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転移転生自衛隊 異世界自衛隊戦記  作者: FECT
第2章 特務隊
13/29

02-06.特務隊の休日2

ハジメと押井は大通りにたたずんでいた鎧塚と合流して、そのままダラボアの店へと歩いた。


鎧塚マモル2曹は異世界自衛隊きっての有名人で、変人として知られている。

異世界自衛隊最初期の転生組で、肉体年齢は38歳になるのだが、白髪交じりの頭のせいで実年齢よりも老けて見える。

小柄で筋肉質、寡黙で人付き合いの悪い男であった。凄腕のスナイパーとして知られている人材だったが、なにより彼を有名にしているのは昇進を拒否し続けているという逸話であった。


事実、彼は実に25年間もの間1曹昇進を拒否し続けて、2曹の階級にとどまっている。

本人が望め上級幹部への道もあったであろう戦績を持ちながら、昇進拒否のために2曹の中でも序列は最下位である。


酒もあまり飲まない、博打はしない、女も買わないらしく、周囲の人間たちからは「あの人は一体何が楽しくて生きているのか?」と言われてしまうような男であった。

休日はたいてい王立図書館に入り浸って、様々な書物を読んでこの世界のことを研究しているらしい。


ハジメとしてはその知識を他の隊員と共有してほしいのだが、鎧塚はなかなか周囲の隊員とは打ち解けず、積極的に口をきこうとはしない。

庶務係の押井はそつなく誰とでも話をする男であるが、押井によれば、どうも吃音があることを気にしているのではないかということだった。


ダメもとで一緒に来ないかと誘ってみたのだが、予想外に鎧塚が承諾したのでハジメは少しびっくりした。

てっきり断られるものだと思っていたが、何か心境の変化でもあったのか、それとも今日はたまたま暇だったのかもしれない。


「マモさんは今日も図書館に行っていたのかい?」

ハジメの問いかけに、鎧塚はこくこくこく、とうなずいて見せた。極力口をききたがらないのは、やはり吃音を気にしているからなのだろうか。

「今日はなにかいい本が見つかったんですか?」

押井がそう尋ねたが、鎧塚は少しの間考えこむように黙り込んだ後、ちょっと小首をかしげてみせた。

「微妙、でしたか」

鎧塚はこくこくこく、とうなずいた。


ダラボアの店は昼時を過ぎて人だかりもなくなり、行列に並ばなくても入店できるようになっていた。

周囲の料理店に比べて立派な店構えで、白壁が目立つ。入店すると、奥の調理場に金井と双葉の姿がちらりと見えた。

店のテーブル席とカウンター席は、この時間でも半分埋まっている。食べているものを盗み見ると、こちらの世界の料理に交じって現世風の料理も目に付いた。

「いらっしゃいませー」

と、奥からひょろっとした色白の双葉が出てきて、トラホルン語で愛想よくそう言った。

「相変わらず繁盛しているようだな」

ハジメも現地語で返した。特務隊員たちは周囲に現地人がいるときは、極力日本語を使わないようにしていた。なるべく現地に馴染むというのが特務隊の信条であるからだ。


「今日のおススメは?」

空いていたテーブル席に着座して、ハジメは双葉にたずねてみた。

「そうですね……。あっちの世界のビーフシチューを再現した料理が、このところよく出ています」

「ビーフシチューですか。いいですね」

押井が言った。


「鎧塚さん、お昼はもう済ませたんですか?」

鎧塚はこくこくこく、とうなずいた。

「ありゃ。済ませたのにつきあわせちまったのか。じゃあビーフシチュー二つに、マモさんにはなにかデザートを」

「パンケーキなんかどうです?」

双葉が鎧塚の顔を見ると、鎧塚はこくこくこくとうなずいた。


「じゃ、それで頼むわ」

「りょーかい。うけたまわりました」

双葉は厨房のほうに下がっていった。


「お。この店も紙製のメニューを導入したのか。前は木の板だったよな」

「トラザムの紙生産はずいぶん軌道に乗ったようです。手に入りやすくなりましたね」

現地人の女性店員が水の入った木のコップを持ってきた。

鎧塚はハジメと押井の話には加わらず、ちびちびとその水を飲んでいた。


やがて金井が奥から木の大盆にのせた料理を運んでやってきた。

「ご来店ありがとうございます、隊長! 押井は常連だけど、マモさんが来るのは珍しいな」

色黒でギョロ目に迫力のある金井は、一言で言うと不動明王像みたいな顔をしている。

プロの料理人顔負けの腕前を持つが、戦闘時には主に無反動砲を扱っている。双葉が副砲手として弾薬を携行していた。


「おいしそうですね。本当にビーフシチューそのものだ」

「見た目だけじゃねえよ。味も結構再現に成功している」

金井はハジメと押井の前にビーフシチューの皿を置き、この世界の硬いパンが乗った皿を隣に置いた。

それから、鎧塚の前にパンケーキの乗った皿を置いて大盆を小脇に抱えた。

「さあ、食って食って。うまいよお」


「あ、マジだ。うまいわ」

ハジメは固いパンをちぎってビーフシチューに浸して食べてみた。現世で食べたビーフシチューの味にすごく近かった。

「これ、パンはもうちょっとどうにかならないのか?」

「あー、それは今研究中でして」


金井は困った顔をして見せた。が、思いついたように明るい顔になって言った。

「それとは別に、今度南方大陸からためしにコメを入荷してみようっていう話があります。ジャポニカ米よりはインディカ米に近いものかもしれませんが、この世界でもコメくってるところがあるらしいんで」

「へえー」

「定期的に入荷出来たら、チャーハンとかリゾットみたいなものが作れるって言うことですか」

「まあ、そういうことになるな。そのコメが使い物になればの話だけど」

「そいつは楽しみだな」


談笑しながらも、ハジメたちはビーフシチューをおいしくたいらげた。話に加わらずにひたすらパンケーキを食べ続けていた鎧塚は、とっくに食べ終えていたが。

「あー、うまかったな。もうちょっとだけゆっくりしていくか」

「あ、金井さん、それじゃあ水をもう一杯ずつ」

「はいよー」

店の中にはすでに他に客がいなくなっていた。超人気店ではあるが、もう時刻が昼下がりだ。厨房では皿洗いに忙しくなっている気配があり、金井も今度は人数分のコップを置いたらすぐに奥に戻ってしまった。


「これだけ流行っていたら金井たちの給金もいいんだろうなあ」

「いやー、それが二人が店からもらえるお金は新メニューの開発費に使っているみたいですよ」

「そうなの? あいつら将来独立開業でもするつもりなのかね」

「どうもそうみたいですね。特務隊からもらえる給料は貯めているみたいです」

「へえー」


押井は各隊員の身上をよく把握しているなあ、とハジメは改めて感心した。

俺が隊長の座を降りるとなったら、跡を継がせるのはこいつかなあ、などとぼんやり思ったりもする。


「あれ、ところでお前、今日は日暮れ時までは暇だって言ってなかったっけ?」

「え? ええ、はい」

「もう昼下がりだけど、日暮れ時になんか用事あんの?」

「はい……」

いつも率直な押井にしては珍しく、なんだか歯切れが悪い。


「なによ?」

「はあ……。その、決闘を少々」

「あー、そうなんだ」


ふーん、と聞き流した後、ハジメは改めてぎょっとして聞き返した。

「決闘だぁ!?」


******

名門ハイトラム伯爵家の令嬢にレイダという娘がいる。年のころは17で、相当なはねっかえりであった。

両親の厳しいしつけに反発して、使用人に命じて屋敷を抜け出し、夜な夜な遊び歩いていたのだったが、それを知った街の悪党どもが誘拐計画を企てた。

で、そこにたまたま押井が通りがかった。悪党どもをばったばったと薙ぎ倒し、誘拐される寸前のレイダ嬢を救出したという次第である。


そして二人は恋に落ちたのだったが、実はレイダには両親が決めた年の離れた許嫁がいた。

王都の西側にあるトゥーラン館に住む伯爵家の当主で、名をデュカス卿という。

このデュカス卿が、自分の許嫁に手を出した不届き者を成敗すると息巻いていて、本日の夕暮れ時を指定して押井への決闘を申し込んだのであった。


******


「というような次第でして」

「というような次第でして、じゃねーよ。初耳だぞ。なんで俺に相談しなかった!?」

「いやあ、隊長のお気を煩わせるようなことでもないかなーと思っていたもので」


「いや、だってお前決闘だろ? 負けたら死んじゃうんだろ?」

「あ、それは大丈夫です。自分、負けないんで」

「その自信はいったいどこから来るんだよ!?」

「母方の実家が雷電流剣術というのをやってまして、私もそれなりに強いんで」


押井こいつ……。特務隊きっての常識人だと思っていたけど、こいつも相当な奇人変人の類だったか。

ハジメは裏切られたような気分で心底がっかりした。


「た、た、たぶん、それ、罠」

それまで黙って聞いていた鎧塚が、そう口にした。

「だよなあ、マモさん!」

ハジメは心強い援軍を得た気持ちになって、思わず鎧塚の方を見やった。

「言ってやって言ってやって! この馬鹿に言ってやって!」


「け、決闘の場所はトゥーラン館の裏手。つまり、ホームグラウンド。時刻は夕暮れ時を指定。じ、自分なら館の2階に射手を潜ませる」

「あー……」

相手が卑怯な手を使ってくるということは、押井の念頭には無かったようである。

「それは、考えていなかったなあ」


「馬鹿なのお前? 馬鹿だったの?」

ハジメは思わず押井に向かって叫んでしまった。

「ほらみろ、お前、俺たちに話していなかったら人知れず死んじゃってたところじゃねえか!」

「いやあ、まだそうと決まったわけでは」

「罠だろ、どう考えても!」

「ひゃ、100パーセントとは言えなくても、警戒したほうが良い」

鎧塚が冷静にそう言った。


「はあ、すみません。どうしたものでしょうか隊長。この決闘から逃げるわけにはいきません」

「今考えてるよ!」

ハジメはまだちょっと腹を立てつつ、そう言った。

「まだ日が落ちるまでに2時間はあるな。まずは現場を確認して作戦を立てる。急ぐぞ!」

ハジメは食事の代金を多めにテーブルに置き、押井と鎧塚を従えて店をでた。


そして、王都の西側にあるトゥーラン館のほうに向かって走り出した。

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