。

ハジメが営門の警衛に特務隊であると告げると、警衛の陸士たちが門をあけて通してくれた。

特務隊がイェルベ駐屯地を来訪するのはこれで三度目になる。トラホルン領内の怪物ハントがてら各駐屯地を回っているので、特務隊の名前と様子は各駐屯地の全隊員に知れわたっているようだ。


イェルベ駐屯地の敷地内には広い空き地があるので、とりあえずハジメは隊員たちをそこに集結させ、野営の準備を言い渡した。改めて使用許可をとるまでもなく、特務隊には空き地の使用が許可されていた。

「俺は押井を連れて第2普通科連隊長に状況報告をしてくる。夕食の準備が早くできても、先に始めるなよ?」

時計の存在しないこの世界では、自衛官の課業終了は日没を目安とすることになっている。

早くいかないと時間ギリギリだった。


ハジメは押井を伴って2連隊長室に向かい、以前にも会ったことがある隊長に挨拶をして状況を報告した。

「なるほど。我々異世界自衛隊の活躍によって怪物どもの数が激減したというのは喜ばしい」

「一方で、もしそいつらが本当に絶滅しちまったら、我々の存在意義が問われることになりますけどね」

ハジメがそう言うと、2連隊長は苦笑いを浮かべてうなずいた。


「とはいえ、我々には懸念事項があります」

連隊長は一転して、苦渋のような表情でハジメに打ち明けた。

「この駐屯地の前身であったイェルベ城塞を破壊したという、黒竜の話について木下隊長はご存じでしょうか?」

「あ、いえ。詳しくは知りません。空を飛ぶとか酸を吐くとか、城を壊したって話は聞きましたが」

「おとぎ話みたいで私も着任からずっと信じられないでいたのですがどうも実在するらしく、数十年周期で目覚めて、この地方一帯を荒らしまわるらしいのです」

「まじっすか」

ハジメも伝説の類だと思っていたのだが、連隊長が懸念するからには根拠のある話なのだろう。

「イェルベ駐屯地から北東にアラム山という岩山があるのですが、そこの頂上付近をねぐらにしていると言います」

「そいつがいつ目覚めて襲い掛かってくるものか、気が気ではない、と?」

「その通りです。イェルベ駐屯地の防衛計画を立案していますが、相手は空を飛ぶと言いますし」


「それ、こっちから出向いていって、寝てる間に討っちまうっていうのはどうなんですかね?」

ハジメはニヤリとして連隊長を見て、それから押井のほうを見やった。

「特務隊向きの任務だと思います」

と、押井がうけあった。

「じゃ、俺たちがやるしかねえな!」


「本当ですか? 黒竜の噂が本当なら大変危険な任務になりますが……」

「そのための特務隊です。なにせ、他の隊員の三倍の給金をもらっていますからね」

隊長の座に収まってからは自制するようにしていたが、かつての命知らずのハジメの血がふつふつと沸き立つようだった。

「その代わり、武器弾薬の面で2連隊にも全面的に協力をお願いしますよ!」

「それは、もちろん!」

2連隊長は大いにうなずいて協力を約束した。

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