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72 これがラスボス?

「しかし、レイスは1体なのじゃろう?」


「ああ」


「ならば問題ないのじゃ」


 リムは楽勝と言わんばかりにハッハッハと呵々大笑した。


「霊体のアンデッドなど妾のブレスにかかればイチコロじゃ」


 これがもし体を持つタイプのアンデッドなら霊体がむき出しでない分だけ多少は耐えるのかもしれない。


「油断は禁物だ。あの野郎、樹海の魔物を仲間にしてるぞ」


「なんじゃと!?」


「そっちは霊体じゃないけどな」


「それはリビングデッドじゃ」


 同じ霊体型のアンデッドを仲間にしそうなものだと思ったのだけど実際は死体を再利用している。

 果たしてあの領主代行にリサイクルの概念があるのかは疑問だが。


「レイスに殺害されると眷属として動く死体にされてしまうそうじゃぞ」


 どうやら向こうサイドからすると実体か霊体かには関係なく死んでいれば同類として見なされるみたいだね。


「ええーっ、ゾンビなのぉー1?」


 腐臭を放つことを想像したらしくマヤは鼻を摘まんで嫌悪感をあらわにする。

 犬ほど鼻がきかない猫でも人間より臭気に敏感なんだな。


「ゾンビではないですね。レイスが眷属化させたアンデッドの体は腐りませんから」


「どっちでもいいよー。動く死体には違いないじゃーん」


 臭いだけが嫌なのかと思ったが、そういう訳でもなさそうだ。

 まあ、死体が動けば嫌悪感が湧かない方がどうかしているとは思うけど。


 それにしてもイリアは魔法以外のことにも詳しいな。

 個人的に研鑽を積んだ結果であることは短期間のうちに日本の生活に適応できたことを考えれば疑う余地もない。


「単に動くだけではありませんよ」


「えっ?」


「リビングデッドは盾にされるでしょうね」


「どういうこと?」


「文字通りの意味ですよ。リムさんが白髪化したときのブレスは貫通や透過をしないですよね」


「うむ。形あるものには止められてしまうのう」


 ある意味、ライトを照射しているようなものだから物理的な壁があると、その向こう側には到達しない。

 逆に霊は生身などないからブレスを浴びると阻止できない訳だ。

 魔法で対抗することも不可能ではないだろうが、最も有効なのは実体のある壁だろう。

 それをレイスは眷属を用いて運用しようとしているものと思われる。


「自在に操れる盾を装備している訳だ」


 向こうはリムのことを知らないのだから本能的にやっているだけではあるけれど、それが厄介きわまりない。

 無意識でそれができるということは、とっさの反応も条件反射で可能ということだ。


「面倒じゃのう」


「でも、眷属だってリムちゃんのブレスが当たればイチコロなんでしょー?」


「動かなくなるだけで消滅はしないぞ。盾として機能しなくなっても肉の壁は残る訳だ」


「あー、それは面倒だね-」


「じゃから言うたであろう」


「しかも今も数を増やしつつあるからな」


「えーっ、なんでー!?」


「眷属は盾だけじゃなく矛にもなるからに決まってるだろ」


 元は魔物なんだから攻撃力もそれなりにあるはず。

 リビングデッドになったことで動きが鈍くなるかは不明だけど決して油断していい相手ではない。


「うわぉ! そんなの時間が経てば経つほど手がつけられなくなっちゃうよー?」


「樹海は人間にとって未知の場所ですからね。魔物がどれだけいるのか見当もつきませんし、早く手を打った方が良さそうです」


「それはどうじゃろうな」


 マヤやイリアは懸念を口にするが、リムはその意見には懐疑的なようだ。


「良く考えてみよ。レイスとて元は人間なのじゃぞ」


「……なるほど、そういうことですか。確かにあの領主代行は仕事ができるようには見えませんでした」


 イリアはリムが言いたいことを察したようだ。


「でもゴーストより上位のアンデッドになってるしー」


 一方でマヤは納得しきれないようで抗弁する。


「無能な輩が上位種の力を得たところで余すことなく使いこなせるものではないわ」


「それな」


 言われてみれば、もっともな話ではなかろうか。


「部下の管理能力が眷属の支配力に直結するか」


「際限なく眷属を支配することはなさそうですね」


「うにゅー」


 俺とイリアが結論づけるとマヤも否定できなくなったようで撃沈した。


「とはいえアレに好き勝手な真似をさせる訳にもいかない」


 俺が奴を樹海に送り込んだ結果こうなっている訳だし。

 こんなことなら無人島へ島流ししておけば良かったとは思うものの時間は巻き戻せないのだから詮無きことだ。


「やっぱり行くんじゃーん」


「行くには行くが無策で行くのは考えが甘い」


「うっ」


 誰もマヤのことをバカだと言ったつもりはないのだけどショックを受けている。

 とにかく敵地に乗り込むのが先決だと思い込んでいたみたいだな。


「あまり悠長に構えるのも避けた方がいいと思いますよ」


 イリアがフォローしているので、そのうち復活するだろう。


「で、主よ。どうするのじゃ?」


「俺が露払いをするからリムがレイスにトドメを刺してくれないか」


「ざっくりしとるのう」


「そうでもないさ。リビングデッドをレイスの支配から解放する方法は考えてある」


「じゃが、眷属で壁を作って立てこもるやもしれぬぞ」


 いかに無能な領主代行の成れの果てとはいえ何体かは眷属支配できるはず。

 というより現状でそうなっている。

 肉の壁を構築しないとは言い切れない訳だ。


「それは大丈夫」


「なんじゃと!?」


「支配から解放すれば、やりようはあるんだよ」


「ふむ」


 リムはしばし考え込んだが、すぐに頭を振った。


「どうするかは見当もつかぬが主を信じようではないか」


「その信頼に応えないとな」


「マヤも足止めくらいはするよー」


「私も微力ながらお手伝いさせていただきます」


 皆のやる気も充分なことが確認できた。

 そんなこんなで俺たちは元領主代行だったレイスの調伏へと向かう。

 と言っても【どこで門】を使うから到着は一瞬だ。

 ホウキに乗ってレイスの直上に位置する上空からこんにちはってね。


 奴は樹海の比較的開けた場所の中央に陣取り、眷属にした獣型の魔物の上に腰掛けてふんぞり返っていた。

 霊体だから座る必要も意味もないのに、よくやるよ。

 おまけに、そのことで盾にするはずの眷属を1体無駄遣いしている。


 だからといって油断していい訳ではないけどな。

 奴の周りには何体もの死体が転がっている。

 周辺にいる魔物を狩りつくす勢いで眷属に仕留めさせていたが支配が外れた場合に補充するつもりなのかもしれない。

 悪知恵だけは働く奴だが後先を考えない浅知恵ではあるな。

 死ねば腐敗が始まり、いずれは失われるということを失念している。

 仮に支配せずに腐敗を止めることができるのだとしても、眷属を補充する手は俺には通用しない。


 向こうは気付いた様子が見られないのでハンドサインで散開の指示を出す。

 配置についてからの初手は俺の【無権収納】だ。

 支配されていない魔物の死体など何の制限もないから易々と亜空間へ収納できてしまう。


 一瞬ですべての死体が消え去ったことでレイスがひっくり返った。

 霊体なのに、お笑い芸人のコントでも見ているかのようなリアクションは失笑ものだ。

 これでラスボスなんだぜ?

 どうにか笑いを堪えて次の手だ。


 死体が消え去ったのが皆へのGOサインとなり一斉に襲いかかる。

 マヤは妖術の影縛りで眷属を捕らえ、イリアは地属性の魔法で眷属を井戸のような狭い縦穴に落とし込んだ。

 元がどんなに素早く動ける魔物だったとしても身動きできなくさせられては、ただの的になるしかない。


 俺はスタンバイさせていたイマジナリーカードをすべての眷属に使う。

 追尾機能のある【耳目の式神】に【浄化消毒】を重ね掛けしたものだ。

 【穢れは無に】よりも強力なカードを使ったせいか眷属どもは式神に触れただけで消滅した。

 格納する手間が省けたな。


「うそーっ!?」


 予想以上の結果に素っ頓狂な声を上げるマヤだが、それ以上に驚いているのがレイスだった。

 声は一切出ていなかったが棒立ちしているかのように直立で浮いている。

 そんな隙を白髪モードのリムが見逃すはずもない。


「終わりじゃ」


 吐き出された浄化のブレスがレイスを包み込んでいった。


読んでくれてありがとう。

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