表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/72

58 魔法の試験だってさ

 ギルドへ登録するだけなのに試験を受けなきゃならなくなった。

 俺たちはマージュとかいう街に定住するつもりは無いと言ったのだが、それでも受けろと言われた。

 ギルド支部長であるカメリアの婆さん曰く──


「アンタらを見習い扱いしたら恥をかくのはアタシなんだ」


 ということらしい。

 知ったこっちゃないと話を蹴ろうと思ったのだけど試験なしだと依頼の受注制限があるとのことなので受験することにした。

 俺たちにとっても損はない話だしな。


 という訳で屋外の訓練場のような場所に連れてこられた。


「はー、まるで運動場だねー」


 マヤは広さに感心しているようだけど、いささか迂闊だな。

 運動場なんて単語は俺たちの世界の言葉のはず。

 この程度ならセーフだとは思うが、この調子でこちらの情報をホイホイ漏らすようなことがあると面倒なことになりかねないんですが?


「運動場とは面白い言い方をするじゃないか。ここは訓練場だよ」


 カメリアからの訂正が入ったところを見ると勝手に造語したと思われたらしい。

 ならば釘を刺すのはやめておくのが無難というもの。

 下手な反応をすると食いつかれかねないからね。


「まずは魔法から見せてもらおうじゃないか」


 そう言われて訓練場の奥の方へと連れてこられた。

 ここだけ低く掘り込まれて半地下のようになっている。

 その壁面には等間隔で魔石が埋め込まれ複雑な文様が刻み込まれた特殊な加工がされているようだ。

 おそらく魔法が半地下の外へと飛び出さぬよう対策しているものと思われる。


「標的はアレだよ」


 隅っこの方でカトレアがそう言いながら壁面のパネルを操作すると百メートルほど先の地面が盛り上がり人の上背を超えるほどの石柱が生えてきた。


「あの石柱を破壊しろと?」


「アーハッハッハッハッ!」


 普通に試験の内容を確認しただけのつもりだったのに何故か高笑いされてしまった。


「そいつは景気がいいねえ。やれるもんならやってみな」


 ニヤリとカトレアが不敵に笑う。

 ということは壁面の加工は魔法の威力を減衰させる効果もあるのかもしれない。

 念のために【賢者の目】カードを使って確認してみると思ったとおりだった。


 幸いと言うべきか石柱には防御的な効果が付与されたりはしていない。

 任意の位置へ標的を作り出す仕掛けによって作り出されただけの代物だ。

 土の地面と違って石化しているので当たりさえすれば壊れるなんてことはないのがカトレアが自信満々な理由なんだろう。


「ちょっと作戦会議な」


「好きにしな」


 カトレアに断りを入れてから4人で頭を突き合わせるようにしてヒソヒソと話し始める。


「あの壁は魔法を減衰させる効果がある」


「道理で魔石が埋め込まれている訳です」


「不用心だねー。きっと盗みに入る奴がいるよ?」


 マヤが試験とは関係のない心配をしている。

 まあ、そんなのはギルド側だって承知している訳で。


「防犯対策もされてるさ」


 許可なく魔石に触れようとしただけで警報が鳴る上に抜き取ろうとすれば魔法で攻撃される仕組みになっている。


「それもそっかー」


「そんなことより、どのくらいの威力で魔法を使うべきかですよね」


 イリアが本題の方へと話を戻してくれたので【賢者の目】で得られた情報を皆に伝える。


「相当に加減せねばならんのう」


 リムはそうだな。


「妖術には効果ないんだよね」


 マヤも射程さえ大丈夫なら問題ないだろう。


「魔力を余計に消費するのはもったいないですから少し工夫してみます」


 イリアにも策があるらしい。

 となると残るは俺なんだよな。

 当てるだけなら釘打ち機で使うスクリュー釘を【念動力】で射出すれば済む話だが、それで石柱を破壊するとなると山ほど撃ち込まないといけないだろう。

 まあ、なんとかしよう。


 そこからジャンケンで順番を決めて会議終了。

 作戦でもなんでもなかったな。


「作戦会議とやらは終わりかい」


 カメリアに向き直ると声をかけられた。


「ああ」


「トップバッターはマヤだよー」


「トップなんだって?」


「方言だ。気にしなくていい」


 どうにか誤魔化せたがマヤはそんなの知らないとばかりに所定の位置につく。


「マヤ、行きまーす」


 何処かで聞いたような台詞だが魔法を使うだけだ。

 まあ、行くと言ったのも無関係とは言えないか。

 妖術で足下の影を一気に伸ばして石柱まで辿り着かせると地面から浮き上がらせて石柱を締め上げる。


「「なっ!?」」


 カメリアの婆さんだけでなく見学していた隊長さんまで目を見開いて驚きをあらわにしている。

 どうやら魔法は届かないと思っていたみたいだな。

 魔法じゃなくて妖術なんだけどね。


 使ったのは影縛りだけど今回は拘束するためじゃないので力の入れ方がハンパない。

 しばらくして解放するとヒビが入って崩落した。


「次は妾じゃな」


 どうにか落ち着きを取り戻したカメリアが石柱を作り直したのを確認してリムが位置についた。


「こんなものじゃろ」


 そう言って拳大の火球を吐き出した。


 ドォッ!


 一瞬で石柱の上部に着弾し爆発。


「ふむ。まあまあじゃな」


 と言っている割に石柱の上半分は完全に消し飛んでいる。

 カメリアも隊長さんもマヤの時とほぼ同じリアクションだ。

 違うのは息をのんで声すら出せていないことだけか。


 続いてイリアの番となったのだが、位置についた彼女はしゃがみ込む。

 地面に両手をついて魔法を使うと石柱に向けてボコボコと地面が一直線に盛り上がっていった。

 地中を細身の何かか掘り進んでいるかのようだ。

 そして石柱に到着するやいなや下から亀裂が走り真っ二つに裂けて割り開かれた。


「地属性の魔法にこんな使い方があったのか」


 隊長さんが思案顔で感心している。


「おまけに結界が弱い地面からのアプローチとはね。あれなら魔力の消耗も少ないはず」


 御明察。

 何もバカ正直に魔法が減衰される中を通す必要はないのだ。

 まあ、リムのようにゴリ押しするのが間違っているとは言わないけれど。

 あれはあれで加減をする際に手抜きができるから逆に楽だったみたいだし。


 カメリアの婆さんは状況を受け止め切れていないのか頬を引きつらせているな。

 ことごとく想像の斜め上を行っていたからか。

 そうなると俺も同程度のことをしないと試験結果に差が出てしまう恐れがあるかもしれない。


 少しは自重した方が良いかと思っていたんだが修正した方が良さそうだ。

 同等だと思わせるようにしつつ派手なのを避けるのが正解なんだと思うけど難しい注文だ。

 スクリュー釘の連射は却下だな。

 ディスクグラインダー用のダイヤモンドカッターで削り切るのも時間がかかってしまうのでダメだ。


 けれども石柱を切り落とすのは居合いっぽくて面白いかもしれないな。

 前に似たようなことを試したことがあるから問題なく実行できる。

 問題は距離だ。

 一応視野範囲内だからできるとは思うんだが万にひとつもミスは許されないから何か補助する手がほしい。


 百メートルをほぼゼロにできる方法なんて転移とかだろうけど今回はそれが使えない。

 所定の位置から石柱を破壊しなければならないからな。

 手だけ飛ばすとかロケットパンチ的なことができれば楽なんだが生憎と生身の人間にそんな真似はできない。


 だが、ものはやりようか。

 この方法は触れていなくても可能なんだから至近距離に石柱の存在を感じられれば充分に可能なはず。

 ヒントは今回マヤが使った妖術だ。


 わざわざ影を伸ばす必要はない。

 【影の門】カードを使えば感触は伝わってくるからな。

 ただし、これで石柱を運ぶ訳ではない。

 追加で【無権収納】カードを使用すれば目的は達成だ。


「じゃあ、やります」


 一声かけてから俺はそれっぽく手刀を振り下ろした。

 これは単にパフォーマンスであり、それっぽく見せているだけだ。

 石柱の上半分を斜めに格納して一瞬で元に戻す。


「はい、一丁上がり」


 ズルリと石柱が斜めにズレた。

 そして上半分が地面へと落ちる。

 さすがにここまでは振動が伝わらなかったが、誰が見ても破壊したのは明らかだ。

 これで試験も無事終了だろう。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ