63 ライセンス
「相変わらず無茶苦茶だよ、アンタらは」
ギルド長の執務室に案内されたと思ったらカメリアから苦笑まじりにぼやかれた。
試験の終わりでも同じようなことを言われた気がするな。
とはいえ、まだ2回目のはずなのに相変わらずと言われるのは、いささか心外である。
「たかだか薬草を集めてきたくらいで、それはないんじゃないか」
不満を包み隠さずに伝えると盛大に溜め息をつかれてしまったさ。
「よそから来たアンタたちは知らなくても無理ないんだけど、あの薬草は最近じゃ手に入りにくくて困ってたんだよ」
「へー」
「ずいぶんと余裕だね」
ムスッとした顔で言われてしまうが、ヘトヘトになるほど苦労させられた訳ではないからなぁ。
「言っとくけど1本見つけるだけでも日帰りじゃまず無理なんだよ」
そんなこと言われてもなぁ。
「泊まり込みで何日もかけて探すようなものを、たった一晩で15本だって? こっちの寿命が縮んじまうじゃないか」
いくらなんでも寿命にまで言及するのは大袈裟だ。
「そんな風にしてしまったバカがいるだけじゃないか。薬草の取り扱いを徹底させていれば、こんな事態にはならなかっただろう?」
反論するとカメリアはグッと言葉に詰まった。
身に覚えがある証拠だな。
「基礎のない新人には、いきなり依頼を受けさせる前に冒険者のイロハを叩き込んだ方がいいんじゃないか?」
「それができりゃ苦労なんてしないんだよ」
半ば吐き捨てるようにカメリアの婆さんが言った。
どうやら何もしなかった訳じゃないらしい。
取り繕うような感じではなく相応に力を入れたもののダメだったように見受けられる。
「なら、罰則を取り入れるしかないな」
「どうやれって言うんだい。ああいう輩はしらばっくれるに決まっているんだ」
「納品時に確認できるじゃないか」
「それで処分したって次からはわからないように細工してくるのがオチだよ」
「その場で処分するからだろ。ブラックリストに名前を放り込んで減点していけばいい」
「限界点を超過したら除名かい? それはそれで問題が出てくるんだよ」
「問題ねえ。治安を悪化させるような真似をするなら衛兵に対応してもらうだけだと思うんだが?」
「そういうのが増えると住民からギルドに苦情が増えるんだよ」
除名した連中のことには関知しないで押し通すしかないだろうが、そういうことが続くとギルドの信用問題にもなりかねないか。
「そこは上手くやるしかないだろうな」
「簡単に言ってくれるじゃないか」
不機嫌さを隠すこともなくジロリと睨まれてしまった。
確かにこちらは実行する側ではないから言いたいことを言っているだけにすぎない。
せめて、もう少し具体性のある案を言っておこうか。
「クレームがギルドの信用にかかわるというなら先に問題を起こす連中の責任だということを強調しておけばいい」
「そんなに都合良くできるもんじゃないだろ」
「住民たちの目先を変えるだけでいい」
「どうやって?」
「蓄積した減点に応じて何回か処分をしてやらかした内容と一緒に公表するだけだ」
「はあ? そんなことでどう皆の目先が変わるっていうんだい」
「ギルドも手を焼く厄介者という共通認識ができるだろ。それにギルド側は毅然と対応している証拠にもなる」
「その程度で変わるものかねえ」
「3回目くらいで除名処分にすれば、アイツらならしょうがないってことになるさ」
いきなり放り出せばギルドは何をやってたんだとなるが、悪事の積み重ねが知れ渡っていると当人たちの方へ目が向きやすくなるものだ。
「ギルドが罰しても御しきれなかったんじゃしょうがないと考える者も出るだろうよ」
全員がそう考えるとは言わないが、そういう流れができれば苦情も入れにくくなるものである。
「ふむ」
懐疑的だったカメリアが考え込む仕草を見せた。
「検討するのは後にしてくれないか。ライセンスをお預けされるのは勘弁願いたいんだけど?」
「そうだったね」
苦笑しながらもカメリアはすんなりと4人分のライセンスを渡してくれた。
そこから直々に説明があったので即座に解放された訳ではなかったけど必要なことならば文句もない。
話の内容はライセンスそのものとギルドの決まりなどだな。
ライセンスは革紐で首から提げるドッグタグみたいな代物だった。
表には名前の他には数種類の記号が刻印されている。
記号は太陽と月と星で、それぞれ商人と職人と冒険者のランクを表しているそうだ。
数が多いほど高ランクってことだな。
俺たちの場合は職人ではないから月はなく、加えてリムとマヤには太陽もない。
俺とイリアの太陽は3個だ。
星は全員が3個ある。
5個で最高ランクとなるので中堅どころということになるかな。
初っ端からこの待遇は相当に評価されたのではないだろうか。
「本当は星を4個にしたかったんだけどねえ」
「何の実績もないことになっているのに、それはマズいよな」
「そういうことさね。他の討伐もやってりゃ違ってたんだが、さすがに無いだろう?」
「あるけど」
「あるんかいっ?」
「とりあえず、これだな」
そう言いながらリュック経由で森ガニの魔石を出した。
「ほう、ゴブリンのような雑魚とは明らかに違うね」
その程度のことは一目でわかるらしい。
「何の魔物だい?」
「森ガニだ」
「なるほど。納得だよ」
俺たちには納得した根拠が不明だったが仮にもギルドで支部長の席を任される人間がこんなことで適当なことは言わないだろう。
「で、これを売る気はあるのかい」
そう問われて思わず皆の方を見た。
売約済みの素材以外で手頃なサイズのものを出したにすぎなかったからだ。
まあ、皆だって売るかどうかまで考慮してはいなかったので打てど響かずの結果にしかならないのだけど。
「ここで売るなら星4にしておくよ」
俺たちの反応を見てカメリアは背中を押すように言ってくれたが。
「やめとく」
それは他の冒険者ならば魅力的に聞こえたのだろうけど俺たちにとっては逆効果の言葉だった。
「いまでも充分に鳴り物入りのデビューになりそうだからな」
「おや、そうかい。普通は格好のアピールになると喜ぶところなんだがねえ」
「そういうのは悪目立ちするのが目に見えているからな」
どんなバカにからまれるやら。
下手に権力者寄りの人間だったりすると火の粉を払うのも慎重にならざるを得ないし。
そんな目にあうくらいなら、最初から何も起こらない方を選ぶに決まっている。
星3でもデビューしたてだと知られれば変なのにまとわりつかれそうだけど、ここのギルドでは試験で派手にやったので抑止効果があると思いたい。
「わかったよ。その魔石はちゃんと仕舞っときな」
促されて魔石を収納したところで執務室のドアが催促するようなせわしなさでノックされた。
「来客中だよ。後にしとくれ」
カメリアの婆さんは空気を読まない質のようだ。
「至急と伺っているのですがっ」
ドアの向こうの相手も簡単にはあきらめなかったが。
カメリアは不機嫌さを隠そうともせず小さく舌打ちした。
「入りな」
それでも至急と言われると己の責務をまっとうしようとする分別は持ち合わせているらしい。
許可を得た職員が転がり込むように入ってくる。
どうやら、ただ事ではなさそうだ。
「何事だい」
「衛兵隊長からの伝言です。要請案件、発生の恐れあり。留意されたし、です」
「気構えだけはしておけってことかい。詳細は不明なんだね?」
眼光を鋭くさせたカメリアが職員に問う。
「はいっ、ただ……」
「なんだい。ハッキリとお言いよ」
「馬なし馬車の4人組には世話になりそうだ、と……」
職員は伝言の内容に困惑しながらも、どうにか伝えてきた。
現物を見ていないんじゃ意味不明だろうし何かの暗号と思われても不思議じゃないよな。
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