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転移転生自衛隊 異世界自衛隊戦記  作者: FECT
第2章 特務隊
12/29

02-05.特務隊の休日1

ハジメは押井を伴って王都ボルハンの大通りに出た。

特務隊が根城にしているタラス砦はボルハンの旧市街と新市街の境目にある古い砦で、外に出ればすぐに都の大通りである。

王都の南には大門があり、そこからまっすぐ北の王城に向かって大通りが伸びている。


「とりあえず新市街の広場から見ていくか」

ハジメは大通りを南に戻り、新市街の中央広場へと向かった。

そこにはたくさんの人が集まっていたが、広場の一角に人だかりを作っているのは特務隊の岸井と安部であった。

岸井はパントマイムとジャグリングの大道芸を披露して、安部はトラザムで生産された紙を使って作った紙芝居を上演している。


細身でハンサムな岸井の周りには現地の女たちを中心として人が集まっており、安部の紙芝居には老若男女、特に子供たちが食いついていた。

タモツと共著した<怪物図鑑>の教範でも示した通り安部の絵は非常に達者で、もともと漫画家志望だった彼は話しづくりにも力を入れていた。加えてトラホルン語の勉強にも熱心だったから、すでにこれで食えるレベルで稼げているらしい。


一方で、岸井はパフォーマンスの後にはファンになった女性と夜の街に消えているのではないかというのが、特務隊の中でのやっかみ混じりの評判であった。


「あいつら相変わらずウケてるな。金を貯めてなにかやりたいことでもあんのかね」

「さあ、どうでしょう。客に受けること、それ自体が目的なのかもしれませんよ」

ハジメの問いに、押井はやんわりとそう言った。


以前は彼らに加えて岡崎も興行をしていたのだが、それはもうやめてしまったらしい。

なにをやっていたのかというと<相撲>である。軽石で石畳に描いたサークルから岡崎を押し出すか地面に打ち倒せたら客の勝ち。

逆に岡崎が客を押し出したり倒せたら岡崎の勝ちという賭けである。

ただ、なにしろ岡崎の身長は2メートルもあり、顔も悪人面と言って良いような強面である。わずかにあった挑戦者も全員返り討ちにしてしまったので、すぐに誰も挑戦してこなくなってしまったのである。


「で、岡崎のやつは近頃なにやってんの?」

「毛糸でぬいぐるみを作っていますよ。あみぐるみっていうのかな」

「はい?」

岡崎とぬいぐるみという組み合わせが意外過ぎて、ハジメは何の話なのかすぐには分からなかった。


「岡崎さん、あれで可愛いものが大好きなんですよ。試しに作ったものを街の人形屋に持っていったら、すぐに買い取ってくれたそうです。それから何作も作って持ち込んでいるらしいですよ。私も見せてもらったことがありますが、あれ、いずれ王都で流行るでしょうね」

「そんなにすごい出来なのかよ」

「何しろこの世界に今までなかった新発明ですしね。作りも丁寧だし、見た目もファンシーっていうか、女の子が欲しがりそうでした」

「へえ」


岸井と安部の商売を遠目に眺めた後、ハジメたちはタラス砦の方向に歩いて戻った。

中央広場に向かう時にも通り過ぎたが<ダラボアの店>の前にはまだ多くの客が列をなしていた。

大通り沿いという立地の良さもさることながら、この店は味が良く価格が手ごろということで評判をとっている。

そして、この頃の売りは<別世界風料理>である。

特務隊の糧食班である金井と双葉の二人が、休日はこの店で修行をさせてもらっているのであった。二人が提案した現世風の新メニューが新たな評判を呼び、このところ客足が絶えない。

「相変わらず大盛況だな」

「時間帯を外せばあまり並ばなくてもいいかもしれませんが、ちょっとこの行列だとしんどいですね」

「さっき言っていた通り、あとで来ようぜ」

「ですね」


ダラボアの店を通り過ぎた。タラス砦の前を通過したときに門番組がこちらに手を振ってきたので、ハジメも右手を上げて返した。

「隊長、次はどちらへ?」

「斥候組の5人は相変わらず賭博場だろ。ちっとそっちを見に行ってくるかな」

斥候組というのは通称で、正式な名称は特務隊偵察班である。班長は足立2曹。

足立2曹以下、矢橋2曹、土井2曹、山本2曹、石田2曹が班員である。足の速さと行動の機敏さによって選抜された隊員たちであるが、どういうわけかそろいもそろって賭け事が好きで、それでいて弱い。

まあ、たまにまぐれで誰かが勝っても仲間内で飲んで使ってしまうので、だいたい常に金がない。

そして、班長の足立2曹をてっぺんとして、どいつもこいつもお調子者ぞろいである。


「なんであいつら似たもの同士の集まりなんだ?」

「隊長が選抜したからではないですか?」

「書類でそんなこと分かんなかったし」

「まあ、班員のカラーがそろっているっていうのは一つの強みなんじゃないですか?」

「そんなものかねえ」


旧市街に入り、大通りから裏通りのほうに向かって道をそれた。

「ところで森のやつは、相変わらず酒浸りか?」

「ですね。現世に残してきた家族のことがどうしても忘れられないみたいで」

「困ったもんだなあ。あいつ、有能なんだけどなあ」


現世では施設科部隊出身の森2曹は土木工事と爆薬のエキスパートで、気分が落ち込んでいない時には非常に頼りになる人材である。

ただ、異世界生活5年目になる今でも現世に残してきた家族を思っては気鬱になることが多く、鬱がひどい時にはまるで使えない。

「機会を設けて面接して、話を聞いてあげたほうが良いかもしれませんね」

「だなあ」

ハジメはうなずいた。


「このへんだったか、賭博場があるっていうところは」

暗黒街と通称される危険な雰囲気の区画にやってきて、ハジメは押井に尋ねた。

「あっちですよ。一度来てみたことがあります」

押井はあっさりとそう言って、ハジメを案内した。


「お前は何でも知ってるんだな」

「庶務係として隊員全員のことを把握しておくべきかと思いまして、連れてきてもらったことがあるんですよ」

賭博場は王宮が定めた法によれば違法、ではないようなのだが、グレーゾーンといったところと思われた。

噂によれば賄賂によって目こぼしされているという話だったが、本当かどうかハジメは知らない。


そんな薄暗いところへの出入りを隊員たちには禁じるべきかとも思ったのだが、現世でパチンコ中毒だったという隊員たちにとってはかけがえのない娯楽であるらしく、ハジメも推奨はしないがあえて止めもしないというスタンスをとっている。

賭博場となっている建物の入り口には見張りがいたが、押井が二言三言口をきくとすぐに中に通してくれた。

「お前何言ったの?」

「足立さんの名前を出しただけですよ。あと、以前に私が来た時に立っていたのもあの男でした」

「へー」


賭博場の中をのぞくと、天にも昇りそうな勢いではしゃいでいる矢橋の横で、足立と土井の魂が抜けていた。山本と石田はやや負け、といったところだろうか。

「帰るか」

と、ハジメは言った。

「え? もういいんですか?」

「あー、うん。なんかかける言葉もないし、俺賭け事やんねーし」


斥候組の連中にただ一つ言い聞かせているのは、稼いだ金を全部使い果たすのはいいが借金だけはするな、ということであった。

(それだけ守ってくれるなら、まあいい)

見るべきものは見た、という気分でハジメは賭博場を後にした。

押井は如才なく、去り際に門番の男に銀貨を1枚握らせていた。遊んでいかない人間を中に通したことで、あとで咎めを受けるかもしれないと配慮してのことだろう。

(昼飯はおごってやんないとなあ。まあ、最初からそのつもりではあったけど)

と、ハジメはぼんやり思った。


「賭け事なんか長い目で見たら絶対勝てないようになってるんだけどなあ」

「胴元の儲けをのぞいた分を、賭けた人たちで分け合うだけですからね」

暗黒街と呼ばれる区域は大通りから東に位置しているが、ハジメたちは大通りのほうに戻らずにそのまま南下した。

暗黒街を後にし、貧民街で乞食の子供たちにまとわりつかれた。

「ああ、もうっ。銅貨1枚ずつやっておっぱらうか」

「隊長、1人にあげちゃうと20人は来ますよ。同じ子が2回来るかもしれないし」

「わかってんだけどよぉ」


結局、ハジメは貧しい子供の大群に合計36枚の銅貨をむしり取られた。

「隊長もお人がよろしいですね」

「俺も貧乏だったからなあ」


貧民街を抜けると市場街に出た。貧民街に近いほうは小汚い店が多く、南に行くほど小ぎれいな商店街になる。

「なあ、おいあれ」

特に目指すところもなくなんとなく歩いていたのだったが、割合小ぎれいな青果店とおぼしき店の前に、特務隊の隊員を一人見つけた。

「あれ、吉田だよな?」

吉田1曹は長身細マッチョの男で、岡崎を支える前衛班の副班長であった。

口が悪く、足立などをからかってニヤニヤしている印象が強い中堅隊員である。


その吉田が、店の前で挙動不審になにやらもじもじしている。

「あー、吉田さんですね。どう見ても吉田さんですね」

押井も不思議そうに吉田を見やった。


と、店の奥から金髪の可愛らしい女性店員が何かの野菜を持ってきて、店の入り口の台に飾り付けるように並べ始めた。

吉田が意を決したようにその女性に話しかけるのを、ハジメはニヤニヤしながら見てしまった。

「あれはなんだと思う、押井?」

「はあ、恋、でしょうか?」

「だよなー。やっぱそうだよなー」


「遠目に盗み見ているのも気が咎めますし、もう行きましょうよ隊長」

「えー。もうちょっと見ていこうぜ、面白いじゃん」

「駄目ですよ。吉田さん、気の毒じゃないですか」

押井は常識人らしくそう言ってハジメをとがめ、ハジメはしぶしぶその場を離れた。


「そろそろダラボアの店、いたころじゃないですか?」

「あー、そういや腹減ったな。いくかー」

ハジメと押井は西に向かって再び大通りに出た後、ダラボアの店の方に向かった。

そしてその途中、またも特務隊員を一人見つけた。鎧塚マモル2曹であった。


「おー、マモさん。一人か?」

寡黙な鎧塚は、こくこくこく、とうなずいた。

「これから俺たち遅い昼食なんだが、良かったら一緒にどうだい?」


鎧塚はしばしの間考えていたようだったが、

こくこくこく、とうなずいて了承した。

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